レビュー
PS5でもPCでもいけるゲーマー向け製品第1弾はとてもしっかりした製品だ
ソニー INZONE M9
(SDM-U27M90)
新ブランド「INZONE」を立ち上げて,ソニーがPCゲーマー向けデバイスに参入した。PlayStationシリーズを展開してきたソニーなので,違和感なく受け入れた読者も多いと思う。そのブランド第1弾となったのが,ヘッドセットの「INZONE H」シリーズと,ディスプレイの「INZONE M」シリーズというのは,AV製品で名高いソニーらしいラインアップとも言えよう。
ヘッドセット最上位モデルの「INZONE H9」は,すでにレビューを掲載済みだが,本稿では,ディスプレイの「INZONE M9」を評価してみたい。
ゲーマー向け周辺機器参入メーカーとしては最後発でもあり,「ゲーマー向け製品に,ソニー独自の技術やノウハウをうまくまとめているのではないか」と期待する考える人も多いだろうが,実際,そのとおりだ。INZONE M9は,ゲームをプレイするなら,ソツなく扱えるナイスなゲーマー向けディスプレイといえる。早速,見ていこう。
PS5を思わせるシンプルな白と黒の外観
ところで,INZONE M9の製品名を見て,「何インチサイズなのかな?」と思った読者もいるだろう。筆者も初めは気付かなかったのだが,実は本製品,「SDM-U27M90」という型番があり,きちんと「27」と書かれていた。ちなみに,「SDM」とは,ソニー製のPC向けディスプレイで長年使われている接頭語であり,その意味ではINZONE M9も,同社製ディスプレイの系譜に連なるものだ。
そんなINZONE M9は,27インチサイズで,解像度3840×2160ドットの4Kゲーマー向けディスプレイである。IPS方式の液晶パネルを採用しており,垂直最大リフレッシュレートは144Hz,中間調(Gray to Gray)応答速度は最小1msという具合で,今どきのゲーマー向けディスプレイで求められる仕様は,しっかりと押さえているといった具合だ。
また,詳しくは後述するが,VESAのディスプレイ同期技術「Adaptive-Sync」や,NVIDIA独自のディスプレイ同期技術「G-SYNC Compatible Monitors」の認証を取得していたり,PlayStation 5(以下,PS5)でも利用できるHDMIのディスプレイ同期技術「Variable Refresh Rate」や,HDR映像規格「DisplayHDR 600」にも対応するなど,ミドルクラス〜ハイエンドのゲーマー向けディスプレイでなければ搭載していないような機能も備えている。
外観から見ていくと,前面は黒基調のよくあるゲーマー向けディスプレイなのだが,背面やスタンドは,PS5のような白基調になっている。ゲーマー向けディスプレイを俯瞰してみると,そのほとんどが黒基調なので,たとえば,eスポーツシーンでINZONE M9が使用されていれば,ソニーの製品と即分かるのではなかろうか。このデザインには,戦略的な意味合いもあるのだろうが,「黒いディスプレイ」ばかりでちょっと敬遠していたのであれば,ビジュアル面でもINZONE M9は選択肢に入ってくるだろう。
なお,背面にあるLEDイルミネーションの光り具合も控えめで,OSDメニューや後段で説明するソフトウェアの「INZONE HUB」で消灯もできる。
INZONE M9のスタンドは,床面を3点で保持するもので,華奢そうな見た目に反して安定感がある。設置や位置の調整時にも安定しており,不安を感じることはなかった。
スタンドの可動範囲だが,まず上下回転(チルト)が可能で,角度は0〜20度の範囲で動かせる。高さ調整も可能で,最大70mmの範囲で上下の位置を調整可能だ。左右回転(スイベル)はできないのが気になるところだが,本体を少し持ち上げて,中央手前の支柱を中心に回すように動かすと,すんなり調整できた。設置時点でしっかり位置や向きを決めておけばいい,という意図なのだろう。
映像入力インタフェースとしては,DisplayPort 1.4が1ポートとHDMI 2.1が2ポートに加えて,USB Type-C x1 (DisplayPort Alt Mode対応,Upstream)を備える。これらに加えて,USB Type-B×1(Upstream)とUSB Type-A×3 (Downstream),3.5mmミニピンヘッドフォン出力も備える。USBポートにつないだマウスやキーボードを2台のPCで共有して使う「KVM」機能にも対応しているなど,INZONE M9は,インタフェースの数や機能が充実していると言えよう。
さらに,HDMI入力は,HDMIのディスプレイ同期技術「Variable Refresh Rate」に対応しているので,PS5ユーザーがINZONE M9を選ぶのもありだろう。
素性が良く,キャリブレーション済みの液晶パネル
細かいことを気にせず,「きれいな画面で遊べるディスプレイが欲しい」というときに,ひとつの指標となるのがVESAのHDR関連規格「DisplayHDR」だ。
今のところ,DisplayHDR 400/500/600/1000/1400が規格化されており,それらに対応する液晶ディスプレイが市場に流通している。HDR映像の表現力に期待したいなら,DisplayHDR 600以上を選びたいところだ。DisplayHDR 600は,HDR映像のゲームや映像コンテンツを楽しむだけでなく,Windows 11でゲームを遊ぶときに,OS側の「オートHDR」機能をオンにしておくと,ゲームの映像がSDRであっても,自動でHDR相当の輝度やコントラストに引き上げてくれるので,HDR対応ゲームのような映像でプレイできる。
