イベント
ゲーム工房スパ帝国の「ナショナルエコノミー」が“完全版”になって復活。その色褪せない魅力と,新しくなったコンポーネントをチェックしてきた
![]() |
本作は,かつて「ゲーム工房スパ帝国」(キュリオシティ)が販売していた「ナショナルエコノミー」シリーズの3作品をセットにし,さらに各種内容物の刷新など,さまざまな改修を加えた製品だ。これによりオリジナル版をリスペクトしつつも,遊びやすい内容に進化しているという。
オリジナルの第1作がリリースされたのは2015年だが,以来ボードゲームファンの間で根強い人気を誇り,再販が途絶えてからも,さまざまな場面で遊ばれてきた本作。その人気ぶりを示すかのように,2025年6月に実施されたクラウドファンディングでは,2190万円もの資金調達に成功。この度,こうして復活を遂げたというわけである。
本稿では,そんな「ナショナルエコノミー」の基本的なルールを改めて紹介すると共に,完全版となった本作の手触りを紹介していこう。
誰が家計を潤す? 誰が商品を買う? 答えは「ナショナルエコノミー」にある
本作は,労働者を働かせて資産と生産能力を高めていく,いわゆるワーカープレイスメントジャンルのタイトルだ。各プレイヤーは企業のオーナーとなり,さまざまな事業を通じて経済を回していくことになる。
![]() |
経済を扱う作品は,現実にある何らかの仕組みをモチーフにすることが少なくない。例えば「電力会社」は資源の価格と供給に関わる問題がテーマだし,「ポンジスキーム」は現実の詐欺問題を再現している。
そんな中,「誰かの収入は誰かの支出である」という経済の基本構造に切り込んだのが本作,「ナショナルエコノミー」だ。経済をテーマにしたゲームには,トークンとして“金銭”が登場するのが一般的だが,それを誰が支払い,どうやって流通しているのかは省略されがちである。本作は,その部分をゲームとして切り取っている。
![]() |
そう聞くと小難しい印象を受けるかもしれないが,ゲームとしての仕組みはスッキリしている。リソースは「労働者」「手札」「金銭」の3つだけで,基本的には労働者を使って金銭(またはそれに準ずる資産)を増やすことを目指せばよい。
各プレイヤーはゲーム開始時点で2つの労働者コマを持ち,手番が来たらそれを「職場カード」や「建物カード」に配置することで働かせられる。最初は共有の場にしかカードがないので,それを使って手札から建物カードを出したり,手札を捨てて金銭を稼いだりすることになる。
![]() |
![]() |
職場の効果で手札からカードを出すときには,コストとして示された枚数のカードを手札から捨てる必要がある。例えば手札から「工場」を建設するなら,手札にある工場を示したうえで,それ以外のカード2枚を捨てなければならない。
工場などは「建物カード」と呼ばれ,自分だけが使える職場として機能すると同時に,“資産価値”が設定されていて,ゲーム終了時にはこれが勝利点となる。勝利点は手元にある金銭と,場に出した建物カードが持つ資産価値の合算で決まるので,できるだけたくさんの建物を作っておきたいところだ。
![]() |
さて,ここからが重要なポイントだ。本作において,プレイヤー間で流通する金銭の出どころは2つある。それが「家計」と「金庫」である。「家計」は市民の懐事情,「金庫」は国家が管理する銀行を示す概念と考えれば,だいたい合っている。
労働者を働かせて金銭を獲得するとき,それは常に家計から支払われる。例えば商品としてハンバーガーを売ったとして,それを消費するのは市民である。銀行が直接商品を買ってくれるわけではないのだから。
ただし,ゲーム開始時点の家計はスッカラカンであり,市民は一切の金銭を持っていない。こんな状態では,いくら売れる商品(手札)があっても金銭を稼ぐのは不可能だ。
当然ながら,働いた労働者は給料を要求してくる。全員が労働者コマを使い終えたら「給料日」となり,労働者1人につき一定の金銭を支払わなければならない。しかも,給料はゲームが進むごとに増えていくので,どんどん支払いは厳しくなっていく。
そんな環境で金銭を確保するためには,国に頼るほかない。給料の支払いが不可能だった場合,場に出した建物カードを国(金庫)が買ってくれるのだ。最初はこうして金銭を用意し,労働者の要求に応えていくことになる。
![]() |
では,ずっとツラい金回りを管理するゲームなのかといえば,そうではない。プレイヤーが労働者に払った金銭は「家計」に持ち帰られ,市民が商品を購入する力になるのだ。労働者も市民の1人なのだから,当然といえば当然である。
高価な建物を売り払うと家計が潤い,プレイヤー全員が金銭を得やすくなるので,一気に経済が活性化する。さらに売却された建物は全員が共有の職場として利用可能になり,これまたゲームが加速する。
そうなると,追加の労働者を雇ってもっと多くの建物を作れるようにしたり,効率的に手札を増やせる環境を作ったりと,さまざまな戦略が生まれてくる。誰かが国から金銭を引っ張り出してはじめて,経済が回るようになるのだ。
![]() |
ナショナルエコノミーの環境は,プレイヤーの立ち回りによって大きく変化する。経済を加速させるプレイヤーが多ければ派手な展開となり,リスクを嫌うプレイヤーが多ければ少ない家計を奪い合う緻密な展開になる。
ゆえに画一的な戦略が機能しづらく,常に環境に応じた適切な判断を下す必要が出てくる。経済環境を自分にとって有利な方向へと誘導しつつ,各プレイヤーの傾向を鑑みて立ち回りを調整するという意思決定の楽しさが,本作の最大の魅力といえる。
今回発売された完全版のクオリティは高く,非常に遊びやすい商品へと進化していた。オリジナル版はプレイアビリティの面でいくつか問題を抱えていたが,木駒やタイルの導入によって,それらの多くが改善され,まさに“完全版”にふさわしい内容に仕上がっている。
![]() |
![]() |
本作には「ナショナルエコノミー」「ナショナルエコノミー・メセナ」「ナショナルエコノミー・グローリー」の3種類が収録され,それぞれが独立したカードセットを持つゲームとなっている(混ぜて遊ぶことは推奨されていない)。
基本的なルールは1作目で完成されており,以降のシリーズではバランス調整や要素の追加などが行われた形なので,まずは1作目から遊ぶことをオススメしたい。あとはプレイグループ内で何度か遊んでみて,やり込む作品を決めるのがいいだろう。
![]() |
なお,カード効果などはオリジナル版から一切変化していない。シリーズを手掛けた西村 裕(スパ帝)氏のブログには,本作のゲームデザインノートが複数公開されていて,これもなかなか興味深い内容なので,気になる人は合わせて参考にしてみるといいだろう。
![]() |
- 関連タイトル:
ナショナルエコノミー
- この記事のURL:

































