プレイレポート
PS Vita「メルルのアトリエ Plus」プレイレポート。追加要素と細かい調整によってただの移植にとどまらない“気の利いた”作品に
ガストの看板タイトルである「アトリエ」シリーズ通算13作目にあたる「メルルのアトリエ」は,前2作の主人公ロロナやトトリたちが過ごしたファンタジー世界「アーランド共和国」を舞台とするシリーズ最後の作品だ。PS3版は,イラストレーター岸田メル氏の描くビジュアルや遊びやすくなったシステムなどが好評を博して,累計約14万本を売り上げたと言われている。
今回発売される「メルルのアトリエ Plus」は,そんなPS3版にさまざまな追加要素と細かい調整を加えた移植作。新規イベントはもちろん,岸田メル氏の描き下ろした新規イベントイラストも用意される。
イベントやイラストの増量はまだしも,さまざまな追加要素,細かい調整によって一体どこがPS3版と変わって,それがプレイヤーにどのくらい影響があるのかは誰もが気になるところ。そこで本稿では,実際にプレイした感想を交えて,そのあたりの印象をお伝えしていこうと思う。なお,2011年にPS3版を紹介した際に詳しく触れていなかった「ロロナのアトリエ」「トトリのアトリエ」との因果関係やシステムについても凝縮してお伝えするので,「メルルのアトリエ」ってなんぞや,という人もぜひご一読を。
アーランド3部作の大団円を描いた物語
まずは物語をまとめていこう。
先に少し触れたとおり,本作で描かれるのは「ロロナのアトリエ」「トトリのアトリエ」に続くアーランド共和国周辺のエピソードだ。物語の中心となるのはアーランドのはるか北西に位置する「アールズ王国」で,主人公のメルル(メルルリンス・レーデ・アールズ)はこの王国のお姫様である。
機械と錬金術によって大きく発展したアーランドと比べると,メルルの暮らすアールズはまだまだ発展途上の国。アーランドの首長ジオはメルルの父でアールズの国王であるデジエに共和国への参加を促しているのだが,発展途上国ゆえの課題も多く実現には至っていない。
こういったなれそめからも分かるとおり,本作には「トトリのアトリエ」から友情出演を果たすキャラクターも多い。中にはアーランド首長ジオ,そのお目付役であるエスティ,強面剣士ステルクのように,「ロロナのアトリエ」から続けて登場する人物もいる。初登場時は25歳くらいだったエスティとステルクがアラフォーになるほどアーランドの時間も進んでいるのだが,彼らはそんなことなどお構いなく元気に最前線で戦ってくれる。
もちろんメルルの周りには,戦闘から身の回りのお世話までこなすメイドのケイナや,ブラザーコンプレックスが見え隠れするライアスのような新キャラクターもいる。物語は一応独立はしているものの,3部作の大団円らしく新旧キャラクターを交えたフェスティバルが楽しめる。会話の中で,前2作のキャラクターによる「久しぶりー,元気してたー?」的な展開を見られることも多いので,本作で初めてアーランドを旅するという人は,公式サイトなどで人間関係を把握しておいたほうがよさそうだ。
ゲームの流れは従来の「アトリエ」とほぼ変わらず,決められた期間内に設定された目標を達成するのが主な目的。メルルの場合はお姫様兼,錬金術士として“3年以内にアールズを開拓する”ために奮闘していくことになる。アールズ国王デジエは娘のメルルが錬金術士になることに反対しており,一定期間内に上達しないのならきっぱりと諦め,お姫様としての責務を果たしてほしいと願っているから,3年という期限がついたのだ。
ゲームの中には外れて困る程度の道筋はあるが,期間内の行動はおおむねプレイヤーに委ねられており,何をしたかによって町の発展具合やエンディングが変わっていく。百戦錬磨の武芸者,錬金術のマエストロ,町の人気者など,プレイ後にメルルがどのような変化を遂げるかは,プレイヤー次第だ。
ちなみに,「メルルのアトリエ Plus」では,条件を満たすことでメルル,トトリ,ロロナの衣装変更が可能になり,これはフィールド探索時のような通常行動時のほか,イベント時の3Dモデルにも反映される。ゲームとしてはおまけなのだが,ビジュアル面も魅力的な作品なだけに,追加要素としては嬉しい。
衣装の種類はキャラクターによって異なるが,一番多いのはメルルで,その中でも水着のバリエーションは目立つ。まぁ個人的には,かぼパン(かぼちゃパンツ)こそがメルルのアイデンティティであると思ってはいるけれど,気分によって着せ替えられるのはやっぱり楽しい。
かなり細かい調整が加えられたシステム
「メルルのアトリエ Plus」において重要となるシステムは,「開拓」「戦闘」「調合」の3点だ。ここではそれぞれのシステムを,PS Vita版における調整点も交えてお伝えしていこう。
・「開拓」は町を発展させる重要な要素
「開拓」は,物語とシステムの両面において重要な要素だ。町の発展を目指すメルルは,アールズ国内の荒廃した土地や要所の復興や再建のために,執事のルーフェスが発行する課題をこなしていく。課題はアイテムの納品,新たな土地の探索,住民を困らせる(?)モンスターの撃退といったものが主で,達成するたびに「開拓ポイント」が付与され,これを使って施設を発展させることで,アールズはどんどん大きくなる。
中には,戦闘経験値や調合経験値の獲得量を上昇させる施設などもあるので,国を発展させることはメルルの冒険の助けにもなる。さらに,開拓を続けることでアールズ自体の人口も増え,空き屋ばかりだった街中にアーランドから招致された店舗が追加されていく。ここでも,懐かしい人たちがプレイヤーを待っているのだ。
