レビュー
独自路線を開拓するシリーズの2作目はどう仕上がったか
新・世界樹の迷宮2
ファフニールの騎士
「世界樹の迷宮」といえば,もはや国内の3DダンジョンRPGフリークならば知らぬものはいないであろう,大人気タイトル。そして本作は,2013年6月に発売された「新・世界樹の迷宮 ミレニアムの少女」に続く“新たなシリーズ展開”の2作目にあたる作品だ。前作に引き続き,個性豊かなキャラクター達の織り成す「ストーリーモード」の存在が見どころとなっている。
とはいえ,基本システムについては「世界樹の迷宮」シリーズから一貫して変わりないので,本稿では新要素を中心にレビューしていこう。
……と,その前に「世界樹の迷宮」と「新・世界樹の迷宮」シリーズの違いについて,もう少し詳しく説明しておこう。「世界樹の迷宮」には,プレイヤーがキャラメイクしてパーティを作る「Wizardry」や,ゲームマスターがプレイヤーをサポートするテーブルトークRPGの流れを汲む要素が取り入れられている。これによって生まれた,ストーリー主導ではない,プレイヤーの“妄想”がゲームの世界を広げるという硬派なスタイルが人気を博したシリーズだ。それだけに,「新・世界樹の迷宮」は,掟破りとも言える「ストーリーモード」をはじめとしたさまざまな変更点が,ファンの間で賛否両論を巻き起こした。
だが,実際には「クラシックモード」の搭載や,豊富なオプション設定によって,こだわり派のオールドファンでも違和感なく楽しめる作りになっており,シナリオ面の強化が功を奏して新たなファン層の開拓にも成功している。
そのあたりについては前作のレビューで筆者が詳しく語っているので,いまなお「ぶっちゃけどうなの?」と悩んでいる人にはぜひ本稿と合わせて読んでほしい。
異形の力を身に宿したファフニールの騎士
新ダンジョン・ギンヌンガ遺跡の儀式に向かう
本作の物語は,世界の謎や伝承を調査する「ミズガルズ図書館」の若き調査隊員である主人公が,カレドニア公国の公女「アリアンナ」の護衛任務に就くため,親友「フラヴィオ」と共にハイ・ラガード公国へと旅立つところから始まる。
アリアンナの目的は,ギンヌンガという遺跡で100年に一度の儀式を執り行うこと。3人はそこへ向かう道中で,ドクトルマグスの「クロエ」,パラディンの「ベルトラン」と出会い,魔物の襲撃をきっかけに行動を共にしていくのだが……主人公はそこで,自身が異形のモノへと変身してしまうという思わぬ事態に巻き込まれる。
前作でも,ストーリーモードの主人公は「ハイランダー」という“オンリーワン”な職業についていたが,本作の主人公はさらに特異な「ファフニール」と呼ばれる存在となっている。なぜ,どのようにして,主人公は異能を身に宿したのか? その謎を軸に,物語が展開していく。
このように,「世界樹の迷宮」シリーズがあえてプレイヤーにシナリオを押し付けず,“冒険者”の物語を想像させるという“古き良き”スタイルだったのに対して,「新・世界樹の迷宮」シリーズは,練り込まれた物語と唯一無二の役割を担う“主人公”を明確に用意している。これが“新”たる所以(ゆえん)だ。
一方で,本作にも,「世界樹の迷宮」に近いプレイフィールの「クラシックモード」が用意されている。今回は2008年に発売された「世界樹の迷宮II 諸王の聖杯」をベースに,ゲーム性をバージョンアップ。こちらのモードでも「鋼の棘魚亭」の依頼からギンヌンガ遺跡に挑めるほか,新システム・新施設まで利用可能だ。さらに,アリアンナの職業である「プリンセス」「プリンス」も最初から選択可能となっているほか,「世界樹の迷宮」「世界樹の迷宮II 諸王の聖杯」「世界樹の迷宮III 星海の来訪者」のキャラクターイラストが無料DLCとして配信されるので,思うままキャラメイクをして“自分だけの冒険”を楽しむことができるだろう。
進化・改善されたシステムの数々
グリモア生成の楽しみも大きく向上
本作には「ピクニック」「スタンダード」「エキスパート」という3種類の難度が用意されている。シリーズお馴染みの要素だが,あらためて説明すると,順に「イージー」「ノーマル」「ハード」という位置づけだ。
同ジャンルのゲームに慣れている人であればスタンダード,シリーズのヘビープレイヤーを自負するのであればエキスパート,あまりRPGが得意でないならばピクニックを選ぶといいだろう。
ただし,本作に関しては選択した難度によるゲーム性の変化が,これまでより大きくなっていることに注意。とくにピクニックに関しては,文字通りダンジョンをピクニック感覚で渡り歩けてしまうくらい簡単で,全滅してもその場で再開でき,一部のアイテムは使用しても減らず,みんなのトラウマ,ダンジョンを彷徨う凶悪モンスター「F.O.E」やボスも,ほかの難度に比べれば倒しやすくなっている。ゲームに歯ごたえを求めるのであればスタンダード以上でプレイすることをオススメしたいが,ピクニックはピクニックで特別な爽快感が味わえるので,硬派なプレイヤーも一度試してみるといいだろう。
ちなみに,難度はダンジョン探索中でなければ,いつでもオプションから変更が可能なので,シリーズ初体験のプレイヤーも開始時にあまり悩まず,ゲームを進めながら自分に合った難度を模索していくといいだろう。
そのほかにも,オプションではメッセージや戦闘の速度など,さまざまな項目を設定できる。最適な環境を目指していろいろと試してみよう。
ストーリーモードにおけるパーティの初期構成は「ファフニール」「プリンセス」「パラディン」「レンジャー」「ドクトルマグス」となっており,当然だがこのままでもバランスは非常に良好だ。
特筆すべきはやはり新職業,ファフニールの存在。通常時は少々防御面に難のある前衛攻撃職……といったイメージなのだが,戦闘中に変身すると能力が大幅に強化され,特殊な専用攻撃スキルも使用可能になるなど,まさしく“主人公”と呼ぶにふさわしい,強烈な個性と性能を誇るキャラクターになる。
変身すると戦闘BGMが切り替わるという演出もニクい。古代祐三氏によるヒロイックなサウンドは,シリーズ中でも屈指の名曲と断言できる出来栄えなので,必聴である。
なお,本作ではゲージを溜めて特殊なスキルを発動する「フォースシステム」が,「フォースブースト」へと進化した。これは各職業に特有のスキルで,発動すると自身を3ターンの間だけ強化できるというもの。ファフニールの場合は,変身能力がこれにあたるわけだ。
また,フォースブーストを発動している間だけ選択可能となる強力なスキルに「フォースブレイク」がある。これはフォースゲージそのものを犠牲にして使用するもので,ブーストと同じく職業ごとに味方全体の回復や完全防御など,さまざまな効果があり,どれも劣勢を一気に覆してしまうほどの力を秘めている。
ただし,フォースゲージを犠牲にするため,当然ながらそれ以降フォースブーストが使えなくなる。一度フォースブレイクを使ってしまうと,フォースゲージは街に帰還するまで回復しないので,使いどころはしっかり見極めるべきだ。
前作同様,キャラクターの育成に関しては「新・世界樹の迷宮」からの特徴として,プレイヤーがポイントを振り分けるマスタリー系のスキルレベルに応じて,派生スキルを自動習得できるようになっている。低レベルのうちから育成の幅が広くなっており,レベルを2下げる代わりにスキルポイントを振り直せる「休養」や,グラフィックスとステータスをそのままに職業を変更する「転職」なども健在。転職に関しては今作から5レベルダウンで行えるようになったため,より利用しやすくなった。
そして,「新・世界樹の迷宮」で忘れてはいけないのが「グリモア」の存在。さまざまなスキルが内包されたグリモアを装備することで,マスタリー系スキルのレベルをブーストしたり,本来その職業では扱えないスキルや武器・防具まで使用可能になるという自由度の高いシステムだ。
