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格ゲーマーよ。いにしえの恐竜闘技に震えろ――マッスル×ケミカルの極み,アーケード版「ダイノレックス」最後(?)のレビュー
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印刷2023/08/01 08:00

企画記事

格ゲーマーよ。いにしえの恐竜闘技に震えろ――マッスル×ケミカルの極み,アーケード版「ダイノレックス」最後(?)のレビュー

 ゲームは人によって好みが分かれる。

 ある人は,恐竜が好きだったり。
 ある人は,格ゲーが好きだったり。
 ある人は,恐竜系が好きだったり。
 ある人は,ダイナソーが好きだったりする。

 つまり,恐竜格ゲーのパワーは古代のエナジーだ。


以下,画像は「タイトーマイルストーン2」プレスリリースから引用
画像集 No.001のサムネイル画像 / 格ゲーマーよ。いにしえの恐竜闘技に震えろ――マッスル×ケミカルの極み,アーケード版「ダイノレックス」最後(?)のレビュー

 タイトーが,夏の終わりの2023年8月31日に,Switch向けゲームソフト「タイトーマイルストーン2」を発売すると発表した。

 本作はハムスターの“アーケードアーカイブス”と協力し,往年のアーケードゲーム「べんべろべえ」「ミズバク大冒険」「影の伝説」「ガンフロンティア」「奇々怪界」「メタルブラック」「ニュージーランドストーリー」「ソリタリーファイター」「ダイノレックス」「ダライアスII(3画面版)」などを遊べるというタイトルだ(※)

※記事掲載時点の情報。隠しタイトルがあれば増える
※2023年8月31日。追加発表はなかった。でも発売おめでとう


 このうち,タイトーが1992年にリリースしたアーケード向け対戦格闘ゲーム「ダイノレックス」は,同社作品をまとめた2007年発売のPS2用ソフト「タイトーメモリーズII 上巻」に収録されて以来,現行のハード機ではまずお目にかかれるタイトルではなかった。


 そこで,今回は,長年の封印を解いた。

 時は2015年。当時「いっちょ語ってやっか」と記事を制作したものの,出す機会がなさすぎて化石となっていたボツ原稿を解き放ち,恐竜好きでない人も思わず魅せられる,本作の魅力を紹介していく。

 なお,今回は新作の移植版にはいっさい触れていない。ゆえに,本稿はアーケード版(の記憶)にのみ準拠するという名目で,画像も最低限に,関係者らに怒られないよう祈りながら独断の感想を述べていく。


 これは,かつてのAC版に捧げる最後のレビュー。

 どうだ? ワクワクするか? 震えるか?

 さあ,はじめよう――――。

 い に し え の 恐 竜 闘 技 を。




さあ,ダイノレックスの開幕だ


 事前に注釈を。“大恐竜格闘技伝説”のテーマを冠する本作は,見た目的には2D対戦格闘そのものだが,ひと口に格ゲーとくくるにはいろいろと物議をかもすだろう。最大の特徴もうるさいことである。

 コイツは騒音まみれのゲーセンにいながらも,うるさい。
 コイツがいると100%分かるレベルで,メタクソうるさい。

 世界観については,怪しげな内容で襲いかかってくるオープニング映像でひも解かれる。そこでは古代人に関する新たな歴史的見解として,南米で発見されたオーパーツ“人と恐竜を象ったとされる土偶”を根拠に,とある学者が「人類と恐竜が共存していた説」を提唱する。
 なんでも古代人らは一定周期で,アマゾネスの女王をめとるにふさわしい王者“ダイノレックス”を決める戦いをしていたとかなんとか。

 そして,その王者になる唯一の方法こそが……なんてこった。
 候補者たちが自らの力を誇示すべく,飼い恐竜を戦い合わせながら世界各地を練り歩く,恐竜トーナメントであったという――。

 これだけでも「ヒュー!! ロックじゃん」と思わせるパワーがこもっている。けれど,このゲームがお外で実際に稼働している姿を見ようものなら,1990年代の原住民でも,2020年代の未来人の感性でも,たった一言で済ませられるピッタリな疑問詞が頭に浮かぶはずだ。

