インタビュー
[gamescom]鈴木 裕氏が語る「シェンムーIII」。“寄り道”の体験が,一人旅をするようなプレイフィールを生む
gamescom 2019で,本作を手がける鈴木 裕氏にインタビューする機会が得られたので、その模様をお届けしよう。
4Gamer:
よろしくお願いします。まずは「シェンムーIII」の現在のステータスを教えて下さい。
鈴木 裕氏(以下,鈴木氏):
現状は各種ブラッシュアップとバランス調整,細かなバグフィックスなどを行っています。モーションを修正したり,見栄えを良くしたり,コリジョンの調整をしたり。バランス調整では,バトルだけではなく経済のバランスも調整しています。
4Gamer:
経済のバランスも,いわゆる「壊れ」があったら,そのままゲーム全体を壊すことになりかねませんからね……。
鈴木氏:
バランス調整というのは本当に難しくて,こちらとしては初心者のうち3割がクリアできるだろうなと踏んで作っても,実際にテストしてもらうと2割くらいしかクリアできなかったりするんですよね。
ともあれ完成度で言うなら「9割以上」というところでしょうか。ゲームの進行が不可能になるような,いわゆるAバグが見つからなければ,現状のものをリリースすることもできる。そんな感じです。
ただ今回はPCゲームということで,そのチェックには時間がかかっていますね。「世界中のPCに対応させる」ということは,操作一つとっても,「世界中のさまざまなキーボード配列でプレイできるようにする」ということになりますから。
4Gamer:
確かに。QWERTYの6文字が必ずそのとおりに並んでいるとも限らないですよね。
鈴木氏:
ただ,「シェンムーIII」はキーボードでも遊べるんですが,僕としてはゲームパッドで遊んでほしいと思っています。
というのも,「シェンムーIII」はシリーズの伝統を引き継いでミニゲームが多いゲームデザインになっていて,そのミニゲームはゲームパッドを想定して作っているからなんです。ここはトリガーを引くとか,ここはボタンを押すとか。
4Gamer:
なるほど。そうなるとキーボードとゲームパッドで遊びの手触りが変わってきそうです。
鈴木氏:
とはいえ,ゲームパッドもおおざっぱに分けて2種類あるでしょう。
4Gamer:
Xbox系とPS4系で,アナログスティックやボタンの配置が違いますね。
鈴木氏:
あれねぇ。なんとかして統一してもらえないものかと(笑)。
ところでgamescom版のデモは最後までプレイされましたか?
4Gamer:
はい,ボス的なものを倒すところまで遊ばせていただきました。
鈴木氏:
どれくらい育成しました?
4Gamer:
そうですね……戦闘関係の各種レベルが1〜2上がるくらいまで馬歩や単打で鍛えて,それからはスパーリングで技を手に馴染ませて,何度かボスに挑戦して勝った……という感じです。
もうちょっとレベル上げをしたほうが楽だったんでしょうか?
鈴木氏:
いえ,だいたいそれくらいのレベルに上げると楽にクリアできる,という想定で作っています。
4Gamer:
おお,では自分は標準的なプレイヤーだったわけですね(笑)。でもプレイヤーの中には自分よりもアクションゲームが苦手な人もいるかと思いますから,そこをレベル上げで吸収できるのはありがたいです。
鈴木氏:
そうですね,逆にバトルの腕前に自信がある人は,より低い段位のまま先に進めていくといいでしょう。発売されたら,「オレはこんな低い段位でクリアできたぞ」という自慢がたくさん見られると予想してます(笑)。
ただ,例えば「バーチャファイター」などに比べれば,ボタンをガチャガチャしているだけでも技が出て勝てるようなゲームにはしています。格闘アクションが苦手であっても,ちゃんとバトルを楽しめるでしょう。
4Gamer:
「シェンムーIII」にはゲームそのものの難度を選べると聞きました。
鈴木氏:
はい。4つの難度設定があって,ゲーム中であっても切り替え可能です。
4Gamer:
4つの難度について,詳しく教えてください。
鈴木氏:
僕はセガのアーケードゲーム開発あがりなので,当時の用語で表現すればEasy,Normal,Hard,Hardestですが,実際にはEasyから順に「ストーリーモード」「おすすめ」「チャレンジ」「やめておけ」という名前になっています(笑)。
バトル好きであれば「チャレンジ」,そうでないなら「おすすめ」が一番「シェンムーIII」を楽しめる難度だと思います。
4Gamer:
ストーリーモードだと簡単すぎるということでしょうか?
