インタビュー
セガが取り組むMOBA系ゲーム「カオス ヒーローズ オンライン」の魅力と運営方針を聞く
MOBAは,AoSとも呼ばれ,チーム対戦とRPG的な成長要素を重視したリアルタイムストラテジーのことを指す。現在,海外でのプレイ人口が急激に増加している注目ジャンルとなっている。MMORPGに代わってオンラインゲームの主流となりつつある気配すらある。
このジャンルを代表する「League of Legends(以下LoL)」は2012年10月時点で総アカウント数7000万,1か月のアクティブプレイヤー数3200万人,1日に1200万人が遊んでいるという世界最大規模のオンラインゲームとなっている(関連記事)。「グランド・セフト・オート」のメインシリーズで「累計販売本数」が8500万本だそうだから,「1か月のアクティブプレイヤー数」3200万人というのがどれだけ大きな数字か分かるだろう。
「AOS」「MOBA」と,新ジャンルであるため呼び方が統一されていないのも特徴だが,セガではカオス ヒーローズ オンラインを「AOS(The Real Action Oriented Strategy)」というジャンル名で普及を図っていくという。なお,今後も同系統のゲームタイトルが出てくることが予想されるため,以下ではあえてMOBAを使用している。セガの呼称とは異なるが,指し示すものは同じだと思ってかまわない。
さて,本作のクローズドβテストに相当する「フロンティアテスト」は2013年春ごろスタート予定だという。日本では馴染みの薄いMOBAと,国内での知名度の高いセガという組み合わせは何を生み出すのか。そして,いまだ認知度の低いMOBAをどのように周知,運営していくのか? 本作のプロデューサーを務める遠藤峻亮氏に話を聞いてみた。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず,カオス ヒーローズ オンラインの概略から教えてください。
遠藤峻亮氏(以下, 遠藤氏):
自分の陣地からはNPCの兵士群が生成されますので,ほかのヒーローや兵士と連携しながらの戦いが基本になります。敵の兵士を倒してレベルを上げたりアイテムを購入したりして自分のヒーローを強くしていくRPG的な要素が特徴で,弊社では「The Real Action Oriented Strategy」,略してAOSと呼称していきます。
通常のリアルタイムストラテジーは,一人のプレイヤーが多くのユニットを操りますが,AOSでは自分の選択したヒーローだけを操作すればOKですので,取っつきやすいのも特徴ですね。
4Gamer:
それだけ感情移入もしやすいですよね。MOBAはルールが独特ですが,本作は一般的なオンライゲームのプレイヤーがいきなり遊んでも大丈夫でしょうか。
遠藤氏:
本作ではチュートリアルを2種類ご用意させていただいています。一つは操作説明をするもので,音声ガイド付きで「右クリックで移動しましょう」という基本中の基本からスタートします。もう一つはゲームの基本ルールを説明するもので,「敵の兵士を倒してゴールドを獲得しましょう」「5人で集まって敵のタワーを倒しましょう」といったゲームの流れが学べます。チュートリアルをやっていただければ,ある程度ゲームは理解してもらえると思います。
神聖連合よりアグネスさん |
不死軍勢よりアカシャさん |
多くのMOBAと違って,カオス ヒーローズ オンラインでは善悪二つの陣営がぶつかりあっていくのが面白いですね。
遠藤氏:
そうですね。プレイヤーは「神聖連合」(しんせいれんごう)と「不死軍勢」(ふしぐんぜい)に分かれて戦います。それぞれの陣営には個性豊かなヒーロー達が属しており,プレイヤーさんには,どちらの陣営でも自由に選択していただけます。
4Gamer:
両方の軍勢が使いたいからといって,二つのアカウントを作る必要はないわけですね。
遠藤氏:
はい。
なお,対戦そのものは,常に神聖連合対不死軍勢の戦いになります。現時点では同陣営のヒーロー同士での対戦はできません。また,似た特性のものはいますが,基本的には二つの陣営で使えるヒーローは別々です。
4Gamer:
本作には何人くらいのヒーローがいるんですか。
遠藤氏:
現時点の韓国版では,両陣営合わせて70人以上います。ただ,最初からすべてを実装してしまってはプレイヤーさんも大変ですので,日本版は各陣営10体ずつ,計20体からスタートしようと考えています。
4Gamer:
なるほど。実装されているヒーローはすべて自由に使えるんですか。
遠藤氏:
フロンティアテストでは20体すべてを自由に使用できる設定にする予定です。
4Gamer:
ヒーローの見た目をカスタマイズすることはできるのでしょうか?