 いわく「これバカゲーでしょ?」ってよ。



恐竜をシり,恐竜をミて,恐竜をヤれ


 作中で描かれる王者のイメージ像は,“両脇に濃ゆい美女を侍らせて,高笑いする筋骨隆々のマッスル男”だ。絵からしてアメリカンな旨味が凝縮されすぎていて,目にするだけでも胸焼けしかねない。
 そうしたインテリさを微塵も感じさせないストイックな佇まいは,寄食ゲーマーの好奇心には刺さるが,親であれば子を止めるだろう。

 100円を投じてスタートするゲームプレイでは,プレイヤーが「恐竜」を操作し,相手の恐竜とのタイマントーナメントに挑んでいく。
 格ゲーにおける,伝統様式のCOM戦のスタイルである。

 プレイアブルの恐竜は下記の6体。隣のクラスの知らないヤツもいるけど,わざわざ知ろうとも思わないような顔ぶれもまぎれている。

・「アロサウルス」スタンダード系の肉食竜
・「パキケファロサウルス」強みは高硬度の頭骨
・「トリケラトプス」草食系の草分け的存在
・「ケラトサウルス」アロのコンパチ
・「スティギモロク」パキケファロのコンパチ
・「ティラノサウルス」最強×最恐=絶対王竜

 いずれの恐竜も,全身が原色じみた単色カラーリングで塗られており,それが実に毒々しい印象を加速させてくる。
 けれども,グラフィックスの質感やディティールの精巧さについては,当代随一といえるほどのリアル指向だった。


 操作系統は,前年にカプコンが「ストリートファイターII」で格ゲーの様式美を確立していたなか,「レバー」「Aボタン(かみつき攻撃)」「Bボタン(尻尾攻撃)」のシンプルさで勝負。
 レバー↓で「しゃがみ(ガード)」。レバー↑で必殺技ゲージの充填「パワーのためこみ」。レバー↓↑で「ジャンプ」などと。時代の奔流に向かって己の存在を叫びつけるかのような反骨的スタイルだ。

 バトルでは一部必殺技を除き,ダッシュなどの高速移動が存在しない。あらゆるモーションが鈍重で,当たり判定にも偏りが見られる。
 ゆえに対戦中は,恐竜たちがノッソノッソと近づき合い,動きだけやたら重たい攻撃を振り合い,当たってるようで当たってないけどやっぱ当たる攻撃判定に思考停止しながら,泥いプロレスを繰り広げる。

 また,ジャンプなどの上昇行動がかみ合い,恐竜同士の立ち位置がすれ違うと「ハイハイ仕切り直しでーす」。画面は一時休戦へ。
 1P側の恐竜は1Pの立ち位置へ。2P側の恐竜は2Pの立ち位置へ。持ち場にノソノソと戻ってから対戦再開。それがシュールと言うほかないが,太古ながらもルールに基づいたフェアプレイの精神は見えてくる。

 このとおり,現代の細分化されたジャンルの区分に照らし合わせると,本作はおそらく“格ゲー風アクション”くらいの分類が妥当だ。
 なお,ビジュアルが気になる人はいちいち検索してくれ。



恐ろしきは“ヤツ”の鳴き声


 恐竜たちは通常攻撃のほか,打撃技・投げ技などを複数個備えている。ただし「レバー↑でジャンプしないからイイでしょ?」とでも言うのか,必殺技コマンドは“レバー上から3/4回転+ボタン”だ。

 格ゲー初心者が入力するには明らかに高難度だが,このコマンドは全恐竜で共通しているため,一度手になじませてしまえばキミはもうダイノレックサーだ。一応,←→タメで出せる突進系の必殺技もあるが,リターンよりもリスクのほうが明らかにエグいので忘れるべきである。

 3メモリで区切られた特殊ゲージ「パワーメーター」は,強力な必殺技「パワーボンバー」で消費する。これは初動アクションのヒット時のみ,メモリ残量に応じたラッシュ攻撃を自動でたたき込むものだ。
 入力がAB同時押しで楽ちん。モーションもすばやく,ダメージもイチオシで当たると爽快。つまるところ,いかにコレを当てられるかがCOM戦の要となる。むしろ,この攻撃以外にリスク&リターンの見合う選択肢はほぼない。あるならこっちが教えてほしいくらいだ。

