インタビュー
任天堂は今,何を“Switch”しようとしているのか。取締役常務執行役員の高橋伸也氏と,Nintendo Switch総合プロデューサーの小泉歓晃氏に聞く
据え置き機でありながら,外に持ち出して遊ぶこともできるという新機軸かつ異色のゲーム機であるNintendo Switchは,どのような経緯で生まれたものなのだろうか。また,プレイヤーにどんな体験をもたらすことを想定して,現在の仕様が決まったのだろうか。
任天堂の取締役常務執行役員 企画制作本部長の高橋伸也氏と,Nintendo Switch総合プロデューサーを務める小泉歓晃氏にまとめて話を聞いた。
「Nintendo Switch本体」公式サイト
二つのJoy-Conが付属することで
かつてのようなゲーム体験を再現したい
4Gamer:
本日はお時間をいただき,ありがとうございます。発売直前のNintendo Switchに関して,いろいろと気になるところを聞かせてください。まず,Nintendo Switchが,どういった経緯で生まれたものなのかを教えていただけますか?
まず前提として,任天堂は新しいハードのことを常に考えています。さまざまな新しい技術の研究,検討をしながら,それらを利用したらどんなゲーム機を作れるのか? と。
4Gamer:
世に出る,出ないは関係なく,常にそうした検討はしている,と。
高橋氏:
そうやって常に考えてきた延長線上にあるのが,今回はたまたまNintendo Switchであるということなんです。
4Gamer:
今年1月に開催された「Nintendo Switch プレゼンテーション 2017」(関連記事)では,「過去の任天堂製ハードの特徴を詰め込んだ」という説明もありましたよね。
高橋氏:
ええ。これまでに作ってきたハードの良いところを引き継いでいるという意味で,そういう説明をさせていただきました。
4Gamer:
Nintendo Switchに引き継がれている,過去のハードの“良いところ”とは,具体的にどういったところでしょう?
高橋氏:
たくさんあります(笑)。
ただ,とくに大きなものとしては,Joy-Conが最初から二つ付属しているところですね。ファミリーコンピュータやスーパーファミコンの頃は,このようにコントローラが二つ付属していました。だから,隣にいる人とすぐに遊ぶことができたと思うんです。これはけっこう大事な体験だったと考えていて,それを再現したかったんですよ。
4Gamer:
ゲームに関する原体験の一つとして,確かにその風景はありますね。
では,このJoy-Conの形状やサイズはどういった理由から決まっていったんでしょうか。
高橋氏:
ハードチームからの「こういう要素技術があります」という提案を,ソフトのチームでいろいろと検討して,それを採用することでどんな体験を提供できるのかを考えるんですね。そこからもう一度,その体験を提供するためには,何を入れるべきか? という話になります。これがやがて,どんなサイズになるのか? といった話になり,最終的にこの形に落ち着きました。
本体があり,Joy-Conが二つあり……となったときに,どれぐらいの大きさが一番持ちやすいかは,時間をかけて検討しましたね。
任天堂としては,これまでもみんなで遊べるゲーム機にしたいというテーマを核にやってきたんですが,そこからさらに,普段はゲームをまったく遊ばない方にもゲームに親しんでもらえる環境を作るべきではないかという考えがありました。そのときに,“おすそわけプレイ”という言葉を作ったんです。
例えば,自分が遊んでいる様子を見ている人が,少しゲームに興味を持ったとしても,その人がゲーム機やコントローラを持っていなかったら,なかなか始められません。そんなとき,さっと取り出して手渡せるコントローラがあるといいですよね。そしてそのコントローラは,手軽なサイズと重量であったほうが,初めて受け取る人には受け入れやすいと思うんですよ。
4Gamer:
