レビュー
「アウター・ワールド」拡張DLC第1弾“ゴルゴンに迫る危機”レビュー。すべての謎と陰謀が明らかになる最後の選択,あなたは何を選ぶのか
遥か未来,人類は住み慣れた地球を離れ,ついに宇宙への入植を開始した。主人公は栄光あるその第一人者として,ハルシオンなる銀河に冷凍睡眠された後に送り込まれる。
しかし,目覚めた時には,とっくにハルシオンは強欲な企業に支配され,労働者がブラック極まりない労働に駆り出されるという,地球と何ら変わらないディストピアが再現されてしまっているではないか! ブラック企業の支配者たち側に加担して自分もまた甘い汁を吸うのか,はたまた暗黒メガコーポの悪い大人を皆殺しにしてしまうか。すべてはプレイヤーの選択次第というわけだ。
SFコメディとして洗練されたテキスト
ここまではよくある,海外のRPGという印象だろう。けれど,この作品の魅力,それは洗練された会話,テキストに尽きる。
冒頭で引用したセリフはもちろんだが,「アウター・ワールド」の会話はとにかくウィット,ユーモア,アイロニーに満ちている。漠然と「ここはこういう惑星だよ」と説明する,看板を持ったNPCは存在せず,誰もがプレイヤーに嫌味の一つでも言うか,尋ねてすらいない思想信条を好き勝手に語り始める。愉快にして人間味溢れる人間(まれに人外を含む)ばかりだ。
だから,ただ街を歩いて,その場で会ったNPCと会話しているだけでも楽しいと思えるし,彼らから「○○を倒してこい」といったお使いクエストを請け負っても,その道中で予想もしない笑いや驚きが待っているので,まったく飽きない。さながらダグラス・アダムスの名作SFコメディ「銀河ヒッチハイク・ガイド」を追体験しているかのように,珍妙な宇宙でヘンテコな事件に巻き込まれ続ける旅を楽しむことができる。
そうした豊かなテキストの中で,とくにすごいと感じたのが,6人のコンパニオン,つまり仲間たちの描写だ。本作は,従来のオープンワールドRPGと同じように,道中で出会った特定の人間を仲間として引き入れ,一緒に戦わせたり,荷物を運ばせたりできる。こうした「味方NPCとして期待される機能」は珍しくないが,「アウター・ワールド」のすごいところは,彼らに人間同様の魂を吹き込もうとしたところだ。
というのも,とにかく彼ら彼女らはよくしゃべる。新しい場所にたどり着けば「ここは気に入ったね」「げぇ,こんなところはさっさと出ようよ」と話したり,プレイヤーがNPCと会話している最中にすら「私はこう思うけどね」と割り込んだりもする。まるで本物の人間のように,プレイヤーの行動や発言に対してインタラクティブに反応することで,本来は孤独な銀河の旅を大いに華やかなものへ変えてくれるのだ。
圧倒的なテキストの作り込みと独創性が,「アウター・ワールド」の体験を唯一無二のものにしていた。本来,RPGとはロールプレイ,つまりさまざまな役を演じたうえで多種多様な物語に派生していく点に魅力があるはずで,本作は徹底的に主人公や仲間,他人との会話,果てはPCで読めるメールの文章まで作り込んでいく中で,プレイヤーにどんな役を演じさせるかという意志を引き出していた。
とにかくハルシオンでの冒険は,愉快で,痛快で,そして人情豊かな仲間たちによって,とても充実したものだった。そんな「アウター・ワールド」の拡張DLC第1弾「ゴルゴンに迫る危機」が,2020年9月9日から配信されている※。つまりまた,あのおかしな連中とのスペースオペラを楽しめるということだ。
※Nintendo Switch版のみ,後日配信予定。
※DLCのコンテンツにアクセスするには,本編をモナークまで進めている必要があります。
前置きが少し長くなってしまったが,本稿では「ゴルゴンに迫る危機」をレビューしていきたい。
「The Outer Worlds」公式サイト
ラスト30分の怒涛の展開は圧巻
