レビュー
PS4でリファインされた「GRAVITY DAZE」をレビュー。空から落ちてきた女の子の冒険活劇を,ハイクオリティなグラフィックスで楽しもう
「GRAVITY DAZE」はもともと,PS Vitaのオリジナルアクションゲームとして2012年2月9日に発売された。重力を自在に操りオープンワールドを飛びまわれる独特のゲームシステムと,フランスのコミック様式「バンド・デシネ」を意識した世界観や演出,そしてひたむきな主人公の少女「グラビティ・キトゥン」の魅力などに加え,PS Vita本体の発売から約3か月という短いスパンで発売されたことも高く評価されている作品だ。PS4版はこれらの魅力を継承し,なおかつPS4のスペックに最適化された高精細なグラフィックスと60fpsの滑らかな動きという,リッチな表現でプレイできるようになっている。
2016年には,続編となる「GRAVITY DAZE 2/重力的眩暈完結編:上層への帰還の果て,彼女の内宇宙に収斂した選択」が同じくPS4で発売されることも予定されており,PS4版は,PS Vitaからのファンももう一度プレイする価値のあるタイトルとなるはずだ。今回は,このPS4版GRAVITY DAZEを改めてレビューしていきたい。
「落ちながら飛ぶ」という,大いなる矛盾を体験
本作の主人公であるキトゥンは,自身にかかる重力を自在に操る力を持った「重力使い」。そして本作の最大の特徴にして,最も面白い要素が,彼女の持つ能力を使った「重力アクション」だ。
ゲームの舞台となる都市「ヘキサヴィル」は,空中に浮かんでいるという特殊な立地(?)ながらも,人々はその上で比較的普通の生活をおくっている。当然,重力は都市の地面の方向に対して働いているわけだが,キトゥンは,そのかたわらにいる猫のダスティの力により,自分にかかっている重力を自在に操ることができるのだ。
PS4版では,[R1]を押すことで,キトゥンが無重力状態となって空中に浮かび,もう一度[R1]または[×]を押すことで,右スティックで向いている(丸いカーソルが薄く見えている)方向に重力が働く「重力チェンジ」が行える。例えば建物などの壁方向に向いて重力チェンジを行えば,その壁がキトゥンにとっての地面となり,壁のある方向に重力が働くというわけだ。
重力チェンジはキトゥンの持つ「重力パワー」があるかぎり維持され,その間は何度でも重力の方向を変えられる。重力のある方向へと落下しながら連続して重力チェンジを行うことで,「落下しながら空を飛ぶ」という大いなる矛盾を,本作ではたっぷり味わえるのである。
パッケージのキャッチコピーにある「空に落ちる快感」がまさにこれだ。[×]で加速するとさらに気持ちがいい |
通常の重力がどちらに働いているかは,静止時にキトゥンの髪の毛やマフラーが垂れ下がっている方向でわかる |
重力を使ったキトゥンのアクションは,ほかにもいくつか用意されている。敵と戦うときに用いる「重力キック」は無重力浮遊中に[□]]押すことで重力が働いている方向にくり出せる跳び蹴りで,落下スピードに比例して威力も高くなっていくという本作らしい性質を持っている。戦闘では重力チェンジで空高く飛び上がってから,この重力キックを放つのが基本的な攻撃となる。またキトゥンの主な敵となる生命体「ネヴィ」の弱点に対して若干のホーミング性能があるので,地上でくり出すキックコンボ([□]連打)よりも,確実かつ決めると気持ちのいい攻撃として多用することとなるだろう。
そのほか物体や人を持ち上げる「重力グラブ」や,地面を滑るように高速で移動する「重力スライド」など,重力を絡めた独自のアクションが,本作の個性を大きく引き立てている。
本作ならではのアクションが複数存在するとはいえ,その操作については非常によく考えられている。左スティックでカメラを常に変えながら該当のボタンを押すという操作に慣れれば,比較的簡単に空中を自在に飛びまわれるようになるはずだ。
またPS4版の操作は当然ながらDUALSHOCK 4向けに最適化されているので,携帯ゲーム機のPS Vitaよりもグッと操作しやすくなったという印象だ。重力パワーが回復したときにDUALSHOCK 4のスピーカーから効果音が鳴るという,PS4版ならではの演出もが施されているのも面白いところである。
近くにあるオブジェクトや人物を持ち上げる重力グラブ。[○]で持ち上げ,もう一度[○]を押すと持ち上げたものを遠くに飛ばす。攻撃にも使用可能 |
足場を常に坂道状態にして高速で滑り降りる重力スライド |
緻密に作られた浮遊都市を飛び回ろう
本作は,オープンワールドでミッションをクリアしていくアドベンチャー的な進行でストーリーを進められるようになっているが,それ以外は,ランダムイベントに遭遇するような要素はなく,どちらかといえば重力アクションを使って,世界を飛び回ること自体が大きな楽しみとなる。
それでもヘキサヴィル全体のマップは,建造物が密集しているうえに複数の階層が積み重なって構成され,それらをつなげる階段や路地なども無数に存在し,散歩するだけでも楽しい。浮遊都市という舞台と,重力アクションが組み合わさると,建造物をあらゆる方向から見られるので,都市の裏側部分もしっかり作り込まれている。とくにPS4版では,より高精細なグラフィックスが楽しめることもあり,世界を飛び回る魅力はさらに高まったと言えるだろう。
