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ARMの新型64bit CPU「Cortex-A72」はXeon並みの性能を3分の1の消費電力で実現。ARM Tech Symposia 2015レポート
今回のTech Symposia 2015では,10月末に開催された「ARM Tech Con 2015」で発表された新型CPU IPコア「Cortex-A35」や,2015年2月に発表されたハイエンドスマートフォン・タブレット向けCPU IPコア「Cortex-A72」,そして,ウェアラブルデバイスやIoTデバイス向けとされる新型GPU IPコア「Mali-470」といった新製品がアピールされていた。そこで本稿では,基調講演や記者説明会の情報をもとに,これら新製品について簡単にレポートしたい。
低価格スマートフォンを64bit化させるCortex-A35
まず,Hurley氏が強調したのは,ARMの64bit命令セットアーキテクチャであるARMv8-Aが,「市場で極めて大きな成功を収めた」という点だ。2015年末に発売されているスマートフォンは,半数以上が64bit対応になっていると,Hurley氏は主張する。
また,高性能で消費電力も多いCPU IPコアと性能は低いが低消費電力なCPU IPコアを組み合わせる「big.LITTLE」構成を採用するスマートフォンも,各社から発売されており,Hurly氏はARMv8-Aの成功に自信を示していた。
続いてHurley氏は,3つの製品セグメント別に,Cortex-AシリーズのCPU IPコアをまとめたロードマップを示したうえで,各セグメントの最新製品について説明した。各セグメントは性能順に,「High Performance」「High Efficiency」(高効率)「Ultra High Efficiency」(超高効率)に分けられている。
まずは,ハイエンド向けのCortex-A72から見ていこう。このCPU IPコアは,極めて性能が高い一方で,「同じセグメントの既存CPU IPコアに比べて,電力効率が大幅に向上している」とHurley氏は強調する。
たとえば,同じ28nmプロセスで製造した場合,2014年のハイエンドCPU IPコアだった「Cortex-A15」に比べて,「Cortex-A72は同じワークロードを実行したときの消費電力が半分になっている」(Hurley氏)とのこと。より新しい製造プロセスである「16nm FinFET+」を採用する製品になると電力効率はさらに向上し,同じワークロードでの消費電力は,Cortex-A15の25%,64bit命令対応CPU IPコアの第1世代である「Cortex-A57」と比べても,半分程度まで削減されるそうだ。
また,Hurley氏は,Cortex-A72とIntel CPUの比較も披露している。たとえば,「BroadwellアーキテクチャのCPUコア1基と同じシリコンダイ面積に,Cortex-A72ならば4基が実装できる」(Hurley氏)という。それだけでなく,20コアのCortex-A72ならば,Intelの「Xeon E5-2660 v3」に匹敵する性能を示しながら,消費電力は3分の1で済むと,サーバー向け製品としても通用する性能を備えることをアピールしていた。
一方,Ultra High Efficiencyのセグメントに新たに投入したCortex-A35については,従来広く利用されていた32bit CPU IPコアである「Cortex-A7」や「Cortex-A5」を置き換えるものであるという。
Hurley氏は,Cortex-A35とCortex-A7の比較を示し,消費電力はCortex-A7より10%ほど低いにも関わらず,性能は6〜40%の向上していると,電力当たり性能の高さをアピールしていた。
ただ,性能上昇率に6〜40%と開きがあるのは,アプリケーションの64bit化による性能上昇を加味しているためとのこと。Hurley氏曰く,「性能の上がり方はアプリケーションによる」のだそうで,古いアプリケーションが大幅に高速化されるわけではなさそうだ。
「スマートフォンの64bit化を加速させる製品」とHurley氏は説明していたが,2016年の末頃には,ローエンドのスマートフォンも64bit命令対応の製品が登場してくることになりそうだ。
ARMがハイエンドGPUを重視する理由は
VRとディープラーニング
Steele氏が重点を置いて説明したのは,発表されたばかりのMali-470ではなく,2015年2月に発表されたハイエンドGPU IPコアである「Mali-T880」のほうだ。
Steel氏は,Mali-T880が「極めて高い性能を持つGPUである」と強調し,既存のハイエンドGPU IPコアである「Mali-T760」に対して,最大1.8倍のグラフィックス性能と,同じワークロードで40%の消費電力削減を実現していると,ベンチマーク結果を示してアピールした。
