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「“夜の”『OMEGA 6』開発者トークショー」開催。原作者の今村孝矢氏と開発陣が語る,コミックがゲームになるまでの軌跡
「OMEGA 6 THE TRIANGLE STARS」公式サイト
2日目となる6月15日には,「OMEGA 6」の開発を手がける今村孝矢氏(原作/グラフィックス),ハッピーミールの関 純治氏(ディレクター),シティコネクションの吉川延宏氏(プロデューサー)によるトークイベントが行われた。
任天堂在籍時は「スターフォックス」「F-ZERO」「ゼルダの伝説」などのシリーズ作品のアートディレクションやキャラクターデザインを担当し,2021年に同社を退社。独立後の現在はゲームクリエイター,イラストレーター,漫画家,大学教授といった肩書きで精力的に活動している今村氏。
「OMEGA 6」は今村氏が2022年に発表したコミック作品を原作とするアドベンチャーゲームだ。すべてのグラフィックスを氏が担当している。
イベント会場には今村氏が手がけたイラストや設定画,登場キャラクターの等身大パネル,特装版に同梱される特典のサンプルなどが展示され,Tokyo Video Gamersではコラボドリンクを提供していた。
トークイベントは登壇者と来場者の乾杯でスタート。32年間勤務した任天堂を2021年に退社した今村氏は,独立して自身を売り出しているときに,フランスで出版社を経営する任天堂ファンの人物と再会。当時描いていたマンガをアピールしたことがきっかけとなり,2022年に原作コミック「OMEGA 6」をフランスで発売した。
ゲーム化のきっかけには,もう1人のプロデューサー,プリオシーヌ代表の松谷隆廣氏の存在があった。今村氏と同じ大学で教鞭を執っていたこともある松谷氏は,以前から一緒にゲームを作りたいと話しており,2Dドット絵のアドベンチャーゲームならば別の仕事に大きな影響はないだろうと企画を提案した。
今村氏もアドベンチャーゲームはコミックの延長線上にあるジャンルであり,2Dドット絵ならばタブレット端末で作業が進められることから企画を承諾。その条件として「絵は俺が全部描く」ことを提示した。第三者に描いてもらった絵を監修して修正するよりも,自分が描いたほうが早いと考えたからだった。
関氏とは松谷氏の仲介で出会ったという今村氏。さらに関氏は吉川氏と元々知り合いで,「大分・別府ミステリー案内 歪んだ竹灯篭」に収録されたミニゲーム「ケイ・ドローンズ」でコラボしたこともあり,企画を持ち込んでから動き出すまでは非常に早かったそうだ。
吉川氏は今村氏のコンテンツを小さいものにしたくないということで,ダウンロード販売だけでなく,パッケージ版の販売も確約したという。コミック「OMEGA 6」を原作とし,レトロフューチャーというコンセプトのもと,スーパーファミコン風の2Dグラフィックスで展開するアドベンチャーゲームの開発が進められた。
今村氏は絵を描くことに注力し,ゲームがある程度できたところで試遊をして,気になったところを指摘をするという,どちらかと言えば客観的な立場で携わっていたそうだ。
絵を描く作業が多かったこともあるが,ハッピーミールはドット絵のアドベンチャーゲーム開発の実績があり,クオリティに関しては安心して任せられるというのがその理由だ。
とはいえ,今村氏としては任天堂退社後,初めて携わるゲーム作品であり,絶対に恥ずかしくないものを作るという意志は強く,かつて任天堂の宮本 茂氏が行った「ちゃぶ台返し」(企画を白紙に戻す)も辞さない覚悟もあったという。
今村氏には任天堂で培ったユーザー目線でゲームを開発するノウハウがあり,「ここは分かりにくい」「このメニューは嫌だ」といった,ユーザーが快適にプレイできるような細かい指摘を入れたそうだが,関氏は遠慮なく指摘してくれたことが嬉しかったと述べている。
今村氏が何度もダメ出しをしたのが,「盆栽」の育成だ。プレイヤーが盆栽を好みにカスタマイズでき,そこからアイテムを入手できるという要素だが,今村氏は開発中に「ゲームのボリュームを考えると,これは切ったほうがいい」という判断に至った。
しかし,関氏にも「日本から世界に発信するタイトルの要素として残したい」という強い思いがあり,企画当初のかなり凝った仕様をシンプルな内容にブラッシュアップし,最終的にゲームプレイのアクセントとなる要素として残ることになった。
パブリッシャとして本作に携わる吉川氏は,ゲームの内容に口を出すことはなく,ワールドワイドで売ること,そしてフランスでしか販売されていないコミック版「OMEGA 6」を北米圏でも発売することに注力した。これを約2か月でクリアしなければならなかったとのこと。
今村氏との仕事にあたり,吉川氏も当初は緊張していたものの,作品のパートナーとして自身ができることをやり,結果を出したことで対等に仕事ができる自信がついたと述べた。
吉川氏の尽力により,コミックの北米発売が決まったわけだが,日本語版はゲーム版に収録されることが決定している。ゲームを遊んでくれた人へのご褒美として,そして世界観を楽しんでもらうために収録を決めたそうだ。さらに,特装版には日本語版の単行本も同梱される。
「OMEGA 6」のネーミングに話題が移ると,タイトルの由来は非常に単純で,今村氏が好きな食べ物のサラダ油やごま油に含まれる脂肪酸(オメガ6)から来ているのだとか。主人公のサンダーとカイラは東宝の怪獣映画「サンダ対ガイラ」に由来するなど,ネーミングは比較的分かりやすいようだ。
ちなみに,劇中にはイマムー,キセル,ミスターシーシーといったキャラクターも登場しているが,登壇者の3人がモデルになっている。本作をプレイする際は探してみよう。
また,今村氏からゲームプレイについて,面白い要素が説明された。主人公の2人は人造人間で,歳をとってもカプセルに入ると若返るが,その年齢に関連する“禁断の果実”的なアイテムがあるとのこと。
これを食べると一時的に効果を発揮できるものの,その効果が切れると急激に歳をとるという副作用がある。とくにデメリットはないとはいえ,見た目が年寄りになり,エンディングもその姿で迎えることに。若い姿でクリアしたい人は使わないほうがいいかも,と今村氏はアドバイス(?)を送った。
本作に対するこだわりのポイントとしては,自らすべてを手がけたグラフィックスについて,今村氏は可能な限りスーパーファミコンを彷彿とさせる雰囲気で描いたと語る。厳密に色数を合わせているわけではないものの,これまでの経験から色を使いすぎず,かといって寂しくもならない“スーパーファミコンぽさ”にこだわったそうだ。
また,サウンドには「ワイルドトラックス」をはじめとする任天堂タイトルを手がけてきたミュージシャンの天宅しのぶ氏を起用し,16ビットのゲーム機をオマージュした8音で楽曲を演奏している。ぜひ,しっかり聴いてほしいとのこと。
本作はアドベンチャーゲームではあるものの,推理ものである「ミステリー案内」のような1本道の内容から脱却したいという思いで,開発を続けてきたと関氏。いろいろな星を自由に移動して今村氏がデザインした宇宙人と出会う,サンドボックス的な楽しみ方をしてもらいたいと述べた。
自由度のある攻略が成り立つゲームデザインを最初から目指し,それがことのほか上手くいったと今村氏もお墨付きだ。やり込み要素も充実しているので,実績のトロフィーのコンプリートを目指してもらいたいと来場者に伝えていた。
一方,吉川氏は物語の楽しさに注目してほしいと語った。主人公のサンダーとカイラより,むしろライバルキャラが気に入っているが,彼らに限らず登場人物が全員個性的であり,会話の掛け合いにも今村氏のコメディセンスが光っているとのこと。今村氏の代表作であるシューティングゲームを思い出したそうだ。
最後に今村氏は「任天堂退社後の僕は本当に運が良かった。でも運だけじゃなく,いろいろ頑張った結果として,ゲームまでたどり着くことができました。皆さんも最大限の努力をすれば,必ずいい人生を送れると思います。がんばってください!」と来場者にエールを送り,イベントを締めくくった。
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