インタビュー
[インタビュー]和田洋一氏,ブロックチェーンゲームの最高傑作はビットコイン自体だと語る。「コインムスメ」アドバイザー就任記念対談
カードバトル |
ハイ&ロー |
騰落率レース |
本作の特徴は,ビットコインを題材とした「ビット」など,実在の暗号資産を擬人化した美少女キャラクターだ。一般的なスマホゲームのようにガチャを引き,各キャラクターのNFT※を入手する仕組みとなっている。
※Non-Fungible Token(非代替性トークン)。マーケットプレイスで売買可能
プレイヤーは,カードバトルやハイ&ローを通じてキャラクターポイントを獲得し,それを「騰落率レース」の投票に使用する。レースの着順は,元ネタの暗号資産の現実の値動きをもとに決まり,投票内容に応じて暗号資産「ムスメコイン」が配布される。ムスメコインは日本円に換金可能であるため,本作はPlay to Earn(遊んで稼ぐ)を掲げている。
リリースを間近に控えた11月8日,本作のアドバイザーに元スクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏が就任することが発表された。就任を記念して,Eureka EntertainmentのCEOである辻 拓也氏との対談が行われたので,その模様をお伝えしよう。
ブロックチェーンゲームをヒットさせるには,新しい何かを生み出す必要がある
4Gamer:
本日はお時間をいただき,ありがとうございます。まずは,お二人の関係性について教えてください。
辻氏:
最初に和田さんとお会いしたのは,昨年6月にPacific Metaさんが開催されたWeb3 Game Nightというイベントです。その後,昨年のTGSのサイドイベント(関連記事)で一緒に登壇させていただきました。
私にとって和田さんは雲の上の存在ですが,そうしたご縁でいろいろとお話をうかがうようになり,この度はアドバイザーとして応援していただくことになりました。
和田さんはブロックチェーンにいつから興味を持たれていますか。
和田氏:
ブロックチェーンは,出始めのころから注目しています。通貨は発行を続けるとインフレになりますが,それを抑制するところまで設計に織り込まれていたのが興味深かったです。しかし,その後のビットコインバブルでは,投機的な側面のみが注目されるようになり,しばらく距離を置いていました。
4Gamer:
ということは,和田さんの興味は金融的なものでしょうか。
和田氏:
ひとつは金融で,もうひとつは非中央集権です。言われすぎているワードですが,実際にインフラ層で分散型の処理を実現する手段はブロックチェーンしかないと思います。ゲームとして発展するのか,金融として発展するのかは未知数ですが,社会の仕組みとしては残り続けるものだと考えています。
4Gamer:
和田さんが辻さんを応援しようと思ったのはどうしてですか。
和田氏:
辻さんの話を聞いていて,言葉を選ばずに言えば「筋がいい」と感じました。ブロックチェーンゲームは,暗号資産取引のチュートリアルとしての役割を果たす可能性があると思っていて,そうした観点では「コインムスメ」の狙いがいいと思います。
4Gamer:
では,ブロックチェーンゲーム市場は今後成長していくと思いますか。
和田氏:
伸びるか伸びないかで言えば,伸びると思いますが,この分野はまだ初期段階で,いくつかの起爆剤がないとまともな市場にならないんですよ。
辻氏:
私はブロックチェーンゲームが独立したジャンルになるのかどうかも,まだ分からないと思っています。昔はオンラインゲームという言葉をよく聞きましたが,今では何でもオンラインなのであまり聞きません。それと同じで,ブロックチェーンがゲーム業界で一般的な技術として定着するかもしれないと考えています。
そもそも,ブロックチェーンをゲームに組み込むメリットは何でしょうか。
辻氏:
ガチャをして,ゲームをプレイする一般的なスマホゲームの形で,Play to Earnという新しい体験ができるのが魅力だと思います。また,それにトークンを組み合わせることで,投資やコミュニティ活動のような広がりが生まれます。
和田氏:
辻さんの「コインムスメ」は,発行や流通など,暗号資産自体のメカニクスを楽しむ設計になっていて,私はそれがいいと思っているんですよ。取り扱いやすい有価証券のようなイメージです。
4Gamer:
株取引がマネーゲームと言われるようなものですね。
和田氏:
そうです。投資には,資産運用としての側面がありますが,単なる運任せではないゲーム性もありますよね。しかし,本格的なトレードは多くの人にとってハードルが高いので,見た目を美少女にしている「コインムスメ」の方向性がいいと思うんです。正直なところ,今のブロックチェーンゲームは賭博みたいなものや,既存のゲームに無理矢理トークンを組み込んだようなものばかりじゃないですか。
