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西川善司の3DGE:PS5 Proのスペック詳細と実機でのゲームプレイから見えてきた実情。レイトレの強化はゲーム体験も拡張する?
PS5 ProのGPUスペックが判明
PS5 Proについて,ファンの間で盛んな議論が行われていたのは,「PS5 ProのGPUアーキテクチャは,RDNA 2以前のものなのか。それともRDNA 3以降のものなのか」という点だった。この点は,筆者も以前に考察した記事を執筆している。
西川善司の3DGE:PS5 Proの実像をテクニカルプレゼンテーションから考察してみる
PlayStation 5初の高性能上位モデル「PlayStation 5 Pro」。9月11日に公開となったテクニカルプレゼンテーションで明かされた情報は,それほど多くはなかった。それでも重要なキーワードはいくつかあったので,筆者独自の考察も加えつつ,詳しく見てみよう。
2020年に登場したPS5と「Xbox Series X|S」は,AMD製APUをメインプロセッサに採用している。APUのCPU部は「Zen 2」アーキテクチャを,GPU部は「RDNA 2」アーキテクチャを採用したものだ。プロセッサにおけるアーキテクチャとは何かを簡単に言うと,設計の世代を表すもので,新しければ新しいほど,技術的に進化を遂げた高性能なものとなる。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE)は,PS5と同様にPS5 ProでもAMDのAPUを採用していることを明らかにしていた。しかし,GPUアーキテクチャ世代については,ごく最近まで言及していなかったのだ。
実際,2024年9月のPS5 Pro発表時点では,PS5 Proのハードウェア仕様を監督するリードアーキテクトのMark Cerny(マーク・サーニー)氏も,「PS5 ProのGPUコアは67%も増えて,実効性能は47%向上した」と言及するのみで,CPUに関しての言及はとくになかった。
そんなわけで,PS5 ProのGPUには大きな注目が集まっていた。つまり,「GPUアーキテクチャはPS5と同じRDNA 2なのか,それともPC向けGPU『Radeon RX 7000』シリーズと同じRDNA 3となったのか」という議論が盛んとなったのだ。
実はその答えは,思わぬところに載っていた。PS5 Proの製品ボックスに同梱されている「PS5 Pro セーフティーガイド」の「主な仕様」ページで,「Main Processor」の項目に,理論性能値として「16.7 TFLOPS」と書かれていたのだ。この数値だけでも,見る人が見ればプログラマブルシェーダコアのアーキテクチャ世代を判別できる。答えはRDNA 2世代だ。
「GPUコアを67%増量した」という説明からすると,GPUコアである「Compute Unit」(以下,CU)の数は,PS5の36基に対して60基に増えたことが分かる。APUの製造プロセスを大幅に微細化したという情報はないので,動作クロックはPS5と同等の2.2GHz前後と仮定できるだろう。
RDNA 2以前のRadeon GPU(※Radeon RX 6000シリーズ)では,CU 1基あたりのSIMD演算器数は64基になるので,駆動クロックを2.18GHzと仮定すると,その理論性能値はこうなる。
- 60 CU×64 演算器×積和算(2 FLOP)×2.18GHz≒16.7 TFLOPS
公表されたPS5 ProのGPUスペックと合致するわけだ。
ちなみに,GPUアーキテクチャがRDNA 3以降であったなら,CU 1基あたりのSIMD演算器数は128基なので,同条件で理論性能値を計算するとこうなるはずだった。
- 60 CU×128 演算器×2 FLOP×2.18GHz≒33.5 TFLOPS
興味深いことに,この値は2024年春にリークされたPS5 Proのスペックと合致する。しかし,SIEが12月19日にYouTubeで公開したプレゼンテーション映像「PlayStation 5 Proテクニカルセミナー」において,Cerny氏は「RDNA 3ベースではない」と明言しつつ,「PS5 ProのGPUは基本的にはRDNA 2ベースであり,一部の機能についてはRDNA 3からポーティングしている」と述べていた。
