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[SPIEL’16]ペンギンをはじいて魚をゲットせよ! そこはかとない戦略性が魅力のアクションボードゲーム「ICECOOL」を遊んでみた
そんな中,指先の器用さが活きる,ちょっと変わった子供向けゲーム「ICECOOL」があったので紹介しよう。また本作のルール構成は,子供向けゲームというものを考えるとき非常に参考になるものだったので,その点についても論及してみたい。
「ICECOOL」公式サイト(ドイツ語)
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ペンギンの子供達(一部大人)による大レース
AMIGO Spielが販売する「ICECOOL」では,プレイヤーはペンギンの学校の教師または生徒を担当することになる。教師プレイヤーは1ラウンドごとに交代となり,全員が教師プレイヤーを1ラウンドプレイしたところでゲームは終了だ。そして,その時点で後述する勝利点が最も多かったプレイヤーの勝利となる。
ルールはいたって簡単だ。
手番が来た生徒プレイヤーは,自分のコマを指先ではじく。自分のコマと同じ色の魚のクリップがついたゲートを通り抜けられればその魚を獲得でき,勝利点カードを1枚受け取る。
一方,教師プレイヤーは生徒プレイヤーのコマを狙い,自分のコマをはじく。生徒プレイヤーコマに命中させると,その生徒プレイヤーからIDカードを入手でき,ラウンド終了時すると,IDカードは勝利点カードに変換される(その後,IDカードはそれぞれのプレイヤーに返却される)。
それぞれのラウンドは,ある色の魚クリップがすべてなくなるか,生徒全員がIDカードを没収されるか,どちらかの段階で終了となる。
勝利点カードには,1つ仕掛けがある。
勝利点カードには,ランダムに1〜3点が割り振られていて,手に入れたカードは基本的に非公開なのだが,自分の手番で得点1のカードを2枚公開すると,行動回数を1回追加で得られる(つまり2回コマを弾くことができる)。これは,ゲーム終盤においてとくに重要な効果を発揮するルールである。
いかにも子供向けというゲームという印象を受けるかも知れないが,これが以外に難しい。というのも,この作品で使うペンギンコマには,下半身に重りが入っているため,コマを弾いた先で予想外の回転をするのだ。またこれを利用すると,かなりトリッキーな移動を狙って実現することもでき,プレイヤーが大人であっても,上達の余地がかなりある,歯ごたえのあるゲームに仕上がっている。
展開はやや平板だが……
とはいえ,本作にはいささか弱点もある。簡単に言えば,ゲームの展開が平板になりがちなのだ。そもそも本作のアクション要素は単純なので,大人が本気を出すと,だいたい3回〜4回ですべての魚クリップを獲得できてしまう。またゲームボード自体は凝っているとはいえ,ステージの構成は変化しない。加えて生徒プレイヤー,教師プレイヤーともにスタート地点は固定だ。これらの条件が組み合わさると,結局「前のラウンドと同じようなことをして終わる」ケースが珍しくない。
正直なところを言えば,筆者は1ゲーム(4ラウンド)プレイしている間に,「また同じ展開になったか」と感じてしまったので,本作を2回以上プレイするとなると,結構な苦行になる可能性もある。
また,トップを走っているプレイヤーを妨害する手段が事実上存在しないというのも厳しい点だ。もちろんトッププレイヤーのペンギンコマに自分のペンギンコマをぶつけて「次のラウンドのコースを消す」ことは可能だろうが,コマの振る舞いが気まぐれなので,必ず相手を妨害できるという保証はない。
加えてコマが小さめなため,自分のコマを使って「ブロックする」といった戦略も建てにくい。
もう少しほかのプレイヤーを能動的に妨害できるルールがあれば,本作はもっと大人も楽しめるゲームになったのではないか,と感じざるを得ないのである。
苦労して得たものを,失わせないデザイン
しかしながら,それはあくまで大人の意見だ。
本作は6歳以上の子供がプレイすることを前提としている。このため,そもそもアクションの難度が,それくらいの年齢の子供を標準として考えられている。SPIELの会場でも,子供達は無駄に強くコマを弾いてゲートをくぐりそこねたり,そもそもうまくコマを弾けなかったりして,そのたびに笑いと悲鳴が上がっていた。
これを踏まえた上で,本作の構成で「他人を妨害するための」ルールを入れると,恐らく一気に子供が楽しめなくなるゲームになってしまうはずなのだ。
例えば本作で,ほかのプレイヤーの勝利点カードを奪い取れるルールを入れたとしよう。そうすると,一生懸命コマを弾いてようやく1枚勝利点カードを獲得できた子供は,同時にそれを失う危険に晒される。
大人にとって「たかがゲームで,勝利点カードを1枚失う」ことと,子供にとって「ゲームで勝利点カードを1枚失う」こととの間には,非常に深い溝がある。そのことはよくよく考えおかなくてはならない。
事実,本作にも他人を妨害できるルールが存在しないわけではない。ただ,それが直感的ではないだけのことなのだ。教師プレイヤーが生徒プレイヤーからIDカードを奪えば,それは生徒プレイヤーを実質妨害していることになる。IDカードは教師プレイヤーの加点となるわけで,それは生徒プレイヤーから勝利点カードを1枚奪っているに等しいのである。
このように,「減点法ではなく,加点法で他のプレイヤーを妨害する」「プレイヤーが苦労して手に入れたものを,安易に奪い取らない」という発想は,とくに子供向けゲームでは重要になってくる。
本作は,大人にとっては飽きやすい(もしかすると子供も結構早く飽きる可能性がある)という問題はある。が,随所にこっそり忍び込んでいる,そこはかとない戦略性には見るべきものがある。大人と子供が短時間でぱっと盛り上がるなら,本作は良い選択肢になり得るだろう。
「ICECOOL」公式サイト(ドイツ語)
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