鈴木氏:
「簡単すぎる」とはちょっと違うんです。
「シェンムーIII」の難度は,バトル以外にも,ゲームのすべての難しさに関わってくるんですよ。例えばお金の稼ぎやすさもそうです。
そして「シェンムーIII」をクリアするための大きな流れのなかで,「技書を手に入れる」「手に入れた技書を鍛える」という2点は中心的な課題となってきます。そのためにお金をはじめとしてさまざまなアイテムが必要となり,またいろいろなミニゲームをクリアする必要もでてくる……という構造なんですが,ストーリーモードでは「必要なもの」が簡単に揃いすぎてしまって,結果的にプレイヤーが寄り道をすることが減ってしまうんです。
4Gamer:
エンディングまで一直線で進んでしまう,と。
鈴木氏:
「シェンムーIII」は現実世界における旅のようなものだと考えてください。そしてこの旅をどのように過ごし,どのように困難を乗り越えるかを,自分で見つけていくのが「シェンムーIII」の楽しさなんです。
そう考えたとき,困難があってもすべてお金で解決できてしまう旅よりも,貧乏旅行のほうが,いろんな経験ができて楽しいじゃないですか。
4Gamer:
「旅先でこんな思いがけない苦労をした」というのは,旅の思い出話には欠かせないですしね。
鈴木氏:
もちろん,「絶対に貧乏旅行をしなくてはならない」というわけではありません。金ですべてを解決していくようなプレイもできます(笑)。
4Gamer:
それはそれでありがたいなとも思います。
ところで,「困難をどう乗り越えるのかを自分で見つけていくのが「シェンムーIII」の楽しさ」というお話がありましたが。昨今ですと攻略Wikiなどが充実しているうえ,SNS経由で思わぬネタバレが流れてくることもあり,「自分で解決法を見つける」ことを貫徹していくのはなかなか大変だと感じます。行き詰まってしまうと,クリア動画を見たくなる気持ちを抑えきれなくなりますし……。
鈴木氏:
僕はね,攻略Wikiや攻略動画を見るのはアリだと考えた方がいいと思ってるんですよ。だって「攻略Wikiを調べよう」と決意して調べることには,プレイヤー自身の意志があるじゃないですか。
4Gamer:
なるほど!
鈴木氏:
そうやって「人に教えてもらって先に進む」ことって,否定されることではないと思うんです。
もっとも「シェンムーIII」は,そう簡単に「完全攻略」はできないようにも作っています。例えばアイテムの値段ひとつとっても,ゲーム内部における世界経済の状態や公定歩合を踏まえて変動しますから,「こうすれば常にベストの選択肢になる」とはなりません。システムを解析するにしても,人力での解析はまず不可能じゃないですかね。
4Gamer:
大変に心強い言葉をいただいた感じなのですが,それはそうとして「シェンムーIII」を普通にプレイしていったら,だいたい何時間くらいでクリアできるのでしょうか?
鈴木氏:
そうですね,途中途中で適度に引っかかりながら先に進めていくとして,難度「チャレンジ」なら50時間,「おすすめ」で35〜40時間,「ストーリーモード」だと30時間を切ると思います。
4Gamer:
ストーリーモードでも結構なボリュームになりますね。
鈴木氏:
そうなんですが,じゃあ「シェンムーIII」に用意された物語を最初から最後までクリアしていくのが「シェンムーIII」の楽しさかと言われると,これもまたちょっと違うんですね。極端な話をすると,そういう楽しみ方だと「シェンムーIII」の楽しさの2割程度しか体験できないかもしれない,とすら思います。
4Gamer:
「寄り道をする」ことが大事だ,ということでしょうか。
鈴木氏:
はい。「シェンムーIII」は「寄り道をして楽しいゲーム」なんです。
これは悪く言えば「かったるい」ことになるのかもしれませんが,そこに体験と経験が生まれます。それを積み重ね,体に刻み込んでいくなかで,実際に一人旅をするときのような感覚を得ていく。「シェンムーIII」の世界での経験値が,プレイヤーの中に残っていく。これが大事だと思うんです。
あと,慣れてくると,いくつかのミニゲームは「これから何をしようか」と考えながら遊べるようなものになります。「現在の課題に対する攻略方法を考えながら,ちょっとミニゲームを遊ぶ」ような遊び方ですね。
4Gamer:
最近のゲームの傾向とは,少し違う方向性ですね。
鈴木氏:
そうですね。最近のゲームはとにかくチュートリアルが充実していて,何をどうすればいいかを懇切丁寧に教えてくれます。
でも「シェンムーIII」は「自分で探す楽しさ」を提供するゲームとして作っています。なので時間をかけてゆっくり遊んでもらうと,プレイヤーごとに異なった「シェンムー」の体験ができると思いますよ。
4Gamer:
確かに今回のデモの範囲に限っても,遊んだ人によって「どんなゲームだったか」の体験は異なるものになる気がします。
自分は「戦って勝つ」ことに集中してプレイしたので,ギャンブル系の脇道にはほとんど手を出しませんでした。なので自分的には「キャラクターを育成して,技を手に覚えさせて,戦闘の基本を覚えて,最後の敵に勝つ」のが今回のデモでの体験です。
でも人によっては「ガチャのコレクションを揃えるのがすごく大変なゲームだった」みたいな体験になっているだろうなと思いますね。
最後になりますが,発売は11月19日で確定,ということで大丈夫でしょうか?
鈴木氏:
はい。予定通りのリリースとなります。
「シェンムーIII」は,どのゲームにも似ていないゲームになったと感じています。今のゲームとしては珍しく人を殺さないですし。独特の体験ができるゲームとして,「1本買っておくか」となってくれたら嬉しいですね。
4Gamer:
ありがとうございました。
「シェンムーIII」公式サイト
4Gamer「gamescom 2019」記事一覧
キーワード
Original Game(C)SEGA (C)Ys Net
Original Game(C)SEGA (C)Ys Net