グリモアについては,前作では少々煩雑だったシステムがブラッシュアップされ,バランス面でもさまざまな改善や工夫が施されている。さらに,ほかの冒険者が持っているグリモアと自分のグリモアを交換できる「トレード」や,相手がいない場合でも,不要なグリモアを別のグリモアと交換できる(ただし効果の指定はできない)「リサイクル」といった便利な機能も追加された。
体感的にグリモアが生成される確率は前作よりも高くなっており,運が良ければ一度の戦闘で大量に入手できる。ハック&スラッシュの面白さとやり込み要素は,前作よりもさらに向上している印象だ。
料理店の経営と,投資による都市開発
ハイ・ラガードの発展を担うのはキミだ
「新・世界樹の迷宮」では,街に主人公達の拠点となる「ギルドハウス」が用意されている。今回,その役割を担う施設は「公国直営料理店」だ。
ここではアイテム倉庫が使えるほか,グリモアの管理・脱着といったことができるが,本作では新システムとして「料理」が追加された。ゲーム中,伝説の美食家であり料理人であったというアピキウスの残したレシピと,さまざまな食材によって新たな料理を開発していくことができる。
料理の流れはシンプルで,入手したレシピの記述を参考に食材を選択し,組み合わせが正しければ開発成功。すべての料理には前作で登場した「お茶」と同じようなバフ効果があるので,ダンジョン探索の大きな助けとなるだろう。ただし,料理を食べるには,その都度レシピに記載された食材を消費する必要がある。食材はモンスターから入手できるものと,ダンジョン内で採取できるものの2種類あるので,よく利用する料理の食材は切らさないように注意しよう。
また,公国直営料理店で開発した料理を街で販売することもできる。ハイ・ラガードの各地区における住人の好みや人口から最適と思われる料理を選択し,「宣伝計画」を実行して,成功すれば莫大な利益を得られるのだ。
さらに,本作ではそうやって得た資金を元手に「都市開発」を行うことで,街の各地区が発展していく。地区が発展すれば顧客が増加して利益向上につながったり,グリモアトレードを行える冒険者が増加したりと,さまざまな恩恵があるのだ。
なお,地区によって発展で得られるメリットは微妙に違う。自分のプレイスタイルに合わせて,“投資”する対象を選ぶといいだろう。
前作の反省点を活かし,あらゆる面で確実に進化
3DダンジョンRPGの“新”たな可能性を提示した秀作
総評として,本作は前作のプレイヤーから寄せられた意見をしっかり検討した結果なのか,全体的なバランスが高いレベルでまとまっている。中でも,グリモアシステムに関しては前作で問題点として挙げられていた「バランス崩壊」につながる要素も改善されており,ようやく“あるべき形”として完成されたという印象だ。
加えて,本作では「公国直営料理店」を導入したことで「都市開発シム」的な楽しみ方もできるようになった。人によってはWizライクゲームとしてのストイックさが薄まったと感じるかもしれないが,ダンジョン探索以外の面においてもプレイヤーを楽しませようとする工夫を盛り込んでいく姿勢は個人的に好印象だ。シリーズ2作目にして,“新”の目指す方向性がハッキリと見えてきた。
単純な3DダンジョンRPGで終わろうとせず,独自の路線を開拓していく「新・世界樹の迷宮」シリーズ。いよいよもって,本家「世界樹の迷宮」とはまた違った魅力,シリーズとしての味が感じられるようになってきた。
アトラスは先日,「世界樹と不思議のダンジョン」を2015年3月5日に発売することと,「世界樹の迷宮V」の開発を発表したが,まさに“世界樹”のごとく巨大なコンテンツへと成長しようとしている本シリーズから,今後も目を離さずにおきたいところだ。
「新・世界樹の迷宮2 ファフニールの騎士」公式サイト
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新・世界樹の迷宮2 ファフニールの騎士
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