辻氏:
ヒットしたブロックチェーンゲームを分析すると,「Axie Infinity」はスカラーシップやゲームギルド,「STEPN」はMove to Earn(動いて稼ぐ)という新鮮で面白い体験を提供しています。ブロックチェーンゲームをヒットさせるには,新しい何かを生み出す必要があるんです。
また,今のゲーム業界は開発費とアウトプットが比例することが多く,大企業以外はなかなかヒット作を生み出しにくいと感じます。一方,ブロックチェーンゲーム市場はベンチャー企業にとって魅力的です。最近では,「Hamster Kombat」というタップするだけのゲームが,YouTubeで3500万人以上のチャンネル登録者数を集めていて,夢があります。
ブロックチェーンゲームの最高傑作はビットコイン
大手ゲーム会社の社長を長年されていた和田さんから見て,大企業がブロックチェーンゲーム市場に参入するのは難しいと思いますか。
和田氏:
まず私は,ブロックチェーンゲームの最高傑作はビットコイン自体だと考えています。もしビットコインのユーザー数が3000人しかいなかったら,みんなあれをゲームだと思っているでしょう。なので,ブロックチェーン業界とゲーム業界の重なる部分は大きいと思っていて,そこから生まれるものに関心があります。しかし,これまでのゲームはこれまでのインフラにフィットした形で作っているので,無理矢理ブロックチェーンを組み込むのはストレスでしかないです。
4Gamer:
Telegram Mini Appsを筆頭に,カジュアルなブロックチェーンゲームが次々と登場している一方で,AAAクラスのヒットタイトルはまだ生まれていません。個人的には,一般的なゲーマーが遊んでみたくなるゲームと,「Hamster Kombat」のようなタップするだけのゲームの間にズレを感じているのですが。
和田氏:
辻さんの前では言いにくいですが,ブロックチェーンゲームがすぐに普及するかというと,なかなか普及しないと思います。オンラインゲームも黎明期はシンプルでしたし,こういうものはいろいろなゲームが成功と失敗を繰り返して発展していくものです。そのなかで,私が「コインムスメ」の筋がいいと思っているのは,ゲームにブロックチェーンを足そうとしているほとんどのタイトルと違って,ブロックチェーン自体を遊ぼうとしているところです。
その場合,競合はゲームではなく,トレード全般ですか。トレード分野におけるブロックチェーンゲームの優位点ってありますか。
辻氏:
それについては持論があり,「明確にここがいい」と言えるものはないと思っているんですよ。しかし,スマホゲームに飽きてきた人にはPlay to Earnという新鮮な体験を提供できますし,トレードの初心者には取っ付き易い商品として映るでしょう。また,ほとんどのトレードは孤独なので,「コインムスメ」のコミュニティを魅力に思うプロのトレーダーもいるかもしれません。「ゲームからも少し,トレードからも少し」というバランスを大事にしています。
4Gamer:
和田さんが「コインムスメ」はブロックチェーン自体を遊ぼうとしているところが新しいと評価されていますが,これは辻さんにとっても新しいものなんですか。
辻氏:
新しすぎるので,不安で胃が痛いです(笑)。最初はプレイヤーから「何だこれ」という反応を受けると思います。Web3コミュニティの人は理解してくれていますが,多くの人に面白いと思ってもらえないと成立しないゲーム性なので,少しずつ遊び方を浸透させていくしかありません。
和田氏:
ブログが流行ったり,SNSが流行ったりというコミュニケーションの分野に近いんですよ。いつ,誰に,どう刺さるのかを予測するのが難しくて,後から振り返るしかありません。この先10年くらいで,どのようにブロックチェーンを使ったコミュニケーションや,コミュニティが生まれるのかが試されていると思います。値上がり益狙いのものは無理があるので,ようやくまともな人が出てきて試行錯誤しているなというのが,辻さんに対する私の印象です。
全員が得をするわけではないので,ゲームとしての面白さも追求する
4Gamer:
値上がり益狙いのものと,「コインムスメ」は何が違うんでしょうか。
和田氏:
もちろん値上がり益狙いの要素はあるんですが,それだけではないというのがポイントです。「コインムスメ」はカードバトルをしたり,騰落を予想したりと,さまざまな要素が収益につながっており,暗号資産の値上がりそのものに賭けてはいません。そこにいろいろな戦略が生まれて,ゲームになるんだと思います。
値上がり益狙いならビットコインでいいですし,ヒットタイトルの真似をするのもつまらないので,擬人化やレース,ゲーミフィケーションなど,いろいろなものを組み合わせて新しい体験を作っています。
そもそも運営がいる以上,プレイヤーにとってはマイナスサム※のゲームです。「コインムスメ」では,広告費や運営費を抑えて還元率を上げていますが,それでもプレイヤーに還元されるのは売上の8〜9割となります。そのため,キャラクターが可愛かった,レースでドキドキできたなど,儲からなかった人も満足させられるような,ゲームとしての面白さも追求していかなければならないんです。全員が得をするゲームというわけではありません。
※参加者全体の利益の総和がマイナスになる仕組み
和田氏:
実は,パチスロなどもお金目当てじゃないプレイヤーが多いんですよ。私はゲームセンターも経営したことがあって,パチスロ店と同じ台を景品なしで設置するんですが,意外と遊びに来る人がいるんです。
辻氏:
日本にはゲームとしての面白さを求める人がけっこういて,新鮮な体験に飢えている人が多いと思います。一方,海外は「いくら稼げるのか」を重視する人が多くて,露骨な印象を受けます。
4Gamer:
TGSのセッション(関連記事)で,辻さんはTelegramのブロックチェーンゲームに人が集まっていると話されていましたが,あのユーザーもお金目的の人が多いんですか。
辻氏:
そうですね。Telegramを使っている日本人は少ないですし。
4Gamer:
日本だと「闇バイト」のニュースでしかTelegramの名前を聞かないので,ちょっと人に勧めにくい印象があります(笑)。
辻氏:
ですね(笑)。「コインムスメ」でもチャレンジとしてTelegramのミニアプリを出すんですが,お金目的の海外ユーザーに受けるかというと怪しいので,本命はLINEミニアプリだと思っています。LINEもTelegramと同じようなことをやろうとしているんです。
4Gamer:
Telegramで流行った理由や,LINEに期待している理由は,ブロックチェーンゲーム用に新しいアプリを入れる必要がないという点ですか。
辻氏:
そうです。UI/UXの問題が大きいと思います。
和田氏:
一工程増えるだけで,お客さんは劇的に離脱しますよね。
4Gamer:
和田さんもブロックチェーンゲームがLINEで流行ると予想されていますか。
和田氏:
いろいろなルートがあるので,それについては議論中です。ブロックチェーンの手間を減らしてくれるサービスは重要なので,LINEしかないならLINEになりますし,ほかにも出てくればそれが流行るかもしれません。
ゲーム以外の分野におけるブロックチェーンの可能性
4Gamer:
決済分野など,ゲーム以外のサービスでブロックチェーンが普及して,それによってブロックチェーンゲームが流行るというルートはあると思いますか。モバイルゲームが流行したのは,ゲーム以外の用途でスマートフォンが普及したことも大きいじゃないですか。
辻氏:
私はあまりイメージが湧きません。「PayPayでいいじゃん」となってしまうユーザーが多いと思います。
4Gamer:
そうですよね……。ただ,ゲームだけのために,わざわざブロックチェーンに手を出すユーザーは少ないのではないかと感じまして。
辻氏:
だからこそ,ブロックチェーンを使わないとできない何かを提供する必要があるんです。既存のゲームに無理矢理ブロックチェーンを組み込むような発想ではなく。
和田さんもおっしゃっていたように,ビットコインはまさにそれです。そして,「コインムスメ」のように国をまたいで事業を展開していると,USDTのようなステーブルコインも欠かせないと感じます。銀行口座を使ってやっていたら,大変な手間ですから。
和田氏:
経営の観点から,ブロックチェーンの用途をひとつ例に出しましょう。小難しい話になりますが,A社とB社が共同でR&D(研究開発)を行い,かつ会社そのものもさることながら,その構成メンバーが重要な場合,会社間,および会社と個人との間の信頼を保証する仕組みとして有効でしょう。
ブロックチェーンを使えば,何を「中央」とするかを議論せずとも,共同での管理や,個々人の貢献度に応じた利益配分もやりやすいのではないでしょうか。業務提携やクロスボーダー(越境)の取り組みのような,参加主体に当初から優先順位をつけなければならなかった行為の拡張で役に立つと思います。
そして,企業や国の担当者がブロックチェーンゲームをプレイしたことがあり,ブロックチェーンへの抵抗が少なければ,その取り組みが加速します。何か大きな1つのことが起こるのではなく,同時多発的にいろいろなことが結びついていく未来をイメージしています。
4Gamer:
