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[インタビュー]ライブゲームを手がけてきた開発陣は,初めての売り切りゲーム「Struggle F.O」にどんな思いを込めたのか
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印刷2024/11/15 12:00

インタビュー

[インタビュー]ライブゲームを手がけてきた開発陣は,初めての売り切りゲーム「Struggle F.O」にどんな思いを込めたのか

 本日(2024年11月15日),Steamで配信された「Struggle F.O」は,さまざまな種族が入り乱れる謎の土地を舞台に,主人公の少女ジョゼットが集落の用心棒となり,恐竜や亜人など個性的なアライズ(仲間)達と共闘するアクションRPGだ。

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 開発を手がけたエスパーダは,MMORPG「グラナド・エスパダ」やスマホアプリ「はがねオーケストラ」iOS / Android)といったライブゲームを手がけたメンバー達によるデベロッパで,本作が初の売り切りゲームとなる。
 ちなみに本作開発中の2023年末には,2020年8月にサービスを終えた「Witch's Weapon -魔女兵器-」iOS / Android)とのコラボを発表し,話題を呼んだ。

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 今回4Gamerでは,ライブゲームのベテラン達がなぜ売り切りゲームを作るのか,なぜサービス終了したゲームとコラボをするのか,などの気になるところを聞いてみた。

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 エスパーダは本日,PC向けアクションRPG「Struggle F.O」の配信を開始した。「Vampire Survivors」の派手なバトルに「Ark: Survival Evolved」的なテイミングのエッセンスを加えたという本作の,プレイレポートをお届けする。

[2024/11/15 12:00]


ライブゲームを手がけてきた開発者達が,

永遠にプレイヤーの手元に残る売り切りゲームを作る


4Gamer:
 よろしくお願いします。
 最初に読者に向けて自己紹介をお願いします。

片野 健氏(以下,片野氏):
 「Struggle F.O」のプロデューサー兼ディレクターの片野です。

Gunso氏:
 管理進行のGunsoです。

4Gamer:
 まずは,エスパーダという会社の成り立ちと「Struggle F.O」を制作するに至った経緯を教えてください。

片野氏:
 我々エスパーダは,ハンビットユビキタスエンターテインメントでMMORPG「グラナド・エスパダ」や,スマホアプリ「はがねオーケストラ」といったオンラインゲームを手がけていたメンバーを中心に,2017年に設立した会社です。
 いわゆるライブサービス系ゲーム(運営型ゲーム)のベテランが集まっていることもあって,これまでは他社さんのプロジェクトに協力するようなことがほとんどでした。

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4Gamer:
 それが自社でオリジナルタイトルを作ろうとなったのは,何かきっかけがあったんでしょうか。

片野氏:
 会社として新人の育成をしなければならないとなったんですが,我々はパブリッシャであり,自前のIPを持っていません。新人を育成するには,やはりゼロからゲームを一本作るのが手っ取り早いだろうということで,全額自分達の出資でゲームを作ろうと立ち上げたのが,「Struggle F.O」です。

4Gamer:
 確かに,ゲームを一本作ると,クリエイターとしての成長が早いという話は聞きます。
 売り切り型のゲームにしたのは,どういう理由があるのでしょう?

片野氏:
 ライブゲームというのは,永遠にサービスを続けることがどうしても難しいものなんです。我々がかつて,ハンビットユビキタスエンターテインメントでオンラインゲームを運営していたとき,技術を始めとしたさまざまな問題で,サービスを終了せざるを得ないということがありました。
 2012年にMMORPG「アークサイン」のサービスを終了をさせたときも,思い出の品としてプレゼントを配布しました(関連記事)。ただ,あとからゲームをプレイしようと思ってもできず,思い出しか残らないという感覚が,ずっと心の中にしこりみたいにして残っていたんです。
 こうした経験から,プレイヤーさんが「また遊びたい」と思ったとき,いつでも最後まで遊べるようなゲームを作りたい……という思いから,「Struggle F.O」で売り切りに挑戦することになったんです。

4Gamer:
 近年のスマートフォンゲームでも,サービス終了にどう向き合うかが課題となりつつあります。エスパーダの皆さんはこうしたテーマに昔から取り組んできたからこそ,今回売り切りのゲームを作ろうということになったわけですね。
 ライブゲームと売り切りゲームでは,コンセプトの立て方はどのように変化するのでしょう?