一方で,Cerny氏はPS5 Pro発表時に,「レイトレーシング性能は,条件が揃えばPS5の2〜3倍にまで加速する」と明言している。これは,RDNA 2世代のGPUコアが67%増えただけでは実現できない性能向上率だ。つまり,レイトレーシング機能に関しては,RDNA 3世代の技術が取り入れられていると筆者は推測していた。
推測の根拠については,9月時点での解説記事でも触れているが,本稿でも軽くおさらいしておこう。
近代GPUのレイトレーシングユニット(以下,RTU)は,レイの生成,推進,交叉判定の3つを担当している。この処理系は,事実上のメモリ内の構造体に対する検索動作に等しい。レイトレーシング処理において,実際の各種陰影計算――ライティング,シェーディング,テクスチャマッピング――は,プログラマブルシェーダユニットが行う。RTUの機能ブロックは,CU内で他の機能ブロックから比較的分かりやすく分離されているので,RTU部分だけを新世代品にアップデートすることは,技術的に可能である。
なお,過去の解説記事でも触れたように,RDNA 3世代のGPUにおけるRTUは,レイの推進と交叉判定における実行効率を劇的に高める工夫を盛り込んでいるため,「条件が揃えばPS5の2〜3倍」というCerny氏の説明とも矛盾しない。
容量2GBのDDR5メモリを追加したPS5 Pro
今回,PS5 Pro セーフティーガイドで明らかになったPS5 Proの仕様では,メモリの項目も注目すべきポイントである。というのも,PS5 Proでは,PS5と同じ「GDDR6 16GB」に加えて,「DDR5 2GB」という記述が加わったからだ。
つまり,PS5 Proのメインシステムが多くのGDDR6メモリを使えるようにするための待避所というイメージだ。ちなみにPS4 Proでも,これと同じような仕組みを実現するために,退避用メモリとして追加のDDR3メモリを搭載していた。
しかし,PS5 Proテクニカルセミナーを見た印象では,Xbox Series Xのように,一部のメモリアドレス空間にDDR5メモリを割り当てて,そこでシステムやノンゲームアプリを動作させるメカニズムとしたようだ。GDDR6メモリからDDR5メモリへプログラムを移動させる「退避フェーズ」は存在しないようだが,PS5 Pro Enhancedゲームを動作させるのに必要なメインメモリ分を,GDDR6メモリから確保するというメモリアーキテクチャではあるようである。
PS5 Proが「このスペック」になった理由を考える
PS4 Proの理論性能値は4.2 TFLOPSで,PS4の1.84 TFLOPSと比べて約2.3倍であった。それに比べると,PS5 Proの理論性能値は,PS5の1.67倍に留まっており,性能向上幅が小さいように見える。この点については,「もう少し上を目指せなかったのか」の声が少なからずあった。なぜこうなったのか,筆者の考察を述べてみたい。
もし,PS5 ProがPS5に対して,PS4 Pro並みの向上比である2.3倍の理論性能値があったとして,それがRDNA 2ベースだとしたら,CU 83基構成で約23.7 TFLOPSの性能となる。これは,RDNA 2世代の最上位GPU「Radeon RX 6900 XT」(CU 80基,23.1 TFLOPS)とほぼ同等の性能だ。
逆に,結果的に間違っていたリーク情報どおり「RDNA 3ベースでCU 60基の33.5 TFLOPS」だったとすると,RDNA 3系Radeon GPUであれば,「Radeon RX 7800 XT」(CU 60基,37.32 TFLOPS)に近い。
各GPUのトランジスタ数は,RDNA 2のRadeon RX 6900 XTで約268億個,RDNA 3のRadeon RX 7800 XTでは約281億個だ。一方,CPU部分は,PS5 Proと同じZen 2世代の8コア16スレッドモデルだとすると,トランジスタ数は40億程度※になる。
