プレイレポート
[GDC 2016]PSVRは音像制御技術もすごい。「ソーシャルVRデモ」や没入型ショートムービー「Gary the Gull」「メディアプレイヤー」を体験
4Gamerでも「こちら」の記事で「Until Dawn: Rush of Blood」と「THE PLAYROOM:WANTED」を紹介したが,続けて本稿では「ソーシャルVRデモ」,没入型ショートムービー「Gary the Gull」,「メディアプレイヤー」の体験レポートをお届けしよう。
PS Homeが帰ってくる!? 「ソーシャルVRデモ」を体験
2008年前後,仮想世界を舞台にしたソーシャルネットワーキングサービス(SNS)として2003年に登場した「セカンドライフ」が日本でも一世を風靡した。
このころSCEは,セカンドライフのPS3版とも言うべき「PlayStation Home」(以下,PS Home)という仮想世界SNSをスタートさせたのだが,のちにセカンドライフブームは終わり,それとシンクロするかのようにPS Homeもサービスを終了する。今回,GDCのPSVR体験コーナーで展示されていたのは,このPS Homeに変わる,仮想世界SNSのVR版的な位置付けを目指して開発が進められているものになる。
プレイヤーが扮するのは,PS Homeよりはだいぶ簡略化されたた低ポリゴンのアバターだ。プレイヤーは2本のPS MOVEコントローラを手に持ち,これをアバターの腕(手)に見立てて,仮想世界内でさまざまなアクションを行うことになる。
PS MOVEのトリガーやボタンを押すことでモノを掴んだり,手を握り拳にしたり,あるいはサムアップ(親指上げ)のジェスチャーをしたりでき,その手の状態と腕のアクションで簡単な感情表現もできる。例えばサムアップ状態で手を突き出せば「ハッピー」,握り拳を突き出せば「怒り」というような具合だ。
視点操作は当然,頭に被ったPSVRのHMDの向きで行えるのだが,PSVRは基本的には椅子に腰掛けた状態で楽しむことを想定しているので,歩行はもちろん,身体の回転を高頻度に強要できない。そこで,アバターの回転(旋回運動)や歩行はPS MOVEのボタンで行える。横移動(カニ歩き)の操作法はちょっと変わっていて2本のPS MOVEを横方向に向けて歩行ボタンを押す。プレイヤーのこの時の姿勢が,完全に「ダンディ坂野」状態になるので笑えてしまう。
体験会場では最大4人のアバター達が同じ仮想世界に参加出来るようになっていて,ペイントボール投げ,卓球,ディスコ,サッカー,合奏,トランポリンなど,さまざまなミニゲームを,ほかのプレイヤーのアバターと一緒になって楽しめた。
当然「こっちこいよ」「これ遊ぼうぜ」という会話が必要になるのだが,HMDを被っていてはキーボード叩いての文字チャットというわけにもいかない。そこで使用することになるのが,PSVRのHMD内蔵のマイクになる。口元にマイク先が伸びているインカムマイクスタイルではなく,完全なインビジブル仕様のマイクなのだが,意外に感度は良くて,参加者同士の会話には支障がないレベルだった。
それと,自然すぎて意外にすごいと思われないのが,PSVRの音像制御技術だ。
PSVRでは,PS4とPSVRの中間に接続することになるインタフェースボックスに相当するPU(プロセッシングユニット)には,上下左右の全天全周音像定位技術(リアルタイム・バイノーラル・サウンド生成技術)が搭載されており,これによって,ほかのプレイヤーの話し声がその居場所からかなり正確に聞こえてくるのだ。なので,視界外から「こっちこいよ」という声が掛かると,声の鳴った方向を自然に向けることができる。これがあまりにも自然なのでヘッドフォンで音を聞いていることすら忘れるほどだ。
画面写真を見る限り,アバター共々,仮想世界も低ポリゴンな3Dモデルで構成されていて,さらにレンダリングもフラットシェーディングかグローシェーディングのような感じで,妙にレトロでとても先進的な体験ができるように思えないかもしれないが,ビジュアルの情報量が整理されている分,仮想世界での体験自体は分かりやすく,万人受けしそうだと感じた。リアル過ぎないからこそ,仮想世界内での体験が非リアルであっても違和感がないし,むしろその非リアル感こそが魅力……というような雰囲気作りをしていて,PS Homeとのコンセプトの差別化を図っているようにも思えた。
開発は,SCEAのOTG(オンライン・テクノロジー・グループ)が担当し,制作を開始したのはわずか6か月前とのことだそう。ブースにいた担当者は「あくまで現在は実験的なプロジェクトとして開発を進めているので,このままリリースされるということはない」そうだ。SCE Japan Studioの話ではあるが,このような実験プロジェクトが製品化された事例には,「THE PLAYROOM」や「THE PLAYROOM VR」があったりするので,一般プレイヤーが楽しめるようになる日が来ないとは言いきれない。そう言えば,2014年にFacebookがOculusを買収したのもSNSのVR化を狙ってのものだと言われているわけで,今後,さまざまなVR SNSが出てくるのかもしれない。今から楽しみだ。
元Bungieと元ピクサーのスタッフがコラボして制作した没入型ショートムービー「Gary the Gull」