「メルルのアトリエ Plus」では,施設の建設に必要なポイントや開拓ポイントの上限が変更されている。このため,施設を建てる順番が重要になると前情報では伝えられているが,実際にプレイした感触としては,そこまで気にしなくてもいい。とにかく効率よくプレイしたいとか,そういった意図がなければ,そのときに必要な施設を順番に建てていけばいいだろう。新しい施設を建てるとフィールドマップがどんどん賑やかになっていく様子も,見ていてかなり楽しい。
・シリーズお約束の「調合」
マップで採取した素材を調合して納品または使用するというサイクルは「アトリエ」のお約束。そのサイクルを支える調合は,PS3版で1度集大成を迎えた。「劣化」(採取してから時間が経過すると素材が腐る)といった従来作にあった要素をそぎ落として調合に至るまでのハードルを下げつつも,特性や品質を付与するための素材の選択にこだわれるシステムは,PS3版で多くのプレイヤーに歓迎された。
ある特性を持った複数の素材を掛け合わせることで,未知の特性が生まれるというのも,ゲームシステム上でルーチンになりがちな調合に,発見という楽しさを与えるのに一役買っている。こういった要素はPS Vita版でもそのまま受け継がれているので,この点に関しては安心して遊べると考えていいだろう。
調合のレシピは,各所で手に入る本を読んで学ぶこともあるが,本作では調合レベルが上がったときにトトリが教えてくれる形でも覚えていく。トトリ先生さまさまである。
調合のための素材の採取も,従来作と同じようにフィールドマップから探索マップへと入って拾うだけ。ただし,フィールドマップの移動,採取,調合,そして戦闘は行うたびに日数が経過するので,闇雲な探索は避けたい。採取にいけるマップは,開拓が進んでいくにつれて遠方へと広がっていき,基本的に遠ければ遠いほど良い素材が手に入るのだが,敵は強いし日数がかかるというジレンマがある。
なお,調合に関してはPS3版からの調整はあまりないようだ。一部,DLCで配信されたアクセサリや,回復アイテムの効果が調整されたが,基本的には好評を博したPS3版のものを踏襲した形になっている。
・キャラごとに細かい調整が加えられた「戦闘」
本作の戦闘は,キャラクターの行動によって行動順が変化するコストターン制。調合したアイテムや,キャラクター固有のスキルで戦う点は従来作と変わらないが,通常攻撃がキャラクターによって範囲攻撃になるといったブラッシュアップによってテンポがかなり良くなり,トントン進んでいけるのはPS3版でも好印象だった。
PS Vitaに移植されるにあたっては,各キャラクターの能力やスキルに細かい調整が加えられている。ざっくりまとめると,PS3版で陽のあたりづらかったキャラクターやスキルの効果を上方修正して目立たせ,さらにキャラクターごとの個性をより尖らせて特徴付けた,といったところ。
序盤のプレイではライアスが若干使いづらくなったことと,エスティが頼もしくなった印象はあった。また,アイテムを使用できるキャラクターのウェイトタイムが1.5倍に増えたため,使用するタイミングが重要になったことは体感できた点だ。「こちら」の記事では,各キャラクターの調整点を細かくまとめているので,「おいおい俺のケイナちゃんってば,PS Vita版ではどうなっちゃってんのよ……」とか気になる人は目をとおしておこう。ちなみに,ケイナちゃんはレベル50以降の成長曲線が常識的な範囲に収まったらしい。
また,PS3版ではダウンロードコンテンツ(DLC)として配信された「ルーフェス」「フアナ」「パメラ」の3キャラクターが,物語を進める中でパーティメンバーに加えられるようになること,同じくDLCとして配信されていた追加マップ「マキナ領域」が登場することも覚えておきたい。マキナ領域は物語とは関係ないが,凶悪なモンスターと貴重な素材が待つ場所だ。
ルーフェス |
フアナ |
パメラ |
気の利いた“サービス”の目立つ移植作
「メルルのアトリエ Plus」で加えられた細かい調整は,どれもPS3版のプレイヤーから寄せられたアンケートを元にしているという。結果,本作は好評だったPS3版「メルルのアトリエ」をPS Vitaで遊べるだけでなく,「より快適にプレイできるように」という細かい気配りの目立つ作品になっている。
「トトリのアトリエ」をPS Vitaに移植した「トトリのアトリエ Plus」では,戦闘移行時のロード時間の長さなど気になるところがあったが,本作ではそれも改善されており,PS3版のプレイヤーはもちろん,据え置き機だからと手を出せなかった人にとっても嬉しい作品になった。
最後に若干蛇足となるが,パッケージを販売するというビジネスモデル上,リリースしたら終わりという形になりやすいコンシューマゲームで,本作のように移植に際しての改善点や調整点がこれだけ細かく公開されることは稀だ。なぜならそれは,移植前の作品,今回で言えばPS3版「メルルのアトリエ」が,「メルルのアトリエ Plus」と比べてそれだけ調整点を残している,という事実をさらけ出すことにもなるからである。
最近ではネットワークとつながることで,コンシューマゲームでも発売後のケアが可能になったとはいえ,元々サービスを提供するために組織が作られているオンラインゲームメーカーと違い,製造業を生業としているコンシューマゲームメーカーが発売後のタイトルに定期的なテコ入れをすることは難しい。シングルプレイ専用のRPGでは,なおのことだ。
そんな中,ガストが「メルルのアトリエ Plus」で改善点や調整点を明かし,しっかりとゲームに反映している点は,ひとえに「アトリエ」ファンに対する誠意や実直さの表れと言っていいだろう。
「メルルのアトリエ Plus 〜アーランドの錬金術士3〜」公式サイト
- 関連タイトル:
メルルのアトリエ Plus 〜アーランドの錬金術士3〜
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