インタビュー
[TGS 2017]龍が如くスタジオが生み出す新しい“世紀末救世主伝説”。「北斗が如く」開発キーマンの横山昌義氏と佐藤大輔氏にインタビュー
ストーリーは,「北斗の拳」の原作をベースとした完全オリジナル。ユリアが生きているという噂を耳にしてケンシロウがたどり着いた“奇跡の街”エデンでのドラマが描かれる。また,龍が如くスタジオの作品らしく,“世紀末の歓楽街”のプレイスポットといった“遊び”も用意されている。
今回4Gamerでは東京ゲームショウ2017の会期中,セガゲームス 龍が如くスタジオの横山昌義氏と佐藤大輔氏にインタビューを実施。まだまだ全貌が明かされていない本作の気になるところを,時間の許す限り教えてもらったので,ぜひ最後まで読んでほしい。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
あらためてになりますが,まずは「北斗が如く」のプロジェクトが立ち上がった経緯を教えてもらえますか。
我々が龍が如くシリーズを作ってきて,もう12年になります。
今までも,スピンオフで時代ものをやったり,ゾンビものをやったりと,ずっとチャレンジを続けてきたつもりですが,もっと違う形で,「龍が如く」シリーズでやってきたことを最大限生かして作る,新しい挑戦の形もずっと考えていたんです。
2012年には「バイナリー ドメイン」を制作しましたが,このときは「完全新規のタイトルを龍が如くスタジオで作ろう!」という感じで,ジャンルもゲームの流れも構成も「龍が如く」シリーズとは違うアプローチでしたから。
ちょうどそのタイミングで,来年(2018年)で35周年を迎える「北斗の拳」とのコラボレーションの話を進めることになったんです。
龍が如く 見参!(PS3)2008年3月発売 |
龍が如く OF THE END(PS3)2011年6月発売 |
4Gamer:
差し支えなければ,企画がスタートした時期を教えていただけますか。
差し支えはちょっとあるんですけどね(笑)。ただ,「龍が如く6 命の詩。」を作っているときには,すでに開発が始まっていました。
4Gamer:
素人目線だと,「北斗の拳」と「龍が如く」のコラボは意外性に満ちた組み合わせに感じるのですが,開発側では最初どのような印象だったのでしょうか。
佐藤氏:
「北斗の拳」という作品をあらためて考えたときに,我々がやってきた「龍が如く」のコンセプトであったり,内容だったりといった部分が非常にマッチしている,というのが第一印象でしたね。
「北斗の拳だったら,我々独自の面白いものを作れる」という確信めいたものもあって,企画を進めることが決まりました。
横山氏:
「龍が如く」シリーズには,軸になるものが2つあると思っているんです。
1つめはストーリーで,いわゆるドラマを中心にゲームが進行していくというシステムですね。2つめは,我々がゲームを設計するときに,ストーリーをいかに良く見せるか,そして街をいかにうまく遊ぶかという作り方です。
セガでは新規企画を常に募集しているんですが,僕らは常に,街をうまく遊ぶ形で新規タイトルを作れないかと考えていました。その中で,「ケンシロウが繁華街で遊ぶのも面白そう」って企画を考えた人間がスタジオにいたんです。
4Gamer:
それが発端だったんですね。
「北斗の拳」のケンシロウ |
「龍が如く」の桐生一馬 |
でも「北斗の拳」の場合,そもそも舞台が世紀末ですから,街をうまく遊ぶという軸には乗りにくいですよね。当初は「現代の繁華街でケンシロウが遊んだら……」みたいな企画でしたが,「でも,『北斗の拳』はそうじゃないよね」という話になりますし。
原作に忠実なゲームを作るべきか,現代を舞台にした完全なスピンオフ作品を作るべきかを考えていたときに,はたと気づいたんですよ。「ケンシロウと桐生一馬って似てないか?」って。
2人とも強くて,不器用で,無口で,テーマが「愛に生きる」です。
それなら「北斗の拳」の世界観をそのまま使って,我々が新しいものを作るのがいいだろうと。そういった思考を積み重ねて,だんだん企画が固まってきたという感じです。
佐藤氏:
「龍が如く6」を作っている間に,プロジェクトが大きく方向転換をしたこともありますね。
横山氏:
僕らも当初は,「龍が如く」の要素がここまで濃くなるとは思っていませんでした。企画を詰めていくうちに,「龍が如く」と「北斗の拳」を完全に合わせたほうが面白くなるよね,となっていったので。
「北斗が如く」というタイトルに決まったのも,最後の最後,発表する直前の段階です。シナリオ,キャスト,遊び,すべてのパーツが揃ったときに,初めて「北斗が如く」にしようと決めたんです。
4Gamer:
そのシナリオは完全オリジナルとなるそうですが,これはどういった経緯で決まったんですか。
「北斗の拳」はある意味,ロードムービーですよね。目的があるときもあれば,ないときもある。それは漫画という媒体,かつ週刊連載の中で積み重ねられてきたものだと思いますが,ゲームという形でそれを表現するのは難しいんです。
4Gamer:
と言いますと?