現在,SCEがPSVRイチオシとして訴求しているのは,さまざまなVRゲームコンテンツということになるが,実は,もう一つ,勝ち負けも競争もない,ゆる〜く仮想世界に没入して楽しめる「カジュアルVR」を提供していこうという動きも見られる。
その代表格は後述する「360°カメラで撮影された動画や静止画を楽しむ」というものになるだろうが,もうひとつ,「物語として楽しめるVR映像作品」にも期待が寄せられている。
その最新事例として開発が進められ,今回α版の形で公開されたのが「Gary the Gull」(カモメのゲイリー)である。
「Gary the Gull」は,映像のタッチとしてはピクサー的なCGで,プレイヤーは,この世界に没入してカモメのゲイリーとの会話を楽しむことになる。
展開はこんな感じだ。
南国のビーチでのんびり過ごしていた被験者。しかし,突如,目の前に舞い降りた人語を理解するカモメのゲイリーに話しかけられる。実はゲイリーのお目当てはクーラーボックスに入っている食べ物。ゲイリーは「あ,あっちに凄いものが」と指さししたりして,被験者の注意をそらして食べ物を盗もうとする。ミエミエのゲイリーの罠にハマってやるか,ゲイリーの盗人行為を邪魔するかはあなた次第……というような内容。そのうち,このビーチをナワバリにしている人語を話すカニまでが現れて,ゲイリーと口ケンカをしだして……。
ワーナーブラザーズのカートゥーン「ルーニーチューンズ」シリーズにありそうな古典ドタバタを,彼らの世界に入って楽しめるというようなコンテンツというわけだ。
なお,本来ゲイリーの問いかけには音声で答えられるのだが,会場は騒音がすごいため,展示版は首振りジェスチャーの「YES/NO」だけでゲイリーの質問に受け応えていく仕様になっていた。また,この作品はゲームではなく短編映画なので,勝ち負けはなく,プレイヤーの受け答えで物語の進行は分岐していくがエンディングはひとつだけとなっているそうだ。
PSVRの装着は健康面安全面への配慮から12歳以上奨励となっているのが残念だが,こうした作品は幼児に見せてあげたい気もする。
さて,この作品,実は開発スタッフ陣がなかなか凄い。技術面は元Bungieスタッフが興したVR開発スタジオLimitlessが担当し,ビジュアル,ストーリー面は元ピクサースタッフが興したVR開発スタジオMotionalが担当しているのだ。完成が待ち遠しい作品だ。
意外にすごい。PSVRのメディアプレイヤー
インタラクティビティは最低限で,気楽かつ短時間の没入体験を楽しむのにちょうどいいのが360°カメラで撮影された動画,静止画のコンテンツだ。こうしたコンテンツをVRと呼ぶことに反対する声もあるようだが,動画や写真の新しい楽しみ方としては有望視されていることは間違いなく,いわゆる「カジュアルVR」コンテンツの筆頭になるとも予想されている。
PSVRでも,高度なVRゲームコンテンツだけでなく,こうしたカジュアルVRコンテンツに向けた対応を進めていることが今回のPSVR発表会ではアピールされた。それが「メディアプレイヤー」である。
実際に体験してみたが,デモ映像と言うこともあって,RICOH THETAシリーズなどで撮影できるものよりも数段は高解像度の360°映像が楽しめるようになっていた。体験できたのは,自然風景や世界遺産的な情景の高解像度全天全周写真を数点,雪山でのスキー動画,著名バイオリニストとピアニストの協奏曲鑑賞など。
いずれも小型アクションカムのようなものを,全天全周撮影できるブラケットにはめ込んで,高解像度撮影された映像をつなぎ合わせて(スティッチして)生成したものだそうで,ソニー製の未発表全天全周撮影カメラの映像とかではないそうだ。
ただ,SCEのPSVRがこうしたコンテンツに対応してきた以上,ソニーブランドの360°カメラが発売される可能性もあるのではないかと思う。
このメディアプレイヤー体験でとくに感動的だったのは,著名バイオリニストとピアニストの協奏曲鑑賞デモだ。VR SNSデモのところでも触れたが,映像だけでなく360°サウンドが素晴らしいのだ。正面にバイオリニスト,左にピアニストがいるわけだが,頭部の向きを左に変えれば,ピアノ奏者が正面に見えるようになるだけでなく,視界から消えたバイオリン奏者の奏でるバイオリン音が正確な方位感と距離感を維持して鳴り続けるので,視界から消えてもバイオリンの存在感はあり続けるのだ。このデモの影の主役はサウンドであり,「PSVRのリアルタイム・バイノーラル・サウンド生成技術,恐るべし」と言ったところを思い知るだろう。
正面にはバイオリニスト |
左にはピアニスト |
奏者達が視界外に追いやられてもちゃんとその音像は視界外の奏者の位置を的確に伝え続けてくれる |
このメディアプレイヤーの対応フォーマットについての説明は今回なかったが,パノラマ状態に引き伸ばしたH.264動画,JPG写真など,現在PCやスマホで利用されているフォーマットのファイルは再生できると思われる。
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PlayStation VR本体
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