※Zen 2世代のRyzen 3000シリーズは,8コア16スレッドのCCD 1基で約39億個だった。
この値に,先述のGPUのトランジスタ数を加えて,PS5 ProのAPUにおける総トランジスタ数を大雑把に概算すると,RDNA 2の場合は約306億で,RDNA 3なら約321億に達するはずだ。CPUやGPU以外の機能ブロックもあるし,両プロセッサで機能が重複する部分もありそうだが,大体この数値が目安となるだろう。
なお公式情報はないが,PS5 ProのAPUは5nmプロセスで製造したと予想されている。5nmプロセス採用のSoCで,先述のトランジスタ数に近いものと言えば,Appleの「M2 Pro」(約400億)がある。5nmプロセス採用のGPUだと,NVIDIAの「GeForce RTX 4070」シリーズの「AD104」が約358億で近い。
かなりザックリとした見方にはなるが,これらのプロセッサを搭載した最終製品,たとえばM2 Proを搭載する2023年モデルの「Mac mini」は,発売当時の価格が9〜18万円だった。それを考慮すると,大きなリスクを背負えばどちらの案でも選択できそうな気がする。
視点を変えて,プロセス微細度の観点から,これらの案が実現できたかを考えてみよう。
公式には発表されていないものの,PS5のGPUは,トランジスタ数が約106億と予想されているので,先ほどの方法でPS5 APUの総トランジスタ数を計算すると,約146億になる。ちなみに,製造プロセスは7nmだ。
これを参考に,「RDNA 2のままGPUを2.3倍に高性能化した案」(以下,約306億案)と,「RDNA 3でCU数を60基に増やした案」(以下,約321億案)を比較すると,PS5の約146億に対して約2.1倍〜約2.2倍にもなる。この規模のプロセッサを,5nmプロセスで製造した場合,半導体ダイのダイサイズはどうなるか。
5nmプロセスで作るPS5 ProのSoCは,6nmプロセスのSoCを採用した薄型PS5や,7nmプロセスの初期型PS5からすると,「ノード値の数字」的には,それほど微細化が進んでいないように見える。
海外メディアの情報によると,TSMCの7nmプロセスを5nmプロセスに微細化したことによるトランジスタ密度向上率は,1.84〜1.87倍とのこと。これはなかなかすごい数字だ。
ただ,約306億案や約321億案を,「同一ダイサイズ」が実現できるのかというと,無理すれば可能かもしれないが,難しそうだ。
そもそも,ここまでギリギリの設計案で多くのトランジスタを組み込んだプロセッサを作るとすれば,ダイサイズは大きくなる。トランジスタ規模とプロセスノード微細化による集積密度向上の条件で大まかに計算すると,ダイサイズは12〜20%ほど増加するだろう。プロセッサは,ダイサイズが大きくなるほど,チップコストも高く付く。そして,ダイサイズが大きくなれば,その分,消費電力も上昇する。
欧州では,「ゲーム機の最大消費電力を闇雲に上げてはならない」という指針があるため,どちらの案をとっても,先述のプロセスノード/トランジスタ数では,ここがネックとなりかねない。同規模のプロセッサを,プロセスノードを7nmプロセスから5nmプロセスに変更して製造した場合,下げられる電圧はよくて10〜20%とされるが,実際にはそこまで下げられないだろう。
というわけで,PS5 ProのGPU性能をPS4 Pro並みの2.3倍以上に引き上げるのは,やってできなくはないが多角的に見てリスクが高すぎるとして却下され,より安全な設計として,今回の仕様に落ち着いたのではないだろうか。
PS5 Proが「フレーム生成技術」に対応しなかったのはなぜか
NVIDIAの「DLSS 3」や,AMDの「FSR 3」といったフレーム生成技術は,GPUが描画したゲーム映像のフレームレートを2倍,場合によっては4倍に増やせるという技術で(※実際には2倍程度),今後も採用が広がっていくだろう。そんな状況にあるにも関わらず,PS5 Proでは,フレーム生成技術に対応しなかったことに,疑問を持った人が少なからずいたようだ。