横山氏:
かつて「龍が如く」でも,ロードムービーを作ろうと思ったことがあったんですよ。「男はつらいよ」みたいに,桐生が全国で目的のない旅を続けるような感じで。でも,行動原理があやふやだと,ただサブストーリーが連続するだけのものになっちゃうので,非常に作りにくいなと。
自分の中にそういった経験があったので,ストーリーは何か目的があって,エンディングまでちゃんと描ける形で作ったほうがいいと考えました。なのでおのずと,ゲームで表現する場合はオリジナルストーリーにしたほうが美しいだろう,となっていったんです。
4Gamer:
版元のノース・スターズ・ピクチャーズ(以下,NSP)に,オリジナルストーリーの話をしたときは,どのような反応でしたか。
横山氏:
当初からいい感触を得られたという感じです。
パチンコやパチスロを作っているグループ会社のサミーは,おそらく日本で一番と言ってもいいほどNSPさんと一緒に仕事をしています。そういったこともあって,「北斗の拳」をどこまで面白くアレンジしていいか,という尺度がだいたい把握していましたから,否定的な反応ではありませんでしたね。
NSPさんは「いかに『北斗の拳』を面白く描いてくれるか」を考えているので,ものすごく仕事がしやすいです。
細かい部分でのNGもあるんですが,街遊びをやりたいです,「こんなケンシロウ見たことない」というものもやりたいですという話をしたら,「じゃあ,それを目指しましょう」と言ってくれて,ゴールを変えることを絶対にしないし,アイデアも出してくれました。
僕の感覚では版元というより,共同制作者に近いですよ。
4Gamer:
思い出しましたが,「北斗の拳 イチゴ味」のような作品も出版されているくらいですし,NSPの懐は深そうですね。
ストーリーをオリジナルにするにあたって,キャラクターの設定などで変えた部分というのはありますか?
横山氏:
変えちゃいけないところは,性格と設定だと思っています。北斗神拳の伝承者はケンシロウで,兄はラオウとトキとジャギ。こういう根本的な部分は変えていません。
ラオウ |
トキ |
ジャギ |
佐藤氏:
キャラクターの性格に基づいた行動,その判断も原作から変えていないです。
横山氏:
ですが,我々のオリジナルストーリーだと,奇跡の街「エデン」があることによって,すべてがつながっていくという話になるので,キャラクターの出会いや関わり方は,まったく違うものになっています。
4Gamer:
原作のどのあたりまでのキャラクターが「北斗が如く」に登場するのでしょう。
佐藤氏:
いわゆるラオウ編までですね。
ユリア |
シン |
ちなみに,シンを倒すところまでは原作に準拠しています。
ケンシロウは,シンに「ユリアはもう生きていない」と聞かされますが,「実は生きているかもしれない」という噂を耳にします。ユリアが行ったかもしれないという奇跡の街「エデン」にケンシロウがたどり着くまでが,1章の冒頭でしょうか。あらすじとしては本当にそれだけです。
舞台となる奇跡の街「エデン」には,力を求める人,いろいろな目的を持った人が集まっています。そういう街を狙ってくる連中もいるというように,街を中心にドラマを描いているので,これも「龍が如く」に近い手法と言えますね。
4Gamer:
ちなみにお2人は,「北斗の拳」にどの程度思い入れがあるんですか?