なるほど。ブロックチェーンゲームをきっかけとして,企業や国のようなスケールの大きいところでも,ブロックチェーンが使われていくかもしれないんですね。
ゲームの本質はコミュニケーションとシミュレーション
4Gamer:
話を「コインムスメ」に戻しましょう。このゲームの魅力をあらためて教えてください。
Play to Earnを,ポンジ・スキーム※ではなく,日本風に楽しくすることを目指していて,ふたつのコンセプトがあります。
※新規参加者から集めた資金で既存参加者に配当を支払う詐欺的な手法
ひとつは,ユーザー還元の最大化です。ゲーム部分に力を入れすぎると,開発費がかかりすぎてしまいます。そこでゲーム性をシンプルにして,8〜9割が還元されるという面白さを実現しています。独自トークンで還元されるので,「いつ売るか」を考えるのも面白いと思います。
もうひとつは運要素です。Pay to Winではなく,実力だけでもないバランスにしないとゲームジャンルとして成立しないので,この部分にはこだわりました。
また,コミュニティ活動やキャラクターの名前がついたトークンなど,いろいろな部分でゲーミフィケーションを取り入れているのも新しいと思います。
4Gamer:
仮に「コインムスメ」が成功したとして,その後のブロックチェーンゲームはどうなっていくと思いますか。開発費を下げて,還元率を上げるアプローチが正解だとすると,「コインムスメ」が最適解で,その後の発展は見込めませんか。
辻氏:
ゲーム業界の人は,ガチャやバトロワのようにフォーマットを作りたがるんですが,ブロックチェーンゲームにおいては難しいと思います。「Axie Infinity」も「STEPN」も「Hamster Kombat」も単発のヒットで,それを真似たタイトルはなかなかうまくいきません。
なので「コインムスメ」がヒットしても,このロジックを使ったタイトルがたくさん出てくるような未来になるわけではなく,また新しい何かを提供しなければならないんだと思います。
4Gamer:
和田さんは,どうすればブロックチェーンゲームを発展させられると思いますか。
和田氏:
いろいろと試してみて,感触のいいところを広げるしかないと思います。価値交換が経済的な側面を維持しつつエンタメになっている点で,ブロックチェーンゲームと最も構造の近いゲームは,最近ではトレーディングカードゲームです。これは最近流行っていますよね。
また,ブロックチェーンゲームのヒットタイトルを分析すると,「STEPN」の動いて稼ぐや,「Hamster Kombat」のタップして稼ぐというのは,行為自体よりも,その行為がコミュニケーションでどう使われるかが重要だと考えています。しかし,どれも一発屋なので,この先どう発展していくのかは未知数です。
4Gamer:
もし,和田さんがゲーム会社の社長としてゲームを作るとしたら,どのようなものを作りますか。
和田氏:
会社の置かれたポジションに大きく左右されるので,一概には言えません。ただ,先程も話したように,ブロックチェーン自体をゲームとして捉えるというアプローチで試してみると思います。
また,VRがようやく育ってきたので,これにも手を出すでしょうね。教育分野に興味があるんですよ。手術のシミュレーションとか,自分でもやってみたいですし。
私は,ゲームの本質はコミュニケーションとシミュレーションだと考えています。これらがどう高め合うかを考えて設計すれば,面白いゲームのアイデアは無限にあると思います。
ブロックチェーン自体をゲームにした「コインムスメ」
4Gamer:
そろそろお時間ですね。最後に和田さんから「コインムスメ」への期待を語ってもらいましょうか。
辻氏:
ベタな感じにしなくてもいいですよ(笑)。こういう議論をさせてもらえるだけでありがたいです。
和田さんにはアドバイザーに就任していただきましたが,「応援してます」「トークン上がります」みたいなことを言ってほしいわけではないんです。いわゆるアンバサダーのような関係はあまり好きではないので,フェアに評価していただきたいと思っています。
4Gamer:
では,和田さんから見たフェアな評価をお願いします。
和田氏:
先程もお話ししたように,私はブロックチェーンゲームの最高傑作はビットコインだと考えています。しかし,ブロックチェーン自体をゲームにしているものは少ないんですよ。「コインムスメ」は真面目にそれに取り組んでいて,見た目も可愛いのがいいと思います。
カジュアルなタイトルなので,いろいろな新しい部分を気軽に楽しみましょう。トークン価格が上がったら,さらにいいですね(笑)。
「コインムスメ」公式サイト
- 関連タイトル:
コインムスメ
- この記事のURL:
キーワード
(C)2023 Coin Musme. ALL Rights Reserved.