≫ 注記:本制作日記は
極めてノンフィクションに近いフィクションです。実在する団体・人物・会議内容・スケジュール・打ち合わせに遅刻する編集者(平林さんの事)・〆切・本当の〆切・本当の本当の〆切・土屋つかさの個人的な意見としての作家論/同創作論/同作品論などが折に触れて登場しますが(しない物もありますが)、全て架空という事にしておかないと誰に怒られるか分からないのでそういう事でヨロシク! では全4回でお送りする“土屋つかさの『那由多の軌跡』制作日記
「ノベライズに至る軌跡」”スタートです。どぞ!(土屋)
■土屋つかさの『那由多の軌跡』制作日記
第2回:スケジュールとの格闘!
第3回:プロットを書き上げろ!
第4回:議論、そして、執筆へ!
第1回:執筆の依頼が来た!
2012年5月某日、僕、土屋つかさがいつものように仕事をサボって――もとい、情報収集の為にネット巡回し、ついでにメールBOXを確認した時、ブログで公開しているメアド宛に送られた一通のメールに気づきました。
件名:お仕事のお願い/星海社・平林
それが、それから約1年にわたる「那由多の軌跡ノベライズプロジェクト(今書きながら命名した)」の、全ての始まりでした。
◆ ◆ ◆
初めましての方は初めまして、そうでない方はお久しぶりです。土屋つかさです。4Gamer.netの読者の皆様には馴染みが薄いかと思われますので、簡単に自己紹介をば。
SE(4年)→デジタルゲームプランナー(4年)→を経て、現在はライトノベルを専業で書いています。SEの間も所属する会社が2回変わっていたりとか、プランナー在籍中にライトノベルを兼業執筆していたりとかで、こういう職務経歴の説明で正しいのか良く分からないのですが、本編とはそれほど関係無いので気にしないで下さい。
第12回スニーカー大賞(ライトノベル新人賞の1つ)にて奨励賞を受賞、角川スニーカー文庫よりデビューし、現在に至ります。4Gamer.netさんでも、以前、自分のシリーズを紹介していただいた事があります。
4Gamer.net ― 世界はルールで出来ている。「放課後ライトノベル」第38回は『それがるうるの支配魔術』で書き換えられた“ルール”を見つけ出せ
ちなみに、4月1日に新シリーズ第1作『超粒子実験都市(グロアポリス)のフラウ CODE-1#百万の結晶少女』(角川スニーカー文庫・刊)が発売されたばかりです。ご興味のある方はどぞどぞよろしくです。既刊シリーズの『それがるうるの支配魔術(イレギュラー)』『放課後の魔術師(メイガス)』も合わせてよろしく!
◆ ◆ ◆
「簡単に」のつもりが意外に長くなってしまいました(編集部注:……宣伝はほどほどにお願いします)。話を戻しましょう。メールです。
送信者は星海社の平林緑萌(もえぎ)さん。割と今風(?)っぽい名前ですが、これが本名で、しかも男性です。土屋は面識はありませんでしたが、星海社名物の「星海社FICTIONS新人賞編集者座談会」で目にする名前で、Twitterでも存在感のある方なので覚えていました。
メールの内容は、要約すると「日本ファルコムの『那由多の軌跡』のノベライズを企画しており、土屋に執筆を依頼したい」との事でした(本当はもっと懇切丁寧な内容であった事は付記しておきます)。
文中、土屋の目を引いたのは、この部分でした。
『折角なので、ただのノベライズではないものを、と考え、
土屋さまのお名前を思い浮かべた次第です。』
「ふむ」
と、うなります。これは考えなければならない仕事が来たぞ、と。
メールを一読して土屋が感じたのは二つ。一つは「このお仕事はやり甲斐がありそう」という物。そしてもう一つは「果たして土屋に出来る仕事なのだろうか?」という物でした。
ノベライズというのは作家にとって、オリジナルを書くのとは、また異なるリスクとリターンがあります。それは印税の配分といった生々しい事から、「他人様のキャラクターをお借りして物語を紡ぐ」という行為に対する覚悟まで、多岐に及びます。この時、特にこの後者について、土屋は不安が強かったのです。
「那由多の軌跡」は、日本ファルコムが誇る大人気「軌跡」シリーズの最新作です。ノベライズは従来の「軌跡」ファン、そしてなにより「那由多の軌跡」をプレイしたユーザーの方が楽しめる作品でなければなりません。更に、作品に土屋自身のオリジナリティを盛り込む必要があります(そうでなければ、土屋が書く理由が無いからです)。それは果たして可能なのか?
懸念は他にもありました。「那由多の軌跡」はこれまでの「軌跡」シリーズが採用していたRPGスタイルからシステムが一変しており、しかも、その時点ではストーリーがほとんど明らかにされていなかったのです。実際にシナリオを読んで、土屋にはとてもノベライズ出来そうにないとなったらどうしよう? などなど、不安の種は尽きません。
けれど、上記の通り元ゲームプランナーである土屋には、ゲーム、しかもRPGの老舗である日本ファルコムの最新作のノベライズという仕事に対し、抱えていた不安を凌駕する期待と興奮をメールから受け取りました。そして最終的には、平林さんにお返事を出しました。
『ひとまずお話だけでもお聞きしたいと思います。』
◆ ◆ ◆
4日後、「CHINA TEA SALON 新宿髙島屋店」にて平林緑萌さんと初顔合わせとなりました(くどいようですが平林さんは男性です。メガネのイケメン)。土屋が滅多に入らないようなオシャレな喫茶店だったので緊張しましたが、平林さんはとても紳士的かつフランクな人で、すぐに仲良くなる事が出来、すんなり仕事の話へと進みました。
打ち合わせ中、色んな話をしました。その間、平林さんの口から何度も同じフレーズが繰り返されました。
「『ノベライズ』の可能性を広げたいんです」
周りが女性だらけの喫茶店の中で、自身も相当なゲーマーである平林さんは、星海社という出版社の中でノベライズ物の新しい形を読者に提案したいのだと、土屋に熱く語ってくれました。
余談であり、かつ土屋の推測ですが、今回の「日本ファルコム×星海社×4Gamer.net 共同企画」において使われている「ノベライズの“新地平”」というキャッチフレーズは、あの時の平林さんの熱意が、文字として連ねられた物ではないかと予想しています。
そして、その熱意は充分に土屋に伝わってきました。その時、土屋の頭には、平林さんから最初に受け取ったメールの文面が浮かんでいました。
――ただのノベライズではないものを――
なおも熱心に言葉を紡ぐ平林さんを見ながら、この仕事を受けよう。いや、受けたい。と、土屋は思いました。
◆ ◆ ◆
ところが。ここで一つ問題が起きます。
スケジュールです。
(続く)
■土屋つかさの『那由多の軌跡』制作日記
第2回:スケジュールとの格闘!
第3回:プロットを書き上げろ!
第4回:議論、そして、執筆へ!