片野氏:
 ライブゲームは8割くらい作ったところでサービスインし,その後はプレイヤーの様子を見ながら発展させていきます。商品の中心が運営にあり,運営がプレイヤーの動向をうまく分析してニーズに応えることによって,初めて商品性が成立するというものです。
 一方,売り切りのゲームは完成品をリリースし,その状態ですべてが評価されます。今でこそアップデートが行えるとはいえ,あとから仕様をバッサリ変えるようなことはできません。その分,ライブゲームよりも事前にプレイヤーのニーズを分析すべき労力が膨大になります。“こういうプレイをしたら,次にはこうしたくなる”だろう,といった部分を分析したうえで,先手を打ってシステムを作らなければならないわけです。

4Gamer:
 作り方としては大きく異なるわけですね。

片野氏:
 かつて「完美世界」のプロデューサーさんがおっしゃっていた,「ゲームというのは,売れるゲームか,面白いゲームのどちらかしか選べない」という言葉が印象に残っています。ゲームといっても結局は商品ですから,どういう商品にするかを最初に決めておかないといけない。
 プロデューサーが単に「面白いゲームだよ」と言ったところで,どういう売れ方や捉えられ方が理想なのかが分からないことには,現場は混乱してしまいます。そうならないよう,売り方やプレイヤーからの受け取められ方を想定し,そこに向かって作るということですね。

4Gamer:
 ターゲットを定め,そこに向けてコンセプトをぶらさずに作る必要がある,と。


新旧さまざまなゲームの良さを取り入れ

新たな作品を作る


4Gamer:
 では,「Struggle F.O」のコンセプトを作るにあたって,どういった部分を意識されましたか?

片野氏:
 一番に考えたのは分かりやすさや間口の広さです。アクション性などのすごさを追求すると,プレイできる方が限られてしまいますから,“操作は簡単でやり込みもできること”を目指しています。
 これまで我々が作ってきたゲームでは,他に類を見ないシステムを用意していました。実際に遊んでいただいた方には好評なんですが,遊ぶ前には新しさを理解してもらうまでのハードルが高かったんですね。今回はそういった作り方を避けて,“皆さんが知っているゲーム”をコンセプトに,既存作品を参考にしていきました。

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4Gamer:
 具体的には,どのあたりの作品でしょう。

片野氏:
 とくに影響が大きかったのは,面白さが分かりやすい「Vampire Survivors」ですね。ただ,短いサイクルでプレイを繰り返すゲームであり,長期的に遊ぶものではないという印象でした。
 そこで,やり込み要素を足すべく参考にしたのが「Ark: Survival Evolved」です。仲間を増やして自分好みに育てていくというテイストを,ここから取り入れました。そして,仲間を失う「ロスト」については,「Darkest Dungeon」を参考にしています。
 また,ひりつくような緊張感のあるボス戦を実現するうえで,「東方Project」「アズールレーン」における,弾の動きで脅威を表す手法を参考にしています。

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4Gamer:
 著名タイトルのいいところを取り入れ,組み合わせたわけですね。開発はどのような体制で進めたのでしょう?

片野氏:
 企画はベテランメンバーが作り,実際の開発は新人達が進めています。当初は半年程度で開発を終える想定でしたが,いろいろと難航して1年半ほどかかってしまいました。これはメンバーに開発経験がなかったことが原因で,ベテラン勢がアドバイスに入って立て直すことで,どうにか作り上げたという感じです。

4Gamer:
 主にどのあたりが難航したのでしょう?