ゲームに慣れ親しんでいない人にとっては,大きかったり重かったりするコントローラだと,ちょっと構えてしまうところはあるかもしれません。
とはいえ,ゲームに慣れ親しんでいる側からすると,やはりちょっと小さいのでは? と思ってしまいます。
小泉氏:
ええ。それは私達もずっと気にしていました。今年の1月の体験会でも,果たして受け入れてもらえるのか,かなりドキドキしていましたね。
ところが,ちょうど「SUPER BOMBERMAN R」を遊んでいるお客さんを見ると,とても体の大きな方が普通に遊んで盛り上がっていたんですよ。それを見て,誰かと一緒に遊ぶようなシーンでは,このサイズでとくに問題ないことをあらためて確認できたんです。
ヨーロッパやアメリカでも,多くの方から感想をいただいたり,遊んでいる姿も見たりしてきました。そこでよく言われたのが,「触ってみればこの大きさでもちゃんと遊べるということを,ちゃんと伝えたほうがいい」という話でしたね。
高橋氏:
見た目より,ずっと持ちやすいという声がほとんどでしたね。ストラップをはめて持ってみると,さらに持ちやすくなりますし。
小泉氏:
アメリカやヨーロッパには日本と比べて手の大きい方が大勢いらっしゃいますが,彼らが問題ないと言ってくれたことは,大きな自信になっています。
それでもどうしても持ちづらいという方には,Nintendo Switch Proコントローラーを使っていただきたいですね。このNintendo Switchは“その人に合ったゲーム機”になってもらいたいので,さまざまな点で選択の幅を用意しているんです。
4Gamer:
では,Joy-ConはこのサイズながらHD振動やモーションIRカメラなども搭載するという,現在の仕様になった決め手を教えてください。
高橋氏:
これもやはり,ハードとソフトのチームが一緒になって検討を重ねた結果です。あまり詰め込みすぎると技術的なハードルが上がってしまったり,価格に跳ね返ったりしてしまいますので,そのあたりのバランスを考えながら取捨選択をして,最終的にこれだけは必要だというものが残った形です。
小泉氏:
任天堂はハードもソフトも手がけているので,両方のチームが非常に近い距離感で仕事をできるんです。同じ部屋に両方のチームが集まって,実際にものを作りながら確認をしますし。そうしながら,これは広がりがありそうだな,これは将来性がありそうだな,といった観点で仕様を決めていきます。
HD振動やモーションIRカメラは,普通のゲーム機の構成以外の部分で,“何か”の広がりを持たせることができるだろうと判断して残したものです。
4Gamer:
プレゼンテーションの場でも,HD振動をかなりしっかり紹介されていましたが,これによってゲームでどんなことが体験できるようになるんでしょう?
小泉氏:
振動となると,従来のように演出で使用されるケースのイメージが強いと思うんですが,振動の精度が高ければ高いほど,手のひらで何かを判別する遊びが作れるんです。
実際,HD振動を実装して「1-2-Switch」の試作をしながら,手のひらから感じられるリアリティが高ければ高いほど,遊びの幅を広げられるんじゃないかという学びを得られました。これも一つのバーチャルリアリティだと思うんですよね。
4Gamer:
手のひらで感じるバーチャルリアリティ,ですか。
小泉氏:
ええ。それをこれから,我々だけでなく,いろんなメーカーさんと一緒になって試しながら新しいゲーム作りに広げていきたいですね。
規模を問わずさまざまなデベロッパと
一緒にゲームを作りたい
4Gamer:
Nintendo Switchならではの機能を,いろんなメーカーさんと……となると気になることがあります。
これまで任天堂ハードに関して,ソフトメーカーからは,「独自の機能を使いこなせない」とか,「使いこなすためのライブラリが不足している」といった声が上がっていたように思います。そのあたりについて,Nintendo Switchではどのようにお考えでしょう?