PS5 ProテクニカルセミナーでCerny氏は,「AIによるゲーム映像処理にはフレーム生成技術などがあるが……」と例を挙げつつも,「PS5 Proにおいては,超解像技術にフォーカスして『PSSR』(後述)を実装した」と述べている。少なくとも直近では,PS5プラットフォームがフレーム生成技術に対応する予定はないと,明確になったわけだ。
筆者は,ひとつ大きな理由が考えられると思っている。それは「遅延」だ。
フレーム生成技術は,ゲームプレイ時にユーザーからの操作が映像に反映されるまでの遅延時間を増やしてしまう可能性が高い。理由は,フレーム生成技術のメカニズムを考えれば自明である。
DLSS 3やFSR 3では,GPUが実際に描画したばかりフレーム(※本稿では生成したフレームと区別するため,実描画と呼ぶ)と,ひとつ前の単位時間(60fpsゲームならば,この単位時間は1/60秒=16.67秒)に描画した過去フレームを解析して,中割となる補間フレームを生成するのが基本だ。
つまり,GPUが描画したばかりの最新フレームの表示よりも,生成された中割の補間フレームのほうを先に表示するのは理解できるはずだ。時間順に見ると(図1),描画し終わったばかりの最新フレームよりも,生成した補間フレームを先に表示するのだから,この時点で遅延してしまうことを理解できるだろう。
フレーム生成技術を使用している場合,ユーザーは,実描画された最新フレームだけでなく,生成された補間フレームを見て,ゲームを操作するかもしれない。生成技術で作った補間フレームは実描画したものではないので,映像に違和感が出る可能性はあるし,補間フレームを見て行う操作が反映されるのは,GPUによって行われる次の実描画フレームの表示よりも,さらに先になってしまう。なぜなら,次の単位時間においても補間フレームは生成されるので,そちらが先に表示されるからだ。
こうした遅延や映像の違和感は,実描画する映像のフレームレートを十分に高くできるなら,ほとんど気にならなくなるはずだ。たとえば,図1のように,60fpsで進行する時間軸において実描画にかかる時間と,補間フレーム生成にかかる所要時間をほぼゼロと仮定した理想論において,実描画フレームと補間フレームの両方を表示して,フレームレート120fpsを実現する場合を考えよう。
補間フレームを見てユーザーが入力した場合,理論上の最速でも,2フレーム分の遅延が発生する。時間にして最短で33.33ms,まあ,許容範囲といえなくもない(図2)。
フレームレートが120fpsのゲームの場合,フレーム生成技術で240fpsに増えたゲーム映像を見て操作を行うと,その遅延は最短で16.66msとなる。人間の感覚では,遅延をさらに感じなくなるだろう。
しかし,30fpsのゲームでは事情が変わり,理論上の最短遅延は66.66msにもなる。補間フレームによってゲーム映像が60fpsに見えていたとしても,入力遅延が66.66msもあると,アクションゲームはつらそうだ。15fps以下のゲームを見かけ上30fpsにした場合の遅延は133.33msで,0.1秒以上の遅延が生じてしまう。
実際のフレームレートが30fpsのゲームは,ギリギリプレイできる最低ラインと見なされることが多い。だが,フレーム生成技術でフレームレートだけを30fpsに増やしても,ゲームのプレイはかなりストレスフルになるだろう。PS5のようなゲーム機においては,多くのゲームが30fps,または60fps程度をターゲットにして開発されている。フレームレートが低いほど入力遅延が増大するフレーム生成技術の採用を見送ったのは,恩恵が少ないと判断したのかもしれない。
もちろん,DLSS 3やFSR 3といったフレーム生成技術は,安定して60fps以上を表示できるPCゲームに適用することには大きな意義がある。また,PS5シリーズのようなゲーム機においても,操作遅延などと無縁なリアルタイム性,アクション性の低いゲームを疑似ハイフレームレート化する場合には有用な技術だ。将来的に,そうしたジャンルのゲームにおいては,ゲーム機においても補間フレームが採用されることがあるかもしれない。
PSSRの効果は大画面テレビで最大化?