佐藤氏:
漫画から「北斗の拳」に入りました! もちろん,原作は全巻持っています。
横山氏:
佐藤は完全に「北斗の拳」信者ですよ。中学校時代から,ノートの片隅にケンシロウを描いていたらしいです(笑)。
一方の僕は,パチンコとパチスロは相当やっていたので,さわりの知識は持っていますけど,このプロジェクトに携わるまで,「北斗の拳」にあまり“かすってない”男なんですよ。最近の「北斗の拳」は知っている人間,その代表格が僕だと思うんです。
4Gamer:
それだと,シナリオで原作設定との整合性を持たせるのは大変じゃありませんでしたか。
「北斗の拳」らしさの部分は,もちろんNSPさんも見てくれていますが,開発チームも,8割方のスタッフが各々「自分の『北斗の拳』」を持っている,いわば「北斗教」の人間を中心に編成されています。
こだわりのポイントもそれぞれ違うメンバーの中に僕が入っていって,豪快にオリジナルストーリーを作っていくわけです(笑)。
でも,「ジャギならこう言う!」「ラオウは『お前』って言わない。『うぬ』とか『貴様』!」といった細かい指摘はありましたが,駄目と言われた部分はあまりなかったですね。
佐藤氏:
キャラクターの性格も行動原理も一切変えていないので,「シチュエーションが変わると,こうなるだろう」という納得感を抱いていただけるものになっていると思います。
横山氏:
それと今回,名越は「龍が如く」のように総合監督という形では関わっていませんが,シナリオも映像も全部チェックしているんです。
オリジナルストーリーがちゃんとドラマとして成立しているか,面白いかをチェックして,世代的にあまり「北斗の拳」を知らない名越も「面白い」と言ってくれました。
いつも僕らの中で1つのハードルである名越も,8割を占める北斗教のスタッフも「面白い」と言ってくれた時点で,僕としては自信を持っています。もちろん,僕自身も面白いと思っています。
※「龍が如く」シリーズ総合監督の名越稔洋氏
4Gamer:
TGSで公開されたトレイラーには,ケンシロウがバーテンダーになってシェイカーを振ったり,ナイトクラブの黒服になったりしているシーンがあります。一応確認ですが,メインシナリオから切り出したシーンじゃないですよね?
佐藤氏:
そうですね。「プレイスポット」と呼ばれるミニゲームのシーンです。メインストーリーで,ああいう展開になるわけではないです(笑)。
4Gamer:
PVを見た原作ファンの反響はどんか感じですか。
佐藤氏:
「すごく面白そうだ」と言ってくれる方が多いです。
今回はネガティブな反応をほとんど聞かないですね。
ただ,「原作ファン」という言葉については,僕らもいろいろ考えるところがあるんです。僕は,「北斗の拳」ほど皆の原作像が違う作品もないだろうな,と分析しています。
原作ファンと一口に言っても,佐藤のように漫画のファンもいれば,アニメのファンもいます。パチンコ・パチスロやコーエーテクモゲームスさんの「北斗無双」シリーズから入ったファンもいるでしょう。
各々にとっての“原作”が違うので,原作ファンというのはいるんですが,いないと思っています。
4Gamer:
なんだか難しい話になってきましたが,誰もが納得する原作像にするのは難しい,ということですかね。
横山氏:
「原作ファンとは何か?」というテーマで考えても,35年も続くIPですから,ファンの幅が広すぎますし,「北斗の拳」に関わってきたバックボーンも一人一人違います。“原作ファン”に訴えかけるものを考えても,すべてに合わせられるわけがないんです。
パチスロしかやらない人は,いつも負けてたまにしか勝たないから,ケンシロウのことを弱いと思っているかもしれませんよ(笑)。
僕らが絶対にやらなきゃいけないことは単純で,誰にとっても面白いものを僕らがゲーム屋として作ること。あとはもう,出たとこ勝負です。
原作像の話だと,僕はデザイン出身なので,キャラクター制作の修正指示などで答えを出すのが難しいと感じることがありますね。
漫画では,連載していくうちに絵柄が変わっていきますから,スタッフの間で“一番強いケンシロウ像”のイメージが違うんです。シンと対決するサザンクロス編をイメージする人間もいるし,ラオウ戦やその後のケンシロウのイメージが強い人間もいます。
横山氏:
「北斗の拳」に触れた時期によって,イメージが変わっているんです。35年も続くIPって,おそらくそういうものですよね。その幅が広すぎるんですよ。
4Gamer:
グラフィックスの話になったのでお聞きしておきたいのですが,「北斗が如く」はPS4向けの「龍が如く」シリーズと同じ,ドラゴンエンジンを使っているんですか?
