インタビュー
「ロックマン11」が目指すのはシリーズの本格的な再始動。リスペクトをしつつも変革を志したキーマンにインタビュー
“ロックマンらしさ”を踏襲しつつも,新要素の“ダブルギアシステム”を搭載するなど,変革を志す同作について,プロデューサーの土屋和弘氏とディレクターの小田晃嗣氏に話を伺った。
ファンの期待に応える責任を果たすべく,ロックマンIPの復活を模索
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。初めにお二人の簡単な自己紹介からお願いできますか。
「ロックマン11」プロデューサーの土屋です。小田とは今回のプロジェクトの立ち上げからずっと一緒に仕事をしてきています。
小田晃嗣氏(以下,小田氏):
小田です。ロックマン11ではディレクションを担当しています。
4Gamer:
ロックマンシリーズの再始動ということですが,これまでお二人はロックマンの制作に関わったことはあるのでしょうか。
土屋氏:
実は入社して最初の仕事がファミコンの「ロックマン5 ブルースの罠!?」のデバッグでした。その後,スーパーファミコンの「ロックマン7 宿命の対決!」ではプログラマーとして参加し,「ロックマンX7」「X8」「ロックマン&フォルテ」でもいろいろな部分のお手伝いをさせていただきました。その後は「ロックマン クラシックス コレクション」など,旧作を現行機に移植した作品を担当しています。
私は今回ようやくロックマンを開発できることになりました。これまでスーパーファミコンの「超魔界村」や,PSPの「極魔界村」,2014年版の「ストライダー飛竜」といった2Dアクションには関わってきたのですが,ロックマンシリーズは参加する機会がありませんでした。
4Gamer:
ようやくということは,以前からロックマンシリーズに関わってみたかったということですか。
小田氏:
そうですね。ロックマンは私がカプコンに入社するきっかけになったタイトルのひとつでして。自分がプレイヤーとして完成度の高いゲームを遊んでいる時に,「この面白さはどんな風にして作られているんだろう」と好奇心を刺激されることが多々あったのですが,そんなゲームのひとつがロックマンシリーズだったんです。
4Gamer:
今回はナンバリング作品としては8年ぶりの新作となりますが,開発に至った経緯について教えてください。
土屋氏:
シリーズ30周年という区切りを意識したところもありますが,「バイオハザード 0 HDリマスター」で小田と一緒に仕事をしていたときに小田にガツンとくる一言をもらったのがきっかけです。
4Gamer:
そのガツンとくる一言というのは?
土屋氏:
「ロックマンシリーズはもう何年も新作が出ていないので,ファンの鬱憤が溜まっている。カプコンは会社として,これに応える責任がある。ユーザーの意見を取り込みつつ,カプコンとして踏み出すべきである」と。
4Gamer:
名作シリーズを世に送り出したメーカーとしての責務ということでしょうか。
土屋氏:
そうですね。小田という男の動機は,単に「自分が作りたいからやらせてほしい」ではなかったんです。
小田氏:
我々はゲームファンがどういうものを求めているのか,常に気にしています。ロックマンシリーズは新作が出なくなって,かなりの期間が空いているのに復活を望む声がすごく多い。これだけの人が心の底から新作を求めているのだから,我々はそれに応えなければならないと考えていました。
土屋氏:
30周年という区切りもあって,我々はロックマンを復活させられる可能性を探り始めたんです。
1作で終わらせない。20年戦えるシリーズの復活を目指す
プロジェクトはスムーズに進んだのでしょうか?
