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【Jerry Chu】消えていく言語,心に刺さる「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」
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印刷2016/04/02 12:00

連載

【Jerry Chu】消えていく言語,心に刺さる「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」

Jerry Chu /  香港出身,現在は日本の大学院で勉強中

画像集 No.001のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】消えていく言語,心に刺さる「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」

Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」

Twitter:@akemi_cyan


消えていく言語,心に刺さる「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」


 世界初のクローン羊が誕生し,議論を巻き起こしている最中に,クローン兵士の戦いを描く「METAL GEAR SOLID」が発売された。インターネットの発展期には,「METAL GEAR SOLID 2 SONS OF LIBERTY」がネット監視社会の到来を警告した。対テロ戦争が泥沼化する一方,「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」は戦争経済を指摘した。
 「METAL GEAR SOLID」シリーズは現実に呼応して,当時の社会問題を取り上げてきており,最新作である「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」PC / PlayStation 4 / PlayStation 3 / Xbox One / Xbox 360 以下,MGSV)もその例外ではない。

画像集 No.002のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】消えていく言語,心に刺さる「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」
 MGSVは「RACE(人種)」をテーマとし,大国の覇権に虐げられ,少数言語が消えゆく様を描いている。香港人として,自分の言語が徐々に消えていくのを目の当たりにしてきた筆者にとって,MGSVは心に刺さる作品だった。
 その理由を解説するために,まずはMGSVのストーリーを説明したい。なお,本稿ではMGSVにおけるネタバレ要素に言及しているため,未プレイの人は注意してほしい。


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 主人公・スネークの傭兵部隊は,夜襲に遭って全滅した。傷を癒したスネークは仇敵を追うべく,アフガニスタンとアフリカの戦地に潜入し,新たな傭兵部隊を育て上げるというのが,MGSVのあらすじだ。数々の任務をこなし,着々と勢力を増してきた傭兵部隊。だが,異変が起きた。伝染病の発生である。

 発症者の肺を膨れ上がらせ,やがて死に至らしめる奇病。正体は不明。治癒は不可能。得体の知れない伝染病に襲われたスネーク達だが,ついに伝染病の正体を突き止める。
 それは「声帯虫」と呼ばれる生体兵器だった。宿主が特定の言語を話すと,声帯虫は声帯の振動に反応して,宿主の命を奪う。つまり,「特定の言語を絶やすための生体兵器」である。

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 ここで,筆者の生まれ故郷・香港の話をしたい。
 ご存じのとおり,香港はもともとイギリスの植民地であったが,香港人は広東語(粤語とも言う)を話し,従来の漢字に基づいた「正体字」を使ってきた。一方,香港の北に位置する中国大陸では北方話が標準中国語(普通話とも言う)に定められ,従来の漢字を簡略化した「簡体字」が1950年代頃に普及し始めた。その結果,香港では「広東語/正体字」,中国では「北方話/簡体字」が使われてきた。

 1997年に香港の主権が中国へと移譲された。互いに言語政策においては干渉せず,異なる言語を使ってきたが,最近になって,この構図に変化が生じている。
 現在,香港には1日平均10万人以上の中国人観光客が訪れ,ミルクパウダーをはじめとした日常品を買い求めている。存在感を増す中国人を目当てに,ビジネスは運営方針を変えていく。2012年に香港で開業したカフェ「Agnes b Cafe」は,英語と簡体字だけの品書きを掲げたことで物議を醸した。中国人観光客向けの商店が街を埋め尽くし,その代わりに映画館や食事処などが姿を消していった。

 中国から香港へと移住する者も少なくない。数を増しつつある中国人は,香港の言語にも影響を与えている。2016年2月,テレビ局「無綫電視」は「普通話音声/簡体字字幕」のニュースを放送し始めた。また,小・中学校に対して,香港政府は「普通話教中文(広東語の代わりに普通話で中国語を教える)」なる政策を実施しようとしている。大半の親は「普通話を学んだほうが,将来の就職が有利になる」として異論を唱えていない。
 香港の地下鉄に乗ると,現地の生まれなのに普通話で話す学生の姿がよく見られる。母語を耳にする機会がなくなり,見慣れた文字が消えていく。故郷なのに,まるで異郷にいるような感覚に襲われた。

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 MGSVのゲーム内でも言及されているが,世界には約7100種類の言語があるが,国連の公用語として認められているのは6つしかない。また,9割の言語は100年のうちに消滅するとした学者がいる
 もちろん声帯虫はフィクションではあるが,多数の少数言語が消えようとしているのは,紛れもない現実だ。MGSVは単なる架空の物語ではなく,こうした現実を非常に反映していると言える。

 伝染病に襲われたスネークの傭兵部隊に,代々受け継がれてきた言語が消えていく故郷の姿が重ね合わさり,身が縮み上がる思いだった。社会問題を取り上げたゲームは珍しくないが,ここまで生々しい現実を直面させられ,心を震わせたゲームはMGSVしかない。

※この記事は「熱血時報 Passion Times」に寄稿されたものを原著者によって翻訳・加筆・修正したものです。

■■Jerry Chu■■
香港の引きこもりゲーマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。現在はゲームプログラマーを目指して勉強中。
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