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[CEDEC 2015]Oculus的なVRだけがVRじゃない。日本Androidの会が提案する「お手軽VRのススメ」
セッションを担当したのは,日本Androidの会 金沢支部でVRの普及活動に携わる伊達康司氏。伊達氏は,組み込みLinuxなどに取り組んできたエンジニアで,その筋にはわりと知られた人物である。
VRに対して異なるスタンスをとるOculus VRとGoogle
氏は,世界的なコンサルティング会社であるGartnerが提唱する「ハブサイクル」と呼ばれるグラフを提示する。ハブサイクルとは,ある新技術が受け入れられていくまでにたどる,人々の受容度をグラフ化したものと考えればいい。
といっても別に難しい話ではない。新たな技術が生まれて注目が集まると,一気に人々の関心が高まるものの,「なんだこんなものか」と幻滅されて,一旦はブームが去る。だが,本当に使える技術はそれでも成熟を続けて,徐々に当たり前のものとして,人々に受容されていくということを,曲線グラフで示したものだ。
では,VRは,今どのあたりにいるのだろうか。Gartnerが2015年に示した,ハブサイクルにおけるVRの位置付けによると,ブームが去った後,徐々に坂道を登っているところにいるとされている。
このGartnerの分析に違和感を感じた人もいるだろう。ゲームにおいては,2016年がVR元年といわれるくらいで,まさに今,ピークに向かって進もうとしているところというイメージもあるからだ。伊達氏もそう感じているようで,,「私の感覚では今このあたりにいるのではないか」と示したのが,下のスライド。まさにVRはピークにいるという分析である。
市場におけるVRのポジションで,こうした齟齬が出てくる理由は単純な話で,
特許が取られたのは1960年だが,1957年頃にはすでに製品が存在していたそうである。また,1962年には,Helling氏による「Sensorama」という,アップライト筐体のアーケードゲーム機のようなVR体験マシンが存在していたそうだ。Sensoramaは立体視ができるだけでなく,「風が吹いたり振動したり,匂いまでした」(伊達氏)というから,いまのVRよりも一歩先に進んだマシンだったのだ……というのは言い過ぎか。
このようにブームを繰り返してきたVRに対して,Oculus VRは非常に慎重なスタンスで望んでいる。「VRは牡蠣のようなもの」というのは,Oculus VR日本チームの「GOROMan」こと近藤義仁氏の言葉だが,VRで一度気持ち悪い思いをすると,二度と体験したくなくなるという意味だ。実際,Oculus VRのスタンスは一貫しており,Game Developer Conference 2015の講演で,同社CTOを務めるJohn Carmack氏が,「ここで不完全なものを出すとVRがまた暗黒面に落ちる」と述べていたそうだ。
Oculus VRとしては,VRブームが人々から嫌われて一過性に終わってしまわないために,可能な限り完全なものを出そうとしているのは確かだろう。
「価格が高すぎてVRを体験できる人が限られてしまうと,またVRは暗黒面へと落ちていくのでは」と伊達氏は主張する。「牡蠣にあたっても,おいしいからまた食べたいという人はいますよね?」と伊達氏がいうように,多少不完全なものであっても多くの人が体験することこそ,VRを普及させる原動力になるのではないか,というわけである。
Androidの会が提案する「カジュアルVR」
スマートフォンには,動きを検出するためのジャイロセンサーや地磁気センサー,3Dグラフィックスを描画するためのGPUといった,VR HMDを実現するための要素技術が詰まっている。もちろん,
だが,伊達氏は,スマートフォンは今後も,急激な進歩を続けると指摘する。「2015年末から,次世代のSoC(System-on-a-Chip)を使ったスマートフォンが登場する。64bit化されてバスが高速になり,GPUの性能も格段に向上する」(伊達氏)。性能面のギャップは,急速に縮まるだろうというわけだ。
そうはいっても,ダンボール製VRゴーグルはさすがに厳しいと感じる人は多いだろう。伊達氏も,使っているうちにぼろぼろになる耐久性のなさや,視度,視差の調節機能がないといった,Cardboardの問題点を指摘する。
だが,Cardboardよりも実用的な簡易VR製品も登場している。伊達氏がその1つとして紹介したのが,日本のタオソフトウェアが開発した「TaoVisor」(関連リンク)である。
クラウドファインディングによる資金調達で商品化を実現したTaoVisorは,
また,伊達氏が,タブレット端末と100円ショップにある材料で作ったという,自作のVRゴーグルも披露された。目の保護用として100円ショップで売られていたゴーグルを流用したそうだ。筆者も短時間体験してみたが,かなりスムーズに映像が見えていた。こうした簡単なものでも,VRを体験する道具としては,たしかに役に立ちそうに思える。
安価で高機能なTaoVisorや自作VRゴーグルのようなもので,まずはVRを楽しんでみようというのが,伊達氏とAndroidの会の主張というわけだ。手軽に体験する機会を増やすことによって,VRが普及の臨界点を超えるのではないかと伊達氏は考えているという。
筆者の意見としては,完全なVR体験を目指すOculus VRのスタンスと,伊達氏が推すカジュアルなVR体験は,対立するものではないだろう。それぞれがVRをドライブすることで,車輪の両輪のようにVRの普及を加速させることが,理想ではないかと考えている。VRゲームの現状を考えても,ハイエンドPCを使うOculus VRと,スマートフォンで楽しむカジュアルなVRは両立しやすいだろう。
どちらが後か先かはともかくとして,双方でVRを盛り上げていくことで,VRがさらに盛り上がっていくことを期待したい。
CEDEC 2015 公式Webサイト
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