土屋氏:
実際にスタートするまでには結構な時間がかかりましたね。何と言っても“ロックマン”を作るわけですから,それだけの腕や情熱を持ったスタッフがいないといけない。
4Gamer:
まずはスタッフを集めるところからというわけですね。
土屋氏:
そうです。「想いを実現できるかどうかは人集めの段階で決まっている」というのが小田の持論でして。社内を駆け回りましたし,小田が納得できるスタッフが現れるまで待っていたこともありました。
また,スタッフ集めと並行して市場調査も進めました。ロックマンが現在の市場でどのような捉えられ方をされているのか。新作を作るのであれば,ナンバリング作品でいいのか,「ロックマンX」シリーズにするのか,あるいは誰も見たことがないような新シリーズが望まれているのか,というところからコンセプトを固めていきました。「新作だからロックマンの11で……」といった安易な選択はしたくなかったんです。
4Gamer:
スタッフ集めには苦労したのでしょうか? 2Dアクションゲーム制作は失われつつある技術のようにも思えますが。
小田氏:
カプコンは熱い人間の多い会社ですから,かつてロックマンに関わったスタッフや,シリーズの開発経験こそなくてもロックマンに対するビジョンや思想を持っているスタッフがすぐに見つかりました。その中でも「この人なら」という人に声をかけていきました。
新作が途絶えて長かったこともあって,「ロックマンはこのまま終わっていくんじゃないか?」という空気があったのは事実です。しかし,我々が本気でリブートしようとしていることを解ってもらった瞬間,社内の熱が盛り上がっていくのを感じました。
土屋氏:
「ロックマン クラシックス コレクション」が全世界で100万本を越えていたのも大きな後押しになりましたね。ファンのみなさんの行動があってのことですから,本当に感謝しています。
4Gamer:
コラボやほかタイトルへの参戦で露出が続いており,「誰もが知っているカプコンのシンボル」的な存在になっていたのも大きかったでしょうね。
土屋氏:
コラボの中でも印象的だったのが「大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS / Wii U」への参戦ですね。ディレクターの桜井政博さんとも打ち合わせをしましたが,本当にロックマンを愛していることが伝わってきました。また,アパレルやホビーの分野でロックマンを使いたいという申し出を本当にたくさんいただいています。子供の頃にロックマンで思い出を作った人が,大人になって愛を表現しているのを感じます。感謝ですね。
4Gamer:
開発におけるコンセプトはどういったものでしょうか。
土屋氏:
「ロックマンブランドの復活」「2Dアクションゲームというジャンルを再確立する」「新要素追加」の3つです。
4Gamer:
それぞれについて詳しく教えてください。
土屋氏:
「ロックマンブランドの復活」ですが,これは本作を1作品限りのリリースで終わらせるのでなく,「これからもロックマンシリーズを展開していく」というところをカプコンとして明確に打ち出したかったというところがあります。
そして「2Dアクションゲームというジャンルを再確立する」ために,2018年の作品としてしっかりと遊べるものにしなければならないというところを念頭に置いて開発を進めました。歴史が長いタイトルなので,「ロックマンはこうあるべきだ!」というドグマが強くなりがちですが,まずはこれを抑えるところからスタートしたんですね。
最後に「新要素追加」です。昔のままのロックマンをリブートしても,一部のファンにしか喜んでもらえませんし,我々が目指しているのはそういったところではありません。オジサンがオジサンのために作ったロックマンではなく,どの年代が遊んでも「シンプルなアクションゲームは今遊んでも面白い」と思ってもらえるものにしなければなりません。
4Gamer:
30周年のご祝儀的な復活ではなく,今後もロックマンシリーズは続いていくわけですね。これはファンにとっては朗報だと思います。
ロックマン11が発表されてからの海外の反応はいかがでしょうか。1月からは有賀ヒトシ氏の「ロックマンメガミックス」をリマスターした「Mega Man Mastermix」も刊行されていますし,海外での露出も多いというイメージですが。
土屋氏:
そうですね。アパレルやボードゲームも出ていたりと,コアな人の持つ熱量は日本と同じくらいに高いです。昨年12月の誕生日には,30年の歴史を振り返りつつ,ロックマン11のアナウンスをする動画を公開したんですが,それを見たユーチューバーが,まるで漫画のように口をあんぐりと開けていたり,感動で目頭を押さえていたりと喜んでいただけました。そんな動画を見て,本当にうれしかったですし,勇気をもらいましたね。