「ゴルゴンに迫る危機」では,小惑星を舞台にとある薬品の謎にまつわる物語が展開される。冒頭,主人公たちの母船「アンリライアブル」(日本語訳すると「アテにならない」。銀河を冒険する船にまったくふさわしい名前だ)に,やけに他人行儀な配達員から小包が届く。それを開くと,誰かの千切れた腕とボイスレコーダーが……。
ボイスレコーダーにはこの船の元持ち主,キャプテン・ホーソーンと因縁浅からぬ相手のメッセージが残されていた。ゴルゴンなる惑星で「とびきり大きな仕事」にありつけたものの,道半ばにして力尽きようとしている。あとはお前に任せるから,過去の借りはチャラにしろとのこと。死ぬ寸前だというのに,何とも律儀なスペース・カウボーイなこった。こうしてアンリライアブルの一味は,その依頼主に会うことにする……。
のっけから「アウター・ワールド節」全開といったところだが,さらに物語のテンポは加速する。惑星ゴルゴンに到着するや否や,あたり一帯に大音量で住民に避難を促すサイレンがプレイヤーの耳をつんざく。ゴルゴンでは何やら秘密の実験が行われていたらしく,そこにはハルシオン随一の大企業,スペイサーズ・チョイスが関わっているようだ。
危険なならず者がはびこる惑星,放置された研究所,大企業による陰謀,ハルシオンの割には妙に紳士的な依頼人,そして突如として現れる発信者不明の信号。本編ではユーモラスなスペースオペラだった「アウター・ワールド」だが,このDLCでは突如として,過去を掘り返すSFミステリへと変貌する。
そんな物語の舞台となる惑星ゴルゴンは,本編に登場した大きめの惑星,モナークやテラIIと同じ程度の広さがあり,プレイヤーは存分にこの怪しい惑星を探索できる。
もちろん,本編と同様に珍妙な登場人物たちにも出会える。自分は企業のマスコットに監視されていると思い込むブラック企業の社員,密輸品の受け渡しに来たものの待ち合わせの目印だという「ラマ」が分からないと嘆く運び屋など,彼らとのユーモラスな会話はサブクエストという形で楽しめる。
しかし,何と言っても見どころは,研究所の陰謀に迫るメインクエストだ。ネタバレになってしまうので詳細は伏せるが,本編でも異物混入だの過重労働だの,コンプラなんざ太陽系に置いてきたぜ!と開き直ったように好き勝手やってきたブラック企業たちの本性,ゴルゴンに遺棄された数々の研究施設,それらを巡る謎に満ちた連中の企てなど,次々に興味をそそるエピソードが舞い込む。それらがすべて解決していくラストの約30分にわたるクエストは,まさにSFミステリと呼ぶにふさわしい見事なフィナーレだった。
こうした謎を巡る道中にも,やはり「アウター・ワールド」というか,Obsidian Entertainmentならではの豊富な選択肢が存在する。プレイヤーが考える主人公像に応じて,相手の話に頷いたり,反発したり,ジョークで返したり,口説いたり。本編と同様,事故死したキャプテン・ホーソーンと偽って,彼の伝説をまた一つ築き上げてしまってもいい。プレイヤーの決断と行動に対して,キャラクターたちは多種多様な反応を見せてくれるので,ついセーブ&ロードを繰り返して,いろいろなパターンを観測したくなる。
なかでもラスト30分の怒涛の展開においては,プレイヤーの選択次第で複数のエンディングが用意されている。誰かを救えば,誰かが死んでしまう……という葛藤から,試行錯誤の末にオルタナティブを見出せるのか? ぜひ読者にはプレイヤーとして,いや,キャプテンとして宇宙の命運がかかった選択に立ち会ってほしい。
ゲームプレイとしてはあまりにも平凡
以上のように「ゴルゴンに迫る危機」は,もとより徹底してユーモラスに洗練されたテキストから展開される上質なSFコメディだった本編にミステリ要素を盛り込んだことで,テキスト上で織りなす原初的なロールプレイの魅力をさらに引き上げたDLCとして仕上がっている。
要するに,本作はあくまで「替え玉」のようなものだ。テキストを中心として世界を読み解くRPGとしては相変わらず面白いけれども,ゲームデザインの変化がほとんどなかったために,総合的なゲームプレイの体験としてはダレてしまう点が気にかかった。本編を楽しめた人なら,今回も銀河の珍道中を存分に楽しめるだろう。逆に本編が合わなかった人には退屈なだけの通勤になってしまう。
