プレイレポート
歴史に残る名作RPG「Mass Effect」レビュー。3部作のリマスター版がリリースされたスペースオペラの魅力を紹介
RPG好きなら外せない,伝説的RPGの復活
日本人はRPGが大好きだ。多少なりゲームが好きな人が集まれば,あの「ドラゴンクエスト」がよかった,いやいやこの「ファイナルファンタジー」が……なんて話しながら,人によっては「女神転生」や「ゼノギアス」こそ至高と言い出し,RPG談義に花を咲かせる。どうも,数ある名作ゲームの中でもRPGは少し特別というか,どこか自分たちの故郷のような安心感がある。きっと幼い頃に触れ,何十時間も遊べるボリュームがあったから,いっそう記憶に残るのかもしれない。
では北米ではどうだろうか? 北米における日本のRPG人気は言うまでもないが,彼らにも自分の記憶の中に眠る,懐かしき名作RPGはたくさんある。中でも,宇宙を舞台にした壮大なスペースオペラRPG,「Mass Effect」シリーズなどは正にその典型だ。2007年にシリーズの第1部となる「Mass Effect」が発売され,それから2010年の「Mass Effect 2」,2012年の「Mass Effect 3」をもってトリロジー(3部作)が完結(のちに外伝となる「〜Andromeda」がリリースされている)。シリーズ作品は累計1400万本を売り上げ,Metacriticの平均点も90前後と評価も高く,向こうでは「人生で最高のRPG」に「Mass Effect」を挙げる人も少なくない。まさに北米を代表するRPGといえるだろう。
そして,2021年5月14日に「Mass Effect」シリーズのナンバリング3作品が全体的にリマスターされた上,1本にまとまった「Mass Effect Legendary Edition」(PC / PS4 / Xbox One)が発売された。ただ映像が美しくなっただけでなく,PC,PS5,Xbox Series X,PS4,Xbox Oneで,しかも日本語字幕付きでプレイできるという(オリジナル版のMass Effectはハードによっては日本未発売のタイトルやDLCがあったり,英語版のみのリリースだったりした)。これは海外の「Mass Effect」ファンの熱狂を横目に「日本語があったら遊んだんだけど……」と手をこまねいたゲーマーや,そもそも「Mass Effect」って何? という人にとっても朗報ではないだろうか。
さっそく,この名作RPG「Mass Effect」の魅力と,リマスターによる変化について解説したい。
「Mass Effect Legendary Edition」公式サイト
エイリアンを殺さないSFゲーム
ビデオゲームにおける三大雑魚役といえば,ゴブリン,ゾンビ,そしてエイリアンだ。
筆者のまったくの独断なので賛否はあると思うが,いずれにせよ,このお三方はとにかくプレイヤーによるあらゆる暴力の犠牲者の筆頭といえるだろう(スライムやロボットなどもメジャーな犠牲者である)。
ゴブリンは言うまでもなくRPGなどのファンタジーにおいて,しょっちゅう剣で真っ二つにされたり,炎の魔法で焼き殺されたりしているし,ゾンビといえばとにかく数,数,数でプレイヤーに恐怖と爽快感を同時に与えられる名脇役だ。
そして最後にエイリアン。最近ではあまり見なくなったが,「スペースインベーダー」での華々しいデビューを軽んじることはできないし,なんと言っても北米のゲーム文化での活躍が顕著だ。「Half-Life」「StarCraft」「Gears of War」,往年の名作「洋ゲー」においてエイリアンの存在は欠かせない。とりあえず頭が肥大化して,下半身がやせぎすの生物を見つけたら銃で撃つも,火炎放射するもプレイヤーの自由,いつの間にか多くのゲーマーはそう考えるようになっていた。
そうした「エイリアン差別」に対して,異議を唱えたのが「Mass Effect」だった。この作品はRPGのシステムを下敷きに,戦闘は三人称視点で銃を撃ったり超能力を使ったりする,いわばTPS。だが戦う相手とは会話や根回しによって事前に和平を結ぶこともできるという,「エイリアンと仲良くなれるゲーム」でもあったのだ。
