レビュー
少年少女たちの,ひと夏の成長物語。「ライザのアトリエ 〜常闇の女王と秘密の隠れ家〜」レビュー
退屈な村で,やりたいことを見つけて輝く少年少女たち
主人公のライザが暮らすのは,湖の島にある「ラーゼンボーデン村」。母親から畑仕事の手伝いをするよう求められ,なおかつとある決まり事があるこの村は,好奇心に溢れるライザにとっては窮屈で仕方ない。さりとてやりたいことも見つからず,力持ちのレントや本の虫であるタオといった幼馴染みたちとつるみ,実家の手伝いをサボっては大目玉を食らう毎日を過ごしていた。
そんなある日,ライザたちは出入りを禁じられている湖の対岸へと冒険に出かけ,商家のお嬢様であるクラウディア,そして錬金術士のアンペルと女戦士のリラに出会う。彼らとの出会いによって,ライザたちはついにやりたいことを見つける。錬金術に魅せられたライザと,手柄を立てて村人を見返してやりたいレント,家にある古文書を読み解きたいタオ,そして3人と本当の友達になりたいクラウディア。4人はそれぞれの望みを胸に,島の外を探検するのだった。
商家のお嬢様・クラウディア。内気だが芯の強いところがあり,ライザたちに急接近する |
錬金術士のアンペルと女戦士のリラには,何やら秘めた目的があるようだ。ライザたちを冒険に導く |
夏の退屈な日々に見つかった新たな目標,そして外からやってきた新しい友達。本作のストーリーはジュブナイルの色合いが濃い。ライザたちは英雄でも手練れの冒険者でもなく,「悪童」と呼ばれる困ったちゃん。いわば等身大の少年少女であり,そんな彼らが目標を見つけて変わっていく姿には感情移入しやすい。こっそりと錬金術を始めたライザが,無理解な大人たちからの偏見を受けつつ,森の中に秘密の隠れ家を作る……という辺りは,ジュブナイルの王道という感じでワクワクするものがある。
一方で,有力者の息子・ボオスに腰巾着のランバーといったいじめっ子たちとの確執や,酒癖の悪い父親のせいで村人から白眼視されるレントなど,少年少女たちの悩みも描かれる。しかし,自らの地位にふさわしくあろうとするボオスの焦りや,ライザたちを見守る大人たちの気持ちも理解できるので,先の展開が気になってくる。
レントの父,ザムエルは過去にあった何らかの事件で酒浸りとなり,息子に暴力を振るうことも |
周囲の大人たちはライザを見守っているが,その真意はなかなか届かない |
また,ライザたちが退屈に思っていた村の決まり事は,実は単なる因習ではなく,島の特別な事情によるものだった。それがどういったものであるか,冒険を続けるライザたちを待ち受けるものはなんなのかは,ゲームを進めて確かめてほしい。
リアルタイムで展開する,スリリングなバトル
フィールドでは,「錬金術」の材料となる素材の採取や,魔物との戦闘が行える。採取できるポイントは,草むらや樹木,岩場などさまざまで,「虫取り網」や「釣り竿」といった道具を作れば,より多くの素材が入手できるようになる。
本作では「鎌」や「斧」など,道具によって同じ採取ポイントでも異なる素材が手に入るようになった。樹木の場合だと,杖で叩けば実が落ちてきて,鎌なら樹皮を剥ぎ取れ,斧なら材木が入手できるといった具合だ。完全にランダムだったこれまでと比べて,「この道具ならこれが取れるな」というのがなんとなく分かるので,狙ったものを集めやすい。
魔物との戦いは,いわゆるシンボルエンカウント&コマンド選択式。フィールド上の敵に接触すると戦闘モードに切り替わり,キャラクターの行動をコマンドで選んでいく。これまでの「アトリエ」シリーズの戦闘はターン制だったが,本作では「リアルタイムタクティクスバトル」が採用され,状況判断とリソース管理が重要となる新基軸が導入されている。
本作の戦闘はリアルタイムで進行し,敵味方が入り乱れて戦う。時間が進むにつれて画面左のタイムラインが動き,素早い者から行動の権利を得ていく。コマンドを選択している時も,戦闘の進行が止まることはない。こちらがぼーっとしていても,敵や操作キャラクター以外の味方はお構いなしに行動するため,素早く適切なコマンドを選んでいこう。
プレイヤーが操作するのは3人パーティのうち1人で,残りは勝手に行動してくれる。操作キャラクターを切り替えることもできるため,ライザやレントといったアタッカーで派手に戦うのもいいし,タオやクラウディアといったサポート系を使ってじっくりと戦況を見極めるのもアリだ。
