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「そうだ アニメ,見よう」第55回は13年ぶりにアニメが再始動した「フルメタル・パニック!IV」。伊藤プロデューサーに今後の展開を聞いてみた
1998年に小説の刊行がスタートして以来,コミックやゲームなど,さまざまなメディアで展開してきた,賀東招二氏の小説「フルメタル・パニック!」シリーズ。往年のタイトルになるので,作品を知らない若い読者もいるとは思うが,学園ものにミリタリーとロボットの要素を盛り込んだ独特の作風で,大ヒットした作品だ。
その人気を受け,アニメも3本のTVシリーズが製作されたが,2005年放送の「フルメタル・パニック! The Second Raid」(以下,フルメタTSR)を最後にいったん休憩。長らく沈黙を守ってきたわけだが,その最新アニメシリーズが,この4月より「フルメタル・パニック! Invisible Victory」(以下,フルメタIV)としてスタートしている。
「そうだ アニメ,見よう」第55回のタイトルとなる本作は,シリーズ構成・脚本を原作者の賀東招二氏,アニメーション制作をジーベック,監督は「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の副監督,「宇宙戦艦ヤマト2199」,劇場版「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」の演出などを手がけた中山勝一氏が務めている。
「フルメタル・パニック! Invisible Victory」
しかし,幼少時から傭兵として激戦地を渡り歩いてきた宗介は,平和な日常での常識が皆無で,高校生としての生活に馴染めず,失敗を繰り返してしまう。そんな宗介を,かなめも初めは軍事オタクとして避けていたが,さまざまな事件に巻き込まれていくうち,次第に打ち解けていく。
と,ここまでが「フルメタTSR」までのストーリーで,「フルメタIV」では,これまで散発的に攻撃を仕掛けてきたアマルガムが,いよいよ本腰を入れて,かなめの獲得に乗り出してくる。
ある日,世界各地のミスリルの基地が強襲され,宗介の所属する西太平洋戦隊の拠点「メリダ島」も巨大アームスレイブ(以下,AS)・ベヘモスによって攻撃される。
一方,東京の宗介とかなめは,アマルガムの幹部であるレナード・テスタロッサ(CV:浪川大輔)との邂逅を機に,本格的な攻撃を受け撤退を余儀なくされる。体制を整え反撃を試みようとしていた2人だったが,級友の常盤恭子(CV:木村郁絵)が捕らえられていると知り……。
「フルメタTSR」から13年,待ちに待ったアニメシリーズが帰ってきた。「フルメタIV」は,12巻刊行されている長編小説の第7巻以降をアニメ化した物語だ。宗介の宿敵ともいえるレナードが本格的に動き出し,ストーリーがドラスティックに展開する,このアニメ化を待ち望んでいた読者も多いはず。筆者もそのクチで,第1回の放送を正座待機で迎え,そのクオリティの高さにちょっと涙が出そうになった。
気になる声優陣は,関 智一さんをはじめオリジナルメンバーが勢ぞろい。注目のメカアクションは,「蒼穹のファフナー」などでCGを使った戦闘シーンに定評のあるジーベックが重厚感のあるASを縦横無尽に動かし,「CGのメカ戦はちょっと……」という筆者の先入観を払拭してくれた。
特に,第4話で描かれた宗介の愛機「アーバレスト」とレナードの「ベリアル」の対決シーンは圧巻。圧倒的なベリアルの戦闘力を短いシーンで表現し,宗介と視聴者に絶望感を味あわせてくれた。ベリアル,やべえ。このシーンを見る限り,今後もハイレベルの戦闘シーンが楽しめそうだ。
伊藤 敦プロデューサーが語る今後の見どころとは
現在,第5話まで放送され,ナムサクを舞台に移し,宗介の孤独な戦いがスタートしている。圧倒的なアマルガムの組織力に宗介はどう対抗するのか,気になる今後の展開をプロデューサーの伊藤 敦氏に聞いてみた。ストーリーのネタバレが含まれているので,注意してほしい。
伊藤 敦 KADOKAWA 映像事業局 アニメ企画部 ゼネラルプロデューサー |
「フルメタTSR」がオンエアされてから、13年経過しております。今回,アニメの企画が再始動した経緯をお聞かせください。
伊藤 敦氏(以下,伊藤氏):
「フルメタIV」の企画の前に,社内から本シリーズのスピンオフ小説である「フルメタル・パニック アナザー」(富士見ファンタジア文庫刊)をアニメ化してはどうか,という話が持ち上がっていたんです。そんな状況ではありましたが,それならば,途中で止まっている「フルメタ」本編をもう一度アニメ化してしてみよう,となったのが再始動のきっかけです。
4Gamer:
13年も期間が空いてしまっているので,視聴者層も変わっていると思います。そこへあえてリメイクではなく,続編を製作することへの不安はなかったのでしょうか。
伊藤氏:
アニメは「フルメタTSR」でいったん止まっていましたが,その後も玩具関係で応援していただいたり,「スーパーロボット大戦」シリーズに登場したりと,メディア展開自体は続いていました。この作品が終わっていたわけではないんです。ですから,不安はありませんでしたね。
また,自社コンテンツの中にここしばらく“ロボットもの”がないという意識が私の中にありまして。萌え系の作品がちょっと多めになってしまっているんです。そんな中で「ストライクウィッチーズ」や「ブレイブウィッチーズ」,「艦隊これくしょん -艦これ-」といった,メカを取り入れたものが増えてきた今であれば,本格的なロボットものもジャンルとして必要ではないかと思ったんです。
4Gamer:
初見の視聴者用にダイジェストやこれまでのあらすじなどを入れなかったのは,これまでの物語のボリュームが多すぎる,という意図からでしょうか。
伊藤氏:
おっしゃるとおりです。1stシリーズが24話,「フルメタル・パニック!ふもっふ」(2003年放送)が12話,「フルメタTSR」が13話なので,すべてをダイジェストで語れる量ではないな,と。ですので,スタッフ一同と話をして,これは視聴者の皆さんに配信なり,小説なりでおさらいしていただくというスタンスでやるしかないと思ったんです。
1stシリーズのボリュームは多いですが,ディレクターズカット版(全三部作の総集編)であれば短時間ですみますし,それほど難しくはないかなと思っています。昨年,TVアニメ1stシリーズのディレクターズカット版を製作し,それが現在発売されています。そのほかにも,「フルメタふもっふ」「フルメタTSR」を含めた3シリーズは,Amazonプライムやネットフリックスさんなどでも配信されているんです。できればそちらを見ていただきたいなあ,と。
4Gamer:
3月までTOKYO MXでも再放送していましたね。
伊藤氏:
はい。今回新シリーズを立ち上げるときに,スタッフ一同「もう一度熱くやりましょう」という話をして,「フルメタIV」に関しても賀東さんと相談したんです。そこで,ダイジェストの話も出たんですが,これまでの流れをやるとなると,とても尺が足りないという結論に至りました。
4Gamer:
今回,声優陣をはじめ,キャラクターデザインに堀内 修氏,メカニックデザインに海老川兼武氏など,オリジナルのメンバーが勢ぞろいしています。これはこれまでのテイストを変えたくなかったということでしょうか。
伊藤氏:
続きものなので,時間は経っていてもそこは変えたくなかったんです。もちろん現代風にリファインしている部分はありますが,キャラクターについてはこれまでのイメージが変わるとかはないようにしています。過去シリーズを大切にするという部分は徹底していますね。賀東さんも「変えるならば,やる意味がない」とおっしゃっていただきました。それだけ今まで「フルメタ」を作り上げてきたスタッフに対して,敬意と信頼があったんだと思います。
4Gamer:
そうなると,今回のメインターゲットになるのは前作からのファン?
伊藤氏:
はい,ベースとなるのはそうですね。そこに新規の方にも視聴いただきたいと思っています。新規の方に関しては,「お話が分からなくて=つまらない」と「お話が分からない=もっと知りたい」と2つに分かれると思うんですが,後者のほうへ誘導したいんです。プラモデルやメタルビルドといった玩具からでもいいし,ゲームからでもいいし,配信をたまたま見たでもいいんですが,そこからさらに手を伸ばしてくれたらいいな,と。
デレクターズカット版を劇場で上映したときも,見に来てくれるのは30〜40代の人がメインでで,お子さんを連れてる人もいらっしゃいました。ぼくの息子も今20歳で見に来てくれました(笑)。そうやって親子二世代で見てもいいと思うんです。
4Gamer:
今回,脚本を賀東氏自らが担当されてますが,そのことでシナリオにどのような影響あるのでしょうか。
伊藤氏:
「フルメタIV」ではある地点を目標に話を進めているのですが,OPとEDを本編から飛ばすなど,そこまでのスケジュールがかなりタイトになっています。賀東さんも苦労されているようで,泣く泣く切ったカットがありますね。
でも,TVアニメシリーズは小説版とは違ったルートたどって作られているお話なので,原作と違ったとしても,それは“TVアニメシリーズとしてのフルメタ”なんです。
4Gamer:
ASなどのメカニックの部分が今回かなり話題となっています。CGにしたことで,製作しやすくなったのでしょうか。
伊藤氏:
じつはそれほど楽になっていないんです。たくさんのASが登場しますので。ナムサク編で登場するASもかなりの数になっています。
サベージのバリエーションなどが多いので,使い回せないのですか?
伊藤氏:
宗介の乗る「クロスボウ」はサベージですが,手のパーツなどが通常のものと違っているんですね。そうなるとモデリングを新たに起こさないといけない。そのほかにも,ミストラルやサイクロンなど出さないはずの機体がどんどん増えて,大変なことになっています(笑)。
今回の「フルメタIV」では,ASの出ない回はないので,通常のロボットアニメよりもカロリーの高い作画になってしまっていますね。
4Gamer:
ASへのこだわりが伝わってきますね。
伊藤氏:
「フルメタ」に普段登場するASは,軍用ですから地味ですが,ナムサク編で登場するASはみんなカラーが派手です。たとえば,闘技場で出てくるASに関していえば,これは競技であり娯楽であるという意味で,わざとそうしています。通常の戦闘シーンでは見られないASの動きに注目してほしいです。
一見するとおもちゃみたいなASがたくさんでてきますので,ASのバリエーションを楽しんでほしいですね。サベージでも骸骨の顔をしたりとか,動きもコミカルで人間臭い動きをしたりもします。
4Gamer:
これまでオンエアされた中で,伊藤さんのお気に入りシーンはどのあたりでしょうか。
伊藤氏:
第4話のラストで,テッサの「トゥアハー・デ・ダナン」がベヘモスに体当たりするシーンですね。あそこはシナリオの段階では「この表現は難しいのでは?」と思っていたんです。でも,一方でアニメで表現できたらすごい見せ場になるなと思ってました。迫力のあるシーンに仕上がっていたと思います。
4Gamer:
すごい質量同士のぶつかり合いですからね。大迫力でした。
伊藤氏:
ですね。それと,あそこはテッサが感情を爆発させる前半の見せ場ともいえます。
4Gamer:
このインタビュー掲載の時点で、第5話が放送されています。今後の見どころをお願いします。
伊藤氏:
ナムサク編以降,しばらくは,いつものメンツ(ミスリルチーム)が出てきませんが,見放さないようにお願いします。必ず途中で出てきますので。彼らが出ないからこその,もうひとつの「フルメタ」です。それまでと全然違った登場人物達による「フルメタ」ワールドを楽しんでください。
4Gamer:
最後に読者へのメッセージをお願いします。
伊藤氏:
ASはぱっと見ると,かっこいいとか強そうという一面を持っていますが,けっこう細部で凝った設定になっているんですよ。不可視モード(ECS)を使うときのハッチの開き方や,歩いたときの関節の開閉など,そういう細かい部分を今回アニメで表現しているので,見逃さないようにしてほしいですね。TV放映だけでなく配信などでもう一度見ていただくと,気づく部分もあるかもしれません。ぜひ何回も見てほしいですね。