遠藤氏:
アバターアイテムを装備することでヒーローの見た目が変わります。本作のアバターアイテムは非常に力が入っていまして,ヒーローの見た目だけではなく,ボイスや攻撃の見た目も変化するんです。
例えば,攻撃時に矢を射るヒーローがいるんですが,野球をテーマとしたアバターアイテムを装備させると,矢が野球ボールになります。攻撃時のセリフも「三球三振!」など野球をモチーフとしたものに変化するんですよ。ほかのAOS系ではここまで徹底しているものはありませんので,ちょっと高級感(?)のあるアバターアイテムとなっています。
4Gamer:
アバターアイテムを装備しても攻撃性能は変化せず,見た目のみが変わるんですね。現在,韓国サービスで展開されているアバターアイテムもかなりユニークですよね。
遠藤氏:
ヒーローが真っ白なスーツを着て,コインを撃ったり,周囲にお札が舞ったりするアレですね。アバターアイテムは,それぞれテーマごとに投入されています。彼は神聖連合のリーダーで,あれは「バブリー」というテーマで作られたものです。「俺は金を持ってるからバラまいてやるぜ」という感じですね。ほかには「野球」「水着」「ハロウィン」などいろいろなテーマが存在しています。
あくまで変化するのは攻撃時のエフェクトを含めたビジュアルとボイスだけで,性能は変わりません。AOSというゲームの性質上,アバターにヒーローを強くする効果を持たせるというのはまずありえません。
4Gamer:
プレイヤーがヒーローの性能をカスタマイズすることは不可能なんですか?
遠藤氏:
いえ,可能です。カードを装備することで,ヒーローの性能が変化します。体力系,敏捷系,魔法系の各カテゴリのヒーローに3種類ずつの期間制カードが用意されていて,そのなかから1枚を装備できます。ただ,大きく性能が強化されるわけではなく,「ヒーローの能力をどこかに特化させる」というイメージですね。
4Gamer:
しかし,アバターアイテムごとにボイスまで変化するというのは,音声収録が大変そうですね。
遠藤氏:
ヒーローのボイスに関しては,神谷浩史さんをはじめとして,さまざまな声優さんに参加していただいています。新しいゲームなので,新しく力のある声優さんに出ていただきたいということで声優事務所さんに相談して実現したキャスティングですね。
カワイイ系から渋い系まで,ヒーローのボイスが幅広いのも特徴です。例えば不死軍勢の黒幕的な位置付けのヒーローは,低音ボイスの大友龍三郎さんに演じていただいています。
今後追加されるヒーローのボイスに関しては,プレイヤーさんからアンケートで希望を取ってみるのもありかなと考えています。ボイスに限らず,アバターアイテムのデザインや,新ヒーローの設定やデザインなどを募集するのもいいですね。
とにかく,「プレイヤーさんのお声をお聞ききする気」は満点です。本作を日本市場に合ったものにするには一番重要な部分ではないかと思います。プレイヤーさんと一緒にゲームを作り上げていくような運営ができればいいですね。
4Gamer:
本作では,マップにもいろいろな特徴があるんですね。
遠藤氏:
本作のマップは森の中なんですが,木を攻撃して切り倒すことで新たなルートを作れます。また,高低差の要素も導入されていて,小高い丘にいるヒーローは,下の道からは見えないようになっているんです。高いところから相手ヒーローを待ち伏せるといったこともできますよ。
4Gamer:
MOBAといえばプレイヤーのランキングが重要になってきますが,本作ではどういった仕組みになっていますか。
遠藤氏:
