プレイレポート
Nintendo Switch「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」プレイレポート。記憶を失ったリンクの旅が,プレイヤーの冒険心をかき立てる
Nintendo Switch本体の同時発売タイトルにして,任天堂から発売される最後のWii Uタイトルという記念すべき1本になった本作は,これまでのシリーズとは趣がかなり異なる作品に仕上がっていた。本稿では,そのNintendo Switch版のプレイレポートをお届けする。
「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」公式サイト
記憶を失ったリンクが
右も左も分からないプレイヤーとシンクロする
物語は,薄暗い部屋に置かれている,液体が入ったカプセルのようなものの中で眠っていたリンクが謎の声によって目覚めるという,シリーズとしては異色のシーンで幕を開ける。背景をもっとメカっぽくすれば,SF作品としても通用しそうなシチュエーションだ。
プレイヤーはこのあと,すぐにリンクを操作できるようになるが,この時点でストーリーなどは一切語られておらず,彼がなぜカプセルの中で眠っていたのか,そしてここがどこなのかは謎のまま,ゲームは進んでいく。
リンク自身も記憶を失っていて,本人にとってもプレイヤーにとっても,右も左も分からない状態だが,目覚めた場所から外に出ると,そんなことを忘れてしまうほどの雄大な大地が広がり,そこに改めてタイトルロゴが重ねられていく。これから始まる冒険を予感させる,シリーズ屈指のインパクトのあるオープニングだ。
何も武器を持っていない裸同然のリンクは,この先,さまざまな武器・防具やアイテムなどを現地調達しながら,自由度の高い旅を進めていくことになる。
宝箱に入っている服を着る(実際に着るのはオープニングの前となるが)。道すがらに落ちている木の枝を拾って武器にして戦う。ハート(体力)が減ったら木からリンゴを取って食べる。道ばたに落ちている斧で木を切って薪を集める。たいまつを使って焚き火から焚き火へと火を移す。手に入れたリンゴを焚き火にくべて焼いてみる……等々,序盤から実にさまざまなことができるのだ。
昨今のゲームではさほど珍しくない要素だが,「ゼルダ」ファンとしては,これらをリンクとして体験していることが重要なのだ。
リンクが特定の行動を起こすと逐一コメントが表示され,この世界で一体どんなことができるのかを,順を追って学べるようになっている。目についたものに何でも干渉することが,そのままチュートリアルとなっており,プレイヤーの好奇心や観察眼をうまくゲーム進行につなげた設計だと感じた。
オープンエアのハイラル探索のカギとなるのが
リンクの「がんばりゲージ」
本作の大きな魅力となるのが,背景に見えている場所には原則どこにでも行けるという「オープンエア」の世界――いわゆるオープンワールドのゲームシステムだ。
オープンワールドを採用したゲームでも,「どこにでも行ける」というのは単なる売り文句で,実際には行けない場所が多いこともある。しかし,本作のリンクは,走る,泳ぐ,滑空するといったアクションに加え,岩肌や壁などをよじ登ることもでき,これにより本当に「どこにでも行ける」ことを実現している。一見すると到底登れそうにない,オーバーハング気味の崖でもゴリゴリ登っていくリンクの姿は本当にたくましい。
この,よじ登りを含めた特定のアクションを行うために必要なのが「がんばりゲージ」だ。これはリンクのスタミナを表したゲージで,よじ登りのほかに,ダッシュや一部の強力な攻撃,水泳や「パラセール」による高所からの滑空を行うと消費される。
がんばりゲージは該当のアクションを止めれば数秒で回復するが,ゼロになると全回復するまでそれらのアクションができなくなり,動きも制限されてしまう。壁登りや滑空の最中だと落ちてしまうし,泳いでいるときは沈んでしまうので,適度なところで止めるなり,地上に戻るなどして回復させなければならない。
実際にプレイしてみると,このがんばりゲージの存在がオープンエアのハイラルの開拓に絶妙なバランスと緊張感をもたらしていることが分かる。がんばりゲージの上限は,ゲームを進めると入手できる「克服の証」によって増やせるのだが,その上限が低い状態では開拓できる範囲が必然的に限られ,上限が増えれば自ずと広がっていくのだ。
そんな広大なハイラルで展開されるストーリーは,「メインチャレンジ」と呼ばれるミッションに挑むことで進行する。このほかに,ハイラルの住人などから受けられる「ミニチャレンジ」などのサブミッションもあり,どの順番で挑戦してもいい。