4Gamer:
多くの人が思い入れを抱くロックマンをリブートするにあたって目指したところを教えてください。
土屋氏:
開発スタッフには,「今後10年,20年と戦える,復活の作品を作る気持ちでやってほしい」とお願いしています。復活を遂げるロックマンを作った結果,それがロックマン11であった……ということです。
4Gamer:
目指すのはシリーズの復活であると。
土屋氏:
前作から長い期間が空いてしまっており,失われた技術を現在に復活させる側面もあるプロジェクトですが,シリーズとしてお馴染みの要素を無条件で取り入れるのではなく,実装されたそもそもの理由まで遡りましたし,シリーズを知らないことを前提とした「初めまして」の作品として作っています。おかげで,ノスタルジーだけではない,若い世代にも面白いと言ってもらえるものになっていると思います。
4Gamer:
シリーズを知らなくても予備知識無しに遊べるわけですね。見直しを行ったのはどういった部分でしょうか。
土屋氏:
解りやすいのは,ボスの属性と弱点武器の関係ですね。作品を重ねるごとにボスも多様性を増してきて,直感的ではなくなってしまっていました。ですから今回は,「子供が生活の中で得られる知識でボスの弱点武器に気づくことができ,トライ&エラーで難関を打ち破っていける」という元々のコンセプトに立ち返っています。
ロックマンのスタイルを崩さずに,初心者と上級者が共に使える“ダブルギアシステム”
4Gamer:
ロックマン11をプレイして,“スピードギア”と“パワーギア”のふたつのギアを扱う“ダブルギアシステム”が印象的でした。撃って避けるというロックマンの本質を崩すことなく,新たな要素が加えられており,それが初心者救済や上級者のやり込みにつながっていると思いました。
小田氏:
“うまい”と“へた”だけではなく,もう少し違った形のプレイを提案できないかと思ったのがきっかけです。上手な人は本当に無駄のないプレイをされるのですが,これを動画で見てしまった初心者は,「自分には無理なゲームなんだ」と諦めてしまうことも多いと思います。そこで「初心者には苦手なところを克服するのに使ってもらい,うまい人にはスマートなプレイを実現する助けとなり,それでいてロックマン的なプレイスタイルを崩すことがないシステム」を目標にダブルギアシステムを作りました。ただ,ゲームバランスにも直結する部分ですから,チューニングには気を使いましたね。
4Gamer:
難易度によってギアの持続時間が異なるなど,かなり細かく調整されていますね。そうした所も含めて,狙いどおりのシステムに仕上がっていると感じられました。
小田氏:
開発チームはロックマンの歴史にあぐらをかいてはいけないという心構えで取り組んでいます。現代にロックマンを出すのであれば,シリーズを知らない人であっても,ひとつのアクションゲームとして楽しめなければならないと思っています。
4Gamer:
もうひとつ印象的だったのが,手書きのイラストが動いているかのように見える3Dグラフィックスです。「ロックマン9 野望の復活!!」と「ロックマン10 宇宙からの脅威!!」では,3Dグラフィックスが主流となった中,あえて旧作品で使われていたドット絵スタイルを採用することでロックマン復活を印象づけていましたが,今回3Dグラフィックスを使ったのはなぜでしょうか?
小田氏:
3Dグラフィックスにすれば情報量が増えたり,新たな演出ができたりもしますから,そうしたところにはきっちりと挑戦していきたかったんです。ドット絵にも魅力はありますが,どうしてもノスタルジー的な雰囲気が出てしまいます。3Dグラフィックスは「今回は新しいモノに挑戦していきます」という所信表明のひとつでもあるんです。
4Gamer:
そこは2018年のロックマンということなんですね。では,ゲームのボリュームはどれぐらいありますか?
土屋氏:
長く遊べるボリュームになっていると思います。我々は「アクションゲームの本質とは,繰り返し遊ぶことで人間性能が上がっていくところにある」と考えていますから,エンディングを見ても終わりではなく,反復してのプレイを楽しんでいただけるようにしています。本編とは少し違う楽しみ方で遊べるモードも用意していますし,「ロックマン クラシックス コレクション」のタイムアタックから着想を得た要素なども考えています。
小田氏:
開発スタッフもギリギリまでいろいろな要素を詰め込んでくれています。本編を遊び終える頃に,高まった腕前を試していただくことができますよ。
4Gamer:
ちなみに現在の開発状況はパーセンテージに表すとどれくらいでしょう?
