インタビュー
PS Vitaで採用されるGPUコア「PowerVR SGX543MP4+」のImaginationに聞く「+」の意味。PowerVRは次世代ゲーム機への採用も目指す!?
「組み込み」というキーワード自体,4Gamerの読者には馴染みが薄いかもしれないが,ET2011というのは,業務用・民生用問わず,電機製品を構成する電子パーツや汎用プロセッサのメーカーが出展する展示会だ。
今回,このET2011に出展しているImagination Technologies(以下,Imagination)PRディレクターであるDavid Harold(デビッド・ハロルド)氏とPowerVRグラフィックス担当のKristof Beets(クリストフ・ビーツ)氏に,最新のPowerVR事情や,組み込み向けグラフィックスコアの業界動向について取材を行ったので,そのレポートをお届けしたい。
David Harold氏(Director of PR, Imagination Technologies) |
Kristof Beets氏(Business Development, PowerVR Graphics, Imagination Technologies) |
PlayStation VitaのGPU
「SGX543MP4+」に込められた「+」の意味とは
PowerVRシリーズというと,古参のゲームファンは「ドリームキャストのGPU」や「バーチャロンが動いたPC用拡張カード」を思い出すかもしれないが,近年では,GPU IP「PowerVR Graphics」とビデオデコーダIP「PowerVR Video」,そして映像エンジン「PowerVR Display」といった具合に派生し,PowerVR Graphicsは「消費電力効率の良いハイパフォーマンスGPU IP」として,組み込み向けトップブランドの地位をしっかりと築き上げているのであった。
採用製品のメジャーどころを挙げるならば,iPhoneやiPadがその筆頭ということになるだろう。また,IntelのAtomシリーズ用チップセット「Poulsbo」(プースボ,開発コードネーム)や,Atom Z600シリーズで統合されるグラフィックス機能もPowerVR Graphicsベースだ。そして最近では,「PlayStation Vita」のグラフィックスコアがPowerVR Graphicsベースというのも有名な話。意外にも(?),PowerVR Graphics採用ハードウェアに接する機会は多いのである。
見方を変えれば,彼らの動向は,近い将来における身近な情報機器のグラフィックス動向に直結するということでもある。
ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下,SCE)は,PlayStation Vitaに,「PowerVR Series5」の「SGX543MP4+」を採用することを明らかにしている。「SGX543」はファミリーネームで,「MP4」はコア数のコンフィギュレーションナンバーを表し,MP4の場合は「4コア」という意味だ。末尾の「+」は「PlayStation Vitaの専用機能の証」という位置付けになっている。
では,この「+」には,一体どんな秘密が隠されているのだろうか。
PowerVR Series5のSGX543MP4+における「+」は,PlayStation Vitaへの採用にあたって,SCEと共同開発した拡張仕様部分になる。これはSCE向けの独占仕様部分となり,他社製品でこのSGX543MP4+が採用されることは,基本的にはない。
具体的にどのような拡張仕様が盛り込まれているのかは,
お話できない。
と一言。ただ,一般論として,Harold&Beets両氏は次のように述べてくれている。
一般的なPowerVRアーキテクチャのライセンシングを例にとって話すならば,我々は市場のどの顧客(=ライセンシー)にも,我々が開発した同じ技術を提供している。
ただ,各顧客がその技術でSoC(System-on-a-Chip,1チップコンピュータ)を構成するときには,その製品に対する最適化や改良,拡張が施される。CPUとの組み合わせに対するものだったり,バスアーキテクチャに対するものだったり,メモリアクセスに対するものだったり,いろいろだ。
そうしたケースにおいて,最適化や拡張は顧客の手で行われるため,我々がそれに対していちいち「+」のようなブランドを付加することはない。しかし,SGX543MP4+に関して言えば,SCEが要求する「ゲーム機向けの最適化や拡張仕様部分」を,SCEと我々で共同で開発した。共同開発した実績に対して,我々もドキュメント上で,「SGX543MP4+をSCEに提供した」と謳っているわけだ。ただ,繰り返しになるが,「+」部分はPlayStation Vita専用仕様となる。
Beets氏:
PlayStation Vitaを例にとって話すことはできないが,一般的なPowerVR Graphics採用事例でいえば,その製品が行うメモリアクセスパターンにPowerVR側のオンチップキャッシュを最適化するようなカスタマイズを行うことがある。そうしたレベルのカスタマイズや機能拡張をゲーム機向けに行ったというイメージだ。
なお,PlayStation Vitaの開発は2008年頃に始まったことが分かっている。この頃にはSCEとImaginationの間でグラフィックスコアの共同開発がスタートしていたようだ。
ソフトウェア開発者からは,「標準のPowerVR Series5シリーズと比べて,APIレベルで仕様はかなり拡張されている」という情報も漏れ聞こえてきているので,「+」部分の規模は予想以上に大きい可能性がある。
次世代GPU IPコア
「PowerVR Series6」とは?
PowerVR Series6は,PowerVR Series5よりも新しい世代のGPU IPコアだ。PowerVR Series5と比べて最大20倍以上の性能を持つ高性能グラフィックスコアとして,業界から熱い視線を送られているものである。
その詳細に関しては,
具体的にどんなパフォーマンスなのかを話せるタイミングではない。
とのこと。
また,日本国内のカーナビゲーションプラットフォームにおいて最も採用例が多いルネサスは,車載用SoCであるR-Car Hシリーズの次期モデルにPowerVR Series6を採用すると見られている。近い将来に開発が始まるハイエンドカーナビは,PlayStation Vitaと比べて20倍近い3Dグラフィックス性能を持つかもしれないのである。
もっとも,Harold氏はPowerVR Series6に対して慎重な姿勢を崩さない。
競合に手の内を明かしたくないというのがあるし(笑),すでにPowerVR Series5の採用を決めて製品開発を行っている我々の顧客に余計な不安を抱かせたくないというのがある(ため,詳細は述べられない)。現時点で言えるのは,Rogueが,DirectX 11フル対応であること,GPGPUへの本格対応ができていること,そしてデュアルコア以上のマルチCPU構成のシステムに最適化されていることくらいだ。
2012年には実際の製品がライセンシーから登場するはずなので,そのときには,より具体的な技術面の話ができると思う。それに,PowerVR Series5シリーズが今も好調で,サムスンやソニーなどはPowerVR Series5の新しい顧客だ。そうした新しい顧客に,「次の主流はPowerVR Series6だ」というような雰囲気を与えたくない。
近年で最も大きなPowerVR Series5採用事例の1つがPlayStation Vitaなのだが,2011年1月の発表というこのタイミングは,奇しくもImaginationのPowerVR Series6発表と重なってしまい,「PlayStation Vitaは一世代古いPowerVRを採用するのか?」といった波紋を業界の内外に巻き起こした。
組み込みの世界はPC業界と異なり,発表と同時に製品がリリースされることは少ない。先ほど紹介したPowerVR Series6ベースとなるルネサスのプラットフォームも,顧客に提供されるのが2012年なので,実際のカーナビ製品として出てくるのは早くても2013年以降だろう。また,「新しいもの=正義」とは限らず,顧客のニーズに合うものこそが正義となるのも,組み込みの世界ではよくあることだ。
とはいえ,一般ユーザーの先入観は絶えず変化するので,こうした情報開示には,かなり気を遣っているようだった。
なぜ両社の間にはそういった違いが生じているのだろう。
ARMと比較して,グラフィックスコアIPのシェアでは我々のほうが大きい。歴代のPowerVRシリーズを採用していた顧客は,順当に我々の上位モデルを採用する傾向にある。ARMは組み込み向けCPU IPコア最大手のベンダーだが,グラフィックスコアIPとしてはまだ新興的存在だ。それだけに,新規顧客に向けてのアピールに積極的なのだろう。
ARMは,Mali-200/300/400シリーズという既存ラインナップを持っているが,確かにPowerVRシリーズと比べて採用事例が少なく,顧客の絶対数もPowerVRシリーズよりは少ない。Imaginationの言を引用するならば,ARMの場合は,次世代アーキテクチャを強くアピールしても,“傷つく現行世代の顧客”が少ないというわけだ。
新規顧客を多く獲得するためには,アーキテクチャの優位性アピールが必須。だからARMは積極的な情報開示を行っているのではないか,とHarold氏は分析しているのである。
もっとも,PowerVR Series6で,PowerVR Series5と比べてシェーダコアが進化していることは間違いない。DirectX 11や,次世代OpenGL ESである「Halti」(開発コードネーム)の対応が謳われている以上,テッセレーションステージの搭載などといった拡張がなされているのは確実だ。
このあたり,やはり「話せない」という結論にはなるのだが,Beets氏は,以下のような表現を行っている。
PowerVR Series5で,(Atomプラットフォームなどにおいて)DirectX 9をサポートしてきた実績が我々にはある。その我々がDirectX 11対応を明言しているということは,ちゃんとDirectX 11に対応する準備があるということだ。
現時点で,どのようにテッセレーションステージなどの機能を実装・提供しているかという話はできない。ただ,我々は競合と違い,常に「高効率な実行性能」「メモリ帯域幅を増加させない」「低消費電力」といったことを心がけてPowerVRシリーズを提供してきた。このコンセプトはPowerVR Series6においてもぶれることはない。
PowerVR Series6の
GPGPU対応はどうなる?