片野氏:
 プログラム的な部分ですね。最初はイメージを見ようということで,新人達に「Vampire Survivors」風に動くものを作ってもらったんですが,実際にできたのは“見た目はそれっぽいけど,「Vampire Survivors」ではない”ものでした。例えば,弾が一つ飛ぶにしても,出方や当たり方には何かしらの意図があるものなんですが,そうした部分を掴めていなかったんです。

4Gamer:
 「Vampire Survivors」系としての面白さがどこにあるのかを掴めていなかった,と。

片野氏:
 はい。アクションのムービーを作るならともかく,アクションゲームにはなっていないという出来でした。その後,「Vampire Survivors」をそのまま再現するだけではなく,シューティングっぽいものを目指したほうが伝わりやすいということで,徐々に方向性を直していきました。
 また,新人達に経験が無かったことから,あとからアップデートできるようなデータの持ち方になっていないといったこともありました。

4Gamer:
 そういったやりとりの繰り返しの中で,「これならいける」という手応えが感じられたのはどれくらいの時期でしたか?

片野氏:
 けっこう遅くて,昨年の秋頃でしたね。ここからボリュームを足していき,現在に至っています。

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懐かしいゲームを参考に

要素を追加していった


4Gamer:
 ゲームの世界観について聞かせてください。
 アニメチックな絵柄と明るい主人公ジョゼットと可愛らしいキャラクター達,世界に秘められた謎といったストーリー面が印象に残りました。これらは,どのように作り上げていったのでしょう。

片野氏:
 「Struggle F.O」は世界での展開を目指していて,当初はセリフが一つもありませんでした。というのも,他言語にローカライズするには品質管理も求められますし,当然そのぶんの費用もかかるんですね。
 では,セリフを入れない前提でどうやってゲームに魅力を持たせるかを考えると,世界観を作り込むしかありません。
 そこで,本作ではSF的な世界をちゃんと構築したうえで,表面的にはファンタジー風に見せています。プレイしていくと,徐々にこの世界の“ヘンなところ”が明らかになっていきます。

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4Gamer:
 しかし最終的にはセリフを入れることにしたんですね。実際にプレイしてみると,ジョゼットと村人達のやりとりが面白いし,親しみが持てました。

片野氏:
 作っていく過程で,セリフがないと世界観を理解しにくいという声が多かったんです。世界を作り込んだ以上,謎を解くようなテキストは最低限必要になりますから,それをキャラクター達にしゃべらせても予算的にはあまり変わらない。そこで,テキストもボイスも多少は入れてしまおうということになりました。
 ある程度ゲームが進むとストーリー的なテキストが出てくることはほぼなくなりますし,エンディングにもテキストはほぼありません。

4Gamer:
 エンディングがあるというのは,「Vampire Survivors」系のゲームには珍しいと思います。

片野氏:
 そこは,実況者の皆さんがゲーム配信をすることを想定したとき,終わりがないとやりようがないだろうということで,エンディングを入れました。発売日の時点ではエンディングではなく「エピローグ」が入っていて,アップデート後にエピローグのさらに先の話としてエンディングを追加する予定です。エンディングは,それまでと少し見せ方を変えたものにしています。
 どちらもやり込み後の話にはなっているので,エンディングを見なくてもプレイには支障ない形にしました。

4Gamer:
 アップデートではエンディング以外に何かが追加されるんでしょうか?

片野氏:
 複数のマップを追加予定ですので,楽しみにしていてください。

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4Gamer:
 本作の大きな特徴が,ジョゼットと共に戦ってくれるアライズ(仲間)だと思います。どんなアライズがいて,どんなことができるのでしょう?

片野氏:
 敵を倒すとアライズとしてテイミングできる場合があり,ボス以外のほぼすべての敵がこの対象となります。アライズは4体まで連れて行くことができ,「アタッカー」「タンク」「ヒーラー」「デバッファー」「バッファー」「コントロール」といったロール(役割)を持っています。レベルアップで手に入れるバフの中には,特定の役割や種族にしか効かないようなものがありますから,こうした部分を考えつつ,いろいろと組み合わせるのが楽しいと思います。