 このほか,吹き飛ばされてダウンさせられた側はすばやくボタン連打で起き上がらねば,「追い打ち攻撃」をくらう危険性がある。
 この追い打ちは,3D格ゲーでよく見られる小ダメージ加算どころの話ではない。息の根を止めるかのような捕食モーションから,弱肉強食を彷彿とさせる試合終了レベルの大ダメージを与える。悠々と寝転んでいる軟弱トカゲは,この世界では喰われて当然といわんばかりだ。

※この追い打ちシステムが,後続に影響を与える話もあったりする

 ちなみに,対戦中はレバーを後ろ斜め上に倒しっぱなしにして,恐竜を鳴かせてパワーをためながら,後ろ歩きで画面端に下がっていく動きがめっぽう強い。相手の後退に追いつける手段は限られている,というかほぼ皆無なため,ゲージを安全にため,パワーボンバーをぶっ放し,相手を反対の画面端まで吹っ飛ばしたら,以降繰り返し――。
 これがCOM戦で,もっとも堅実なリターンを見込める。そもそもCOM自体がアホみたいに強いので,真っ向勝負などはなから下策も下策。せまいステージで画面端に追い込まれたらフルボッコENDを覚悟しろ。


 けれど,この戦法には一つだけ大きな問題がある。パワーをためこむとき,恐竜は大空に向かって遠ぼえするのだが……ある恐竜の鳴き声が,耳に障るほどの鋭いトーン&ボリュームで調整されている。

 おまえだよ。パキケファロサウルス。

 このパキケファロの鳴き声はもう,妙に甲高いしうるさい。ゲーセンという環境にあって,遠くで違うゲームをやっていても「あ,パキケファロだ」と余裕で分かるくらい超音波的な音域で超うるさい。対戦相手への煽りとしても非常に強力だろうし,もし隣で違うゲームをやっている人がいたら,舌打ちくらいは甘んじて受け入れる覚悟が求められる。

 しかもだ。このゲーム,パキケファロ以外の恐竜たちは,選択すること自体がハイリスク&ノーリターンに近しいジュラ紀仕様である。
 キャラ差から見て,明らかにパキケファロ一択なのだ。

 彼は鈍重ぞろいのなかでもアクションの挙動が軽快で,突進・対空の技もそろえていて,全体的な低火力もパワーボンバーで補える。あえて彼を抜くなら,次点でコンパチのスティギモロク,モーションは物足りないがギリギリ普通なアロサウルスあたりが扱いやすいほうだ。
 なお,使いやすくはあっても利点と言えるものはほぼない。

 これらについては,むっっっかしから存在している本作の個人攻略サイトでも同じような見解が述べられている。しかも容赦なく。

 とはいえ,このゲームの対人戦が盛んな奇特なゲームセンターでは駆け引きが磨かれ,新たなダイアグラムが生まれている可能性はある。火力や一点技だけ見れば,確かなスペックを持つ恐竜もいるためだ。
 しかし,正直に。初心者が「好きな恐竜でやるのが一番だよね!」なんてキャラ愛で挑むのは無謀。夢格ゲーマーと言われても仕方ないし,逆に「ダイノレ,バカにしてんの?」と言わざるをえない。

 COM戦をやれば分かる。敵はよくある頻度で,AI特有の強烈すぎる読み行動に出る。「もしかしてあの恐竜,めちゃくちゃ強いのでは?」などと錯覚すらさせられる。だが大概は,パーティに加入したと同時にザコ化する“昨日の強敵は今日は馬車”の現象に陥る。

 ゆえに,まずはパキケファロ。
 これは推奨ではない。古代の掟だ。



バトルかコントか,それが分からない


 恐竜たちの戦いっぷりだが,彼らは個性が際立っているどころか,常識に求められる一線を軽々しく踏み越えてくる。ゲーム中,まず目を疑うであろう筆頭は,トリケラトプスの必殺技「張り手アタック」だ。

