イベント
[Unite 2016]インディーズゲームを世に知らしめるのは開発者自身が抱く“狂気”。セッション「Unityを使った個人ゲーム開発における『収益化』の現状と未来」聴講レポート
このセッションにおける「収益化」とは,直接的なマネタイズ手法のことではなく,「開発したゲームから価値を生み出せる状態にする」ことを指す。一條氏は,その心得として「完成させる」「知ってもらう」「販売する」の3つを挙げ,4月よりSteamで配信予定の「Back in 1995」の事例をもとにそれぞれを説明した。
「Back in 1995」は,「3D“レトロモダン”アドベンチャーゲーム」と銘打ち,1990年代のPlayStation/セガサターン世代風のグラフィックスと操作感を特徴としている。開発のきっかけとなったのは,一條氏が次に作るゲームのヒントを求めて,自身が過去にハマったゲームを遊び直してみたこと。そのとき自分自身が「1990年代のローポリゴンで表現された3Dグラフィックスが好き」ということに気づき,「今の時代にそれを再現したら面白いのではないか」と考えたそうだ。
さらに開発中のスクリーンショットや,トレイラーを公開してみたところ,世界中から反響があり,「これはイケる」と確信したという。
一つめの心得である「完成させる」について,一條氏はまず個人によるゲーム開発の難しさを説明した。そもそもゲームはグラフィックスやサウンド,ストーリーなどを組み合わせた総合的なエンターテイメントであるため,個人で開発する場合は,どこかに苦手な部分が生じてしまい,そこで投げ出してしまう可能性が高い。
一條氏は,その状況を避けるために「自分の苦手な部分をきちんと把握し,軽減したり代替手段を探したりする」ことが必要だとする。自身も大きなオブジェクトのモデリングが苦手とのことで,デザイナーの協力を得て開発を進めたという。
またゲームを完成させるには,「自分に適度なムチを打つ」ことも必要だ。一條氏は,もっとも効果的な手段として「作業時間の確保」を挙げ,「休日をなくして作業を進める(ただし休憩時間は作る)」「1日20分だけでも作業する」といった継続の重要性を説いた。
こうした作業における集中力を持続するためには,有料のコワーキングスペースを利用することが効果的だという。コワーキングスペースでは,ほかの利用者も仕事などをしているため,自分自身も緊張感を持って作業に臨めると一條氏は説明する。
最近では,ゲーム開発コミュニティが続々と発足しており,同じ時間に同じコワーキングスペースを利用して,一人一人が各自のゲーム開発に取り組むという状況も増えているそうだ。そのほか,個人ゲーム開発者の勉強会や交流会に参加するのもオススメとのこと。
自分にムチを打つという意味では,開発中のゲームを展示会に出展することも効果的だという。さらに出展することを周囲のゲーム開発者に言って回ったり,SNSで告知したりすることで,自分を追い込んでいく。つまり,きちんと締切を設けるというわけだが,これを一條氏は「展示会ドリブン」と表現していた。
また,展示会への出展は,多くの人にプレイしてもらうことによって不具合が見つかり,それを修正し,ゲームの練度を上げられるというメリットもあるとのことだ。
2つめの心得である「知ってもらう」については,「存在した時点で勝つ」ことが大きなポイントになるという。
例えば個人開発ゲームでレトロ系のゲームと言えば,8bit/16bitのピクセルアート(ドット絵)を再現したものが現在の主流だ。しかし「Back in 1995」は,同じレトロ系を名乗りつつも,ほかに誰もやっていなかった32bit世代のローポリゴン3Dグラフィックスを再現してみせたことで,注目を集めたのである。さらに,当時の技術の限界によって生じてしまったテクスチャの歪みまでも,現在の技術でわざわざ再現したこだわりは,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの簗瀬洋平氏に“狂気”とまで言わしめたという。
一條氏は,そうした狂気こそが,ゲームそのものを記憶に焼き付ける要因であるとする。「Back in 1995」では,その名前を正確に覚えていないような人であっても,スクリーンショットを見せれば「ああ,あのローポリを再現したインディーズゲームか」といった感じで,思い出してもらえるそうだ。
一條氏は,こうした狂気は誰の中にも眠っているとし,そのソースとなるのは自分自身の興味だという。とくに「国内で100人くらいは愛好家がいるだろう」というニッチな興味が望ましいとのことだ。
