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「異世界Role-Players」最終回:ありとあらゆる異種族達〜ほとばしる想像力のままに
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印刷2020/03/31 10:00

連載

「異世界Role-Players」最終回:ありとあらゆる異種族達〜ほとばしる想像力のままに

画像集#001のサムネイル/「異世界Role-Players」最終回:ありとあらゆる異種族達〜ほとばしる想像力のままに

ある日の上から目線にさらされる冒険


語り部:依頼があると呼ばれた君達は,郊外へやってきた
戦士:なんだって,わざわざこんなところまで
魔術師:仕方あるまい。依頼人にも事情があるんだろう,周りから見られたくない,とか
語り部:いや,もっと物理的な事情だね。ずううん,ずううん,という足音が近づいてくるんで,すぐに分るだろう
戦士:げげ,ジャイアントじゃねえか
魔術師:なるほど,冒険者ギルドどころか,街中にも入れんなあ
巨人:おまえさん達に頼みたいのはなー,友達の樹木巨人・トレントから預かった種を取り戻してもらうことだあ。ちょっと出かけてる間に盗まれちまってな。この待ち合わせ場所まですぐ来るんで,急いで取り戻してくれ
語り部:と言って,巨人が近くの山のてっぺんを指さすと,山そのものより高い木が見える。トレントは温和な種族だが,数千年に一つだけ実る種がなくなったとなれば,街くらいは平気で吹き飛ばすかもね
魔術師:あの山だと,俺達なら徒歩で半日の距離か。よし分った,引き受けよう
戦士:そんな安請け合いして大丈夫なのかよ。盗んだ相手もありかも分かんないんだろう?
魔術師:心配いらん。トレントは,歩くとき根を一本ずつ引っこ抜いて動くくらいだし,でっかい種族の時間感覚は俺達と違うんだ。依頼人さん,トレントがちょっと出かけるって言ったの,いつのことだ?
巨人:ほんちょっと。百年くらい前だ
魔術師:な?


 一年にわたっておつきあいいただきましたこの連載も,いよいよラスト。今回は,プレイヤーキャラクターとして登場する頻度が少ないなどの理由で,これまで取りあげていなかった種族達を,いくつかとりまぜて紹介してみたいと思います。

 まずプレイアブルな種族としてはともかく,ファンタジーでの登場頻度は高い種族――巨人族からいってみましょう。プレイアブルになりにくい理由は二つあります。一つ目は,空を飛ぶ種族と同じく「バランスをとるのが難しいから」ですね。デカいというのは,それだけで脅威です。サイズにともなう怪力っぷり,さらにタフさ,リーチの長さ,移動力を再現しながら,バランスを保つのはなかなか難しいものがあります。
 そしてもう一つの理由はこの裏返し――巨体ゆえの不便さです。街やダンジョンにはまず入れません。頭がつっかえてしまっては,その強さも発揮できませんよね。かくして,巨人がプレイヤーキャラクターとして使えるゲームはかなり限られますし,使えたとしても活躍の場は限定されることになります。

 これがゲームでなく物語なら,普段は人間サイズで巨人化するのに制限があるとか,舞台を工夫することで,いろいろ回避もできるんですけど。あと,ほかのキャラクターも負けじと強い設定にするとか。最近だと漫画「七つの大罪」のディアンヌなどもそうですし,忘れちゃいけない“光の巨人”ことウルトラ一族もこれに当たります。
 テーブルトークRPGだと,種族の多彩さで名をはせた「ファンタズム・アドベンチャー」や,魔物側でプレイできる「トンネルズ&トロールズ」のヴァリアント「モンスター! モンスター!」などが思い浮かぶくらいでしょうか。