「Mass Effect」の舞台は,現代よりはるか未来の2183年。地球人類はエイリアンたちと接触し,そこではるか古代の文明「プロセアン」の遺物に触れたことで,宇宙進出やコロニー建設にはじまる数々の科学的ブレイクスルーをたった数十年で達成していた。
ところがすでに宇宙では,アサリ,サラリアン,トゥーリアンという人間以上の知性を持つ種族たちによる「評議会」が結成されており,出遅れてしまった人間たちは一致団結し,他のエイリアンたちに認めさせ,評議会での立場を向上できるよう,実績を築く必要があった。そこで主人公のシェパードは軍人として,人間代表として,武勲を立てようとするのだが……という物語が展開する。
このように,「Mass Effect」におけるエイリアンは有象無象の雑魚敵ではない。むしろ地球人類以上の権限を持ち,人間が彼らに「エイリアン」扱いされているのが現状である。もちろん戦争をふっかけて勝てるわけでもなく,かといってエイリアンたちも人間を殲滅しようとせず,お互い都合よく利用しようとする……いわば現代の国際社会のような力関係が成立している。
偶然だろうが,この人類のポジションはまさしく開国して世界へ飛び出そうとする,明治時代の日本のようなものだ。「エイリアンと仲良くなれるゲーム」というより,厳密には「エイリアンと仲良くせざるを得ないゲーム」と考えてもいい。
そしてこの奥行きのある世界設定が,「Mass Effect」の物語に深い味わいを与える。評議会を中心とする大手種族,そして評議会に入ることができない少数種族,彼らの母星の情報や変わった文化については,直接彼らエイリアンから聞くことができ,それらは実際にシェパードにとって有用なものとなる。マイノリティに同情的な姿勢を見せれば協調の余地が作れるかもしれないし,好戦的な種族に対してはむしろ喧嘩腰の方が仲良くなりやすい,といった具合だ。
とはいえエイリアンと言っても一枚岩ではない。例えば,トゥーリアン族は銀河で最も強大な軍事力を保有し,高慢な性格も相まって,新参者の人類には比較的厳しい。過去の諍いもあり,「所詮,人間なのだから……」とやや差別的ですらある。ただそんなトゥーリアン族にも,中にはギャレス刑事やナイルズなど人間を評価し,同情する者たちもいる。彼らとの交流を通して,今までただ敵だと思っていた種族の魅力を見出し,和平の可能性を探っていくといった,プレイヤーの選択を揺さぶる,ドラマチックな展開も「Mass Effect」の魅力と言える。
もちろん,「Mass Effect」の魅力は会話だけではない。「出身」から展開していく複雑な成長システムや,メインシナリオにはないユーモアあるサブクエスト,仲間を引き連れて指示が出せる戦闘なども一際光る。それだけで「面白い」といえるほどではないが,ゲームの進行をスムーズに進める上でのTPS×RPGのミックス具合は絶妙で,テンポよく楽しむことができる。
人間が所詮は宇宙の一部(ワン・オブ・ゼム)に過ぎないという点から始まり,そこから展開される,徹底的に練られた膨大なSF設定に加え,声優によりフルボイスで演じられる個性的な人々の描写,その中で人類は,プレイヤーは何を選び,何と戦うのか……。時としてサブクエストに寄り道をしたり,仲間を連れて戦闘を生き延びるというドラマを経て,自在に展開していくゲームプレイはまさしく唯一無二。初代「Mass Effect」はすでに14年前のゲームだが,いま遊んでも色褪せない名作だ。
リマスター化で引き締まったディテール
前述のストーリーは,もちろん「Mass Effect」トリロジー(3部作)のほんのごく一部に過ぎない。
実はこの作品,初代から「3」までを一連の大河RPGとして作られていて,銀河を巻き込んだ壮大かつ連続性のあるストーリーが繰り広げられる。当時のファンはクリア後に「この続きをあと何年待てばいいんだ!」と頭を抱えていたが,リマスター版であればそんな心配はいらない。全てプレイすれば100時間はゆうにかかるシリーズを,「ビンジる(ぶっ通しでプレイ)」ことも可能だ。