佐藤氏:
「北斗が如く」ではドラゴンエンジンではなく,「龍が如く0」や「龍が如く 極」で使っていたエンジンを,「北斗が如く」に合わせてカスタマイズして使っています。
「北斗が如く」のプロジェクトが立ち上がったのは,「龍が如く6」の開発中なので,まだエンジンは完成前でした。
「龍が如く6」の開発現場で「こういう風にエンジンを変えよう」となったら変わってしまうものだったので,変更があったら「北斗が如く」側でも対応しなければいけなくなるんですね。そういう状況も加味して,「北斗が如く」では完成されているエンジンを使って制作しています。
描画に関してお話すると,ドラゴンエンジンはシェーダーやライティングがすごく強化されていますが,これは良くも悪くも「龍が如く」の世界をいかに綺麗に見せるかを目的にしています。
例えば,夜の街のネオンを表現するのに,ありえないぐらいに光源をいっぱい焚けるといった感じで,「龍が如く」向けの独自発展を遂げているんですよ。
一方,「北斗が如く」においてはトゥーンシェーダーというか,「輪郭があって漫画に見えるような絵」を作ることが重要なので,完成されたエンジンをカスタマイズして使うほうが最適な選択だったということです。
4Gamer:
「北斗が如く」では,「龍が如く」の劇画調グラフィックス表現がより強調されている感じですね。そのあたりは「龍が如く」シリーズの経験を生かして,スムーズに対応できたのでしょうか。
横山氏:
いえいえ,本当に苦労しましたよ! というか,ほんの1週間前までずっと苦労してました。
佐藤氏:
そこは相当苦労していますね……。
横山氏:
佐藤がよくがんばってくれたところですよ。今の完成度まで持ってこられたのは,佐藤の指揮によるところが大きいです。
原 哲夫先生の漫画のタッチを再現したかったので,劇画調の描画手法を採り入れました。原先生のタッチをちゃんと再現しつつ,リッチ感のある絵作りを目指していますが,いわゆるトゥーンではなく,しっかりした質感や立体感が出るように工夫しています。
横山氏:
やっとここまで来た,という感じです。
今まで僕達は,リッチ感とリアルさはイコールだと思って「龍が如く」シリーズを作ってきましたが,今は顔の皺や肌の質感がないと,絵にリッチ感が出ないんですよ。
たとえば,顔の皺であったり,髪の生え際であったりと,細かいところをリッチにしていけば,リアルになるんです。
ただ,「北斗が如く」でそれをやると,漫画っぽさがなくなってしまうんですよ。リッチ感を出し過ぎると今度は輪郭が邪魔になって“リアル”ではなくなっていくんです。
本当に難しいです。髪の毛は輪郭を出さないようにする,半透明のものは弱くするといった細かい調整をいっぱい施しています。もしかしたら,マスターアップまでにはさらに調整を入れるかもしれないですけど,おかげでほかにはない独特の絵が作れていると思います。
横山氏:
「北斗が如く」には,チーフプロデューサーという形で深く関わっていますが,ケンシロウのイメージとして合うか合わないかはいったん置いておいて,ゲームとして面白いかどうかというところから詰めていこうと。
その中で「これはやっぱり駄目」というものが出てきたら,削っていくという形で作っています。
4Gamer:
では,戦闘システムの話も聞かせてください。「北斗の拳」らしい戦闘を表現するために,どのような部分で「龍が如く」シリーズと差別化しているのでしょうか。
佐藤氏:
バトルシステムのベース部分は「龍が如く」から引き継いでいて,□ボタンと△ボタンで多彩な技が出せて,そこにプラスαとして一撃必殺の北斗神拳が繰り出せまる秘孔アクションを加えています。
秘孔アクションをいきなり出しても,敵にガードされるなどうまくは決まりません。□ボタンと△ボタンのコンビネーションで敵をよろけさせるなど,スキを作って秘孔アクションにつなげます。そこからさらに入力に成功するとダメージ量が増えて,一発で敵を倒せるという形です。
北斗神拳を使って敵をバッタバッタと倒していくには,「龍が如く」よりちょっとテクニックが必要になる感じですね。
「龍が如く」でいうと,「□□△△」といったコマンドのあとに「○」が加わると思ってください。「□□△△△△」とコンボを決めて敵を怯ませると「○」が入れられて,そこからさらにコマンドを入れると「岩山両斬波」のような大技を繰り出せるんです。
「北斗の拳」の敵はモヒカンでヒャッハーしているようなゴツい連中ですから,パンチとキックだけでも倒せるけど時間がかかるので,うまく北斗神拳を使いましょうという作りです。
手触りとしては,「龍が如く」のアクションの奥に北斗神拳のアクションがあって,「龍が如く」より深く面白い――そういうものを目指して調整を続けています。
正直なところ,バトルに関しては「龍が如く」を超えなくてはいけないと思っていて,ます。ケンシロウを操るわけですから。やっぱり,みんな北斗神拳で敵を爆破させたいでしょう?
4Gamer:
ちゃんと再現されているんですね。
横山氏:
当然,爆発しますよ。何せ北斗神拳ですから。
4Gamer:
では,秘孔を突いたときの演出はどうなるんですか。
佐藤氏:
今の段階だと,爆発するときはアニメ版のような黒いシルエットになります。
横山氏:
そこは限界を攻めています(笑)。
皆さんに「やりたくない」と思われるようなグロテスクな表現ではないけれど,ハラハラさせるような絵作りを目指しつつ,せめぎ合いをしている最中ですね。
4Gamer:
少し気が早いですが,製品版をプレイできる日を楽しみにしています。
本日はありがとうございました。
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