実は,旅の最後の目的地となるであろうハイラル城にも,かなり早いうちから近づくことができるのだが,amiiboのラインナップにも入っている古代の守護者「ガーディアン」によって,間違いなく返り討ちに遭うのでオススメはしない。
これらのチャレンジに挑むあいだに,プレイヤーがとくに多く足を運ぶと思われる場所が「試練の祠」だ。この祠はかつて女神ハイリアに啓示を受けた導師によって作られたもので,主にその人物の名前が付けられ,ハイラルの各地に点在している。
これらは「ゼルダ」シリーズにおけるダンジョン的な存在なのだが,2つ3つの仕掛けを解くことでクリアできる小ぢんまりとした場所で,ボスも存在しない。これをクリアすることで手に入る「克服の証」は,4つ集めることでリンクのハートの上限を増やす「ハートの器」,またはがんばりゲージの上限を増やす「がんばりの器」と交換できる重要なアイテムだ。
序盤に挑むいくつかの祠以外は,ゲーム進行には直接関わらないが,訪れるだけで「ワープ」によるファストトラベルの移動先となり,リンクが成長するきっかけとなる場所でもあるので,立ち寄らない手はない。
どの祠にも「ゼルダ」シリーズらしい,ひらめきが必要な仕掛けが用意されており,しっかり考えないとクリアできないものもある。筆者の場合,見つけたら真っ先に入って必ずクリアしてから進んだが,どうしてもクリア手順が分からなかったり,ストーリーを優先したかったりする場合は,後回しにしても構わない。
これまでの「当たり前」が見直された本作を
ファン目線でチェックする
2月に行われた体験会のトークイベントや,ディレクターの藤林秀麿氏へのインタビューなどでたびたび語られているとおり,本作のコンセプトは「当たり前を見直す」というものだ。
ここまで紹介してきたとおり,ゲーム序盤からすでにこれまでの「ゼルダ」シリーズとは大きく手ごたえが異なる本作だが,“当たり前”でなくなった点はまだまだある。
実際に操作してまず驚くのは,リンクがジャンプできるようになったことだ。これまでは自由にジャンプできない作品が多かっただけに,枝になったリンゴを取るときや,足場を飛び移るとき,あるいは高所から飛び降りるときに自由にジャンプできるのが何となく嬉しい。ジャンプは戦闘中のアクションに活かすこともできる。
ゲームプレイで大きな違いを感じたのは,リンクのハートの回復手段と,武器や盾が壊れてしまうという点だ。
本作では草を切ったり,敵を倒したりしても回復のためのハートは出なくなり,その場で回復するには手持ちの食べ物や料理を食べるか,薬を飲むことが主となった。食べ物も地域によっては現地調達が難しく,遠出をするときは事前の準備が必要になる。
回復するときはポーズメニューから食べ物を選んで使う必要があり,戦闘中にリアルタイムで回復する手段は基本的に無くなった。そのため,ハートの数や装備が乏しく,操作もおぼつかない序盤のうちから無闇に強敵に戦いを挑んでしまうと,筆者のようにゲームオーバーを重ねることになるだろう。
武器や盾に関しては,それぞれに耐久力が設定されているようで,使っているといずれ壊れてしまうことを考慮しなければならない。
さらに,持ち歩ける武器や盾の数が決まっているので,性能が高いものや使いやすいものを手に入れたときは,それらを積極的に使っていくのか,それとも来たるべき強敵との戦いまで取っておくのか,その見極めが重要となる。
武器は敵が落としたものを拾ったり,宝箱から手に入れたりなど,あらゆるところで入手できるので,あまり出し惜しみせずに使っていくほうが気持ちよく戦える。ただし,たいまつのように武器とは別の効果を持つものや,炎や氷などの追加効果を秘めた武器は,うまく使いどころを考えることでリンクに恩恵をもたらしてくれることもある。
もう一つ面白いのが,攻略に直結する爆弾などのアイテムがゲームの序盤で一気に手に入ってしまうという点。具体的には,序盤で行くことになるいくつかの試練の祠で,それらのアイテムの効果を手持ちの「シーカーストーン」に記憶させることになり,以降はいつでも何度でも使えるようになるのだ。
爆弾を取り出して特定のものを破壊できる「リモコンバクダン」(丸形と四角形の2種),金属製の物体を自在に動かせる「マグネキャッチ」,時間止めて物体に衝撃を加え,時間の流れが再開したときに一気にその物体を動かす「ビタロック」,水辺に氷柱を作り出して足場や障害物として使う「アイスメーカー」,景色の写真を撮影する「ウツシエ」があり,入手後はこれらをいつでも使用できる。