ただし,どこから狂気のネタを発見できるかはまったくの未知数。さらに,そもそも自分自身が興味を持っていることなので,それが狂気だと自分では分かりづらい。一條氏自身もまた,「Back in 1995」のネタはゲームプレイから見つけ出しているし,そのネタが他人から狂気と指摘されるとは思ってもみなかったそうだ。
狂気を見つけることができたら,それをいかにしてゲーム化するかを考えることになる。一條氏は,このとき重要なポイントとして,「こんなゲームを作りたい」ではなく,「こんなテーマのゲームがあれば,プレイヤーはこう楽しんでくれる」と考えることを挙げた。これはユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの大前広樹氏の「遊ぶ人の楽しむ心をデザインする」という言葉を言い換えたものだ。
「Back in 1995」は,アナログスティック非対応,ラジコン操作でキャラクターを操作するゲームだが,一條氏はそれを2016年に「ヤバい! クレイジー!」と思いながら楽しんでいる人をイメージして開発を進めているという。
一條氏は,狂気のもう一つの効果として,「作り手の“心”の芯になること」を挙げた。つまり狂気は,スキルとは無関係に「こんなゲームを作っているのは自分しかいない」という自信と,他人との揺るがない差別化につながるというわけである。さらには,どんな逆境になったとしても,その狂気に対して興味を抱くファンが応援してくれるという。
また,こうしたゲームは必然的にニッチな層を狙うことになるが,その人達に確実に刺さるよう,狂気を軸に内容を尖らせる必要があると一條氏は語る。逆に刺さらない人からの反対意見は,「Not for you」の精神で受け流すべきとのこと。
実際,「Back in 1995」でも「ピクセルアートは芸術だが,ローポリゴンは技術進化の通過点なので価値はない」という意見が寄せられたが,一條氏は聞き流したそうだ。
一條氏は,万人に楽しまれるゲームの開発は大手のゲームメーカーが仕事として取り組むべきことであるとし,せっかく個人で開発するのであれば,尖った内容を楽しんでくれる層に集中したほうがいいと語る。また,そのほうが「この人達は必ず楽しんでくれる」という安心感が生まれるそうだ。
最後の「販売する」という心得では,イベントでの手売りやショップへの委託,Steamやコンシューマプラットフォーム,パブリッシング支援事業者などを利用して,開発したゲームを流通させる手段が紹介された。
パブリッシング支援事業者にはそれぞれ特色があるため,選択にあたっては「自分の流儀」「やっていること」「ジャンル」が合致することが重要だという |
ゲームに特化した国内のクラウドファンディング「Crowdrive」や,開発者本人を資金援助するパトロンサービス「Enty」も紹介された |
さらに一條氏は,メジャーなビジネスモデルとなったFree-to-Playに疑問を投げかけ,個人のゲーム開発者が生き残るには,定額販売に戻るか,新たなビジネスモデルを模索するかのどちらかしかないという持論を語っていた。ちなみに定額販売に関しては,「Back in 1995」から得られる収入で一條氏自身が生活できるかどうか試してみるとのことだ。
セッションの終盤では,「個人ゲーム開発者は,頑固ラーメン店主のようになるべき」との言葉も飛び出した。
一條氏がとくに説明を加えたのは,「お客さんを選ぶ権利を意識する」と「嗜好品としての価値意識を持つ」の2つ。
前者については,上記のとおりターゲットではないプレイヤーに「お断り感」を出していいというもので,「Back in 1995」では対象年齢を30歳前後に絞り込んでいる。これは,このゲームのグラフィックスが,今の若年層にとっては魅力が伝わらず,ファミコン世代にとっては馴染みの薄いものであることを意識した結果だ。
またスマートフォンへのリリースも考えていないとのことで,一條氏はその理由を「ゲーム用のハードやデバイスを買うような,能動的なゲーマーに向けて作っているから」と説明した。
後者の嗜好品としてのゲームについては,フランスで漫画(バンド・デシネ)が「9番目の芸術」とされている例が挙げられ,一條氏は「ぜひ大人の趣味として楽しめるゲームを作りましょう」「一握りの人だけが分かる“良さ”のあるゲームを作ってください」と,聴講している個人ゲーム開発者達に呼びかけていた。
最後に一條氏は,何よりも大切なこととして「あなた自身が楽しむこと。あなた自身が楽しめるものを突き詰めること」を挙げ,「これはオレが作ったと言える,自分だけのゲームを作ってください。もっと皆さんの狂気を感じさせてください」と述べてセッションを締めくくった。
「Back in 1995」公式サイト
Unite 2016 Tokyo 公式サイト
- 関連タイトル:
Back in 1995
- 関連タイトル:
Back in 1995
- この記事のURL: