インタビュー
[インタビュー]ディレクター・中村勇吾氏とゲームクリエイター・水口哲也氏に聞く。「HUMANITY」開発のきっかけや柴犬を採用した理由など
PS VRやPS VR2, PC VRでのプレイにも対応する本作は,NHK教育のテレビ番組「デザインあ」(現在は,デザインあneo)の映像監修や,ユニクロのTVCMやデジタルサイネージなどのディレクション,スマートフォン「INFOBAR」のUIデザインなどを手掛けた中村勇吾氏がクリエイティブディレクター,アートディレクター,デザイナー、ストーリー制作を務め,氏が率いるデザインスタジオ「tha ltd.」が開発。エグゼクティブ・プロデューサーは,「Rez」や「ルミネス」「スペースチャンネル5」の開発に携わり,現在はエンハンスの代表でもある水口哲也氏が担当している。
発売に先駆け,中村氏と水口氏のお二人から話を伺うことが出来た。フランクな雰囲気ながら,興味深い話がたくさん飛び出し,それぞれの「HUMANITY」にかける情熱を感じることができたインタビューを,ぜひご一読頂きたい。
中村勇吾氏(左),水口哲也氏(右) |
「HUMANITY」公式サイト
水口氏が「HUMANITY」の世界に惹かれ,
ゲーム化が実現
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
「HUMANITY」に登場する“顔のない人間の群れ”というモチーフは,中村さんのほかの作品にもたびたび使用されています。鳥の群れから着想したというこのモチーフを,表現を変えていろいろな場に出していく狙いはなんなんでしょうか。
中村勇吾氏(以下,中村氏):
自分は,ビジュアルやインタラクションのプログラミングをずっとやってきて,中でもたくさんのオブジェクトがなまめかしく有機的に動くような状態を作るのが好きで,表現の手法としてよく使っています。
ゲームアプリ「GUNTAI」(※現在は配信終了)のような,鳥の群れなど動物を扱うこともあるのですが,この人間のモチーフがたびたび使われているのは,狙っているというより,割と成り行きで……。
4Gamer:
成り行きですか。
中村氏:
開発の途中で何回か「HUMANITY」のプロモーションビデオを出しているのですが,それを気に入ってくれた,METAFIVE(※)の小山田圭吾さんから「ミュージックビデオで使えないか」という相談を受けたりしまして。
※METAFIVE:高橋幸宏氏,小山田圭吾氏,砂原良徳氏,TOWA TEI氏,ゴンドウトモヒコ氏,LEO今井氏から成る音楽ユニット。中村氏は,ライブの演出やミュージックビデオの監督などで参加している
4Gamer:
ご自身で積極的に出しているのではなく,外からお願いされて使っている部分もあると。
中村氏:
そうですね。昔から「HUMANITY」の“のっぺらぼう人間”みたいなモチーフを使ってきたこともあって,僕の中では,“群衆”のアイコンはこれ,みたいになっているんです。またほかの人からも,最近の中村勇吾といえばコレ,みたいなところもあるらしくて。
4Gamer:
“人間の群衆”ですが,ほかにはどんな作品で使用していますか。
中村氏:
六本木ヒルズで行われたMedia Ambition Tokyo 2021で展示を行った, 「HUMANITY」をベースにした「HUMANITY - AR EXPERIMENTS -」がありますね。実験的なアートプロジェクトで, いわゆるXR(クロスリアリティ)的な,ある空間に架空の人の流れを作り出すようなシミュレーションにも向いているんです。
そういえば,彼らが“のっぺらぼう”になったっていうのは技術的な制約もあるんです。何千人もの膨大な数を画面に表示しないといけないので,個々の人間にあまりポリゴンを割けず,必然的にシンプルになっていくんです。で,試しに“のっぺらぼう”で作ってみると,ちょうどいい個性のなさというか,匿名,アノニマスな感じにもなって,これが意外にしっくりきたんですよ。
4Gamer:
「HUMANITY」は,ゲームを進めていくと,群衆の見た目もカスタムできるようになって,それも楽しかったです。頭が大きくなるとか……。
中村氏:
モノリスになったりもします(笑)。
4Gamer:
水口さんは,「HUMANITY」の映像に強く惹かれて,プロデュースを自ら申し出た,という経緯があったそうですが,具体的にはどこに惹かれたのですか。
水口哲也氏(以下,水口氏):
初めて「HUMANITY」を見たのは,2017年12月の年末に開催されたUnity の開発者向けイベント(※)なんです。
※2017年に開催された「Unity Developer’s Delight」のこと。https://events.unity3d.jp/developersdelight/
僕は審査員として呼ばれたのですが,その時に「HUMANITY」のリードプログラマーで,テクニカルディレクターを務めている山さん(tha ltd. / 山 健太郎氏)のプレゼンで,「HUMANITY」の映像を見せてもらったんですよ。
その時は,どうこうするつもりはなかったのですが,年末年始にずっと家で過ごしている間,「HUMANITY」に登場する群衆が頭から離れない。年を越したらきっと忘れるだろうと思ったけれど忘れられず,むしろイメージが増幅し続ける感じで。
4Gamer:
恋愛みたいですね(笑)。
水口氏:
これは大変なことになったと思い,2018年の1月に,たまらず山さんにメッセージを入れしました。「この先の展開は,一体何が待っているんですか」「例えばですが,ゲーム作品にする興味はおありですか」というようなメッセージだったはずです。
そうしたら,山さん経由で勇吾さんから「興味あります」という返信があり,会って話すことになりました。
「HUMANITY」と出会った時の衝撃は,うまく言語化できないです。もちろん人間がたくさん出てきて,フィジックス(※)で動くというのはスペクタクルですが,そういう映像はほかにも結構あります。でも,それだけじゃない何かを感じたんです。
今から思えば不思議な“勇吾イズム”とでも言えるものに,僕が当られちゃったんですね。僕,釣られちゃったなって(笑)。
※フィジックス物理演算
中村氏:
作品でナンパしました(笑)。
水口氏:
最初は,どのようなゲームになるかというイメージはできませんでした。でも,エンハンスのメンバーも含め,勇吾さんと過去のいろんな名作を見ながら方向性についての議論を重ね,アイデアのキャッチボールが始まりました。
それがとても盛り上がって,「これは生まれてくる意味のある作品になりそうだ」と,強く確信したんです。勇吾さんもおそらく,そう思ったんじゃないでしょうか。それで,自然に作品化への道のりが見えました。
なぜ「パズルゲーム」で「柴犬」なのか?
4Gamer:
パズルゲームとしての形は最初から決まっていたものですか。それとも,話を詰めていくうちに出てきたアイデアなのでしょうか。
中村氏:
「導く」というテーマと,それを導くための障害を乗り越えるというコンセプトは元からありました。ただ,今みたいな形に落ち着いたのは,話を進めていってからですね。
この膨大な群衆を使ってどういうゲームできるか。事例は少なく,うまくいくやりかたが見えていない状況から始まったので,だいぶ色々なことを試したんです。その中で,ゲームとしてプレイヤーに楽しんでもらえそうなアイデアを絞り込んで,その結果パズルゲームみたいな形になった,というのが実際の流れです。
4Gamer:
エンハンスのタイトルとして発表されたのは2019年ですが,その頃にはもうゲームの大枠は固まっていたのでしょうか。“犬”のイメージはまだなかったと記憶していますが。
中村氏:
その時点では1回フワッとした感じですが固まっていました。ただ,そこからもアイデアがモリモリと広がっていって,また収束するといった流れでして。
犬のアイデアが出た時期は正確に覚えていませんが,プレイヤーが操作するキャラクターは2案あり,そのひとつは「人が導く」ものでした。
このゲームには“DIVE(ダイブ)”という人の中に潜り込むアクションがあるのですが,以前はもう少し重要な役割でした。例えば,2000人ぐらいいる中の,あるひとりが導く。その人が導き終わったら,次の導き手に魂が移動する。要するに,2000人の中で本当に理性を持っているのはひとりだという。
4Gamer:
で,もうひとつの案が犬だったと。
中村氏:
いえ。「群衆の外にいる存在が導く」ですね。それを神様的なものにするか,もっと別のものにするかに迷った……いや,ほぼ迷わなかったかも。「まあ,犬でしょ,人間を率いるといえば,犬でしょ!」と。
水口氏:
ある日のミーティングで勇吾さんが,「試しに,犬を入れてみました」と言ったんですよね。犬が先導して人をコントロールしている姿を見たときに,不思議とハマって,「あ,これだ」と。
犬が入ったことで,まだそのときゲームに存在していなかったほかの人間の種族だとか,その存在によってストーリーが発展していく謎の声の主だとか,まわりのものがバッと広がった感じがしました。
中村氏:
水口氏:
最初から犬一択でしたね。世界中で犬は好かれていますし。
4Gamer:
群れを集めて率いるイメージだと,牧羊犬なんかもありますしね。
水口氏:
勇吾さんが「人間がいつも犬に首輪を付けて引っ張っているけど,逆に人間を引き連れて歩くという画は面白くない?」と言いました。彼ならではの発想だと思います。
4Gamer:
では,犬種が「柴犬」というのは……?
中村氏:
犬といえば“柴”でしょ!
一同:
(笑)
中村氏:
元々,柴犬を飼っていたんです。ただ,柴犬は日本で馴染み深くても,海外で展開するときにどうなのだろうとは思いました。
でも何年か前から,柴犬がアメリカやヨーロッパで人気になりまして。全然狙っていなかったんですが,ラッキーでした!
水口氏:
勇吾さんの考えですが,普段は理論整然としていて筋が通っているのに,こういう時は直感から来るんです。その後で,解説してくれはするのですが……。
中村氏:
後付けだけどね!(笑)
水口氏:
でも,それが気持ちいいんですよ。
4Gamer:
ゲームには,最初は時間が止まっているステージがありますよね。あらかじめTURNやJUMPの指定を全部決めて,最後にSWITCHを押して時間を進めるという。
ほかにも,アイテムが使える回数が制限されていたり,戦闘にどんどん特化していくようなゲームの流れだったりとか……。そういったものも,議論を進めているうちに広がって収束した中に残った精鋭たちということでしょうか。
中村氏:
そうです。パズルやアクションのパターンも,かなりいろいろ試していています。無秩序に群衆がいる中をコントロールするようなパターンや,逆に,あるルートをプログラミングするようにあらかじめ作るパターンとか。多くのものが淘汰され残ったものを実装しているんです。
時間が止まるルールは,僕らのなかでフィーチャーしたもので,「こういうプログラミングパターンあるよね。1・2面ぐらいやろうか」と試験的に導入しまして。さらに,ユーザーテストをしたら,好感触だったので増やしました。
4Gamer:
開発版をプレイさせてもらったのですが,うまくいかない群衆の流れをチョコチョコと直しつつリトライするのは,とても楽しい作業でした。
逆に,時間が停止しないステージで,流れていく群衆をアクション的にさばいていくヒリヒリ感もたまりません。
ゲーム制作の現場で見い出したものとは
4Gamer:
中村さんが水口さんと出会いゲーム制作に関わっていくうえで,新しく見えたことや世界はありますか。
中村氏:
けっこうありますね。まず,一番大きいところは,ゲーム作りは思っているより大変だなと。大変だと思っているより大変だろうな,を越えて,さらに大変のさらに大変ぐらい!
一同:
(笑)
中村氏:
「ゲームを作って,大変だった」という内容のインタビューを読むこともあったのですが,実際に作ってみると外から見ても分からない大変さがありました。
でも,すごく勉強になりましたね。いまでもきちんとは理解できてはいないんですが,いわゆるレベルデザインの世界というのは,僕らがやっているような映像的に面白い筋書きとは違います。
4Gamer:
プレイをして得られる達成感も必用ですからね。
中村氏:
「やり込んで,挫折もして,やっと解けた!」という起伏を作るようなレベルデザインの世界は,僕たちでは絶対できなかった。ですので,その部分に非常に強い,エンハンスの石毛英一郎さん(HUMANITY ゲームデザインディレクション, プロジェクト・マネージャー)に手を貸してもらいました。
石毛さんには,「レベルデザインとは」「ゲーム・パズルの面白さとは」というレクチャーまでしていただいたのですが,僕の理解が浅かったこともあり取り残された感じで……。ですので,僕はあんまりレベルデザインには関わっていないですね。
4Gamer:
水口さんから学んだことはありますか。
中村氏:
バランス感覚です。水口さんは,「このゲームを人々はどう受け止めるか」とか,「こういう捉え方もあるだろうから,こうまとめよう」みたいなことをシビアに考えているんです。
僕は結構,極端なことをしがちなので……。いまのバージョンではだいぶ弱まっていますが,群衆の扱いなどが少し。
4Gamer:
いまでもちょっと過激で激しい場面もありますが,当初はもっと?
中村氏:
社会情勢にリンクしていると感じられる点があったんですね。群衆が巻き起こすニュースがいっぱい流れているこの世の中で,こういうゲームを出すというのはどういうことか,というのを水口さんはすごく考えられていました。あくまで,ポジティブなメッセージを発していきたいという思想が根底にあると感じます。
水口氏:
3年ぐらいでリリースできるかと思っていたんですが,結果5年かかりました。社会情勢も,世界中の民主化運動や人権運動,戦争……と。またいまはAIが凄いことになっていますよね。
刻々と世界が変わる中,「HUMANITY」の名を持つこの作品は「おもしろいパズルゲームを作る」といった命題だけでなく,そのほかの何かを背負ったのではないかと。
4Gamer:
世界中に影響を及ぼした,コロナウイルスもありました。
水口氏:
ゲーム作品として,プレイが終わったときに「面白かった」というだけじゃない何かを感じてもらうために,何がなければいけないか。
そのような発想でストーリーやレベルデザインを組み上げていったので,そこは,2年という当初の予定より時間をかけてでも,作品性をもっと高めたいなと。かなり大変な作業でしたが,みんな頑張りました。
先ほど勇吾さんが,大変だと思った先の先……と言ったのは,たぶんそういう部分もあると思います。
中村氏:
そうですね。
水口氏:
でも,みんな諦めなかったですね。すごくいい作品になったと思います。
4Gamer:
「HUMANITY」は,何人ぐらいのチームで開発しているのですか。
中村氏:
「tha ltd.」は6人くらいですね。
水口氏:
エンハンスは,開発のコアメンバーだけでいうと5人かな。
4Gamer:
ずいぶんと少人数ですね。
中村氏:
プログラミング的には,大量の人たちを動かす仕組みなどで,だいぶ特殊なことをしているので,最初に作った人以外は中々触れないという状況がありまして。
音楽も,全部JEMAPURさん(※)という電子音楽家,サウンド・デザイナー / コーダーの方に作ってもらっています。スケジュールがタイトな時期もありましたね。
JEMAPURは波形中毒者、電子音楽家、サウンド・デザイナー / コーダー。周波数や波そのものが生み出す現象への興味を軸に、モジュラー・シンセサイザーを用いて、時間的/空間的に循環しながら変容し続ける音の生態系として現象化することにより、体験者の知覚、認知活動に対して影響・拡張し得る領域について、実験と研究を重ねている。近年では、ドキュメンタリー映画『太陽の塔』の劇中音楽を全編に渡り作曲を担当、2019年にはStudio The Future協力の元、蘭・アムステルダムにあるクラブ・複合施設De Schoolにて、彫刻家のVictoria Galvaniと共に、エキシビション『RESONANCE: Synesthesia + Feedback』を一ヶ月に渡り開催するなど、活動の領域を広げている。2021年には蘭・デルフトを拠点とする新興レーベルOmen WaptaよりLP『Mode Cleaner』をリリース、2023年にはUN_Nより3枚のアルバムを発表している。
http://jemapur.net/
水口氏:
少人数で制作したことにより,濃厚で質の高いものができた感じがします。
4Gamer:
音楽ですが,「HUMANITY」は中村さんが関わっている「デザインあ(※)」に通じるものを感じたのですが。
※「デザインあ」:NHK Eテレで放映されていた,子どもたちにデザイン的な視点と感性を育む番組。現在は「デザインあneo」が放映
中村氏:
「デザインあ」と「HUMANITY」の作曲者は違う方ですが,どちらも天才的な人たちです。自分は作曲をお願いするときに,はっきりお題を設定するタイプで,「デザインあ」のときは「あ」という言葉を印象的に,「HUMANITY」は,基本的に人の声で全部音を作ってくれないかと依頼しています。
4Gamer:
どちらも人の声だから,通じるものを感じたのかもしれないです。
中村氏:
曲は,まず人の声を録って,それをデジタル的に変形して作っています。パーカッション以外は,ほぼ人の声です。スタジオジブリの「風立ちぬ」に着想を得ているんですよ。
あれは,飛行機が飛び立つときなどの音を,全部人の声をベースにデジタル編集しているんですが,あの考えかたで行こうと。表現的にはだいぶ変わりましたけどね。
「HUMANITY」を遊ぶユーザーへのメッセージ,今後の活動について
4Gamer:
ゲームの開発における苦労をいろいろと伺いましたが,改めてユーザーに見てほしい点をお聞きしてみたいです。
中村氏:
大量の群衆を淀みなくスムーズに動かし続けてながら,色んな環境条件にインタラクトさせる部分は大変でした。ここは,テクニカルディレクターの山がずっと苦労して,独自の手法を開発して磨き上げています。最初は,その手法を聞いていたんですが,説明を受けても何を言っているのか分からなくて(笑)。
ストーリーモードだけなら,こちらが用意したステージのデザインと想定されるプレイに合わせて矛盾がないように作ればいいのですが,「HUMANITY」にはユーザーがステージを作ることが出来る「STAGE CREATOR」のモードがあるので,あらゆるパターンに対して淀みなく動かすということが大変なんです。
ここはかなり頑張っているところなので,ぜひ動きを見てほしいですね。
水口氏:
作ったものとして,最後まで頑張って,隅々までプレイしてもらいたいなというのが望みです。プレイを進めていく中で,どうしても解けなくて,ヒントを出してほしいこともあると思うのですが,本作ではゲーム中でヒントムービーを見ることが出来ます。
最後までプレイしてもらえれば,このゲームに「HUMANITY」というタイトルをつけた意味や思いが伝わるんじゃないかなと思うので,諦めずにぜひクリアをしてください。
後半の展開は,勇吾さんも相当悩まれて,僕らもずいぶん議論をしました。すごくいいエンディングのストーリーができたと思いますね。
中村氏:
自分は,ヒントムービーだけでも楽しめるタイプなんです。ほかのパズルゲームとかでもそうですけど,一回見始めたら延々と見ている感じで。
一同:
(笑)
中村氏:
ステージの中には,本当に難しいものもあるんですよ。プレイし続けても解けなくて,これ明らかにバグですよね!と開発チームに報告したら,「いえ,ここでこうやって解きます」と言われて,「あっ本当だ」って(笑)。
4Gamer:
ヒントムービーは,途中で止められるのがすごく良いですよね。全部見てしまうのは悔しいので,最初の一手だけ教えてほしい時にも使えます。ヒントを見た回数は記録されてしまいますけど。
水口氏:
ヒントムービーも,いろいろな見せかたのパターンを考えたんです。例えば前半・後半とふたつに分けるとか。
最終的に,やはり1本のビデオで,途中でいつでも止められるようにしたほうがいいなと。「最初だけ見たい」とか,「途中まではわかったけど,この次が分からない,でもその先は見たくないからここでムービーを止める」とか,そういう感じで使ってもらえればいいかなと思います。
中村氏:
みんな自制心がありますね……。僕は朝ドラなんかも,先にあらすじを読んでから見るんですよ。見たらつまらなくなるかもしれないんだけど,見始めたら止まらない。
水口氏:
答えを知ってからプレイしても楽しいんですよね。
4Gamer:
内容を知っているからこそ,安心して見て遊べる人もいますよね。
中村氏:
このゲームは群衆シミュレーションをベースにしているので,解き方の大枠は一緒でも,ちょっとしたタイミングや犬の行動の違いで,微妙にいつもと違う表情を見せるんです。何回プレイしても楽しめる点だと思います。
4Gamer:
犬を動かしていると,ぶつかった人間がちょっと押し出されますよね。最初あんなに大事にして,ひとりも取りこぼしたくないと思っていたのに,プレイに慣れてくると「押したら落ちるのかな?」とか,「パズル攻略のために,この五十人ぐらいは捨てよう」とか,そういうふう考えるようになってしまった自分が恐ろしかったです。
中村氏:
麻痺しますよね。完全に麻痺しきって,もっと刺激を求めて開発している僕を,「ちょっと待て」と止めるのが水口さんです(笑)。
4Gamer:
自分の慣れからくる残虐性にはびっくりしました。こういうところにも,考えさせられる点があるなと。
水口氏:
そういった,レベルデザインとストーリーを組み合わせていくのが,すごく面白いところでしたね。異質な体験を彫刻のように彫り込んでいく作業は難しいけれど,うまくいった時は本当に嬉しいです。
4Gamer:
気が早いですが,今後のアップデート予定について,いま告知できることはありますか。新機能やアイテム,新ステージがあるとすれば外伝的なものになるのかもしれないですが……。
中村氏:
すごく前向きに検討しています。
水口氏:
2023年2月に行った期間限定DEMOでは,「こんなことを思いつくんだ」とびっくりするようなすごいステージが生まれたので,驚きました。
4Gamer:
かなり自由な発想で遊べるんですね。
中村氏:
僕も,落ち着いたら初期に作って没になったステージをアップして行こうかな(笑)。
水口氏:
相当ありますよね,没デザイン。
4Gamer:
開発者がアップする没コーナーがあったら面白そうですね。
これまた気が早いですが,今後もお二人がタッグを組んで新作を作る予定はあるのでしょうか。
中村氏・水口氏:
たしかに気が早い(笑)。
中村氏:
先ほどの話に戻りますが,ゲーム開発は「大変の大変の大変」で,ボクシングに例えると30戦ぐらいしたあとのような状態になっているので……。
水口氏:
今言われても,思いつかないというか(笑)。
中村氏:
開発期間はすごく濃密な時間でしたが,しばらくはゲームの開発からは離れて,時間が経って疲れが癒えたら,またこういうことが出来ればと思います。また水口さんを魅了するようなものを作って,水口さんをナンパしたいです。
僕はコアなゲーマーじゃないけれど,インディー系の作り手たちがTwitterなどにアップしているプロトタイプなどを見るのがすごく好きで,自分もそういうデモ映像を作りたいと思って出したのが「HUMANITY」だったんです。
デモ映像を出すと世界が広がる,わらしべ長者的な取り組みが最初の出発点だったんですね。それはどこかのパブリッシャーに見てもらえるといいな,ゲームの歴史を作ってきたような人の目に留まるといいな,というのが最終目標だったんですよ。
ただ,最初に声をかけてくれたのが,その世界のラスボスみたいな位置にいる水口さんで。かなり予定が狂ったんですけどね(笑)。
4Gamer:
当初の予定が大幅に短縮されていますよね。
中村氏:
だから,想定していたステップとは少し違いましたね。小さくはじめて,世の中に問い続けるみたいな感じでいくと思っていたので。ただ,次もそういうことをしたときには,ラスボスにたどり着きたいなと思います!
