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NVIDIA,SIGGRAPH 2022でメタバース関連技術や新しいグラフィックスライブラリを発表
目玉はメタバース関連技術ということになるが,ゲーム制作にも関連している技術が含まれているので簡単に紹介しておこう。
3Dディープラーニング・ライブラリ「Kaolin Wisp」や「NeuralVDB」を発表
まずは,ゲーム開発にも関連する話題から。SIGGRAPH 2022に合わせて,NVIDIAは,「Kaolin Wisp」と「NeuralVDB」という2つのグラフィックスライブラリを発表した。Kaolin Wispは,8月3日にNVIDIAの開発者向けBlogで掲載済みなので,厳密な意味での初出はNeuralVDBだけである。
Kaolin Wispは,2019年にNVIDIAがリリースした「Kaolin」というライブラリを土台として,新たに実装したライブラリだ。もとになったKaolinとは,コンピュータビジョンや自然言語処理をターゲットにしたPythonベースのディープラーニングライブラリである。
Kaolin Wispは,ソフトウェア開発を助ける各種モジュールやツールを含むそうで,グラフィックスに関わるディープラーニング分野の研究開発を行っている人を支援するための,Kaolinベースによるライブラリと理解しておけばいい。
なお,言うまでもないかもしれないが,KaolinおよびKaolin Wispは,「CUDA」によるGPUアクセラレーションに対応する。興味がある人は先述のBlog記事や,公開されているソース,およびドキュメント(関連リンク)を参照してほしい。
NeuralVDBのほうは,ゲーム開発にも関連してきそうな技術だ。
3Dオブジェクトのボリュームデータを扱う標準フォーマットおよびライブラリに,「OpenVDB」というものがある。OpenVDBのボリュームデータは,ゲーマーにもおなじみの「Unreal Engine」や「Unity」といったゲームエンジンに取り込めるので,ゲーム開発にも利用されているのだ。
NVIDIAは,このOpenVDBにNVIDIA製GPUによるリアルタイムレンダリング機能を追加した「NanoVDB」を公開済みだが,今回のNeuralVDBは,それに機械学習の技術を組み込んだものであるという。
機械学習を応用することで,メモリ消費量が従来比で100分の1に減るそうで,NVIDIA製GPUを搭載したノートPCのような環境でも,大量のボリュームセットが扱えるようになるという。NVIDIAの主張どおりなら,これまで高性能なワークステーションやクラウドサービスに頼っていた作業が,単独のPCで行えるようになるわけで,ゲーム開発にも影響を与えるかもしれない。興味のある人は,NeuralVDBの公式Webページをチェックして見よう。
メタバースに向けた開発を加速するNVIDIA
SIGGRAPH 2022におけるもうひとつの大きな話題は,メタバースに関連する技術である。
NVIDIAによると,「来るべきメタバースにおいて『Universal Scene Description』(以下,USD)が,WebにおけるHTMLのような役割を果たすようになる」そうだ。USDは,Pixarが開発した3Dグラフィックスシーンの記述形式,およびそれを扱うライブラリセットである。
メタバースでは,ユーザーが仮想世界になにか新しいものを付け加えたり,仮想世界になかったものを持ちこんだりといったことが行えるようになるだろうが,それを実現する鍵となる技術がUSDであるという。
そこでNVIDIAは,PixarやAutodesk,Siemensといったパートナー企業とともに,USDを用いた3Dデータにおける相互可搬性の実現や,開発ツールの提供,USDによる3Dデータの拡充といった環境整備を行うとともに,USDのロードマップを構築することを発表した。
同時に,NVIDIA製の3Dコラボレーションプラットフォーム「Omniverse」において,USDを取り込むプラグイン「USDコネクタ」や,そのための開発フレームワークを刷新するメジャーアップデートを実施することを発表している。Omniverseは,3Dグラフィックスやコンテンツを制作するために,複数のユーザーで協業するためのプラットフォーム技術である。今回のアップデートにより,Omniverseの自由度がさらに上がることになるそうだ。
NVIDIAとしては,すでに企業やコンテンツ制作者向けに提供しているOmniverseの技術を拡大して,メタバースにおける業界標準を確立していこうというところだろうか。
チューリングテストに合格できるアバターを実現するAvatar Cloud Engine
SIGGRAPH 2022でNVIDIAは,Omniverseに関連してもうひとつ,「Avatar Cloud Engine」(以下,ACE)という新しいサービスも発表している。
NVIDIAは最近,基調講演などでHuang氏のアバターを登場させているが,今回のACEは,アバターを容易に構築するためのAIモデル,およびクラウドサービスであるとのことだ。ACEを用いることで,AIと人間の区別がつくかを判定するテスト「チューリングテスト」に合格するほど,本物そっくりな受け答えができるアバターを構築できるという。
ACEは,NVIDIAが提供しているAI開発向けフレームワークである「Unified Compute Framework」上に構築されており,アバターに「スキル」を付与するためのツールやAPIセットが提供されるという。これにより,Omniverse上で本人の完璧な代理を務めることが可能なアバターを構築できるとのことで,なかなかSF的だ。
SIGGRAPH 2022におけるNVIDIAの発表をざっくりまとめてみたが,やはりNVIDIAとしてはGPU市場拡大に役立つメタバースの実現に向けて,力を入れて後押ししているようだ。Meta Platformsを始め,ゲームデベロッパなどもメタバースに取り組んでいるが,NVIDIAはGPUメーカーとして業界を横断的に俯瞰できる立場にある。そのために,コラボレーション技術であるOmniverseを通じて,メタバースの世界にもNVIDIAが大きく関わってくる可能性はありそうだ。
NVIDIAのSIGGRAPH 2022特設Webページ
- 関連タイトル:
NVIDIA Omniverse
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