勝つためには,「AP」と「CC」というリソースの管理が重要となる。APは「アクションポイント」の略で,主に敵に通常攻撃を当てると増加する。スキルを使うのに必要となるだけでなく,一定値を消費して「タクティクスレベル」を上げると,単発だった通常攻撃が連撃できるようになってAP蓄積効率が上がるのに加え,一部のスキルの威力や効果もアップするというメリットもある。
つまりAPには「その場でスキルを使ってダメージを与える」か「将来のためにタクティクスレベルを上げ,APを溜める効率上昇とスキルのパワーアップを取る」かという選択があるわけだ。一見すると後者が有利だが,タクティクスレベルを上げるには,1→2レベルで10ポイント,2→3レベルで20ポイント……というように大量のAPを消費する。
また,敵が大技を使いそうな時は,タイムラインを無視して即時行動する「クイックアクション」で妨害するのがオススメだが,こちらも10ものAPが必要だ。APの配分を誤ると,いざというときにスキルやクイックアクションが使えない。APを溜めるべきか,使うべきか,状況判断が重要だ。
ボスや対集団戦といった難敵相手の戦いは,APのおかげで楽しいものとなっている。APの蓄積効率は,戦闘が長引くほどアップするからだ。スキルがどんどん使えるようになり,無理なくタクティクスレベルも上げられ,スキルの威力や効果がアップしていく。要するに,バトルは尻上がりに派手になっていくのだ。
なお,APやタクティクスレベルは戦闘が終了すると初期値に戻るため,維持に気を使う必要はない。
本作の戦闘で,仲間との連携を描くのが「アクションオーダー」だ。連携といっても操作は簡単。戦闘中,仲間から「アイテムを使ってほしい」「魔法ダメージを与えてほしい」といったお題を出されるので,これに応えてあげるだけでいい。すると,仲間がお礼に「オーダースキル」という特殊技で助けてくれるのだ。
オーダースキルは1人のキャラクターが攻撃や回復など複数を所持しており,状況に応じて自動で使い分けてくれる。また,タイムラインを無視して即座に発動するうえ,消費するための対価となるものは何もない。加えて効果が高いため,狙わない理由はないというくらいに強力だ。
強敵に大ダメージを与えて戦局を一気に有利にしてくれたり,HPがギリギリのところで回復してくれたりと,仲間の存在を強く感じられ,感情移入もより深まる。お題の種類はさまざまだが,達成するにはAPが必要なことが多い。時にはタクティクスレベルを上げるよりアクションオーダーを優先した方が良いこともあるため,AP管理はしっかりしておきたい。
もう1つのリソースであるCCは「コアチャージ」の略で,アイテムを使う際に必要となる。錬金術による調合で作った薬や爆弾といったアイテムで戦闘を有利に進めるのは,これまでのシリーズと同様だが,本作ではアイテムをいくら使ってもなくならない。その代わり「1回の冒険でアイテムを使える回数」としてCCという数値が設定されており,この枠内でやりくりする必要がある。
CCは「手持ちのアイテムを,その冒険の間使用不可能にする」ことで回復できるため,いざというときにはどのアイテムを犠牲にするかの見極めも重要となる。筆者のような「勿体なくてアイテムを使えない」症候群の人でも,調合テクニックを駆使して作った強力なアイテムを存分に使えるというわけだ。
APやCCによって独特の戦略性が生まれ,本作の戦闘はより面白いものとなった。アクションオーダーやクイックアクションといった要素を理解できれば,より楽しめるだろう。リアルタイム戦闘となって,操作はちょっと忙しいが,難度は自由に変えられるため,物語そのものを深く楽しみたいなら「EASY」にしてしまうのもアリだろう。
限られた素材を活かして最良の品を作る,試行錯誤の錬金術
錬金術による調合についても新しい仕組みが取り入れられている。ざっくりといえば「限られた素材数の中,良いものを作るために材料選択が重要になるシステム」といったところだろうか。RPGやシミュレーションで見られるスキルツリー的な仕組みが軸になっており,「全部のスキルが取得できない中,いかに目的に応じたスキルを選ぶか」を考えるのに近い。
「アトリエ」シリーズの錬金術は実に万能で,食べ物や攻撃・回復アイテム,武器,防具など,さまざまな品を「調合」により自分で作り出せる。本作でもこれは同様で,調合で作ったアイテムを納入するクエストも多い。戦力を強化するには,ショップに行くより装備品を調合した方が早いくらいだ。
また,本作の調合でも,フィールドから採取できる素材を使って,何段階かに分けて加工する必要が出てくる。例えば,何か装備品を作るにしても,まずは鉱石を採取してインゴットにし,これを糸から作った布や,植物を使った薬品と調合してやっと完成するといった具合だ。
本作における調合の基本は,「マテリアル環」に決められた材料を投入し,品物を作り出すという行為だ。その基本的な手順は
- マテリアル環ごとに決められた属性を持つ材料を投入
- 材料が持つ「属性値」の合計が特定の値を超えるとマテリアル環がレベルアップ
- マテリアル環がレベルアップすると,アイテムに特殊効果が付与されたり,品質が上がったりと良いことがある。また,隣のマテリアル環へのルートがつながり,そこにも材料を投入できるようになる
となる。文字にするとややこしいかもしれないが,「おまかせ材料投入」というオート機能も用意されている。
複数のマテリアル環がつながりあっている様は,スキルツリーさながらだ。スキルツリーにポイントを注ぎ込むほどキャラクターが強力になるように,本作の調合でも,たくさんのマテリアル環に材料を投入できれば,それだけ良い品物ができあがる。
ここで「じゃあ,できるだけ多くの材料を投入し,全部のマテリアル環をレベルアップさせれば凄い品物ができるじゃん!」と思うかもしれないが,一度の調合で投入できる回数が決まっているのでそうはいかない。スキルツリーで例えるなら,使えるスキルポイントの数は限られているので,全部のスキルは取れないという状態なので,特化ビルドよろしく取捨選択が必要になるのだ。
マテリアル環のつながりは,たいてい品質重視ルートだったり,特殊効果重視ルートだったりと分岐している。こうした中,手持ちの素材と相談しつつ,目的に応じた品物を作るのはパズルっぽい思考が必要になる。
これに加え,「採取できる素材にランダムな『特性』が付与されており,調合したアイテムにも引き継ぐことができる」というお馴染みのフィーチャーももちろん健在。引き継げる特性の個数もマテリアル環をレベルアップさせることで増えていくため,こちらもおろそかにはできない。大事な調合,特に装備品を作る際は,できるだけ特殊効果をマシマシにしつつ,特性も引き継いで,さらに品質も求めたいため,ああでもないこうでもないと試行錯誤することになる。それだけに,たくさんの特殊効果や特性を持つ装備品ができた時の喜びは格別だ。
武器や攻撃アイテムなら属性ダメージを与え,特定の種族にクリティカルが発動。防具だと,防御力が高まったり,行動する度にHPが回復したりする。回復アイテムなら,より多くのHPが回復したり,特殊なバフも付与されたりといった具合で,調合をやり込むことで,戦闘がより楽しくなる。
また,特定のマテリアル環をレベルアップさせることで新しいレシピが習得できるので,こちらも積極的に狙っていきたいところだ。
リアルタイムで戦いつつ,リソース管理と状況の見極めが必要になる戦闘。そして,試行錯誤が楽しくなった調合。本作で導入された新要素は,どれもプレイに深みを与えることに成功しているという印象だ。
あえて不満を挙げると,斧や鎌など採取道具の切り替えがちょっと煩雑に思えたり,望みの場所へ一瞬で移動できるファストトラベルも,カーソルの初期位置が調合やセーブが行える拠点に合っていなかったりと,もう少しブラッシュアップしてほしい部分がないわけでもないが,逆に言えばそういった細かい部分が気になるぐらいだ。
やり込み系RPGとしてだけでなく,イラストのようなグラフィックスで描かれたキャラクターたちが成長していく,ジュブナイル色の強いストーリーももちろん楽しめる。世界観とキャラクターが一新されており,「アトリエ」シリーズに触れたことがない人が遊びやすいのもポイントだ。本作は,キャラクターデザインの話題で大いに盛り上がっているが,ライザに惹かれたという人も,ぜひ本編をプレイしてみよう。
「ライザのアトリエ 〜常闇の女王と秘密の隠れ家〜」公式サイト
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