レビュー
「FIFA 18」レビュー。若きフットボーラーの成長と挫折を描くストーリーモード「The Journey」がさらに熱い
しかし,「FIFA 18」はシングルプレイ用ストーリーモード「The Journey」が,前作以上に充実している点も見逃せない※。前作のレビューでは「完成度は『おまけ』の域を越えている」と紹介したが,若きフットボーラーの物語がさらにドラマチックになって帰ってきた。
※「The Journey」が収録されているのは,PC版/PlayStation 4版/Xbox One版。
「FIFA 18」公式サイト
「The Journey」の進化を紹介する前に,肝心な“試合”について印象をまとめておこう。
国際サッカー連盟(FIFA)の公式ライセンスタイトルであるFIFAシリーズは,世界各国のリーグやクラブ,所属選手を実名で収録している。現実のフットボールシーンをシミュレートすることにかけて,今や他の追随を許さない存在と言える。
グラフィックスの質は,ますます磨きがかかっている。実在選手の外見や感情表現,アニメーションは精度を増し,個性の描写に幅が生まれた。スタジアムの雰囲気やディテールの再現にも注力しており,非日常的な空間の臨場感や観客の熱狂ぶりまでもディスプレイ越しに伝わってくるようだ。
ゲームバランスとしては,ボールを保持して仕掛ける側が有利になった印象を受ける。ドリブルやボールコントロールのバリエーションが増えたことで,ディフェンスに対して優位な状況で駆け引きを挑めるからだ。ビッグクラブに所属する選手であればクイックネスが非常に高く,瞬時の切り返しにもボディバランスが崩れない。ディフェンダーが1対1の状況に置かれたときに,体勢十分のアタッカーを防ぎ切るのは困難だろう。
さらに長短のパス精度やミドルシュートのスキルも向上しているので,記録に残したくなるファンタスティックなゴールシーンが多く生まれるようになった。そのため,同じくらいの腕前のプレイヤーが対戦すると,派手なスコアの応酬になりやすい。
とにかく守備においては,パスコースを限定するポジショニングを意識したり,プレスのゾーンとタイミングを徹底したりと考えなくてはならないことが多い。最後の砦となるディフェンダーは迂闊に飛び込むこともできず,かといってボールホルダーが急にギアを上げると身体を寄せるのが精一杯になる。
忍耐強く対応することはディフェンスの鉄則だが,それでも手に負えない場合もあるのが「FIFA 17」の現状だ。守備陣にとっては,試練の1年になるかもしれない。
さて,いよいよ筆者にとっては本題へ。前作に収録された「The Journey」には,いい意味で裏切られた。17歳の主人公「Alex Hunter」が英プレミアリーグで成長していく過程を描いたストーリーモードは,まるで良質な海外ドラマを見ているかのような完成度だった。
CGムービーのクオリティも去ることながら,ピッチの外にあるプロサッカー選手の側面,1人の若者が直面する悩みや挫折が丁寧に表現されている。サッカーゲームのストーリーモードであると同時に,等身大の青年の成長物語としても楽しませてもらった。
「FIFA 18」でも「The Journey」が収録されており,前作の続きとなる「Alex Hunterのプロ2年目」を体験していく。オープニングからスタイリッシュな仕上がりで驚かされたが,Alexをはじめとする登場人物が日本語音声の吹き替えにも対応しているのはもっと驚いた。EAは本気だ。本気でドラマを作ろうとしているに違いない。
開幕早々,Alexの物語には激動の展開が訪れるが,基本的な流れは前作と同様だ。シーズンのスケジュールに合わせてリーグ戦やカップ戦の試合が行われ,その合間にトレーニングをこなしていく。
試合に出るためにはクラブ内のポジション争いがあるが,1年目の実績があるAlexにとって,そのハードルはあまり高くない。日々のトレーニングや試合でちゃんとアピールを続けよう。
繰り返しになるが,「The Journey」の面白さは海外ドラマのようなドラマチックな展開にもある。Alexはプロサッカー選手として移籍騒動に巻き込まれるだけでなく,怪我にだって見舞われる。さらに複雑な家庭の問題に悩み,葛藤に苦しむこともあるが,その姿は決して特別ではない。
1人の青年が苦境を乗り越え,たくましく成長していく過程を見守るうちに,徐々に共感を覚えるはずだ。この導線がとてもニクイ。
前作と同じく,試合の難度はいつでも変更可能。自分の腕に合ったレベルで構わないから,気軽に楽しめるのも「The Journey」のいいところだろう。
さらに,物語の展開が全体的にスピーディになっているのが嬉しい。ドラマシーンとドラマシーンの間にある試合数が少なくなり,テンポが良くなったことで,ストーリーモードとしての完成度が高まっている。
決してリプレイ性が高いとは言えない「The Journey」だが,ぜひ体験してほしいと思う。
FIFAシリーズ初のNintendo Switch版にも触れておくと,テーブルモードや携帯モードなら,どこでも好きな場所で楽しめる気軽さが大きな魅力だ(パッケージには「オンライン専用」と記載されているが,オフライン可)。Nintendo Switchのタッチスクリーンでも,グラフィックスのクオリティは申し分なく,Joy-Conによる「おすそわけ」にも対応している。
ただし,オンライン対戦ではフレンドを指定することができず,「The Journey」も未収録といった他機種版との差異に要注意。その分,価格が安くなっているので,自分の環境や遊びたいコンテンツに合わせて検討するといいだろう。