小田氏:
80%から90%といったところでしょうか。開発は順調に進んでいます。
ロックマンというバトンを預かり,未来へとつないでいく
4Gamer:
お二人のロックマンシリーズへのリスペクトを聞かせてください。
土屋氏:
プログラマーだった頃は,アクションゲーム作りの先生のようなタイトルだと感じていました。テクニカルな面はもちろん,ゲームに触れたプレイヤーにどういう気持ちになってもらいたいかというユーザーエクスペリエンスもしっかりしていますし。若い段階でロックマンシリーズに触れることができ,本当にいい経験をさせて頂いたと思っています。
また,自分の関わっていない「ロックマンエグゼ」シリーズでは,世の中に対する仕掛け方の面白さを羨望の眼差しで眺めていました。お兄さん世代の文化を取り入れることにより,年少のユーザーさんの憧れをブーストしているわけですから。
小田氏:
自分はカプコンに入る前はひとりのゲーマーとしていろいろなゲームを遊んでいました。「スウィートホーム」や「ヒットラーの復活」といった,どこかクセのあるゲームを出すメーカーだな……というのがカプコンに対する印象だったんです。
そんな中,ロックマンに出会いました。あまりの難しさに「なんだこりゃ!! クリアできねぇぞ!!」と怒りつつ,なぜかプレイを続けてしまい,ある日気づいたらエンディングを見ていたんです。本当に魔法のような体験をさせてもらいました。
“撃って,避ける”というシンプルなアクションが色々なテクニックに派生していき,特別な技を使わなくても難局を乗り越えられるようになり,成長を実感できる。ここに魅力的なキャラクターが組み合わさるわけですから,今で言うところの“神ゲー”ですよね。それで作っている会社に入りたいと思ったんです。
4Gamer:
お二人とも,もの作りの上で大きな影響を受けているわけですね。
土屋氏:
シリーズの開発に関わっている期間もですけど,そうでない期間でもロックマンからは影響を受け続けていますね(笑)。
小田氏:
私がカプコンに入った頃は「ロックマン4 新たなる野望!!」を作っていたんですが,プレイヤーとして楽しみたいのでチェックを頼まれても断ったりしていました(笑)。
4Gamer:
では,お二人の考えるロックマンらしさについて教えてください。
土屋氏:
このテーマについては常に考えることにしていて,現在の結論は,「青い少年ロボットが,それぞれの時代において,ゲームファンにとってのヒーロー像を体現していること」です。これまでのシリーズはすべてこの条件を満たしていて,それぞれの時代背景に合ったさまざまなロックマンが存在しているんです。なぜこれだけ多面的な進化をしたのか……というところを考えてみると,「ロックマンはハードなアクションであるべき」といった思想は本当は必要ないのかもしれませんね。
4Gamer:
確かに「ロックマンエグゼ」や「流星のロックマン」はアクションRPGですし,「ロックマン バトル&チェイス」のようなレースゲームもありました。
土屋氏:
ただ,ロックマン11が発売されて,皆さんのご意見が集まったら,また違った結論になっているかも知れませんし,そうでありたいとも思っています。画一的なあり方に固めてしまうことはしたくないですし,変化を許容する姿勢を持っていたいんです。
そうしてロックマンというバトンを預かり,未来へとつなげていきたいですね。私がおじいさんになっても,次の世代がロックマンを作り続けてくれているといいなと思います。
小田氏:
自分が思っているロックマンらしさとは,「ロックマンと一体になれること」です。ロックマンはショットを撃ってジャンプすることしかできないし,ボスから奪った特殊武器も有限という,性能的には弱いヒーローかもしれません。しかし,この限られたアクションを使いこなして敵に勝ち,成長を実感できるのがロックマンの魅力です。こうした部分は崩してはいけませんし,新要素を入れるとしても,あくまでジャンプとショットを主軸に据えたものでなければならないと考えています。
4Gamer:
では最後に,ロックマン11を待っているファンへのメッセージをお願いします。
土屋氏:
「いいロックマンができた!」とご報告できるところまで仕上がってきています。色々な世代のゲーマーに自信を持ってお勧めできる内容ですので,発売まで今しばらくお待ちください。
小田氏:
長い間お待たせして申し訳ありませんでした。皆さんからいただいた言葉を一つひとつ咀嚼して,今回のロックマン11に反映していますので,ぜひ遊んでみてください。
また,これまでロックマンを知らなかった人にとっても,横スクロールアクションゲームというジャンルを知っていただくのにベストなチューニングになっていますので,お試しいただければと思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
ロックマン11が目指したのは,30周年限りのご祝儀的な続編ではなく,横スクロールアクションの名門復活だった。カプコン社内の高い熱量を結集して作られている同作,発売後の反響も今から楽しみだ。
「ロックマン11 運命の歯車!!」公式サイト
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