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Windows MRがいよいよ離陸。MicrosoftがWindows 10の大型アップデート「Fall Creators Update」の概要を説明
本稿では,説明会で解説されたFall Creators Updateの概要と,このアップデートで利用できるようになる「Windows Mixed Reality」(以下,Windows MR)の話題をレポートしよう。
手軽さを武器に普及を狙うWindows MR対応VR HMD
冒頭でも触れたとおり,Fall Creators Updateの配信は,全ユーザーに対して一斉に行うのではなく,時間差をつけて順次行う方式で行われている。データ量が多いこともあり,月例のセキュリティパッチと比べて,更新に要する時間は段違いに長い。
すぐにでも更新したいというユーザーは,「Windows 10 Update Assistant」(Windows 10 更新アシスタント)というMicrosoft提供のソフトウェアを使うか,あるいはISOファイルで公開中のインストールイメージを自分でインストールすることで,任意のタイミングでの導入を行える仕組みだ。
さて,そんなFall Creators Updateにおける重点項目は,「基本機能の向上」「3D」「フォト」「Microsoft Edge」,そしてWindows MRの5つだ。まずは,ゲーマーにも気になるWindows MRを中心に紹介していこう。
Microsoftの言う「Mixed Realty」(MR,複合現実)の定義はかなり幅広く,現実世界にデジタルな情報を重ね合わせる「Augumented Reality」(AR,拡張現実)から,デジタルな情報だけで構成する「Virtual Reality」(VR,仮想現実)までにまたがるものだ。
MicrosoftはMR分野に向けた製品として,開発者や法人向けに「HoloLens」を提供しており,すでに産業用のARコンテンツなどに活用されているという。しかし,HoloLensは高度な機能を持つ高価なパーツで作られており,開発者向け製品の価格が36万円前後と,ゲーマーや一般消費者向けの製品とは桁違いに高い。また,導入には専用のシステムやトレーニングも必要で,現時点で消費者向けに幅広く販売する性質のものではない。
一方,Fall Creators Updateで利用可能になるWindows MRは,従来よりも低いスペックのPCで動作するようになったのが大きな違いだ。最低動作環境に当たる「Windows Mixed Reality」の場合,「Core i5-7200U」以上のCPUとデュアルチャネル接続のメインメモリ8GB以上といった条件を満たせば単体GPUがなくても動作するというほどで,ハードルが低いことが重要な点だ。
なお,自分のPCが動作環境を満たすかどうかは,Windows Storeで配信している「Windows Mixed Reality PC check」でチェックできる。
Microsoftによると,Windows MRの最低動作環境を満たすPCは,2017年8月出荷時点のもので全体の約40%と推定しているそうだ。そして,今後もPCの更新需要があるたびに,潜在的ユーザー層は最低でも40%ずつ増加していく,と強気の見通しを立てているという。
Oculus VRの「Rift」やHTCの「Vive」,そしてPlayStation VRといった既存のVR HMDは,着用したユーザーや,ユーザーが手に持つモーションコントローラの動き検出精度を高めるために,VR HMDの外部にセンサーが必要だ。こうした位置や動きの検出方法を「アウトサイドアウト」方式と呼ぶ。
外部のセンサーとVR HMD本体が内蔵するセンサーを使い,六軸の動きを高い精度で検出しているわけだが,そのため,VR HMDを使える環境を構築するには,使いたい空間でセンサーの設置とキャリブレーションが必要になり,相応に手間がかかる。自室に合わせてセットしたVR HMDをリビングで使おうと思ったら,リビングにセンサーを設置しなおさなくてはならない。
一方で,スマートフォンを表示装置兼再生装置として利用する簡易型VRデバイスでは,スマートフォン内蔵のセンサーを使うことで三軸の動き検出が可能だが,モーションコントローラにも,別途センサーを持たせる必要がある。
それらに対してWindows MR対応のVR HMDでは,ゴーグル部分前面に備えたステレオカメラによる「インサイドアウト」方式を利用することで,本体内蔵センサーによる三軸とステレオカメラによる三軸により,六軸相当の動きをVR HMDだけで検出しているのが大きなポイントだ。
外部センサーを利用しないことにより,設定が容易である点がメリットであると,Microsoftは主張していた。たとえば,使いたい場所にセンサーを設置して調整しなくてはならない既存のVR HMDと比べて,Windows MR対応VR HMDならば,HMDとPCを使いたい部屋に持ち運べばそれで済む。
こうしたハードルの低さを武器として,VR環境導入につなぎたいと,Microsoftは考えているということだった。
OneDriveにファイル単位の同期が復活
教育用途を考慮した新フォントも導入
Fall Creators UpdateにおけるWindows MR以外のポイントも簡単に説明しておこう。
まず第1に挙げられる要素は,基本機能の改良だ。Fall Creators Updateでは,タスクバーに「My People」というコンタクトリストのアイコンが追加され,ここからメールやSkype,メッセンジャーなどを簡単に実行できる。
またクラウドストレージ機能「OneDrive」が改良され,Windows 8.x時代に存在したファイルのオンデマンド機能「OneDrive Files on Demand」が,ようやく復活した。
現状のOneDriveは,常にフォルダ単位での同期が行われ,同期対象のフォルダ内にあるファイルは,すべてローカル側のPC上にも保存される仕組みとなっている。しかし,Windows 8.xまでは,ファイル単位で「このファイルはローカルに保存せず,必要になったらダウンロードする」といったことができた。それがWindows 10では,できなくなっていたわけだ。
Fall Creators Updateでは,この機能が再び利用できるようになっただけでなく,クラウド保存されているファイルと,ローカルおよびクラウドの双方に保存されているファイルが,容易に区別できるようになる工夫も施されているという。
Windows 10の標準Webブラウザである「Edge」も,地道に改良されている。Fall Creators Updateでは,ようやくと言いたくなるがフルスクリーンの表示モードに対応した。また,Edgeで表示中のWebページやPDFに,手描きによる書き込みが行えるようにもなった。
余談だが,iOSおよびAndroid用のEdgeも開発中で,現在は限定されたβテスター向けに公開しているとのことだ。
そのほかに,前回のCreators Updateで導入された「Game Mode」(ゲームモード,関連記事)にも改良が加えられたとのことだが,これについての詳しい説明はなかった。
日本独自の要素としては,新しい日本語フォントとして,「UDデジタル教科書体」がFall Creators Updateで導入されたことが挙げられよう。
UDデジタル教科書体は,その名のとおり教育分野での利用を考慮して,書体メーカーのモリサワが開発したフォントだ。現在一般的な教科書体やゴシック体における見にくさを改善して,書き順や止め,はらいといった書き文字の要素をPC上で表現することで,「教職員側からは教えやすい,生徒側からは分かりやすい」フォントを目指したという。
Fall Creators Updateでは,ウェイトの違いや,等幅またはプロポーショナルの違いを反映した6種類のUDデジタル教科書体が含まれているとのことだ。
最後に,Fall Creators UpdateはPC用のWindows 10だけでなく,Windows 10をベースのOSとして使っているXbox Oneシリーズにも提供する予定となっている。Xbox Oneユーザーは,こちらも更新しておこう。
MicrosoftのWindows 10公式Webページ
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