4Gamer:
ありがとうございました。
長いインターバルを経て,再始動を果たしたアニメ版「フルメタ」。学園ミリタリーアクションの面白さはもちろん,CGによるASのバトルといった新たな要素が盛り込まれ,13年前よりもはるかにスケールアップしている。宗介とかなめの戦いの行方がどうなるか,今後も見逃せない作品となりそうだ。
なお,本作のシナリオ部分が楽しめるPlayStation 4用ソフト「フルメタルパニック!戦うフー・デアーズ・ウィンズ」が5月31日に発売される。アニメだけでは満足できないという人は,こちらをプレイしいてみてはいかがだろう。
「フルメタル・パニック! Invisible Victory」公式サイト
放映データ |
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2018年4月〜 |
キャスト | |
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相良宗介:関 智一 | 千鳥かなめ:ゆきのさつき |
常盤恭子:木村郁絵 | 林水敦信:森川智之 |
神楽坂恵里:夏樹リオ | テレサ・テスタロッサ:ゆかな |
クルツ・ウェーバー:三木眞一郎 | メリッサ・マオ:根谷美智子 |
アンドレイ・カリーニン:大塚明夫 | リチャード・マデューカス:西村知道 |
レイス:大原さやか | レナード・テスタロッサ:浪川大輔 |
クラマ:山路和弘 | リー・ファウラー:杉田智和 |
ヴィルヘルム・カスパー:てらそままさき | サビーナ・レフニオ:井上麻里奈 |
サチ・シノハラ:内田 彩 | ナミ:茅原実里 |
ミシェル・レモン:津田健次郎 | ナムサク警察署長:玄田哲章 |
ジョージ・ラブロック:速水 奨 | ドラゴンフライ(ファルケAI):山口勝平 |
アッシュ:遠藤大智 | ライリー:斉藤次郎 |
ゲーオ:代永 翼 | ダオ:櫻井トオル |
スタッフ |
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原作:賀東招二 |
原作イラスト:四季童子(ファンタジア文庫刊) |
監督:中山勝一 |
シリーズ構成・脚本:賀東招二 |
キャラクターデザイン・総作画監督:堀内 修 |
サブキャラクターデザイン:山本 彩 |
メカニックディレクター:西井正典 |
メカニックデザイン:海老川兼武・渭原敏明 |
セットデザイン:柳瀬敬之 |
銃器設定:吉岡 毅 |
プロップデザイン:松村拓哉 |
美術設定:天田俊貴 |
色彩設計:北林千明 |
美術監督:木下了香 |
3DCGディレクター:上地正祐 |
撮影監督:井上洋志 |
特殊効果:イノイエシン |
編集:平木大輔 |
音楽:佐橋俊彦 |
音響監督:鶴岡陽太 |
制作会社:ジーベック |
製作:FMP!4 |
OP主題歌「Even...if」/歌:山田タマル |
ED主題歌「yes」/歌:山田タマル |
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・特製デジパック仕様
・72ページ解説書(AS fan増刊号1)
・書き下ろしオリジナルオーディオドラマ(#1&#2)
・原作・賀東招二、木村郁絵(常盤恭子役)によるオーディオコメンタリー(予定)
・特典映像:OP効果音付きバージョン、番宣、TVCM、PV集、ノンクレジットOP&ED、アニメジャパン・イベント映像、ロケハン映像(都立神代高等学校)
・オーディオドラマ「踊るベリー・メリー・クリスマス」全12話収録CD集(四季童子描き下ろしイラストブック付き)
・特製フォトカード(四季童子、海老川兼武カウントダウンイラスト使用)
- 関連タイトル:
フルメタル・パニック! 戦うフー・デアーズ・ウィンズ
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©賀東招二・四季童子/KADOKAWA/FMP!4
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
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