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Gunso氏:
 アライズの交配もやり込み要素です。街の施設でアライズを交配させると,より強いアライズを生み出すことができます。交配を通してアライズを強くしていくことが,やり込みのメイン要素になっています。
 交配したときの能力値は,両親のどちらかから引き継ぎ,ステータスの合計値がそのまま初期レベルとなります。つまり,ステータスが高いアライズを交配すると,最初から高レベルのアライズが生まれます。そしてアライズは,主人公と一緒に戦わせることで初期レベル+100まで育てられます。

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片野氏:
 例えば1レベルのアライズなら101レベルまで育ちますが,初期レベルが101レベルなら201レベルまで上げられるわけです。そして,初期レベルはステータスの合計値ですから,不要なステータスというものがないんです。

Gunso氏:
 アライズのレベルが上がったときは,プレイヤーが好きなようにステータスを割り振れます。例えば,大型の恐竜のような「タイラントサウルス」というアライズにしても,攻撃が激しいステージを攻略するために防御重視にしてもいいですし,一気に攻めたいステージの場合はより攻撃に特化させるのもいいと思います。プレイヤーそれぞれ,好みの形を作っていってほしいですね。

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4Gamer:
 そのあたりはシミュレーションゲームっぽいですね。アライズ1体の育成にはどれくらいの手間が掛かるのでしょう?

片野氏:
 初期レベルの高低を問わず成長スピードは一定です。2〜30レベル程度ならサクサク上がっていき,100レベルまで上げようとするなら20時間ほどかかる感じです。とはいえ,新しいフィールドでは,それまでより強いアライズが出てきますので,乗り換える形が基本だと思います。交配を利用すれば初期レベルも高くなりますから,どんどん強くなるわけです。

4Gamer:
 初期レベル+100までしか上げられないのであれば,戦いについていけなくなったアライズはどうなるのでしょう?

片野氏:
 「引退」させて,集落の役に立ってもらうことができます。戦いについていけないようであれば,攻撃を受けすぎて「ロスト」する前に引退してもらったほうがいい,ということですね。
 アライズには「摩耗度」という寿命のようなパラメータがあり,攻撃を食らいすぎると減っていきます。摩耗度はレベルアップすると全快しますが,100レベル上げるとそれ以上レベルアップできなくなるため,回復する手段もなくなってしまうんです。

4Gamer:
 プレイレポートのために遊んだときも,実際に何体かのアライズをロストさせてしまいました。アライズに感情移入できるだけに,ロストはつらいですね。だからこそ,無謀な戦いをさせるのではなく,引退を視野に入れるべきということですか?

Gunso氏:
 ええ。摩耗値があるため,戦いに連れて行くとロストする危険が高まっていく。ロストさせたくないのであれば引退させ,それまで“二軍”だったアライズ達を育てていく……というサイクルを作りたかったんです。
 このあたりのシステムは,個人的にいろいろなゲームをやり込んだ経験をベースに考えました。常々,強い“一軍”メンバーが決まってしまったら,ほかのキャラクターを使わなくなるのはもったいないと思っていましたから。

片野氏:
 失うからこそ大事にする。限界があるから世代が動いていく。世代交代のときにも,それまで可愛がっていたアライズの子,というつながりがある。引退させたアライズには集落で会えますし,アライズ達が徒競走する「アライズレース」に出場することもあります。

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Gunso氏:
 引退させたアライズについても親や引退日など詳細な記録が残るので,思い出に浸ることができるんです。

4Gamer:
 壁役や攻撃役といった役割分担も面白いと感じられました。開発側として,とくに面白いと感じるロールはありますか?

片野氏:
 面白いのは「コントロール」ですね。敵の進行を妨げたり,吹き飛ばしたりすることで,文字どおり敵を「制御」します。また,弱っているアライズの近くに行って敵を蹴飛ばしてくれたりもするため,「タンカー」のロールや防御力を高く育成したアライズと組み合わせると生存率が上がります。「アタッカー」や「バッファー」のような直接的な強さはないんですが,“使える”ロールですね。