そもそも「アウター・ワールド」本編における,一人称視点で冒険するRPGというゲームデザイン自体,Obsidian Entertainmentが開発を担当した「Fallout: New Vegas」(2010年)から丸々引き継がれているものである。補足すると,元々「Fallout』シリーズ自体はInterplay Productionsという企業によって,1997年にリリースされたアイソメトリックビュー(いわゆる見下ろし視点)のRPGだったが,Interplayが経営不振に陥って続編の制作が困難になったとき,「The Elder Scrolls」シリーズで知られるBethesda Softworksが一人称視点を採用して「Fallout 3」としてリブートを果たした。これが好評を博したために,元Interplayのスタッフが再結成したObsidianが再びRPGを作るうえでも,Bethesdaと同じく一人称視点のRPGに変えたという経緯がある。
だが,ゲームプレイの面では,同じように銃を撃ち,時に口八丁で相手をだまし,一癖も二癖もある仲間とブラックユーモアに満ちた世界の命運を決める……という点において大きく変わらない。そのうえ,DLC「ゴルゴンに迫る危機」まで変化なしとあっては,いくらストーリーが面白くともマンネリを覚えてしまう。
興味深いことに,10年前のObsidian Entertaimentは,「Fallout 3」からゲームデザインをそのまま受け継いだ「Fallout: New Vegas」に満足できていなかったようで,同作のDLCではあらゆる手を講じてゲームデザインの刷新を図っている。
例えば,第1弾「Dead Money」では装備を没収されたうえで,新しい仲間と装備と共に戦う展開が,第2弾「Honest Hearts」には新しい勢力間クエストが,第3弾「Old World Blues」はユーモラスなクエストと共にぶっとんだ化学兵器が用意されていた。そして,最後の「Lonesome Road」では完全な一本道に絞ることで,壮大な物語に見事な終止符を打つ結末へとプレイヤーを導いた。
筆者はこれらすべてのDLCをプレイしたけれども,いずれも名作で驚いた。DLCと言えば大抵消化試合のような内容が多いなか,原作のテイストを活かしながらも独自のギミックを組み込み,ちゃんとそれぞれに光る何かがあったからだ。
とくに「Dead Money」は突然の身ぐるみを剥がされるという絶望感に満ちたイントロから,胡散臭い仲間や癖の強い武器を集めて敵地に乗り込み,カジノの奥深くに眠る金庫を目指すという内容で,べらぼうに高難度であることさえ除けば,1本のゲームとして売り出しても成立しそうなクオリティだった。
そうした本編にはない体験をDLCで紡いでくれたObsidian Entertainmentだからこそ,今回の「ゴルゴンに迫る危機」を残念に思ってしまう。DLCならではのユニーク武器やマップが収録されているものの,見た目や名前が違うだけで本編との変化に乏しく,DLCならではのゲームデザインの変化があれば,もっとSFミステリとして充実した作品になっていたはずだ。
まだ見ぬ宇宙へ旅立つ,壮大なSFコメディを描いた「アウター・ワールド」。あらゆる部分から既存のSF作品やコメディ作品に対するリスペクトが溢れており,従来のRPGではまず見られない上質な読了感を味わえた点は美しいが,そうしたバックグラウンドをプレイヤーの血肉へと変えていくには,同じだけのクオリティを持つユニークなゲームデザインが必要だ。第2弾のDLCには,そのあたりの革新を期待したい。
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