実際に,PS5 Proでいくつかのゲームをプレイして感じたことをまとめてみたい。
ひとつめのテーマは,「PS5 Pro独自のPSSRがもたらす効果」で,2つめは「好条件時には標準型PS5の2〜3倍にパワーアップするというレイトレーシング性能がもたらす恩恵」だ。
おさらいになるが,そもそも超解像技術とは,対象の映像を「何らかの原因で低解像度となってしまった映像」と仮定して,本来の解像度に復元するアップスケーリング技術のことだ。
まず,ゲーム映像の描画を担当するGPUは,実際に表示する解像度よりもある程度低い解像度でゲーム映像を描画することで,処理負荷を減らす。処理負荷が減った分,GPUの能力をフレームレートを増やす方向に使えるという理屈だ。そのうえで,意図的に解像度を下げた描画結果に対して超解像技術を適用することで,その解像度の低下=映像品質の低下を補填する。
PS5 ProのGPUには,推論アクセラレータが搭載されているそうで,PS5 Pro専用のPSSRでは,これを活用しているとみられる。
PSSR用の学習データは,対象となるゲームタイトルを低解像度で描画した映像と,4K(※場合によっては8Kも?)のような高解像度映像との相関を学習して生成する,いわばゲームごとのカスタムメイド学習データとなるため,極めて精度の高い超解像効果が得られるという。
その代わり,PSSRの処理系においては,ゲーム映像の最新描画フレームだけでなく,過去のフレームや深度情報(Zバッファ),ピクセル単位の移動ベクトル(ベロシティバッファ)も参照するため,処理系のコア部分をゲームグラフィックスエンジン側に組み込む必要がある。
こうしたAI系の超解像処理は,事実上のポストエフェクト処理系に相当する。そのため,3Dシーンの複雑さに関わらず,処理にかかる時間がおおむね一定になるところが利点だ。つまり,実装すれば一定の処理負荷で,ほぼ確実にゲーム映像の品質向上を期待できる。そのため,ゲーム開発者からの引き合いが強いわけだ。
気になるのは,その処理時間だが,筆者がNVIDIAに取材して得られた情報によれば,DLSSのAI系超解像処理において,フルHD解像度で描画した映像を4K解像度に拡大変換するのにかかる時間は,わずか1ms前後とのこと。処理品質を求めた場合は,多少処理時間も長くなるが,その場合でも2ms未満だそうだ。学習データサイズも,100数十MBから数100MB程度で収まるとのことであった。
Cerny氏の動画では,PSSRの処理時間について言及していないものの,処理時間を短縮するために,PS5 ProのGPUには「とんでもない新モード」を追加したと述べている。新モードの恩恵で,もしかすると処理時間は1ms未満まで短い可能性がある。
筆者は,SIEが「とくに効果が大きい」としてアピールしていた「FINAL FANTASY VII REBIRTH」(以下,FFVII REBIRTH)を実際にプレイしてみたが,生い茂る植物や,細かい陰影が出やすい岩肌,毛髪,細々とした装備品などの微細凹凸表現が,PS5の映像と比べて非常にはっきりと見えていた。たとえるなら,視力が良くなったかのような見映えとなる。
「グランツーリスモ7」でも試したみたところ,PSSRが明確な効果をもたらした。まず,自動車の描画において,斜め線のエイリアス(ジャギー)が劇的に低減されたのだ。PSSRの効果というよりも,もしかすると,ゲーム映像の描画解像度が向上した恩恵もあると思われるが,遠方に描かれる木々の葉がきめ細かく描かれるようになる。
ゲームによって,効果の具合はさまざまなようで,「Horizon Forbidden West」では,PSSRの効果はあまり感じられなかった。PS5 Pro対応ゲームだからといって,どのタイトルでもPSSRが効果的に働くわけではないようだ。
ただ,効果が分かりやすかったFFVII REBIRTHも,27インチサイズ程度のゲーマー向けディスプレイでは,ぱっと見では違いが少々分かりづらいこともあった。筆者の実感としては,PSSRの恩恵を最大限かつ恒常的に得たいのであれば,40インチクラス以上で4K解像度のテレビやディスプレイが必要だと考える。比較的,視距離の短いところに設置するゲーマー向けディスプレイであっても,できれば32インチ程度はあったほうがいいと思う。
なお,それほど大きくない中型のテレビやディスプレイでは,PSSRの効果が分かりにくかったとしても,描画解像度が下がっている分だけGPUに余力が生まれることで,フレームレート向上の恩恵は得られる。大画面テレビやディスプレイでなければ,PSSRの恩恵をまったく得られないわけでもない。
性能強化されたレイトレーシングはゲーム体験を部分的に拡張する?