4Gamer:
 「Vampire Survivors」系のゲームで,そういう仲間がいるというのも面白いです。

片野氏:
 制御できない味方キャラクターはリスクになるのではないか……とも考えたんですが,昔のゲームにおける味方キャラクターの扱いを参考にしました。
 例えば「ボコスカウォーズ」の兵士や,「R-TYPE」「グラディウス」のビットにオプションといった味方キャラクターは,連れていると手数でプラスになるというところがあります。ゲーム上でどのように扱うかの制御を間違わなければ,遊びの幅が広がるのではないかと思って実装しました。

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Gunso氏:
 ゲームデザイン自体“プレイするたびに自分のレベルがリセットされる”というものなので,プレイを終えると遊びも終わってしまうんです。そこで,オプションとしてのアライズ達をどう育てるかで長く遊び続けられるゲームにしようと考えたんです。

4Gamer:
 なるほど。プレイヤー自身が操作するわけではなく,自機との位置関係を保ちつつ動くので,操作が煩雑になることなくフォーメーションプレイのようなことができる。自機とは異なった特性を持っているので,どの敵にどの味方をぶつけるかという戦略性がある。レトロゲームからの学びですね。

片野氏:
 うまくいかなかったら諦めよう,というところからのスタートでした。まずは1体を実装してみたらうまくいったので,現在の4体編成となっています。バランス的には,ボス戦なんかでもう1体が欲しくなるくらいの調整をしました。

4Gamer:
 アライズを開発するうえで苦労したことはありますか?

Gunso氏:
 やはりゲームバランスの調整が大変でした。当初は“敵の装甲を抜けないとダメージを与えられないから,アタッカーのアライズが必要になる”という調整でしたが,それだとプレイヤーキャラクターが役立たずのまま逃げてばかりになってしまいました。

片野氏:
 これでは面白くないということで,プレイヤーキャラクターの攻撃力は下げるけれど,防御の影響を無視できるようにしたら,今度はプレイヤーキャラクターが強くなりすぎてしまいました。これではまずいので攻撃力をどんどん落としていって……と調整を重ねた末に,今の形になりました。

Gunso氏:
 現在はプレイヤーキャラクターがいると戦闘が有利にはなるけれど,ちゃんと育てたアタッカーなら最終的にプレイヤーキャラクターを上回るダメージを出せるというバランスになっています。

4Gamer:
 個人的にはアライズとジョゼットが合体攻撃する「ライドスキル」も印象的でした。アライズのそれぞれにライドスキルがあり,いろいろなパターンで攻撃できるのが面白かったです。

片野氏:
 ライドスキルは,2Dシューティングゲームにおける「ボム」から着想を得たものです。

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4Gamer:
 敵弾を消し,追い詰められた状況を整理する。2Dシューティングの伝統的なシステムですね。

片野氏:
 「Struggle F.O」って,見た目は「Vampire Survivors」に似ているけれど,ベースになっている考え方自体は2Dシューティングのそれなんです。2Dシューティングであればボムは必要だけど,ジョゼットにボムを持たせてしまうとアライズがいる意味が無くなってしまう。それならジョゼットをアライズに乗せて,アライズがボムの代わりをすればいい。味方がダメージを受けているなら回復のアライズに乗り,敵が強いなら防御のアライズに乗る……ということを選べるようにしたんです。

4Gamer:
 なるほど。たくさんの敵や弾が出てきたときに,一発逆転や状況を整理するためのフィーチャーがないと,追い詰められてやられてしまってストレスになりますもんね。

片野氏:
 最近のゲームからコンセプトを持って来るようなことをすると,似たようなものがすでにあったりするんです。だから,昔やったゲームの中から,面白い要素だったけど最近は使われていないものを引っ張り出してきました。

4Gamer:
 最新のゲームなのに,昔懐かしいゲームが参考にされているのが興味深いですね。


売り切りのゲームという形態で

ライブサービスの宿命を克服する


4Gamer:
 新人達と協力して作品を作ってみて,ジェレーションギャップを感じることなどはありましたか?

片野氏:
 ジェネレーションギャップは感じませんでしたが,私自身がこれまで,海外の経験のある開発者と仕事をすることが多かったこともあり,何をどこまで指示するべきなのかで,悩むことはありました。
 そのため,新人達にどんな情報を伝えればいいのかなどの試行錯誤が必要で,そこで想定より2倍も3倍も時間がかかりました。
 その分,成長は著しく,今となってはベテラン達の要求にも応えられるようにはなりました。

4Gamer:
 開発中に士気が上がった瞬間はありますか?