リマスター版としてはやや強気なフルプライス(税込8700円)だが,このボリュームとクオリティを考えればむしろ良心的といえるだろう。PC版OriginのサブスクリプションサービスのEA Play(Pro)にも対応している。ほかのEAタイトルもプレイできるので,よりお得に遊びたいなら選択肢の1つとしていいだろう。
とはいえ,リマスター版といえど2007年のゲームをいまさら遊ぶことに抵抗を覚える人もいるだろう。実際,リマスターと一口に言っても,その質は千差万別。「え? これどこが変わったの?」とがっかりするリマスターも中には存在するが,その点,「Mass Effect Legendary Edition」の磨き具合にははっきり言って驚いた。「リメイク」とまではいかないでも,単なるリマスター以上のクオリティだからだ。
特に「Mass Effect」シリーズでは会話の度に話者の顔がドアップになるのだが,この顔のテクスチャが凄まじい。人間であれば皺やシミまで細かく描いているし,エイリアンたちの造形もよく表現できている。会話が重要なゲームであるだけに,この変化は非常に嬉しいところだ。
またフィールド上の背景や雰囲気も大きく改善されている。「Mass Effect」は銀河の星々を宇宙船「ノルマンディー」で冒険するスペースオペラ。多種多様なロケーションの惑星を訪れ,美しい世界に見惚れるのもまた旅の醍醐味だが,この点も「Legendary Edition」では潰れかけたディテール(当時は素晴らしい映像美だったはずだが)がくっきりと視認できるようになり,ライティングも自然になった。揺れる木々やびっしりと並ぶ建造物のCGの微細さはもちろんのこと,レーザーやジェットのようなSFにつきものな青白い「光」のエフェクトが特によく改善され,これで迫力が段違いになった印象である。
なぜここまでリマスターのクオリティを上げることができたのか。興味深いことに,開発元のBioWareが参考にしたのはユーザーの作るMODだったという。MODとはユーザーが独自にプログラムを変更・修正する行為のこと。中でも人気の高い「Mass Effect」にはグラフィックスを変更するMODが多数存在したが,BioWareはこれらのMODを丁寧に分析し,「これ以上のクオリティを出す」ことを目標にして開発した上に,MODの開発者と協力したという。基本的には開発者に無断で改造するMOD文化まで取り込み,美しさを追求するBioWareの姿勢が,このリマスターにはよく表れている。
ただリマスター版にもいくつか不満がある。例えば,FOV(視野角)が変更できないために酔いやすいとか,ダッシュ中にカメラの揺れをオフにできないとか,マップを開くのに一度メニューを通さなければいけないといった,基礎的なアクセシビリティがやや古臭い。
特にFOVはデフォルトで70というかなり狭い設定で,カメラ揺れが固定なのも相まって,3D酔いする人はかなりプレイが苦痛になるだろう。またミニマップが不便な割に,マップは1ボタンで開けないとか,UI部分での不便もある。特に100時間以上の長大なゲームとなるだけに,このような基礎部分は修正するべきだっただろう。
北米の名作RPGでありながら,ハードや言語の壁でなかなか自由に遊ぶことのできなかった,名作SF・RPG「Mass Effect」。MODも飲み込むクオリティのリマスターに加え,3部作がセットになったお得さ。特に「スタートレック」や「スター・ウォーズ」など往年の名スペースオペラが好きだという人や,重厚な設定を読み解いて自分だけの選択をするゲームが好きという人には,ぜひ一度手にとってほしい作品だ。
「Mass Effect Legendary Edition」公式サイト
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(C)2020 Electronic Arts Inc.
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