PS5 Proでは,増加したGPUコア分のレイトレーシングユニット数に加えて,レイトレーシングユニットそのものの機能が劇的に高まったという。どう高まったかについては,掲載済みの記事で考察ずみだ。そのため,本稿で深掘りはしない。ゲーマーが気になるのは,「実際のゲームで,PS5 Proのレイトレーシングがどのような効果をもたらすのか」だろう。
実際にいくつかのゲームで確認した結論から言うと,PS5 Pro最適化が進められたゲームにおいては,PS5版よりもレイトレーシング適用範囲が広がるパターンと,レイトレーシングの品質が向上するパターンがあるようだ。その片鱗を強く感じたのは,PS5 Pro最適化済みタイトルのグランツーリスモ7をプレイしたときだ。
PS5でグランツーリスモ7をプレイすると,設定でレイトレーシングを有効化していても,レース中はレイトレーシングが無効化されてしまう。レイトレーシングが効くのは,リプレイ時やフォトモード時に限られているのだ。しかし,PS5 Proでグランツーリスモ7をプレイすると,レース中にもレイトレーシングが効くようになるし,もともとレイトレーシングが有効だったリプレイ時には,描画品質がさらに向上する。
レース中にレイトレーシングが効いて何が嬉しいかといえば,レース体験の楽しさが微妙に拡張されることだ。とくに分かりやすい例を挙げると,レース中,先行車に対してぴったり追走状態となったときだ。
PS5では,レース中の車のボディに映り込むのは「環境マップベースの背景」だけで,動的オブジェクトである他の車は映り込まない。ここで言う環境マップとは,コースや樹木など,基本的に静止して動かないオブジェクト群(つまりは主に背景)を描いた情景を鏡面反射像として活用するために,ゲーム開始前にテクスチャマップ化したもののこと。素材が背景だけなので,当然ながら走行中の車のような動的オブジェクトは含まない。
動的オブジェクトを含む鏡像を疑似生成する技術もあるが,品質面で問題が生じることも多いので,動的オブジェクトを鏡像を安定した品質で扱うには,レイトレーシングの活用が妥当だ。
性能面での事情などもあってか,PS5で実行するグランツーリスモ7では,鏡像はあくまで雰囲気作りの効果程度だった。
しかし,PS5 Proで実行するグランツーリスモ7では,すべての動的オブジェクトが映り込む。複数の車が隣り合うデッドヒート状態では,互いの距離感をリアルに感じられるほど,常に安定した品質の鏡像を描写できるのだ。
さらに,前を先行する車のリアに映り込んだ背後の情景で,敵車の位置を把握できるのは感動的ですらある。もちろん,ボディの曲面で歪んだ情景ではあるが,白熱したデッドヒートでバックミラーやドアミラーを見ている余裕がないときは,これでも役に立つ。実際のドライブ体験においても,こうした状況は時々はあるものだ。
背後の情景がレース中に役立つのは,夜間レースでも同様だ。PS5では,レース中に,自車の前を行く先行車のリアボディに映り込む(≒反射する)のは,自車のヘッドライトだけ。それがPS5 Proでは,自車以外のライトも映り込むので,反射したライトで後続車の位置関係や数を把握して,接近を感じ取れる。これはリアルであるし,レース体験を熱くしてくれると実感した。
「アップグレードされるのはゲーム映像のみ。ゲーム体験のアップグレードは次世代機で」というのが,PlayStationにおけるProモデルのコンセプトだった。しかし,PS5 Proにおけるレイトレーシング性能の向上は,ゲームジャンルによっては,間接的にゲーム体験をアップグレードすることもあるのかもしれない。
PlayStation公式WebサイトのPS5 Pro製品情報ページ
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PS5本体
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