片野氏:
 ゲームがものになってきていると実感した瞬間や,リッチになっていく瞬間,ボス戦がうまく調整できた瞬間ですね。例えば,本作はワンコインで買えるゲームにする予定だったのでジョゼットには歩きモーションがなく,2Dの絵をそのまま動かしているだけでした。でも,社内から歩きモーションが欲しいという要望があり,それに応えて歩かせてみたところ,リッチになったし士気も上がったんです。その分,少し価格は上げざるを得なくなりましたが。

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Gunso氏:
 誰かにやってもらったことではなく,自分達でトライしたことがうまくいき,自分自身の成長を確かに実感できる。こういうサイクルはやっぱり大事ですね。

片野氏:
 人気イラストレーターのIxyさんや,「はがねオーケストラ」でお世話になった今野隼史さんのイラストが入ったときも士気は上がりました。魅力的で迫力があって「このゲームを作ってよかったな」って思いました。

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4Gamer:
 メインイラストレーターをIxyさんに決めた理由は?

片野氏:
 条件は,海外を含めて人気のある方で,しっかりと手が早く,顧客が見たいものを探る力がある方……というところでした。そこでIxyさんにお声がけしたところ,面白そうだということで応じていただけました。

4Gamer:
 素人目からすると,世界を狙う=フォトリアルな絵という先入観をどうしても抱きがちです。

片野氏:
 フォトリアルで勝負するとなると,絵作りの経験値は海外の方のほうが高いですし,コストも跳ね上がります。今回の「Struggle F.O」は予算をかけずに作るという前提で,なおかつ日本産コンテンツの強さを考えるならアニメ調だろうと判断しました。3DCGの方向性も捨て,塗りもシンプルにして……と決めていった結果,現在のアートスタイルになりました。

4Gamer:
 予算をかけない分,アイデアで勝負しよう,という感じだったんでしょうか。

片野氏:
 それこそハンビットユビキタスエンターテインメント時代から,予算がなければアイデアで何とかする……ということを続けてきましたから(笑)。私が担当していた「グラナド・エスパダ」や「アークサイン」もプロモーション予算は0円からスタートしたくらいですし。
 なので,「Struggle F.O」のプロジェクトを開始するにあたり,“5億円か0円か”という話をさせていただきました。

4Gamer:
 なぜ“5億円か0円か”なのでしょう?

片野氏:
 5億円というしっかりとした額を出せないのであれば,中途半端に使うよりはお金を出さないくらいのほうがいいということです。予算をかけるのであれば,他社さんがそれ以上の額を使ってきた場合に勝負できるのかが問題になります。中途半端な額であれば,いずれじり貧になりますから。
 逆に,お金を出さないなら,なるべく安価に押さえつつ,効果があるところに集中的に使うほうが絶対にいい,ということです。

4Gamer:
 なるほど。予算をかけて他社との苛烈な競争に挑むのではなく,新人育成の色合いも濃いプロジェクトだからこそ,できるだけ低予算で工夫をする,というアプローチだったんですね。

片野氏:
 ええ。予算規模に応じて,戦う土壌や戦い方を考える必要はありますからね。

4Gamer:
 具体的に,予算を抑えるためにどんな工夫をされましたか?

片野氏:
 先ほども少しお話ししましたが,テキストの分量を抑えてローカライズの費用を少なくしたり,ボイスを少なくしたり,アセット集やフリーのBGMを利用したりしています。ただ,アセットっぽいと思われるのだけは避けようということで,組み合わせや見せ方を工夫していますし,効果音は我々自身でも作っています。
 先ほど,ジョゼットにはもともとアニメーションがついていなかったというお話をしましたが,これも予算を抑えるための工夫の一つです。
 また,フィールドで手に入れた食材を使った料理でバフを掛けるといった要素があるんですが,こちらはアライズ達との生活感を出したいということと,SNSで横に広がっていく話題を作るべく導入しています。やはりプレイヤーさんの声は重要ですからね。