組み込みの世界においても,GPGPUソリューションへの関心が強くなってきている。というよりも,GPGPUは,実はPCよりも,むしろ組み込みの世界のほうが,積極的に導入していこうという意向が強い。
SoCにおいて,グラフィックスコアは,比較的占有面積の大きい,いわば高コストな部位である。そのため,グラフィックスコアを多目的に活用してシステム性能を底上げしたいという要望が非常に強いのだ。
PowerVRシリーズでいえば,PowerVR Series5がすでにOpenCLへの対応を果たしている。当然,この流れはPowerVR Series6へと受け継がれるはずだが,この点,Harold氏とBeets氏は次のように述べている。
PowerVR Series6でもOpenCLへの対応は当然行われる。今後は,組み込みの世界でも,毎秒何ポリゴンというようなスペックだけでなく,何GFLOPSというような性能値が重要視されていくだろう。
Beets氏:
我々のPowerVRが提供するGPGPUソリューションは,GPUコア内部で与えられたグラフィックスレンダリングタスクをマルチスレッド化して実行するだけでなく,まったく異なる種類のタスクを複数実行することにも対応している。すなわち,OpenCLタスクとグラフィックスレンダリングのタスクは同時に実行できるということだ。
ちなみにPowerVR Series5では,16コアの「MP16」が最大のコンフィギュレーションとなる。1コアには一般的なGPUでいうところのシェーダユニットが4基搭載されているので,最大では64シェーダユニットというわけだ。前述のとおり,PlayStation Vitaの場合はMP4(4コア)なので,16シェーダユニット構成ということになる。
PowerVR Series6においても,このMP16構成が最大コンフィギュレーションとなるのだろうか。
ただ,我々はビジネスを拡大していくうえで,他分野への進出も想定はしているので,技術的な準備は怠っていない。たとえば今後,組み込み向けで,Compute Cluster的なHPC分野に我々が進出していくチャンスだってあるかもしれない。そのときには,PC向けハイエンドGPU以上のハイパワーなグラフィックスコアIPを提供することもあり得る。
Harold氏:
技術ではなく,市場の求めているもの,顧客が求めているものを我々は提供している。PowerVR Series5に関して言えば,Appleは『MP2』コンフィギュレーションであり,最も高性能になるだろうPlayStation VitaでもMP4コンフィギュレーションだ。現在のモバイル市場ではこのくらいで十分とされている。MP16といった最大コンフィギュレーションが技術的な限界によるものではないことは理解してほしい。
要するに,現状,MP16が最大なのは,その程度まであれば十分だから,というわけである。顧客の要望さえあれば,“MP32”などといったコンフィギュレーションも提供できるのだろう。
現行の最高パフォーマンス製品の採用例でもMP4止まりなら,当面はPowerVR Series5のままでもいいのではないかと思うかもしれない。しかし,消費電力対性能の観点から,アーキテクチャは進化させられていくし,時代が求める新機能への対応も行われていく。面積あたり,あるいはワットあたり性能の向上,DirectX 11対応,本格的なGPGPUへの対応などが果たされたPowerVR Series6は,次世代の市場のニーズ,あるいは顧客が求める新機能搭載の要望に応えた製品,ということになるはずだ。
プログラマブルレイトレーシングソリューション
「OpenRL」は業界標準になるのか
Imaginationは,純然たるGPU IPコア製品とは別口で,GPUに新しい機能を盛り込むための標準化活動に力を入れ始めている。その新しい機能とは,プログラマブルレイトレーシングであり,Imaginationは,その標準化仕様として「OpenRL」を提唱したのだ。
「Open〜」という名称から想像できるように,現在Imaginationは,OpenGLやOpenCLなどの規格策定・管理団体であるKhronos Group(以下,Khronos)へ働きかけを行っている。このあたりの背景やOpenRLそのものの説明は9月24日の記事で行っているので,そちらも併せてチェックしてもらえればと思う。
レイトレーシングというキーワードだけみると荒唐無稽に感じられるかもしれないが,たとえば現在苦労して生成している動的な影生成などは,レイトレーシングの機能を局所的に活用するとかなり簡単に行える。あるピクセルをレンダリングするとき,そこから光源に向かってレイ(線)を飛ばし,シーン内の第三者に衝突すれば,そこは影になっていると判断できるのだ。