4Gamer:
エンハンスですが,「HUMANITY」以外のプロジェクトとして言えることがあれば,そちらも伺いたいです。
水口氏:
いまはまだ話せるものはないですね。勇吾さんほどではないですが,ほかのことはまだ考えないようにしています。もうとにかく一回,たぶんお休みしないと。ゲームを作ったことがある人はそうだと思うんですが,「もう嫌だ」って何回も思っても,しばらくするとまたアイデアが出てきたりするんですよね。そのタイミングを大事にしたいです。
4Gamer:
中村さんと一緒に仕事をしてみて,どうでしたか。
水口氏:
勇吾さんは,ゲームデザイナーにすごく向いている方だと感じました。直感的にも論理的も考えられるし,ちょっと建築的だなと思うこともあります。きれいなんですよね,考え方の組み立てが。
それがゲーム作りに直結することがなくても,いろいろな構造のベースになっている感じです。しばらく経って,また勇吾さんが何かアイデアを思い付いたとしたら,すごく楽しみですね。
中村氏:
ゲーム業界での作品の作り方やクリエイターの役割を,自分がゲームを作ることでいろいろと知りました。次はアートディレクションに集中するとか,グラフィックスをひたすら頑張るとかそういう仕事もやってみたいなと思いましたね。もうフォーマットが決まっているゲームの中で,全然違うアートディレクションで作る,みたいなのはできるのではないかと。格闘ゲームとか。
水口氏:
勇吾さんがテトリスを作る,と考えると面白そうですね。
4Gamer:
「テトリス® エフェクト」に中村さんのステージがあったら……。
中村氏:
1ステージぶん,僕に任せてください!
水口氏:
ゲームデザインの部分で迷わずグラフィックスに集中できたら,それはやっぱり楽しいですよね。
中村氏:
「Rez」も,プレイをしながら「このステージの担当者になりたい」って思っていました。
4Gamer:
その可能性を楽しみにしております。では最後に,「HUMANITY」を待っているファンの皆さんに今伝えたいメッセージをいただけますか。
中村氏:
「HUMANITY」はちょっと変わったゲームというか,ちょっと食べたことのない料理みたいな感じがするかもしれません。でも,そういう料理をたまに食べてみるのもいいものです。いかがですか。
水口氏:
僕は,誰でも遊べるようなゲームになったと思います。年配の方でもお子さんでも,どんな属性の人でも理解できるかなと。勇吾さんのデザインがユニバーサルで,ツボをしっかり押さえているから,本当に先入観なく誰でも触れて面白さと共感できるんです。
勇吾さんは謙遜して,「普段皆さんが遊ぶゲームとはちょっと違うけど」とおっしゃいましたが,ちゃんとした,誰が遊んでも面白いゲームになっていますね。
あと,プレイしている人の周りに人がいると,「こうした方がいいんじゃない?」みたいな会話が起こるんです。友達や家族と遊ぶようなシチュエーションが,すごく合っていると思います。みんなでパズルを解きながらわいわい楽しむ要素もありますから。
4Gamer:
配信にも向いていそうですね。動いている画がもう面白いですから,詳しいゲームシステム自体がよく分からない状態でも目を引いて,広まっていきそうです。試行錯誤に苦しむ配信者の姿を見るのも,楽しいだろうなと思います。
水口氏:
はい。ぜひ,配信してほしいですね。
4Gamer:
本日は,ありがとうございました。
[プレイレポ]柴犬のひと鳴きで群衆を操り導く「HUMANITY」。中村勇吾氏と水口哲也氏のタッグで描く,美しく新しいパズルゲームの世界
2023年5月16日に発売が予定されている「HUMANITY」は,ウェブ・インタフェースのデザイナー,映像ディレクターとしても活躍している中村勇吾氏と,「Rez」や「ルミネス」「スペースチャンネル5」の開発を手掛け,現在はエンハンスの代表を務める水口哲也氏がタッグを組んだ作品だ。
「HUMANITY」公式サイト
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HUMANITYR / (C) 2019-2023 ENHANCE EXPERIENCE INC. (C) THA LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
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