4Gamer:
 では,「Witch's Weapon -魔女兵器-」とコラボするに至った経緯についても教えてください。サービスを終えたゲームとのコラボは異例ですし,実際にSNSで評判にもなっていたようです。

片野氏:
 「Witch's Weapon -魔女兵器-」とのコラボは,当初から考えていたことでした。我々自身もライブゲームを作ってきましたので,どうしても復活させたいタイトルだと思っていたんです。
 ライブゲームは,どんなに世界観やキャラクターやゲームシステムが評価されても,どうしても終わってしまうという宿命があります。ですが,ライブゲームを生き返らせるための土壌として,終わることなく絶対そこにあるというゲームを用意したかった。それが売り切りゲームという形態であり,今回の「Struggle F.O」なんです。

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4Gamer:
 “どうしても復活させたい”という思いから,コラボが決まったということなんですね。

片野氏:
 ええ。復活させたいものの第一候補が「Witch's Weapon -魔女兵器-」でした。制作された会社さんも解散していましたが,いろいろな方に助けていただいてプロデューサーさんと連絡を取ることができました。“売り切りゲームで,永続的に続くコラボを作りたい”という思いを説明させていただき,実現に至りました。

4Gamer:
 先方の反応はどうでしたか?

片野氏:
 立ち絵のデータをいただけるとうれしいです……という話をしたら,ゲームのデータが何から何まで送られてきて「もう好きに使っていいですよ」と。キャラクターに関するテキストなんかも,全部監修していただけました。

4Gamer:
 公式監修というのは,ファンには朗報ですね。

片野氏:
 発表時には「魔女兵器」がSNSのトレンドに入ったりもしましたし,こんなにも力があるんだと思いました。復活が待たれるゲームはけっこうありますが,ちゃんとコアファンの方が動いておられるし,心にも残り続けていたということですね。

4Gamer:
 復活させたいゲームの中から,今回,「Witch's Weapon -魔女兵器-」を選んだ決定打はどこにあったんでしょう?

片野氏:
 個人的に世界観とキャラクターが好きだったことと,「Struggle F.O」の世界観と相性がいいこと,あとは「Struggle F.O」は海外でも展開するタイトルですから,いろいろな文化の色があったほうがいいだろうということですね。
 「Witch's Weapon -魔女兵器-」の主人公は目覚めたら女の子になっていた少年ですから,日本のオタク文化でいうところのTS要素もあり,キャラクターが生き生きしている。元々がアクションゲームということもあって,バトルも作りやすかったんです。
 ファンの皆さんは続きを見たいでしょうし,“「Struggle F.O」が売れればDLCでもっとお話を作ってみませんか?”というお話もさせていただいています。我々は,いろいろなものを復活させる土壌としてのゲームを作りたいと思っていますから。

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4Gamer:
 では,ほかのライブゲームとコラボするとして,どういった条件が考えられますか?

片野氏:
 世界観的にある程度しっかりしていて,開発者やファンの方々が熱量を残していることが望ましいですね。

4Gamer:
 では,このままうまくいけば,DLCの第2弾で懐かしいライブゲームとコラボし,第3弾ではさらに別の懐かしいライブゲームとコラボし……という展開も考えられるということですね。今後に期待しています。では,最後に読者にメッセージをお願いします。

片野氏:
 「Vampire Survivors」や「Ark: Survival Evolved」をプレイされてきた方であれば,間違いなく楽しめるゲームになっていると思います。近年はステータスを好き放題に上げられるゲームも少なくなってきましたから,無限に育成し続けたいという方にも刺さるといいなと思っています。

4Gamer:
 ありがとうございました。

 ライブゲームを手がけてきたメンバーの心にあったのは,売り切りのゲームで“永遠に続くコラボ”を行い,「Struggle F.O」の作中に残したいという願いだった。小規模ゲームでの新人育成,ライブゲーム終了後のコラボなど,ユニークな取り組みの多い本作の今後を注目したい。

  • 関連タイトル:

    Struggle F.O

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