光源を仮想視点にしてシーンをZバッファレンダリングしてシャドウマップを生成し,あとからチマチマ「影か否か」を判定していく現在の主流手法よりもスマートで,しかも影の品質がシャドウマップの解像度に依存してしまったりすることもなく,常にフル解像度の影が得られる。
個人的には,Khronosだけでなく,DirectXの新機能としてMicrosoftに働きかけてもよい気がするが,Imaginationはどのように考えているのだろうか。
我々は長らくKhronosのプロモートメンバーなので,このOpenRLのアイデアを標準化させるにはKhronosへ働きかけるのが最もよいと判断した。その先はその後だ(笑)。OpenRLがOpenGLのような業界標準になることを期待している。
Beets氏:
Microsoftとは昔も今も良好な関係にある。Windows 8においても我々はMicrosoftと深い関係のなかにあり,今秋発表になったDirectX 11.1の機能も,Microsoftと密接にやり取りしながら取り組んでいる。そのため,MicrosoftがOpenRL相当の機能を我々に望むならば,それには対応する用意があるにはあるが,次世代DirectXの仕様はMicrosoftがハンドリングしているので,我々から「OpenRL相当の機能を盛り込め」とは強要できない。
一方,Khronosは業界団体なので,業界メンバーが対等な立場で提案できる。だからまずはKhronosというわけだ。
Imaginiationは2012年にもレイトレーシング専用プロセッサ「CausticTwo」(開発コードネーム)を公開予定。さらに将来的には,このCausticTwoに搭載されている機能をPowerVRへ統合させていくロードマップも敷いているほど,この分野への取り組みに力を注いでいる。
現状,一般的な我々の顧客は「レイトレーシングは“とても上のほう”にあるもの」という先入観を持っている。その状況で,我々のようなハードウェアベンダーだけが先走りしてがんばっても空回りになる。開発者を巻き込んで,共に育てていくような状況に持っていかなければ成功しない。我々は,多くのグラフィックス開発者と広く関係を築きながらOpenRLプロジェクトを進めている。
このOpenRLを他社と共同で推進していく流れはないのか。たとえばNVIDIAは,プログラマブルレイトレーシングのソリューションとして「OptiX」を提唱していて,OpenRLとは直接競合してしまうため連携しにくいが,OpenCLなどのKhronos系API対応に力を注いでいるAMDならパートナーになり得そうだ。
我々はGPUチップメーカーではない(笑)。IPビジネスをやっているので,そうした連携はやりにくい。
つまり,OpenRLというAPI仕様やフレームワーク仕様は広く広めていきたいが,その実現手法に関して手の内はできる限り明かしたくないということなのだろう。
筆者個人としてはこのOpenRLの発想には賛同的なのだが,ことモバイルグラフィックスに話を限定するならば後ろ向きな指摘も多い。それは「レイトレーシングのような高度なレンダリングシステムはむしろクラウド側で実現すべきではないか」というものだ。
Imaginationは,OpenRLベースのプログラマブルレイトレーシング機能をPowerVRに統合させていきたいと考えているが,「そんなことをせずに,クラウド側でレンダリングしたものを端末側で表示させるほうが,性能,そして消費電力の観点からは自然だ」という指摘は確かにもっともらしく聞こえる。4Gネットワーク世代では通信のレイテンシも低減され,クラウドベースのレンダリングシステムが極めてリアルタイムに近い形で利用出来るようになると言われているからだ。実際,NTTドコモのXi(クロッシィ)対応タブレット向けにサービスが始まった「ジークラウド」などは,その先駆け的な存在だといえる。
結論から言えば,その判断は市場が行うだろう。ゲームグラフィックスをクラウドレンダリングに依存するという発想にも多くの問題がある。たとえば,回線が切れたらゲームオーバーになるとか,対戦ゲームで回線が遅いとプレイが不利になるとかだ。
もっとも,こうした問題はクラウドレンダリングというよりも,オンラインサービス全般で常について回るのだが。
Harold氏:
ただ,機能ごとに,「それが目の前の端末内で処理されるべきなのか,それともネットワークの向こう側のクラウドで処理されるべきなのか」というバランスの問題は今後も議論されていくだろうし,その時代ごとに着地点は変わってくるとは思う。現時点では,グラフィックスレンダリングのすべてをクラウドで行わせる時代には到達していないというのが我々の考えだ。
もちろん,我々は市場や顧客のニーズで変化していく企業なので,クラウドレンダリングが主流になったときには,その流れに適合した技術開発を行っていくことになるだろう。
迫り来る競合。
そのときImaginationはどう動く?
