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[GDC 2015]新世代レンダリングエンジン「Mizuchi」や採用広がるミドルウェア「YEBIS 3」をアピールしたシリコンスタジオ
GDC 2014までは,会場のどこにブースがあるのか分かりにくいという問題があったのだが,GDC 2015ではブース直上に「Silicon Studio」ロゴを置いて,遠目からでもブースがどこにあるのかがすぐ分かるくらい目立たせていた。ブースの広さもGDC 2014の1.5倍に拡張されているとのこと。ブースが広くなったことで,製品展示が充実しただけでなく,来場者に向けたセミナーもブース内で行われていたほどだ。日本の独立系ソフトウェア企業としては,おそらくGDC 2015ではほぼ最大規模のブース展開になっていたのではないかと思う。
例年以上に力の入ったシリコンスタジオブースの目玉展示をレポートしたい。
世界でも希有な光学的に正しい
ポストエフェクトミドルウェア「YEBIS 3」
ポストエフェクトとは,レンダリング結果に対して後から化粧を施すこと。レンダリング結果に対して,アルゴリズムでレタッチを施すようなイメージと理解すれば分かりやすいだろう。
ゲームグラフィックスは,三次元の空間上に配置したオブジェクトを視点から撮影するような感じで描画しているわけだが,現実世界で起きているさまざまな光学的現象を,すべてシミュレートして描画を行うわけではない。たとえば,光が空気中を進めば拡散するし,カメラで何か撮影していれば,カメラの撮影機能に依存した光学的な効果が付加される。これをまじめにレンダリングだけで再現しようとすると,レイトレーシングやパストレーシングといった手法を利用する必要があるわけだが,ゲームのようなリアルタイム性重視のグラフィックスではそうもいかない。
そこで,シリコンスタジオが長年かけて培ってきた“光学的に正確なシミュレーションに基づくポストエフェクト技術”を既存のゲームエンジンやグラフィックスエンジンでも使いやすい形で組み込めるようにまとめたものが,YEBISというミドルウエアで,「YEBIS 3」はその最新版である。
YEBISでは,ゲームグラフィックス表現では必需品ともいえるポストエフェクト機能を一通りさまざまな実装法で取り揃えており,ターゲットとするプラットフォームのGPU性能に合わせて適用できる。PlayStation 4(以下,PS4)やXbox Oneといった最新世代の据え置き型ゲーム機から,iOSやAndroidといったモバイル端末までと,対応プラットフォームが幅広いのも特徴だ。
さて,ポストエフェクトはレンダリング結果に加える後化粧ではあるのだが,適当に化粧するだけでは,むしろおかしな映像になってしまうことが多い。そこでYEBISでは,さまざまなポストエフェクトを光学的,あるいは物理的に正しくなるようにシミュレーションしているのが特徴となっている。
最新版のYEBIS 3では,光学系シミュレーションをともなうポストエフェクトの種類や品質,精度を高めており,リアルタイムでありながら,ほぼ映画向けCG並みの品質を実現できるようになった。
近年のゲームグラフィックスは物理ベースレンダリングが主流になってきており,従来以上にフォトリアル志向が強まっている。これにともなって,ポストエフェクトも光学的に正確なものが求められてきており,これに応えるのがYEBIS 3であると,シリコンスタジオではアピールしているわけだ。
もともと国内では高い実績を誇っていたYEBISだが,最近では海外のゲームスタジオにも採用事例が広がっているとのことだ。
次世代レンダリングエンジン「Mizuchi」は今夏にリリース
PS4やXbox One世代では,前世代のPlayStation 3,Xbox 360と比較して,GPU性能が格段に高まったため,ゲームグラフィックスも次のステップへの移行が始まっている。
その1つが,材質表現においてエネルギー保存の法則を遵守する「物理ベースレンダリング」の採用だ。また,点光源や平行光源といった古典的な光源によるライティング以外に,現実世界ではむしろありふれた存在である「面積や体積を持った光源」によるライティングのサポートや,時間方向のアンチエイリアス処理といった従来では実現困難だった技術も,最近ではよく聞くテーマとなってきている。
さて,そのMizuchiでは,上記で挙げたようなPS4&Xbox One世代では当たり前の要素となるグラフィックス要件をすべて実装しており,既存のレンダリングエンジンと置き換えるだけで,ゲームスタジオ自前のゲームエンジンへ組み込めるという。しかも,ポストプロセスエンジンであるYEBIS 3の基本機能まで統合されているというのだから凄い。
下に掲載したMizuchiの技術デモムービーで,その実力を確認してほしい。
Mizuchiに関する新情報としては,Mizuchi専用のツールが存在することが明らかにされた。
冒頭に掲載した展示物をまとめたムービーでも確認できるが,このツールを使うことで,金属や革,プラスチックなどの質感を割り当てたり,それらのパラメータを調整して新しい質感の素材を作りだすことができる。複数の材質が多層構造になっているものや,光沢ボディの一部が傷ついてサビた部分が露出しているような「下の層が部分的に上の層に顔を出す」ような構造もデザインできるという。
シリコンスタジオのスタッフによれば「使い勝手はAdobe Photoshop風」とのことで,CGアーティストが使いやすいUIになっているそうだ。
今回展示されていた最新版のビルドでは,透明や半透明材質の扱いが,CEDEC 2014で見たものよりも劇的に進化していた。素材による光の屈折に配慮しているのはもちろんのこと,透明材質の透過率を正しく反映した「半透明表現」に対応しているとのことである。Mizuchiを使えば,ごく薄いガラスでできた3Dオブジェクトの表現もかなりリアルに実現できるだろう。
「Unity」の対抗馬?〜C#ゲームエンジン「Paradox」
なお,Paradoxのいうオールインワンとは,ゲーム開発に必要なグラフィックスやサウンド,入力にアニメーション,物理演算やUI,文字フォントなど,「すべての要素がそろっているゲームエンジン」という意味である。
シリコンスタジオは以前から,Paradoxとは別に,オールインワンタイプのゲームエンジン「OROCHI 3」を販売中だ。そうなると同じような製品で社内競合しているのではないかと思うかもしれないが,もちろん住み分けはなされている。
OROCHI 3は,どちらかといえば大規模なチームで行う大作ゲーム開発をターゲットにしているのに対して,Paradoxは,小規模な開発チームで効率よく開発することを主眼としたゲームエンジンだ。シンプルなモバイルゲームやインディーズゲーム開発に適したゲームエンジンといえるかもしれない。
先述したとおり,Paradoxはプログラミング言語として「C#」を採用している。C#を採用するゲームエンジンといえば,インディーズゲーム向けゲームエンジンでは代名詞的存在といってもいい「Unity」や,現在では終了してしまったがMicrosoftの「XNA Framework」に対応した「XNA Game Studio」を連想する人もいるだろう(関連記事)。実際,Paradoxはこれらのエンジンと競合する製品であるわけだが,YEBIS 3やMizuchiをはじめとしたシリコンスタジオのミドルウェア開発経験や,各種ミドルウェアの機能などを継承したサブシステムで構成されている点が,競合に対する優位点であるとのことだ。
最近では,無償で利用可能なオープンソース版がソフトウェア開発用のプロジェクト共有サービス「GitHub」で公開されており(関連リンク),インディーズゲーム開発コミュニティと協力して,Paradoxを進化,発展させていこうとする動きも始まった。
近い将来には,シーンエディタやアニメーションエディタなどのツール環境の整備を強化していくほか,ゲームサーバー設置に対応したネットワーク機能の強化も行われる見込みとなっている。
サポートが終了してしまったXNA Game Studioはともかく,機能的には直接競合する
シリコンスタジオ 公式Webサイト
GDC公式Webサイト
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Mizuchi
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