確かにそういったお話はたくさん聞いてきましたので,Nintendo Switchでは,ゲームを作る環境も含め,今の時代に合わせてさまざまな部分で“Switch”しようと考えています。
そのために今回は,かなり初期の段階からデベロッパさんとのコミュニケーションや,ミドルウェアの対応などを進めてきました。Epic GamesのUnreal Engine 4やUnityのサポートも,その一環です。
4Gamer:
デベロッパに対して広く門戸を開くため,というか。
小泉氏:
ええ。例えばローンチタイトルの「いっしょにチョキッと スニッパーズ」(以下,スニッパーズ)は,Nintendo Switchの情報開示をしていない時期に,SFB Gamesというインディーズデベロッパが独自で開発していたものなんです。
それを見たときに,コントローラを二つ使って遊ぶというコンセプトがNintendo Switchにピッタリだということでコンタクトをとりました。そこから,Joy-Conへの対応もライブラリを作って共有しつつ,彼らと一緒になって短期間で作り上げました。
4Gamer:
スニッパーズはNintendo Switchを念頭に置いて作り始められたゲームではなかったんですね。
小泉氏:
そうなんです。このように,Nintendo Switchではソフトメーカーさんとも一緒になってゲームを作れるような距離感でやっていこうと思っています。
4Gamer:
スニッパーズの例をうかがうと,いわゆるインディーズデベロッパとの取り組みにも大きな変化がありそうですね。Wii Uでは,海外のインディーズタイトルを厳選してローカライズするといったこともされていましたが。
高橋氏:
Wii Uでは海外で評価の高いインディーズゲームを厳選し,ローカライズして任天堂としてリリースする形でしたが,今度はどちらかというと,そういった皆さんに直接,ゲームを作っていただきたいという気持ちはあります。
小泉氏:
実際,Nintendo Switchの特徴をうまく使った,かなり面白いインディーズゲームがいくつも出てくる予定です。任天堂単独で考える以上にバラエティに富んだものになりますので,個人的にも楽しみにしているんですよ。
高橋氏:
面白い機械だと思うので,開発する方にも楽しんでほしいですしね。
4Gamer:
ちなみに,そうやって作られたゲームは,どういう形で販売されるのでしょうか。
高橋氏:
小さなチームでもリリースしやすい仕組みを,まさに今,作っているところですので,詳細はお待ちください。今の時代のスピード感に合うような対応をできるようにしたいと考えていますので。
4Gamer:
そうした小さいチームが作ったゲームは,任天堂の審査を通過したらリリースできるといった形になるんですか?
クオリティなどに関する審査というより,“ある程度の基準”を満たしているかを判断させていただく形になるでしょうね。
スニッパーズのように任天堂としてリリースするような場合もあるでしょうが,その場合は基準を満たしているかどうかというよりも,もっと密に一緒に作っていきたいとは思っています。
4Gamer:
ところで,Unreal Engine 4やUnityへの対応にはどういった狙いがあるんでしょうか。
高橋氏:
ほかのプラットフォームからの移植がしやすくなるという点はもちろん,小さなデベロッパがゲームを作りやすくなることは重視しました。どちらにせよ,Nintendo Switchに触れてくれる仲間を増やしたいんですよ。
4Gamer:
移植のハードルが下がることで,移植作も増えるのではないかと思うのですが,そうなったときにNintendo Switchならではの特色はどこに出るとお考えでしょう?
高橋氏:
移植にあたってNintendo Switchならではの機能を使っている部分があれば,非常にありがたいとは思います。ただ,たとえHD振動などに対応していないとしても,Nintendo Switchは持ち出すことができますから,それだけでもほかのプラットフォームとはかなり異なるものになると思うんですよね。
4Gamer:
据え置き機向けの大作であっても,外で遊べるというのは,確かにNintendo Switchならではですよね。
高橋氏:
ローカルマルチプレイに対応していただいたりすると,さらに幅が広がりますし,Nintendo Switchならではのゲームになるだろうな,と考えています。
4Gamer:
今回,リージョンフリーであることも含め,いつになくオープンな環境を作ろうとされているのかな? という気がしています。
高橋氏:
ありがとうございます。ただ,リージョンフリーに関しては,かなり前から実現するための検討はしていたんですよ。それが今回,たまたまタイミング良く実現できることになったという形で,Nintendo Switchだから……というわけではないんです(笑)。
一人一人のゲームへの接し方に
多様性を持たせたい
本体のことをもう少し教えてください。
Nintendo Switch本体は,静電容量式のタッチスクリーンも搭載していますが,プレゼンテーションではほとんど触れられていませんでした。実際のところ,タッチスクリーンではどんな操作ができるんでしょうか。
小泉氏:
本体機能の操作なんかは,Joy-Conを使ってもいいですし,タッチスクリーンでも行えます。
4Gamer:
では,ゲームによってはタッチスクリーンのみに対応しているようなケースもあり得ますか?