「モンスター! モンスター!」(リンクはAmazonアソシエイト)
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 プレイヤーキャラクターとしてはともかく,敵としてなら巨人はファンタジーの定番です。ギリシャ神話や北欧神話などの実在の神話・伝承でも,ときに神々の最大の敵として,あるいは最強の兵士として登場します。
 巨人にはいくつかのバリエーションもあります。北欧神話なら霜の巨人炎の巨人が有名で,ゲームに登場するときには,その名のとおりの特性を持っていることが多いです。ギリシャ神話の単眼の巨人・サイクロプスは,ときには愚鈍な怪物であり,またあるときは高い知能を持つ鍛冶師であるなどと,そのときどきで差が大きい種族ですね。眼の数を特徴と数えるなら,百目の巨人・アルゴスも有名どころ。このアルゴスも神に連なる優秀なしもべでありました。
 そもそもこうした神話の巨人達は,神々と血縁を持っていたりと,いわば同一の存在とされることも多いです。中国神話の盤古,北欧神話のユミールのように,自らの死をもって世界を生みだす巨人というのもあります。日本の伝説に登場する巨人・ダイダラボッチも,国土を作ったと語られる存在ですし。だから行き着くのは世界そのもの。巨人を演じることは,すなわち巨大なる「神」を演じることにもつながっているわけですね。

「捏造ミステリーテーブルトークRPG 赤と黒」(リンクはAmazonアソシエイト)
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 神を演じるなんて恐れ多い,というか巨人よりもさらに強すぎてゲームバランスが壊れると思われそうですがそこは工夫次第,あるいは設定次第です。本来の能力を失った堕ちた神だとか,あるいは神の血を引き,神の力を再現する英雄であったりとか。前者は「設定としては何を言ってもOK」といった超人系ゲームでよく見られます。最近のグループSNE作品では,「捏造ミステリーテーブルトークRPG 赤と黒」がこのカテゴリーです。
 後者はファンタジーより,現代を舞台にしたものが多いですね。例えば「神話創世RPG アマデウス」のプレイヤーキャラクターは,さまざまな神話の神々の子という設定です。ゲーム中には親である神も登場し,その力を見せつけてくれます。
 神の力に連なる巨人族としては,ヘブライ神話に登場する「天使と人間がまじわって生まれた」ネフィリム族というのもありました。いろんなゲームに登場しますが,ここではそのままずばりのフランス産テーブルトークRPG「Nephilim」を挙げておきましょう。未訳ではありますが「クトゥルフ神話TRPG」と同じ,「Basic Role-Playing」システムを採用したタイトルでした。ただ同作のネフィリムは,巨人ではなく人間の体をわたり歩く霊的存在という扱いなんですけど。

巨人といえば昨今はこの作品「進撃の巨人」でしょうか。漫画のみならず,アニメやゲームでもかなりの人気ぶり。アントワーヌ・ボウザのデザインで,立体ボードのボードゲームも出てましたね(画像は「進撃の巨人2 -Final Battle-」より)
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ヤツらもちゃんと考えている〜植物系種族


 ファンタジーの元祖とされる「指輪物語」にも,巨人サイズの種族は登場します。悪役のトロールもまあ,巨人ではありますが,本格的に「でっか〜い」種族となると,やはり巨木の姿をしたエントを外すわけにはいきません。樹皮で覆われた巨体を震わせ,葉が茂る節くれだった四肢で周囲を薙ぎ払う。映画「ロード・オブ・ザ・リング」のエントの威容が心に残っている人は多いのではないでしょうか。
 このエントを元にして生まれたのがトレントです。これまた発祥は「ダンジョンズ&ドラゴンズ」ですね。以来,多くのファンタジー作品にトレントが登場するようになりました。土地を生み,守り育む巨木のイメージをひきつぐエントは善の側に立つ種族でしたが,これがトレントになると中立や悪となることもあって,ときに敵として立ちはだかります。