ARM製のGPU IPコアを備える製品といえば,日本で見かけるのは比較的ローエンドのスマートフォンやタブレット端末が多いという印象を受けるかもしれない。だが,Steel氏によれば,「ARMは高性能のGPUを重視している」のだという。なぜなら,仮想現実(以下,VR)技術やディープラーニングといった,GPUの新たな活用分野が生まれているからだ。
VRでGPUといえば,真っ先にVRゲームが頭に浮かぶだろう。しかしSteel氏は,VRはゲームだけではないとして,「工業分野や医療,教育といった幅広い分野に利用できる技術だ」と述べている。こうした汎用性や将来性を期待できるために,VR実現の鍵となる高性能GPUが重要になっているというわけだ。
一方,ディープラーニングについてSteel氏は,「GPUはディープラーニングを実装するのに最も適したアーキテクチャを持っている」と述べる。ARMでは,ディープラーニングに関する研究開発を,2つの分野で進めていることを明らかにした。
その1つは,ディープラーニングによる画像認識で,画像処理や画像認識を専門とする英国のベンチャー企業Cortexicaと組んで開発に取り組んでいるそうだ。現在は,既存のGPU IPコアである「Mali-T628」を使用し,OpenCLで画像認識処理の実装に取り組んでいるそうである。
もう1つは,ARM社内で研究しているもので,GPUを使ったディープラーニングにより,文字認識を行うというものだという。
モバイルデバイスのSoC(System-on-a-Chip)が搭載するGPUでディープラーニングというのは,かけ離れているのではないかと考える人もいるだろう。だが,スマートフォンはセンサーやカメラも内蔵しているので,これらと組み合わせてディープラーニングによる外界認識ができれば,大いに役立つのではないだろうか。実用化がいつ頃になるかは何ともいえないが,高性能なGPUがスマートフォンに搭載されるようになれば意外に早くディープラーニングを使ったアプリが登場してくるかもしれない。
スマートウォッチにリッチなグラフィックスをもたらす
Mali-470
ハイエンドのMali-T880に続いてSteel氏が紹介したのが,ローエンドスマートフォンやウェアラブルデバイス,IoTデバイスをターゲットにしたGPU IPコアであるMali-470だ。このMali-470は「膨大な数が出荷され,実績が豊富なMali-400をベースに開発した製品」(Steel氏)であるという。
Mali-T800/T700/T600シリーズで使われているのは,統合型シェーダアーキテクチャ「Midgard」だが,Mali-400シリーズは,Midgard以前のアーキテクチャである「Utgard」(ウトガルド)を採用している。対応するグラフィックスAPIもOpenGL ES 2.0までであり,高性能を狙ったGPU IPコアでないことは,容易に想像できるのではないか。
そんなMali-470を開発した理由についてSteel氏は,とくにスマートウォッチのようなウェアラブルデバイスで,従来よりも複雑な2Dおよび3Dグラフィックス機能が必要とされるようになってきたためであると述べた。スマートウォッチでは,アニメーションする背景画像の上にアイコンやテキストを合成するなど,単純なグラフィックス機能だけでは難しい表現が当たり前となっており,そうしたウェアラブルデバイス向けには,Mali-T400シリーズが適しているというわけだ。
Mali-400シリーズは,DirectXでいうところシェーダモデル3.0相当のGPU IPコアである。そのため,OpenCLでディープラーニング用プログラムを動かすようなことはできない。とはいえ,ウェアラブルデバイスに必要される機能やコスト,消費電力を考えるとバランスがいい選択ではないだろうか。
ただ,ターゲットがウェアラブルデバイス程度となると,スマートフォン向けSoCに統合される形で登場するようなことは少ないかもしれない。
Tech Symposia 2015のレポートは以上のとおりだ。取り上げた話題の中で,ゲーマーにも影響がありそうなのは,Cortex-A35の登場によって,低価格なスマートフォンの64bit対応が進むかどうかではないだろうか。順調に64bit対応製品が増えていけば,ネイティブコードを利用するスマートフォン用ゲームは,64bit命令による高速化が期待できるかもしれないからだ。そうなれば,SoCに統合されるGPUの性能向上と合わせて,よりリッチなゲームがスマートフォンでプレイできるようになるだろう。
ARM Tech Symposia 2015 公式Webサイト
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