小泉氏:
そうですね。ただ,TVモードで遊ぶときはタッチスクリーンを利用できないので,Joy-Conでの操作にも対応しているほうが,プレイヤーにとっての利便性は高いと思います。
とはいえ,必ずJoy-Conとタッチ操作の両方に対応してください,といった決め方はしていません。
高橋氏:
タッチ操作に適したゲームであれば,タッチ操作のみでも構わないですよ。
小泉氏:
そのあたりについても,選択の幅を広げたいと思っています。
今後もいろいろな展開が考えられると思いますので,あまり決めつけないようにしたいですね。
高橋氏:
「TVモード,テーブルモード,携帯モードがあります」という言い方をしていますが,さらなるモードが出てくる可能性もあるんです。
4Gamer:
例えば,携帯モードで縦持ちするようなゲームが出てきても構わないということでしょうか?
高橋氏:
おかしくはないですよね。
小泉氏:
そのゲームでどう遊んでいただきたいかという部分を考えていただければ,それでいいんです。
高橋氏:
ゲームごとにいろんな提案をしていただきたいですからね。
4Gamer:
その一方で,「Nintendo Switchは据え置き機である」と一貫して言い続けているのは,なぜでしょう?
高橋氏:
やはりクオリティの高いグラフィックスのゲームを,TVの大画面で遊んでいただきたいというのが前提にあるからです。なので,据え置き機であるということを,一番にお伝えしたいんです。
ただ,プレイヤーのライフスタイルによって,そこの中心軸は異なると思うんです。我々はこれまで,TVの前にみんなが集まって遊べる据え置き機と,一人一人が一台ずつゲーム機を持つ携帯機の両方をやってきました。でも今回は,一台でもさまざまなプレイヤーのライフスタイルに対応できる形を選んだんです。これは,これまでにないものです。
ただ,それを新しい表現でお伝えしようとすると,かえって分かりづらくなってしまうと思うんですよね。
4Gamer:
確かに。
小泉氏:
ということもあって,「ポテンシャルとしては据え置き機ですが,持ち出すこともできます」……という順番でお話をするほうが伝わりやすいだろうと判断しました。
4Gamer:
伝わりやすさを重視したということなんですね。
ただ一方,据え置き機としてのポテンシャルという意味では,テーブルモードや携帯モードでフルHD表示に対応していない,TVモードでも4K出力に対応していないといった点を指摘する声もあります。
小泉氏:
そこもコストを含めた全体のバランスですね。最先端のハイスペックを求めようとすると,どうしても本体の価格に跳ね返ってしまいますし。
それと液晶に関しては,1080pのものも試してみましたが,このサイズにすると720pのものとあまり差がなかったんですよ。
4Gamer:
例えば今後,そのあたりの性能が向上した,「New Nintendo Switch」のようなものを投入する余地はあるんでしょうか?
小泉氏:
これまで同様,任天堂では常に新しいことを考えていますし,未来についてもさまざまな可能性を考えてはいます。ただまずは,このスタイルのゲーム機が市場に受け入れてもらえるかどうかですよね。そこが我々にとって最初の階段ですから。
4Gamer:
少々気が早い質問でしたね(笑)。
さて,Nintendo Switchは据え置き機であるという意味において,Wii Uを置き換えるものになると思うのですが,携帯機として見た場合,ニンテンドー3DSとの棲み分けについてはどのようにお考えですか?
高橋氏:
ニンテンドー3DSは発売から6年が経っていることもあって,価格もだいぶこなれていますし,ゲームのラインナップも豊富です。そういう意味で,小さなお子様にも遊んでもらいやすいものになっていると思っています。
4Gamer:
WiiやWii Uは,イメージ的にファミリー層などをターゲットにしてきたような気がするのですが,今回はそういうわけでもないということでしょうか。
高橋氏:
WiiやWii Uより,ある意味広いかもしれないですね。1-2-Switchにしても,ファミリー層だけでなく若者が飲み屋で遊んだりするケースもあるでしょうから。
小泉氏:
そのあたりは“層”という言葉でかっちり分けられるものでもないとも思うんですよ。家ではコアなゲームを遊ぶ方でも,外に出たらみんなで軽く楽しめるようなものを遊ぶことはあるでしょうし。
持ち出せたり,おすそわけプレイができたりといったことで,一人一人のゲームへの接し方にも多様性が生まれたらいいな,と。
4Gamer:
それは現時点での手応えとして実現できそうですか?
小泉氏:
実現できるといいですよね。私達はそういう未来を生み出したいと思って,Nintendo Switchを作ったわけですから。
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