ImaginationのPowerVR Series6と直接競合するMali-T600シリーズをアナウンスしたARMは,今後,「ARMベースのCPUコアと組み合わせる最適なグラフィックスコアはMali-T600シリーズだ」というメッセージを強く打ち出してくると見られている。
現状のImaginationは,スマートフォンやタブレットに搭載されるグラフィックスコア中,60%程度のシェアを押さえているが,今後,ARMの“セット売り”などに対して,どのように対抗していくつもりなのか。両氏は次のように述べる。
確かにARMとは半導体業界内では競合関係にあるが,広い視点で見れば協力関係にもある。現在,業界の標準ソリューションでは,「SoCを作ろう。CPUはARMで,グラフィックスはPowerVRで」という流れになっている。これは非常に強力なコンビネーションとして認知されていて信頼性も高い。
我々も「Meta」というブランドの組み込み向けのCPU IPを持っているが,これとPowerVRシリーズを組み合わせることを強要はしていない。組み込みの世界では,顧客が好きなIPを選択してSoCを構成するという文化が下地にあるからだ。
Beets氏:
PCの場合,確かにIntelプラットフォームがデファクトスタンダードであり,IntelのCPUと統合型GPUの組み合わせで構成される製品が多いが,単体GPUを搭載することもできる。自由な選択肢が与えられているわけだ。
SoCの世界では基本的に,グラフィックスコアを一度組み入れたら,それがそのシステムで唯一のグラフィックスコアになる。SoCベンダーはとても優秀なので,自社に必要なものを賢く選択するはずだ。また,ARMも賢いから,自社のCPUコアとGPUコアのセット利用を強要して競合他社を排除すると独禁法に触れることは理解しているだろう。
PowerVRは,OCP(Open Core Protocol)バスだろうが,AXI(Advanced eXtensible Interface)バスだろうが,そのSoCベンダーの独自バスだろうが,柔軟に最適化して利用するためのソリューションを提供できるとし,これこそが我々を選ぶ大きな理由になると,Harold氏は胸を張っていた。
強力な競合が出てくることはむしろ歓迎したい。なぜなら,それはその業界が活気だっていることの証だからだ(笑)。
ドリームキャスト以来。
据え置き型ゲーム機のGPUにPowerVR!?
まだどれも信憑性に乏しい次世代ゲーム機の噂だが,最近では耳にする機会も増えてきた。火のないところに煙は立たないので,実際,そうした次世代ゲーム機開発のプロジェクトは動き出しているのだろう。
冒頭でも述べたとおり,Imaginationは前身となるVideoLogic時代に,セガのドリームキャストで「PowerVR Series2」が採用された実績を持つ。今度の次世代機のGPUとして採用されたいという要望はあるのだろうか。
締めくくりの質問として,やや柔らかめな話題を振ってみた。
(VideoLogicとしての)創業当時,我々は小さな会社だった。当初,NECと強力な契約関係を構築して業界に信用を築き,ドリームキャストのGPUとして採用を勝ち取った。その後,我々は方針を転換して,PowerVR技術の提供先として安全かつ強力な市場である組み込み向けに舵を切り,大きく成長した経緯がある。
今や,PowerVRはスマートフォンやタブレット,Netbookといった携帯情報機器におけるグラフィックスコアのデファクトスタンダード的な地位を確保し,我々も,総社員数数千人規模の大きな企業へと成長を遂げた。
ドリームキャストの頃から10数年。我々の持つ技術は熟成されたと考えている。グラフィックスコア以外のビジネスも手がけ,それらが成功もしており,企業としても強い足場が完成したとも言えるだろう。
そうした状況を踏まえると,機会があるならば,ハイエンドな据え置き型家庭用ゲーム機のグラフィックスプロセッサを我々が提案してもいいのではないかという気はしている。PlayStation Vitaへの採用実績があり,ここ数年で開発者コミュニティとも深い関係を築き上げてきている実績もあるからだ。……あくまで個人的な見解だが。
次世代ゲーム機に搭載されるグラフィックスコアは,順当にAMDのRadeonかNVIDIAのGeForceになると見られているが,もしかすると大穴としてPowerVRもあるのだろうか。果たして……。
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