「トリフィド時代」(リンクはAmazonアソシエイト)
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 ですがモンスターとしての動く植物は,どちらかというとSFジャンルから登場した存在かもしれません。イギリスの作家・John Wyndham(ジョン・ウィンダム)による1951年のSF小説「トリフィドの日」(ほか邦題多数)には,タイトルどおりのモンスター,トリフィドが登場します。3本の太い根で動き回り,毒のトゲで動物を殺し,死体を養分にしてしまうのです。とはいえトリフィドからは良質の植物油が採れるので,鎖で縛られた状態で栽培されていました。ところがある日,流星雨によって人類のほとんどが視力を失うという大災害があり,それによる混乱と衰退の最中にトリフィドが野生化。大きな脅威となってしまいます。ゆっくりと崩壊していく世界など,ゾンビアポカリプスものにも通じる味わいのある作品です。
 植物が人類の脅威になるという点では,同じくイギリスの作家・Brian Wilson Aldiss(ブライアン・W・オールディス)の「地球の長い午後」(1962年)も忘れるわけにはいきません。地球の自転周期と公転周期が一致し,常に一つの面のみを太陽に向け続けることになったはるか遠未来。巨大化し,怪物化した植物が支配する世界で,衰退した人類達が必死に生き延びるというお話です。最も巨大な植物ともなると,地球と月をつないでいるというスケールのデカさたるや! 後の多くの植物型モンスターに影響を与えた傑作であります。

 ファンタジー方面に話を戻しましょう。知性を持った植物というのは,マイナーな伝承にいくつか見られるくらいで,実は神話にはあまり出てきません。単に巨大な樹木ということなら,巨人と同じくらいメジャーな存在なんですけど。北欧神話の世界樹・ユグドラシルなどは,とくに原典とのつながりがなくとも,ファンタジー作品にはよく登場しますよね。
 東洋にも「扶桑」の伝説がありまして,これは日本の古名の一つでもあります。中国の伝説に登場する,遙か東海上に生える巨木であり,太陽はそこから昇るとされていました。中国から見て東の海にある島といえば日本なわけで,ここから扶桑が日本の別名になったというわけです(諸説ありますけど)。

「マタンゴ」(リンクはAmazonアソシエイト)
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 植物そのものではなく,その精霊という形だと,ギリシャ神話のドリュアス(ドライアド)や,東洋の伝承に登場する花の精などもいますが,知性を持つ植物のイメ―ジソースといえるのが,マンドラゴラ(あるいはマンドレイクとも)の伝承ではないでしょうか。マンドラゴラは薬の原料として珍重される実在の植物ですが,伝承では根が人間の形をしているとされ,引き抜くときにあげる悲鳴を聞いた者は死に至ると言われています。この伝説がさまざまな連想を呼び,やがてファンタジー作品に登場するマンドラゴラは,歩いたりしゃべったりするようになるわけです。こういった植物種族でプレイアブルなものとして,最近では「ソード・ワールド2.5」メリアがいます。見た目は「どこかに花の咲いた人間」ですが,中身は完全に植物で,睡眠の必要もなく,種によって増えるという。

 植物系種族の近縁種として,キノコ系統も挙げておきましょう。歩くキノコ型の魔物は,ときおりゲームの敵役で見られますが,モンスターとして恐ろしいのは寄生型です。胞子が体内に入りこみ,徐々にその肉体を変貌させ,精神をのっとってしまうという。
 知恵あるキノコは,前述の「地球の長い午後」でも大きな役割を果たしますが,寄生キノコの恐怖を広く知らしめたのは,William H. Hodgson(ウィリアム・H・ホジスン)のホラー短編小説「闇の声」(ほか邦題多数 / 原題はThe Voice in the Night)と,そしてこれを原作として本邦で映画化された「マタンゴ」でしょう。この映画について語りだすと,連載1回分を丸々埋めてしまいそうなので詳述は避けますが,傑作です。
 ほとんどのキノコは自己の増殖だけを求めて,寄生対象を完全に食い尽くしてしまいます。ですが,そこをうまくコントロールして寄生ではなく共生にできると,プレイヤーキャラターにもになりえます。PBWゲーム「シルバーレイン」と,それをテーブルトークRPG化した「シルバーレインRPG」に登場する“ファンガス共生者”は,キノコのパワーを利用できる異能者でした。あと「ウォーハンマー」世界のオークも,設定としては菌類ですね。