これまでの「ゼルダ」シリーズでは,こうした特別な効果を持つアイテムは,ダンジョンなどで1つずつ手に入れていくのが定石だったが,本作ではかなり早いうちにすべてが使えるようになる。もちろん,ハイラルの各地にはこれに対応したギミックが点在しており,リンクの旅の楽しさを盛り上げている。「あれっ?」という違和感を感じたら足を止めてその場所を眺め,アイテムの効果を試してみると,必ず何か発見があるはずだ。
若干,順番が前後してしまったが,ここでシーカーストーンについても簡単に触れておきたい。これはリンクが目覚めたときから身に付けている小さな石板で,望遠鏡やマップ機能,そして各地の祠やシーカータワーなどを起動するためのカギとしての役割を持ち合わせたガジェットだ。
本作では,これまでの「ゼルダ」シリーズらしさを感じさせるファンタジー世界に,古代の超文明が遺物として残るSF的な世界観が融合されており,シーカーストーンはそれを象徴するアイテムの1つでもある。ゲーム中ではNintendo Switchの携帯モードをイメージしたようなサイズになっており,望遠鏡モードやウツシエモードの使用時は,自分の手元にあるNintendo Switchと同期しているように感じられるのも面白い演出だ。
武器の使い方や特殊アクションの操作を覚えると
戦いが一気に楽しくなる
本作では,敵との戦闘がかなり凝った作りになっていることも個人的に推したい点だ。
リンクが身に付ける武器には,盾と一緒に使うことで攻防に優れる片手剣のほかに,両手で持って振り回す大型の剣や,突いて攻撃する槍,そして特定の敵を倒すと手に入る魔法のロッドなどがあり,モーションやリーチがそれぞれ異なる。また,弓は別カテゴリの攻撃手段になっており,戦闘中に素早く切り替えて攻撃が行える。
また,ZLボタンを押して特定の敵に注目すると,バク宙や横跳びなどの特殊な回避アクションも繰り出せるようになる。敵の攻撃タイミングにこれらを合わせると,画面がスローモーションになってラッシュをかけられるなど,かなり通好みの駆け引きも可能だ。
ほかにも,弓でのヘッドショットや,寝ている敵や背を向けている敵への不意打ち,壊れそうな武器を投擲してクリティカルを狙うなど,たくさんの選択肢があるので,戦いに慣れてきたら,いろいろと試してみてほしい。
ちなみにハイラルの魔物達は一度倒すと現れなくなるが,一定周期の夜に昇る「赤き月」と共に復活するという,本作らしい演出が施されている。
シリーズの原点回帰を感じさせつつ
この先の「ゼルダの伝説」へとつながる最新作
ここまで筆者が魅力的に感じた部分について紹介してきたが,触れられなかった要素はまだまだある。Nintendo Switchは「TVモード」「テーブルモード」「携帯モード」という3つのスタイルで楽しめるのが特徴だが,本作を遊ぶ際は,個人的に雄大な景色を楽しむめるTVモードをお勧めしたい。
操作性に関しては,戦闘中にリアルタイムで武器変更を行おうとすると,キーアサインの関係で操作に一瞬のスキが発生してしまい,いらないダメージを受けてしまうようなこともあった。また,HOMEボタンとキャプチャーボタン以外のすべてを使うため,リンクを自在に動かせるようになるには,それなりに時間がかかるかもしれない。
シリーズ初の試みとなるオープンエアを採用し,右も左も分からない状態から手探りでゲームを進めていく感覚は,かつてファミコンのディスクシステムで発売された初代「ゼルダの伝説」をプレイしたときのそれに近いように感じた。
「ゼルダの伝説」では,ハートが3つしかなく,ろくにヒントもない状態でマップを一つ一つ探索し,ダンジョンの構造やボスの倒し方に悩み,数え切れないほどのゲームオーバーを繰り返して,ガノンという最終目標にたどり着く。遊び方によっては,順番どおりにダンジョンを攻略しなくてもゲームをクリアできたという点も,本作のプレイフィールに重なっている。
もちろん,本作はこれまでシリーズをプレイしたことがない人でも,オープンワールドのゲームが好きなら楽しめる作品であることは間違いない。シリーズのこれからの方向性を示しつつ,登場キャラクターの造形や謎解きの方向性など,要所に“ゼルダらしさ”がしっかりと込められた新しい「ゼルダの伝説」を,新しいハードでぜひ楽しんでほしい。
「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」公式サイト
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