さらに,INZONE M9は,液晶パネルの裏側に複数のバックライトを並べた「直下型LED部分駆動」(※未公開だが96分割という話だ)を採用しており,HDR映像で,さらにメリハリの効いた絵を楽しめる。ここもINZONE M9において,ソニーが重視したい部分だったようだ。
まず,カタログスペックでのピーク輝度は600cd/m2とあるが,これはHDR時の話で,SDR時では実測で443cd/m2を確認できた。一方,どれくらい画面を暗く(黒く)できるのかが気になる読者も多いと思うが,最低輝度は実測8cd/m2まで下げられた。室内の照明を落としてゲームを楽しみたい場合にも都合がいい性能と言えよう。また輝度の調整幅は細かく,写真向けキャリブレーションにおける輝度の基準値である120cd/m2にも合わせやすい。
以下に掲載したスクリーンショットでも分かるかと思うが,パネルの素性の良さがうかがえるだけでなく,初期状態でもしっかりとキャリブレーションされているのが確認できた。
ディスプレイというものは,キャリブレーションをしても経年変化で微妙に色がズレていくものだ。とはいえ,色にシビアな人でも,INZONE M9の品質なら,まず気にならないし,そもそも人間の目が優秀すぎて,たとえズレしても,すぐ分からなくなる。ゲーマー向けディスプレイとして見た場合,初期値がしっかりしているということは,色表現力について気になる点はないと言えよう。
OSDではなく,INZONE HUBでの設定が前提
INZONE M9は,ディスプレイ内蔵のOSDメニューと,PC用の統合設定ソフト「INZONE HUB」の両方から設定を操作できる。
ざっくり言えば,INZONE M9のOSDメニューはゲームのことしか考えていない作りで,たとえばリモコンでOSDメニューを操作できるソニーのテレビ「BRAVIA」と比べると,本体背面のジョイスティックで各種設定を操作するのは,とても手間がかかった。それを補うというか,より使い勝手に優れた設定手段として,INZONE HUBを用意しているのだろう。
実際,他社のディスプレイ向け設定ソフトと同様に,設定全体の把握は格段に楽になるので,INZONE M9を購入したら,ファームウェアのアップデートがてら,INZONE HUBをPCにインストールすることをお勧めする。なお,INZONE HUB自体はディスプレイ専用ではなく,INZONEブランドのヘッドセットでも使用するものだ。
INZONE HUBでのディスプレイ設定は,主に「画質モード」,「画質調整」,「ゲームアシスト」の3項目に分かれている。
画質モードには,「標準」「FPS」や「シネマ」などのプリセットと,ユーザーがカスタマイズできる「ゲーム1」「ゲーム2」がある。まずはFPSモードで様子を見て,画質調整で好みに合うよう調整していくといいだろう。
ゲームのプレイ用としては,ジャンルを問わずFPSモードが適する感じだ。「BRABIA的な調整」という印象も受けた。
ゲームアシスト機能は,「フレームレートカウンター」と「Adaptive-Sync/VRR」のオン/オフ,応答速度,ブラックイコライザー,クロスヘア,タイマー機能がある。
フレームレートカウンターは,読んで字のごとく,可変リフレッシュレート設定時に何Hz表示で駆動しているか分かるというもの。Adaptive-Sync/VRRは,単純に機能のオン/オフしかない。応答速度は「標準」「高速」「超高速」の3段階があり,「超高速」を選ぶとカタログスペックにある中間調応答速度1msでの動作になる。ただ,ゲームタイトルによっては違和感が出ることもあったため,「高速」程度で様子を見るのがいいだろう。
クロスヘアは,ディスプレイの中央にクロスヘア(照準)を表示して,エイムを補助するものだ。これまたゲーマー向けディスプレイではおなじみなので,細かい説明不要だろう。タイマーも同様に,ディスプレイ自体にタイマーを表示するものだが,あまり有効活用している事例を見たことがない。
ハイエンド相応の価格はネックだが,満足度は高いINZONE M9
ひととおりINZONE M9の見どころを見てきたわけだが,ゲーマー向けディスプレイの中でもトップクラスのハイエンド製品だけに,価格の高さはハードルだ。本稿執筆時点におけるソニーストアでの直販価格は15万4000円(税込)である。キャンペーンやクーポンでもう少し安く購入できるタイミングがあるにしても,似たサイズの競合製品と比べてみると,割高な印象は強い。
とはいえ,ここまでチェックしてきたように,最大リフレッシュレート144HzでHDMIのVRR対応,良好な発色の傾向といった具合に,ゲームを楽しむ環境としては良好な仕上がりだ。PS5と親和性のあるデザインも込みで選ぶなら,価格の高さを許せる人もいるだろう。
また,あまりハードウェアに明るくない友人から,ゲーマー向けディスプレイ選びを相談されたときの候補としてもよさそうだ。今どきのゲーマー向けディスプレイに求められる機能は,ほぼ全部入っているので,なにかと説明の手間が省ける。
ソニーストアや大手量販店で実機がチェックができるので,興味のある人はINZONE M9を実際に見てほしい。PS5にもPCにもマッチするゲーマー向けディスプレイであると,強く実感できるだろう。
Amazon.co.jpでINZONE M9を購入する(Amazonアソシエイト)
ソニーのINZONE M9製品情報ページ
- 関連タイトル:
INZONE
- この記事のURL: