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【Jerry Chu】消えていく言語,心に刺さる「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」
Jerry Chu / 香港出身,現在は日本の大学院で勉強中
Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」Twitter:@akemi_cyan |
消えていく言語,心に刺さる「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」
世界初のクローン羊が誕生し,議論を巻き起こしている最中に,クローン兵士の戦いを描く「METAL GEAR SOLID」が発売された。インターネットの発展期には,「METAL GEAR SOLID 2 SONS OF LIBERTY」がネット監視社会の到来を警告した。対テロ戦争が泥沼化する一方,「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」は戦争経済を指摘した。
「METAL GEAR SOLID」シリーズは現実に呼応して,当時の社会問題を取り上げてきており,最新作である「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」(PC / PlayStation 4 / PlayStation 3 / Xbox One / Xbox 360 以下,MGSV)もその例外ではない。
その理由を解説するために,まずはMGSVのストーリーを説明したい。なお,本稿ではMGSVにおけるネタバレ要素に言及しているため,未プレイの人は注意してほしい。
主人公・スネークの傭兵部隊は,夜襲に遭って全滅した。傷を癒したスネークは仇敵を追うべく,アフガニスタンとアフリカの戦地に潜入し,新たな傭兵部隊を育て上げるというのが,MGSVのあらすじだ。数々の任務をこなし,着々と勢力を増してきた傭兵部隊。だが,異変が起きた。伝染病の発生である。
発症者の肺を膨れ上がらせ,やがて死に至らしめる奇病。正体は不明。治癒は不可能。得体の知れない伝染病に襲われたスネーク達だが,ついに伝染病の正体を突き止める。
それは「声帯虫」と呼ばれる生体兵器だった。宿主が特定の言語を話すと,声帯虫は声帯の振動に反応して,宿主の命を奪う。つまり,「特定の言語を絶やすための生体兵器」である。
ここで,筆者の生まれ故郷・香港の話をしたい。
ご存じのとおり,香港はもともとイギリスの植民地であったが,香港人は広東語(粤語とも言う)を話し,従来の漢字に基づいた「正体字」を使ってきた。一方,香港の北に位置する中国大陸では北方話が標準中国語(普通話とも言う)に定められ,従来の漢字を簡略化した「簡体字」が1950年代頃に普及し始めた。その結果,香港では「広東語/正体字」,中国では「北方話/簡体字」が使われてきた。
1997年に香港の主権が中国へと移譲された。互いに言語政策においては干渉せず,異なる言語を使ってきたが,最近になって,この構図に変化が生じている。
現在,香港には1日平均10万人以上の中国人観光客が訪れ,ミルクパウダーをはじめとした日常品を買い求めている。存在感を増す中国人を目当てに,ビジネスは運営方針を変えていく。2012年に香港で開業したカフェ「Agnes b Cafe」は,英語と簡体字だけの品書きを掲げたことで物議を醸した。中国人観光客向けの商店が街を埋め尽くし,その代わりに映画館や食事処などが姿を消していった。
中国から香港へと移住する者も少なくない。数を増しつつある中国人は,香港の言語にも影響を与えている。2016年2月,テレビ局「無綫電視」は「普通話音声/簡体字字幕」のニュースを放送し始めた。また,小・中学校に対して,香港政府は「普通話教中文(広東語の代わりに普通話で中国語を教える)」なる政策を実施しようとしている。大半の親は「普通話を学んだほうが,将来の就職が有利になる」として異論を唱えていない。
香港の地下鉄に乗ると,現地の生まれなのに普通話で話す学生の姿がよく見られる。母語を耳にする機会がなくなり,見慣れた文字が消えていく。故郷なのに,まるで異郷にいるような感覚に襲われた。
MGSVのゲーム内でも言及されているが,世界には約7100種類の言語があるが,国連の公用語として認められているのは6つしかない。また,9割の言語は100年のうちに消滅するとした学者がいる。
もちろん声帯虫はフィクションではあるが,多数の少数言語が消えようとしているのは,紛れもない現実だ。MGSVは単なる架空の物語ではなく,こうした現実を非常に反映していると言える。
伝染病に襲われたスネークの傭兵部隊に,代々受け継がれてきた言語が消えていく故郷の姿が重ね合わさり,身が縮み上がる思いだった。社会問題を取り上げたゲームは珍しくないが,ここまで生々しい現実を直面させられ,心を震わせたゲームはMGSVしかない。
※この記事は「熱血時報 Passion Times」に寄稿されたものを原著者によって翻訳・加筆・修正したものです。
■■Jerry Chu■■ 香港の引きこもりゲーマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。現在はゲームプログラマーを目指して勉強中。 |
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