ランダムで陣営が選ばれる「ランキング戦」の結果によって変化します。ランキングはその「プレイヤーの勝敗」の状況であって,ヒーローとプレイヤーを紐づけたものではありません。また,今後はプレイヤー同士が集まって,クラン単位で順位を競い合うクラン戦も実装する予定です。韓国では個人戦が盛り上がっていますが,日本ではクラン戦がメインになっていくと予想しております。
4Gamer:
初心者にはランキング戦はハードルが高そうですが。
遠藤氏:
ゲームモードには,ランキングとは関係ないAIとの戦いも用意されています。そこでヒーローの操作に慣れてもらうのがよいでしょう。対戦に入る前段階となる「初心者戦」はユニークな仕様になっていて,自軍が全員プレイヤー,敵軍がすべてAIという条件で戦うモードなんです。もちろん,自分以外全員がAIという遊び方もできますが,こういったモードで連携などの練習をすることもできます。
目標は世界大会。セガの運営力で勝負をかける
4Gamer:
MOBAというジャンルは日本ではあまり知られていませんが,なぜセガが運営することになったのか,その経緯をお聞かせ願えますか。
遠藤氏:
弊社で「ファンタシースターオンライン2」「RUSTY HEARTS」といったタイトルの運営が決定した段階の話なんですが,MOやアクションに続いて,もう一つ“尖った”ジャンルのタイトルがほしかったんです。
弊社内でさまざまなゲームのテストプレイを行っているのですが,そこでの評価が「凄く面白い」「よく分からない」と二分されていたのがカオス ヒーローズ オンラインでした。評価メンバーは,多くのゲームを遊んでいますので,普通のタイトルだとだいたい評価が似たようなものになってくる傾向があるんですが,この作品についてはまったく違っていたんです。
どんなゲームだろうと思って私自身が遊んでみたんですが,すごく新鮮で面白かったんです。日本にあまりないタイプの対戦ゲームであり,かつLoLが海外でものすごくはやっているということもあって,弊社で運営できれば,FPSが日本で初めて紹介されたときのようなインパクトを与えられるんじゃないかと思いました。
そこで上層部と「これなら絶対にいける」と交渉したんです。プレイヤーの半分が「すごく面白い」と感じて,もう半分が「つまらない」と感じるような尖ったタイトルであれば,面白いと思っていただける半分の方にきていただけるだけでも凄いことになるのではないかと。
4Gamer:
尖ったタイトルであるということで注目されたわけですね。
遠藤氏:
LoLが韓国でスタートしたときは,ネットカフェの占有率がほかのタイトルを押しのけていきなり26%にも達していましたし,好きなキャラクターを選んで戦えるのも面白い特徴です。可能性のあるジャンルですので,日本市場にマッチしたときには大きなブームになるのではないかと考えました。運営チーム内にLoLに詳しい人間がいたことも大きかったですね。
4Gamer:
やはり企画を通すうえでは苦労されたわけですか?
遠藤氏:
はい,4回くらい企画書がボツになりましたので,思い入れは結構ありますね。
4Gamer:
本作ではどういった層をターゲットとして運営を行う予定ですか?
遠藤氏:
すでにAOS系のタイトルを遊んでおられる方には「日本語版が出たぞ」ということで,一度見にきていただきたいと考えています。やはりコアゲーマーの皆さんはゲームにお詳しいので,本作をどのように展開していけばより面白くなるのかといったところをヒアリングしていきたいですね。そう言った意味でも,まずコアゲーマー層を狙っていきたいです。それからFPSや対戦系のゲームが好きな方々にもきていただくと,ゲーム自体も盛り上がるかなと考えています。
4Gamer:
では,ゆくゆくはオフラインイベントや日韓戦などの展開も考えておられるんですか?