ヤツらはぬるぬるしてるが滑らない〜粘液分泌系種族


ある日のちょっと教育上よろしくない冒険


語り部:トレントの種を探索していた君達は,ダンジョンの奥底にやってきた。種の生命力によって,魔物を増殖させる儀式魔法に利用されているのだ
魔術師:早く取り戻さんと,この大陸にモンスターがあふれかえるわけだな
語り部:だが,儀式の場に通じる3つの門には生殖本能を駆り立てられた3種のモンスターが立ちはだかっている。第一の門にはアラクネー
魔術師:下半身が蜘蛛になっている美女種族だな
戦士:ふふふ。仕方あるまい。ここは俺が犠牲になろう(にやにや)
魔術師:やめとけ。アラクネは体内に数百の子蜘蛛をかかえていて,夫になる種族の生命力そのものを吸って,子供に与える。ちっちゃい蜘蛛におまえそっくりの娘の上半身が生えたのがワラワラと出てくるはめになるぞ。おまえは死んでいるから見なくて済むが
戦士:げーっ! 次の門に行ってみよう
語り部:スキュラがいて,君を見つけると手招きする。ちなみに下半身はタコの足が8本だ
魔術師:あの種族は両性具有でな。生殖腕という触手を使って遺伝物質を相手の胎内に……
戦士:詳しい説明はいらん。最後はなんだ
語り部:スライムだね。この世界のスライムは,魔法完全耐性があって切っても大きな方の破片から再生する。不老不死で増殖方法は不明な生命体だ
魔術師:なお,どいつも我々よりはるかに強い。困ったぞ。生殖本能さえ満たせば道を開けてくれるはずだが。我々のどちらかが犠牲になるか?
戦士:ひとつ試してみたいことがある。スライムに近づいて……正確に真っ二つに斬る!
魔術師:おい,どういうつもりだ?
語り部:正確に2つ? まったく同じサイズってことだね? お見事。どちらも同じなら,両方が再生する。生殖本能が満たされたので,通してくれる
戦士:やけくそでやってみたんだが,まさかうまくいくとは
魔術師:ううむ。長年の相棒だが,おまえの剣がこれほど正確とは知らなかった。まだまだ知らんことはあるものだ。次の異種族は,どういう奴らなんだろうな


 リザードマンやマーマンといった鱗系種族の回で,「鱗がないしな」という理由で深く触れなかったものに両性類系の種族があります。いわゆる蛙人間なら,4Gamer読者には「EverQuest」Froglokがお馴染みでしょうが,個人的には何度か紹介した傑作漫画「セントールの娘」に登場したジャン・ルソー氏が印象深いです。クトゥルー神話の“深きものども”なんかも,実は作品によっては蛙っぽく描写されていることがあります。鳴き声なんて「ケロケロウォーウ」ですし。昨今は魚のイメージが強いですけど。
 日本人になじみ深い両生類系種族としては,「河童」を挙げておきましょう。とはいえ甲羅や頭の皿を除くと,実は哺乳類系の要素が濃厚だったり。どっちかというと猿みたいな? スラブの水の妖精・ヴォジャノーイなんてのもおります。こっちのほうはより蛙寄りかもしれません。あと「トンネルズ&トロールズ」ではゴブリンが両生類でした(ちなみに「D&D」ではコボルトが爬虫類系)。
 
 ヌルっとしたつながりで,スライムにも触れておきましょう。そもそもスライムという語が「ぬるぬるした柔らかいもの」を指す一般名詞なわけですが,この感触を楽しむおもちゃが1970年代にヒットしたことで,本邦でもその名前が定着しました。モンスターの名前として一般に認識されるようになったのは,皆さんご存じの「ドラゴンクエスト」からです。その可愛らしい姿から,一躍人気者になったのでした。
 テーブルトークRPGの「ダンジョンズ&ドラゴンズ」では,雑魚どころかかなりの強敵なんですけどね。剣が通じないうえに,いやらしい特殊攻撃をしてくるっていう。とはいえデジタルゲームの世界では,「ウィザードリィ」「ハイドライド」なんかにも雑魚モンスターとして登場していたので,(デザインの特異性はともかくとして)「ドラゴンクエスト」が初というわけでもありません。
 小説や映画などでも,けっこう古くから登場しています。1958年の映画「マックィーンの絶対の危機」(別題「人食いアメーバの恐怖」)は,Blob(ブロブ)と呼ばれる宇宙モンスターが,街ひとつを飲み込むほどにまで成長するというお話でした。しかし「ドラゴンクエスト」のスライムで可愛らしいイメージがついたからか,昨今は主人公の相棒モンスターなどとしても活躍しているようです。

2018年12月に行われたイベント「夢のスライム巨大化プロジェクト」より
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 河童やスライムがプレイアブルとなるテーブルトークRPGとしては,グループSNEの関連作から「ガープス」シリーズ(日本では第3版が1992年に発売)を挙げておきましょう。「ガープス・妖魔夜行」では,プレイヤーはあらゆる妖怪になれるので,河童にだってなれちゃいます。ただまあ,“種族”という感じじゃないですけどね。一方拙作「ガープス・ルナル」には,カルシファード地方特有の種族としてオレアノイがプレイアブルでありました。これはヴォジャノーイと河童を合わせたような種族ですね。
 一方,スライムは例によって例のごとくの「ファンタズム・アドベンチャー」のほか,「ドラゴンハーフRPG」なんかもあります。同名のファンタジーギャグ漫画がベースのタイトルで,スライムは最弱ではありますが,とくに問題はありません。なにせ敵を倒すことより,いかに笑いをとるかが求められるゲームですから。原作でも,主人公は最強のドラゴンと人間の間に生まれたドラゴンハーフでしたが,そのライバル(?)となるお姫様はスライムハーフでした。
 先の「ガープス・ルナル」にも,スライムっぽい種族として〈姿なきグルグドゥ〉が登場します。透明のゼリーみたいな丸い体に,色とりどりの球体が浮かんでいるという姿で,この球体(内臓です)が光を発してコミュニケーションを取り,海底で超文明を築いているのです。かなり設定過積載な種族ですが,いちおうPCとして使えるデータがあって,外伝短編では主人公の相棒も務めています。

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ヤツらはぐねぐねもじゃもじゃしている〜多足系,あるいは触手系種族


 鱗の種族の回で漏れたというか,取りあげてほしかったという要望をいただいたのがスキュラでした。ギリシャ神話に登場するモンスターですが,元は神々の嫉妬によって怪物に変えられた美少女という,ギリシャ神話にありがちな逸話を持っております。
 本来は「腰から下に魚の尾と,6つの犬の頭と前足が生えている」姿とされています。それがいつしかタコのようや触手や蛇の頭も付くようになり,やがて犬やらタコ,イカ系といった多様な属性がくっつくようになりました。
 海棲種族のくだりで触れなかったのは,これもやっぱりプレイアブルなケースがほぼ見当たらないことが大きいですね。「ガープス・妖魔夜行」のように特徴の組み合わせでキャラクターを再現するタイプとか,データがわりと大雑把で,描写がプレイヤーに委ねられるタイプのゲームならあり得るかもしれませんけど。

アニメ化も予定されているライトノベル「蜘蛛ですが、なにか?」(リンクはAmazonアソシエイト)もアラクネーが登場するお話。流行の異世界転生ものですが,タイトルどおり蜘蛛が主人公という異色の作品です
画像集#007のサムネイル/「異世界Role-Players」最終回:ありとあらゆる異種族達〜ほとばしる想像力のままに
 多足系種族として,そして「ギリシャの神様に怪物にされちゃった美少女シリーズ」としては,蜘蛛にされたアラクネーさんも有名ですね。ゲームでは上半身が美女,下半身が蜘蛛の姿でしばしば登場します。本来は,ただ蜘蛛にされたちゃっただけの女性なんですが。髪の毛が蛇になっているゴルゴーン3姉妹と合わせて,モンスター擬人化系の創作物の常連でもあります。メデューサ系は人気漫画「魔法使いの嫁」にも出てきましたね。美少女ではなくて少年キャラですけれども。

 だけどプレイヤーキャラクターにはまでは,なかなか至らないようで。石化能力持ちなら「ソードワールド2.5」にバジリスクが,下半身が蛇というパターンなら「ソードワールド2.0」にラミアがプレイアブル種族として設定されていましたが,どちらも下半身は尻尾でしかないので,多足や触手と呼ぶには辛いものがあります。
 擬人化美少女ならまだしも,純粋な触手系/多足系のプレイアブル種族というのはあまり見かけません。生理的嫌悪感を伴いやすいから,積極的に使う人が少ないのかも。思い当たるのはやはり自分が関連した作品になってしまいますが,「ガープス・ルナル」の〈多足のもの〉と,「ゲヘナ・アナスタシス」の甲蠍人(パ・ピル・サグ)くらいでしょうか。
 〈多足のもの〉は,先ほどの水の種族〈グルグドゥ〉に対する大地の種族で,貝殻の代わりに岩をかぶったヤドカリといった姿をしています。器用に動くハサミ付きの触手を何本も備えており,その実ルナル世界では最も進んだ科学力を持った種族でした。甲蠍人は腰から下が蠍のアンドロスコーピオンで,なおかつ人間形態と蠍形態,そしてその中間と3つの姿がとれる,優秀な戦士の種族でありました。


今,そしてこれから生まれ来る異種族達


 ファンタジーの世界には,ほかにもまだまだ数多くの異種族が存在しています。これまでに紹介した種族にも,「あの世界のあのバリエーションを紹介しそこねた」とか,「ちょうど中間くらいに位置していて扱えなかった」とかで,こぼれてしまった種族が少なくありません。

マーダーミステリー「ダークユールに贖いを」
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 例えば鱗種族の回では,テーブルトークRPG「トーグ(TORG)」に登場する恐竜人類・エディーノスを拾い損ねていました。未開の大地・リビングランドとなったアメリカで,秘境冒険を楽しむのに欠かせない種族です。
 アンデッドではグール(食屍鬼)が漏れました。「死肉を喰らう」「ある意味で感染する」「独自の文化を持っていたり,知性のないモンスターだったりする」ということで,吸血鬼とゾンビの中間に位置する存在とも言えます。アラビア神話とクトゥルー神話に絡めれば,けっこう語れた気はするので,少しもったいなかったかもしれません。
 獣人と鱗の回のどちらでも触れられなかったのが,アザラシに変身する妖精種族・セルキーです。大好きな異種族マンガ「スピーシーズドメイン」のお気に入り・ヴニャちゃんの種族なので紹介したかったのですが,プレイヤーキャラクターとして使えるタイトルを思い付きませんでした。

 異種族を扱ったファンタジーは,今なお新しい作品が次々と登場しています。性的なサービスというちょっと変わった視点から異種族との共存を描く「異種族レビュアーズ」などは,非常にユニークで優れた作品だと,私は思います。現代社会における異種族との共存を描く「エルフさんは痩せられない」も面白い視点ですし,しばしばとりあげてきた「ソード・ワールド2.5」でも,種族のバリエーションはこれからも増えていくことでしょう。テーブルトークRPGでは,吸血鬼ものの「人鬼血盟RPG ブラッドパス」なんて新作も出ています。私自身も「ダークユールに贖いを」という新作が控えていまして,これは現代社会に吸血鬼がひそんでいるという設定のマーダーミステリーであります。発売は2020年4月24日ですので,機会があれば遊んでみてください。


あとがきに代えて〜異種族を創る意味


 これから異種族を描こうという方もたくさんいらっしゃるでしょう。
 あなたの作品に異種族を登場させるなら,まずファンタジーの意味を考えて,その意味を反映させる存在としての異種族を登場させていただけると嬉しいなあ,と思います。ファンタジーは読み手に色々なものを与えてくれますが,私が思う大切な一つは「現実から一旦,距離をとらせること」です。距離をとってみる,というのは大切なことです。濃厚にふれあい続ければ,いつか疲れてきます。その疲労を癒すことにもなりますし,近すぎて見えなくなっていたものを,遠くから眺めれば全体を見つめ直すことができます。

 ファンタジーは「逃避の手段」と称されることもありますね。「逃げるは恥だが役に立つ」という,ヒット作のタイトルにもなったハンガリーのことわざもありますが,本当に必要な場合は,躊躇なく「逃げる」ことはとても大切です。ゲームでも「逃げる」って重要じゃないですか? そしてもちろん「どこにどう逃げるか」「目の前の危機から逃げた後,どうやって全体の苦境をリカバリするか」という策なしでは,逃げても結局は無駄に終わります。その策を授けてくれるのがファンタジーです。そして,作品世界でそれを体現してくれるのが異種族です。

 もちろん,単ににぎやかしとして登場させるのも問題はないんですよ? ただそのときも,個々の種族ごとに「種族としてのこの特徴は外さない」といったことをきちんと設定したほうがいいでしょう。でないと「個人個人のキャラとしての個性」「世界そのものの幅広さ」の区別がつかなくなります。
 例えば「ファッション」一つとってもそうです。衣服は文化であり,儀礼であり,種族としての合理性や美意識があらわれるものです。衣装を決めて,そこから種族の性格が明らかになることもあります。リザードマンのように「異種族からは男女の性差が少ないが,繁殖としては異性間の交配による」という種族なら,「だから衣装で男女の区別をつける」「普段は区別しないが繁殖のために区別をつける時期がある」「衣装は性差ではなく社会身分を表す」「衣服という文化がない」など,さまざまなことが考えられるでしょう。見た目のバリエーションのつもりで出した異種族が,物語にさらなる広がりを与えてくれるかもしれません。

 異種族は,物語のプロットやテーマに深く関わることもあります。歴史の古い種族が,かつて通った道は,これからたどる往路と,見出した反撃手段をたずさえての復路を導いてくれるでしょう。安らぎを求めたとき,多様な異種族の存在は,物語にいろどりを加えてくれます。そして,ひとたび遠くへ離れたとき,異種族という鏡が我々を映しているのが見えるのです。

 自分ではない誰か,存在の根本が異なる何者かと,ときに分かりあい,ときには相容れず,あるいは分かりあえないまでも隣り合って存在し続けてゆくこと。その意味と方法を,異種族は具現化してくれます.
 現実では曖昧なことを誇張したり,くっきり浮かび上がらせるのもファンタジーの役割の一つでしょう。もちろんフィクション全般にいえることですが。共存と価値の共有を,あるいは価値のぶつかりあいを,ファンタジーは異種族を通して描けるのです。

 異種族を創造するということは,異なる生態系を,生理現象を,そしてそれらに基づく歴史や文化を創ることでもあります。トールキンは,エルフ語というひとつの言語を創るために,中つ国という世界を丸ごと生み出しました。なかなかそこまでたどりつくのは難しいことですが,最初から放棄するのも,ちと寂しいですね。

 自身でも多くの異種族を描いてきましたが,まだまだ描き足りず,これからも隙あらば世に送り出していきたいと願っております。もちろん読者としても,もっと多くの異種族と「異なる視点」に接していきたいものです。
 ではまた,語りたい種族が溜まってきましたら,あらためてお会いいたしましょう。

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■■友野 詳(グループSNE)■■
1990年代の初めからクリエイター集団・グループSNEに所属し,テーブルトークRPGやライトノベルの執筆を手がける。とくに設定に凝ったホラーやファンタジーを得意とし,代表作に「コクーン・ワールド」「ルナル・サーガ」など。近年はグループSNE刊行のアナログゲーム専門誌「ゲームマスタリーマガジン」でもちょくちょく記事を書いています!(リンクはAmazonアソシエイト)
  • 関連タイトル:

    トンネルズ&トロールズ 第8版完全版

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