 トリケラトプスと言えば,恐竜に詳しくない人にも「カワイイ」「草食系」と人気がある(と思いたい)。だがコイツの張り手アタックときたら“いきなり二足歩行でドタバタしながら前脚で張り手連打したあと,乱舞の最後にゼロ距離全身タックル”。この説明でどれだけの人が絵面を想像できるのか逆に申し訳なくなるほどのエンタメな動きを見せる。

 この現代の恐竜史に衝撃を与えかねない斬新なモーションもさることながら,強キャラ筆頭のパキケファロにしゃがまれると,激遅なラストアタックがガードどころか当たり判定的にカスリもせず反撃確定という一途な性能も見逃せない。キャラ差という名の壁は,古代からあった。

 とはいえ,ほかの恐竜たちも大概だ。サマーソルトにドロップキックに頭突きロケットにボディプレスにと。ゲームナイズされた動作がよく目につく。これらは奇抜でいて,好奇心の角っこを無闇にかきたててくることから,本作のアピールポイントの一つに挙げられる。


 バトルをより熱くする要素もある。ステージ内の設置物を破壊すると出てくる「巨大な角材」は,往年の横ベルトスクロールアクションでよく見かけた特殊武器のように,使い勝手が微妙だ。
 しかし,恐竜が口に角材をくわえ,首だけでフルスイングする姿を目にしたのなら,その複雑な光景を数時間は忘れられなくなる。ついでに,そのへんを歩いているアンキロサウルスも武器になる。

 どうだ? ワクワクしてきたか?

 さらにバトル中は,勝敗の行方を左右するアイテム「卵」が,プテラノドンによりランダムでステージ内に投げ入れられる。
 これを取得すると「体力回復」「火炎放射」「一定時間,相手を停止」のいずれかの効果を得られるが,強力な恩恵との引き換えに,卵の取得は困難を極める。それは,自分と相手のどちらが取るかの駆け引き……なんて次元の話ではない。取れない。ただただ取れない。

 画面端からフワフワと空中を漂ってくる卵を取得するには,「かみつき攻撃(立ち弱攻撃)」でタイミングよく咬みつかねばならない。だが,これが語るも愚かな難度だ。上下に揺れ動く軌道。動きが鈍重で頼りないかみつき。卵に気を取られると相手の攻勢を許してしまい,完全無視だと相手に取られてしまう,一発逆転装置のデッドレースと化す。

 それでも卵は基本,無視するのがベターだろう。この卵は最高難度のCOMでさえ,だいたい取れない。それくらいピョンピョンと跳ねやがる。その軌道は,昔のWindowsに搭載されていたゲーム「ソリティア(クロンダイク)」のクリア画面で狂喜乱舞するトランプの動きに等しい。ハイリスク&ハイリターンの選択肢としては優秀だが,無視安定だ。


 これらの愉快さ過剰なバトルは,意外と丁寧な立ち回りが要求される。COM戦における攻略の基礎をあらためてまとめると。

・密着時は上段すかし狙いで「しゃがみ かみつき暴れ(屈小パ)」
・特定の恐竜が持つ「対空技」か「突進技(の先端当てのみ)」
・ガン待ち反確 or パナしで輝く「パワーボンバー(完璧行動)」


 である。このほか超大ダメージの投げ技,リーチ長めの尻尾攻撃など,字面だけなら魅力的な技もあるが,おしなべて動作が重い。そのうえCOMの読みの前では,こちらの選択肢の大半は死に技。中距離でけん制しても殴り合いにもつれ込むと一瞬でひっくり返る。徒労である。

 私が一度もやったことがない,これから先の時代で大いに盛んになっていくのだろう対人戦では立ちゆかないかもしれないが。
 COM戦の攻略は結局,「挙動×威力=最適解(パワーボンバー)」をぶっ放すことだけが,正攻法と言うほかない。

 そしてその代償に,みんなパワーゲージをためまくるものだから。
 自分のみならず,周囲一帯でパキケファロの声を延々と聞くわけだ。
 「鳴きマネして」と言われて,今すぐ再現できるくらい聞くぞ?



勝者と敗者の違いは,そのうち分かる


 恐竜たちの死闘中,画面手前側の対戦外エリアでは,ダイノレックス候補の恐竜使いたちが右に左にと走り回って,自らの恐竜を応援している。バトルに勝ったら一緒に喜び,負けたら一緒にうなだれる。
 とくに意味はないが,小気味のいい姿だ。恐竜も勝利時に対戦相手を踏みつけて勝ちどきを上げるなど,ノリノリな姿を見せる。

 原始的なイメージなのか,ずっとドンゴドンゴしている打楽器やピーヒョロヒョロな笛の音のBGMにも,気付けば浸ってしまうだろう。

 しかし,王者になれるのは1人であるからにして。バトルの敗者は地面に這いつくばるどころか,相応の罰までもが下される。
 戦いに敗北した恐竜使いは,その場で翼竜「プテラノドン」の大きなクチバシにくわえられ,大空のいずこかへと連れ去られるのだ。

 その姿の哀れさと言ったら,もうない。

 しかも,この敗者イベントにはなぜかこだわりが注がれている。負けた恐竜使いの末路には「くわえられて連れ去られる」パターンと,「その場で丸呑みにされる」パターンの2種類が用意されている。
 とくにその場で丸呑みされるやつは妙にツボで,当時はゲーセンで目にするたび,なんとも言えないニヤニヤが抑えきれなかった。

 ちなみに,プレイヤーが敗北したときのゲームオーバー画面では,プテラノドンのかわいらしいヒナたちが,巣のなかで口をパクパクしながら,親の帰りを今か今かと待ちわびている姿が見られる。
 連れ去られた敗者の末路との因果関係については,知る由もない。



ファンタジックな夢世界で大暴れ


 COM戦では全7体(プレイアブル6体+シルバー・トリケラトプス……シルバー・トリケラトプス……?)と戦い,王者を目指す。
 ただ,特定のステージの合間には「ボーナスステージ」がある。

 計3回存在するボーナスステージでは,「夢を見た」の一言で恐竜が現代へとタイムスリップし,海外風のタウンで大暴れするボーナスゲームを楽しめる。これ以上の説明は本編にもとくにない。

 ボーナス1回目は,警察のパトカーやヘリコプターを相手に暴れ回る。ボーナス2回目からは,軍隊の歩兵や戦車などが待ち構える。
 だが,現代兵器なんぞ最強生物に効くはずもないので(無敵仕様),歩き・ジャンプを駆使して,パーフェクトスコアのために破壊の限りを尽くしていく。ステージのラストには白いハウスが待ち構えているので,姿形を残さぬよう見事なまでに粉砕し,気持ちよく対戦に戻ろう。

 このボーナスステージには実は,バックストーリーが存在する。そこでは恐竜の暴虐に抗った,たった1人の男の生き様が描かれる。
 そもそも私兵部隊が出てくるこの町はなんなのか? 都市の壊滅後,男はどのような末路を歩むのか? せっかくなのでネタバレはしない。個人的に大嫌いなスティギモロク戦に勝利し,自分の目で見てほしい。

 まあ,初見には無理ゲーだよ。アイツはよ。

 ボーナスステージ以外の各ステージの合間では,イラストと短文で物語がつづられる。その内容は,あくまで旅中をうかがわせる散文的なエピソード,もしくはフレーバーでしかないのだが。内容が限定的だからこそ引かれるものがあり,世界観の広がりを感じられる。
 物語終盤は,プレイヤーが暴君へと挑むヒロイックな展開になっていくため,そこもダイノレックスの楽しみポイントである。



初めてのバトルは今でも思い出せる


 私がこのゲームと出会ったのは,ゲームセンターにまだ不健全な暗がりがかすかに残っていた時分の,小学生のころ。
 恐竜と言ったら,やっぱり「ティラノサウルス」。そんな典型的な子供だったから,初プレイで選んだのも当然ティラノサウルスだった。

 「よく覚えてるな」「捏造か?」と疑問に思うかもしれない。だが忘れない。忘れられるわけがない。己のティラノサウルス像を今日まで揺るがし続けてきた,大事件の幕開けだったのだから。

 ティラノサウルスと聞けば多くの人は,最強の肉食恐竜,強靭でしなやかなボディ,二足歩行のプレデターなどの魅力を挙げるだろう。
 まあ,恐竜史のT-レックスに明るい人だと「走れないだろ」「死食類だろ」「羽毛だろ」と物言いがあるだろうし,彼のイメージも年々ショボーン……という感じにリデザインされまくっているものの。
 ともかく,当時のティラノサウルスはジュラシック・パークのごとし,“カッコよくて強いイケメン恐竜の代表格”であったという話だ。

 だから私も初プレイでは迷わず,姿も見ず,名前だけでティラノサウルスを選択した。そこで違和感――ラーメンを頼んだらカレーが出てきた。SNSの写真が替え玉だった。久々に会った友人がメタボルフォーゼ。
 そういうものを見たときの気持ちに近しかった気がする。


 あのころの自分の言葉を代弁するなら,きっと。

「これはない」


左がティラノ,右がアロ。画像はプレスリリース引用
画像集 No.002のサムネイル画像 / 格ゲーマーよ。いにしえの恐竜闘技に震えろ――マッスル×ケミカルの極み,アーケード版「ダイノレックス」最後(?)のレビュー


左がアロ,右がティラノ。画像はプレスリリース引用
画像集 No.003のサムネイル画像 / 格ゲーマーよ。いにしえの恐竜闘技に震えろ――マッスル×ケミカルの極み,アーケード版「ダイノレックス」最後(?)のレビュー


 引っぱっておいてなんだが,本作のティラノサウルスは上のとおりだ。その,太ってる。すごく太ってる。いや,とてつもなくだ。

 頭部は大きい。手足は短い。胴体は寸胴。当時は筐体のインストカードに描かれた強面のティラノと,実際に選んだビール腹のティラノが同一存在だと思えない混乱のさなか,初戦を迎えた。

 ティラノはその姿に違わず,ゲーム中でもピカイチの鈍重さ。それでいて攻撃のリーチがゆるキャラ程度にしか備わっていない。
 必殺技もあるにはあるが,レバー3/4回転が「餓狼伝説スペシャル」の超必殺技コマンドくらい出すのが困難であったため,発動できた覚えはない。そして一戦目のアロサウルスと泥仕合をし,負けた。小学生にとっては地球の重さと同等である100円玉があっけなく飲まれた。

 後年になってから,ティラノは攻撃力が高く,密着時の必殺投げで強烈なダメージをたたき出せると知ったが,後の祭りだ。
 操作した瞬間に分かる弱キャラぶりと,前述したビジュアルへの疑問。それらが合わさり,私はティラノサウルスレックスという種に大きな疑問を持つこととなった。けれど,悪い話ではない。

 私はこのとき「世の中の物事はイメージだけで決めつけてはならない」という,昨今にあって光る情報リテラシーを学ばせてもらった,のではないだろうか。となると,ダイノレックスは知育教材であった……? 可能性は否定できない。少なくともそれ以降,恐竜史はロバート・バッカーやグレゴリー・ポールのような革新論の肩を持つようになった。



真の姿は対アメリカ「DINO REX」


 ここまで好き放題いじってきたダイノレックスだが,本作は企画当初“対海外向けゲーム「DINO REX」”として開発されていた。
 確かに,要所で洋ゲーな雰囲気があるし,狙い通りにアメリカンなストリートの遊技場に置かれている姿を想像してみると,日本では奇々怪々に見えたそのビジュアルもけっこうさまになった気がする。

 ならばなぜ,DINO REXは国内リリースを迎えてしまったのか?

 その真相については,当時タイトーで制作を指揮していた仙波隆綱氏のブログで語られていた。そこでは仙波氏が開発するにあたり採用したアプローチの数々が述べられており,開発事情を知ることができた。
 同時に,短すぎる制作期間。停滞していた開発事業。次々と重なる業務の多忙さ。急遽変更された販売方針など,生々しい内情も記されていた。愉快そうなゲームの見た目からは計れない裏側の温度差。一昔前は第三者の立場ながら,割るに割り切れないモヤモヤを感じたものだ。