遠藤氏:
AOS自体がe-Sportsジャンルですので,オフラインイベントはもちろん展開していきます。
日韓戦などの国際大会に関しては,これこそが本ジャンルを運営する最大の目標と考えています。カオス ヒーローズ オンラインは,現在,韓国以外ではインドネシア,中国でサービス中なんですが,いずれは世界大会をやりたいというのが,本タイトルを選んだときからずっと考えている構想です。そのためには日本で市場を作って,ブームを作っていかないと,大会が盛り上がらないので。まずは日本に集中して成功させたいですね。このジャンルの呼び名はAOS,MOBAとさまざまですが,弊社が推す「AOS」が代名詞となるくらいに本作を大ヒットさせたいところです。
4Gamer:
運営サイドで考える,このゲームの楽しさというのはどういったものでしょうか。
遠藤氏:
70種を超えるヒーローから,自分にあったものを選ぶ楽しみが一つ。選んだヒーローで,仲間達と一緒に対戦する部分も大きな魅力になると考えています。ボイスの言い回しもキャラクターの個性を強くする方向で工夫するなどといった試みをしていまして,新しいモノ好きの方を引き込める世界観を作れたかと思います。
4Gamer:
対戦メインのMOBAはゲームバランスが重要ですが,本作でのバランス調整に関してどう考えられていますか。
遠藤氏:
開発元はバランス調整に意欲的で,2週間に1回はアップデートを行っていますので,その辺りは心配していません。
4Gamer:
現在,いろいろな会社がMOBAのタイトルを準備していますが,その中でカオス ヒーローズ オンラインのセールスポイントとなる部分はどこでしょう?
遠藤氏:
セガは,これまでPSO2のような国産タイトルを運営してきたんですが,昨年からはRUSTY HEARTSなど海外IPも展開しています。本作は,セガがPCオンラインゲームのパブリッシャとしてプレゼンスを確立していくうえで重要なタイトルだと考えていますので,今後もさまざまな展開を積極的に行っていきます。
4Gamer:
セガとしての運営ポリシーなどを聞かせてください。
遠藤氏:
新ジャンルでは市場自体を育てていかないといけません。まず,プレイヤーさんから多くご意見をいただかないと,AOSを流行させることはできないと思っています。そのためにアンケートでお声をいただいたり,オフラインイベントでプレイヤーさんとラフな形のディスカッションをやったりしていくことで,日本市場にあったAOSの形になるかなと。今の形が日本市場に完全にマッチしているわけではありませんので,そこは今後行うフロンティアテストに参加していただけるコアプレイヤーさんや,トッププレイヤーになってくださる方々と一緒に日本に合ったAOSの形を作っていければと思っています。
4Gamer:
では,本作を楽しみにしている読者にメッセージをお願いできますか。
遠藤氏:
人によって合う,合わないがあるゲームだとは思っていますが,まずは1回触ってみてください。キャラクターはかなり魅力的に作られていますので,タイトルともどもかわいがってもらえれば嬉しいです。成長するAOSカオス ヒーローズ オンラインをよろしくお願い致します。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
海外で大ブームを巻き起こしているMOBA。日本においては「市場に根付かせるにはどうしたらいいのか?」という点が最初の課題となるが,セガが出した答えは「プレイヤーの声を取り入れたうえで運営していく」というものだった。すでにこのジャンルに慣れ親しんだプレイヤー群はともかく,まったく馴染みのない人達にMOBAはどう映るのか興味深いところだ。日本のネットゲーマー達がMOBAをどのように受け入れるのか,フロンティアテストの反響に注目したい。
「カオス ヒーローズ オンライン」公式サイト
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