また,街のさまざまな場所にキトゥンをパワーアップさせるアイテム「プレシャスジェム」が配置されているので,これを入手するために探索してみるのもいいだろう。プレシャスジェムが見える場所を意識して移動していくだけでも,浮遊都市がどんな構造をしているのか,なんとなく掴めてくる。
バンド・デシネの影響を色濃く受けた映像表現
GRAVITY DAZEの世界は,非常に印象的なタッチのグラフィックスで描かれている。キトゥンの周囲に見える建物は妙に写実的なのに,遠くに見える背景は薄ぼんやりと霞んでいて,アートのようにも見える。本作に影響を与えたというバンド・デシネの巨匠メビウス(ジャン・ジロー)氏の作品を見れば,その雰囲気が掴めるかと思う。
本作はオープンワールドのゲームであるため,遠くに見える場所にも基本的に行くことができるわけだが,重力チェンジでの飛行や乗り物に乗って移動するときに,遠くの背景が近づくにつれて徐々に写実的になっていく効果は,コミックやアートでは体験できないゲームならではの味わいだ。その効果による建物との距離感の把握や,次の場所へと向かうときの高揚感の演出にも貢献している。
また本作のストーリーを描くシーンは,主に「コミックデモ」と名付けられたマンガ風のコマ割りデモによって構成され,こちらもバンド・デシネやアメリカンコミックなどを意識したものとなっている。フルボイスでセリフを読み上げるような演出はないが,特定のシーンではキャラクターの音声や効果音が挟み込まれ,さらにコマに動きがつくなど,凝った電子書籍を読んでいるように感じられる。何より,読み込みや再生に時間のかかるムービーと異なり,プレイヤーのペースで読み進められるのがポイントだろう。
PS Vita版のコミックデモでは,電子書籍を読むような感覚で,タッチスクリーンをタッチしてページ進めていたが,PS4版では残念ながらその仕様は排除されてしまった。その代わりに大画面で表示ができるようになり,描画の線の強弱や,コマを描いている紙の質感(演出的な模様のようだが)なども見えるようになり,据置ゲーム機らしくじっくり楽しむための要素が強化されていた。
ひたむきな主人公キトゥンの成長物語
プレイヤーであるキトゥンは,ゲーム開始時の時点で記憶を失った状態で登場するため,その素性などは不明だ。そもそもキトゥンという名前も,「猫を連れている」ということから名付けられた愛称で,自分自身も本名は知らないという境遇にある。そんな境遇ながらも,常に前向きかつ好奇心旺盛,ちょっとドジだけど,やるときはやるという性格で描かれる彼女の姿は,非常に魅力的に映るはずだ。
また彼女が心に秘めている正義感や戦闘時に見せるアクションなどは,往年の特撮ヒーローの姿にも被ったりする。マフラーをなびかせてネヴィの急所めがけてくり出す重力キックや,ボスへのとどめの必殺「フェイタルムーブ」は,ケレン味たっぷりでヒーローそのものの動きだし,警察と協力して怪人を探し出して倒したり,自身と同じような力を持つライバルの重力使いクロウと激突したりするなど,要所で「燃える」シチュエーションも用意されていて,その手のヒロイックな作品が好きならグッとくるものがあるのではないだろうか。
アクションや世界観が特徴的なタイトルなので,それらのイメージが先行してしまいがちだが,アクションゲームとしてストーリーを進めるだけでも楽しめる内容だ。
PS Vitaで遊んだ人も,遊んでない人にもオススメできる完成度
アクションアドベンチャーとジャンル付けされた本作だが,どちらかといえばアクションの要素が強く,アドベンチャーの部分には若干物足りなさが感じられる。街中での行動は自由度が高いものの,ストーリーに絡むメインミッションは基本的に一本道で,そのほかに任意で進めるものは,PS VitaでDLCとして3つほど追加されたのサイドミッションと,アクションの記録に挑戦するチャレンジミッション程度。オープンワールドゲームの寄り道要素としては少ない印象だ。キトゥンは空中を移動していることが多く,人々とはあまり接触しないので,寄り道が難しいというのは理解できるのだが,プレシャスジェムを探す以外に,もう少し何かあっても良い気はする。このあたりはもとが携帯ゲーム機で発売されたタイトルという都合もあるのだろう。
とはいえ,「落ちながら空中を飛ぶ」という斬新なアクションや,中盤からの怒濤のストーリー展開などは,PS4用タイトルとして今遊んでも,十分に楽しめる。また,グラフィックスの強化だけでなく,DUALSHOCK 4で操作できるようになったことで,アクションゲームとしての遊びやすさが増したのも,本作の良いところだろう。
続編となる「GRAVITY DAZE 2/重力的眩暈完結編:上層への帰還の果て,彼女の内宇宙に収斂した選択」は,PS4に特化した内容で開発中とのことなので,上記のような物足りない点が解消し,さらに楽しめるタイトルになることを期待したい。
個人的にはこの浮遊感覚や空間の表現などを,2016年発売予定のPlayStation VRで味わえたらとも思うのだが……SCEJAさんいかがですか!?
「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」公式サイト
- 関連タイトル:
GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動
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