 しかし,それらの記事を掲載していた大本のブログサービスが2015年に終了してしまったことで,当時は見ることがかなわなくなった。
 同年,FC2で新たに「仙波隆綱 公式ブログ」がはじまったが,“(消える前の)ブログへのすり寄りを着地点に,ここまでの言い分に目をつむってもらおうと思ったのがこの原稿”であったため,お蔵入りした。

 あれから約8年……8年か。このテキストは一生,日の目を見ることはないと思っていたが。今になって,ダイノレックス,でちゃうからね。

 ま,いっかってね。SDGsなリサイクル精神でGOである。

【アクセスできません】「DINO REX」について記されていた波隆綱氏のブログURL。「8年間ここにメモしてたんだぞ!」の主張のためだけに記載




今日,この日,みんなの心に宿った光


 ダイノレックスとは,大人になってから東京・秋葉原のゲームセンター「Hey」で再会した。彼はシューティングゲームフロアにいた。しかし,こちらも2015年上半期ごろの模様替えで姿を消した。
 あのころ,なぜコイツがSTGコーナーにいたのかはいまだに謎だ。けれど,プロの店員ですらも「コイツは格ゲーではないかも,と悩んだうえで設置したんだろう」と思うと,苦笑しつつ同意できた。

 それに,このころ対戦格闘ゲームフロアでは「ブレイブルー」や「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス」などの最新世代が稼働していた。ゆえに,ご老体のダイノレックスがその列の一角を成しているよりかは,キングフォスルやドスケラトプスなどのSTG怪獣たちと肩を並べているほうが,穏やかな余生に思えて心なごやかだった。
 彼がいなくなったあとの喪失感は大きかったが,その悲しみを癒やすように,しばらくは3階の「大江戸ファイト」で河童の腕を伸ばした。


 8年前,なぜこの原稿を書いたのかはここに記されていた。私はどうも「この先,ダイノレックスを他人に語れる機会が果たしてあるのか?」という焦燥に駆られていたらしい。ハハハ,だいじょぶか?

 でも,その気持ちは分かる。いまどき「コンビニ行くけど,帰ったらダイノレックスする?」なんて口にして,誰に通じるのだろう。確実にイヤらしい隠語にしか思われない。そして懇切丁寧にダイノレックスの魅力を誰かに語ろうにも,相手によっては苦痛のひとときだ。
 自分に置き換えてみると,仲良くない人にぜんぜん興味のないインディーズバンドの魅力を延々と語られるくらい苦痛なはずである。だが,ここまで読んできたキミはもう,このゲームを知ってしまった。


 読者の一部,そのさらに一部だけだろうが。
 キミはもう,遊んでみたくてたまらないんだろ?



 画像のなさから膨らんだ想像は,これまで本作をネット上で支持してきた奇怪な……コホン。嗜好がマッスルな者たちが公開してきた画像・動画にぜひ注目してあげてほしい,などと検索誘導を促しつつ。

 最後の最後に,一部ネタバレをしてしまう。ラスボスのティラノサウルス戦に勝利すると,ラストで「恐竜使いvs.前王者」がリアル等身になって対戦格闘をおっぱじめる。そりゃ,実際に王者になるのは恐竜じゃなくて人間のほうだろうし,力こそパワーな時代であることは容易に想像がつくが。ここまできて人対人にするのはお遊びがすぎる。

 しかもこいつら「波○拳」「〇龍拳」「竜巻○○脚」といった,システムからして反骨していたはずのストIIでおなじみな必殺技をオマージュしてやがる。鋭い牙を見せつけてすくませてきたかと思えば,最後の最後にじゃれてきて親密感を露わに迎合してくる。ダイノレックスというのは,あるいは,つまり,そういうゲームなのかもしれない――。

 ということで,恐竜ゲーのすみっこに燦々と輝く「ダイノレックス」。その尖りに尖ったマッスルさ×ケミカルさは,このご時世だからこそ,目に,耳に,心に刺さるものがある。それに「タイトーマイルストーン2」移植版では,とんでもない大変身を遂げている可能性だってある,かもしれなくもないのだ――――ゆえに,おびえろ,人間どもよ。

 パキケファロの鳴き声は,一度聞けば,二度と忘れられねえからよ。

「タイトーマイルストーン2」公式サイト

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