イベント
軽い,綺麗,高解像! 世界初のHDR対応VRHMDがパナソニックから登場。ほぼ眼鏡に近いデザインで重量150g以下を目標に開発中
今回,このVRグラスについて,開発チームの面々に話を聞き,実際に実動デモを体験することができたので,早速レポートしてみたい。
軽く自然な装着感。驚愕の高解像感。リアリティが増強されるHDR
2017年にパナソニックが発表したVRHMDは,広視野角(広画角)の達成を第1目標に掲げて開発されたもので,その画角たるや220°を実現していた。3.5インチサイズで1600×1400ピクセルの液晶パネルを4枚,プレイヤーを取り囲むようにして配置した独特なデザインで,両眼解像度は6400×1440ピクセルに達する。この試作VRHMDはかなりユニークな存在だったのだが,今回発表されたVRグラスは,「グラス」(眼鏡)と称しているくらいなので,その開発コンセプトはかなり違う。
今回の新開発のVRグラスは画角については,ごく一般的な100°程度に留めつつも,ボディを究極にコンパクト化し,なおかつ超軽量化にフォーカスした開発を行ったというのだ。
実際に筆者が装着した様子を見ても分かるように,水中眼鏡とオペラグラスの間くらいのサイズ感で,重さもかなり軽い。現在,複数の試作機があって,そのバージョンによって重さは違うようだが,一般的なVRHMDの半分くらいの重さしかない。目標設計重量は150gとのことだが,現在は200〜300gといったところだろうか。とにかく,耳に「柄」の部分を引っ掛けて装着するだけで,フィット感はそこそこにある。さすがに首を振りまくるVRゲームをプレイすると外れてしまいそうだが,いわゆる「360°映像を鑑賞する系」のコンテンツであれば,3D立体視の3D眼鏡にかなり近い感覚で装着,および取り扱うことができる感じだ。
採用されている映像パネルは,片目あたり1.3インチで2560×2560ピクセルの有機ELパネルで,リフレッシュレートは120Hzに対応する。
実際にデモを体験させてもらうと,前述した装着時の軽量感に驚いたあとは,その高解度に感心する。有機ELパネルはパナソニックとアメリカのマイクロディスプレイパネル企業のKopinとの共同開発とのことである。
映像を見ていてもあまり「ドット感」を感じないのが素晴らしく,体験映像の中に漢字交じりの日本語で記された説明パネルを読ませるような場面があったのだが,画数の多い漢字も,潰れることなく緻密に表示されていた。また,1ピクセル単位のテクスチャ表現や,単色での塗りつぶし表現においても,粒状感がかなり抑えられている。この自然な装着感も相まって,筆者は,普通にこのVRグラスで原稿書きが行えるのではないか,と思ってしまった。
話によれば,2560×2560ピクセルの有機ELパネルのサブピクセル配列はペンタイル構造ではなく,RGBストライプ構造で,RGBのサブピクセルがすべて均等に存在するタイプだとのこと。
また,視点から幅1°あたりの解像度(いわゆるPPD値)は26ピクセル(26PPD)だという(※視野角は左右・上下の視野角と思われる)。
同条件で,ほかのVRHMDのPPD値を計算してみると,ソニーPSVRの両眼解像度は1920ピクセル,視野角が対角100°ということは,左右92°程度で片目あたり960ピクセル÷92°=10.4PPDとなる。PC向けのVRHMDについても調べて見るとOculus Rift S(片目横解像度1280ピクセル,対角視野角110°)は約13.4PPD,HTC Vive Pro(片目横解像度1440ピクセル,対角視野角110°)は約14PPDとなる。ちなみに,HTC Vive Proの有機ELパネルはペンタイル配列なので,実感としてのPPD値は13PPDよりも悪い印象だ。いずれにせよ,現行大手のVRHMDよりも,今回のパナソニックのVRグラスのほうがPPD値が高いことは自明であり,このことから筆者が体験したときも高い解像感が得られたのだと思われる。
そして,さらに今回発表されたパナソニックのVRグラスは,HDR表示に対応している点も大きな特徴となっている。
空や雪原のような高輝度表現,視線依存の鏡面反射のハイライト表現などからは,リアリティや質感が増強されてみえるため,「仮想現実」という体験が,いっそう「現実」の方向に近づいたような実感になる。
「VR体験」×「HDR表現」という組み合わせは,過去,ほとんど体験したことがなかったこともあり,かなり新鮮な体験であった。いわゆるHDR映像の視聴体験は,直視型ディスプレイで見るときよりも,VRで見たほうが感動が大きいように思う。VR体験は,その「没入感」が醍醐味になっているが,ここに「HDR表現」が加わると,その没入感に,現実感が増強されるような印象がある。
今回のVRグラスは今後どう進化していくのか
現在,ここまで軽量化できているのは,コンピュータ処理部分のすべてをホストPC側にオフロードしているためだ。当然,バッテリーなどは内蔵しておらず,電源供給はもちろん,ホストPCとのデータのやり取りもすべて有線接続でホストPCシステムと行う仕組みだ。この部分は現在は「割り切って開発した」とのことである。
完全無線化に手を出すと,VRグラス側にバッテリーを内蔵する必要が出てくるし,そうなれば重くなる。コンピュータシステム部分をVRグラス側に搭載しなくとも,毎秒15億7000万ピクセル(≒2560×2560ピクセル×2眼×120Hz)のVR映像をベースバンドで無線で飛ばすのは無理があるので,WirelessHDやWiGigのような圧縮伝送が不可欠になり,そうなれば,それなりのプロセッサが必要になる。そもそも圧縮展開を伝送パイプラインに組み込めば,遅延との戦いが待っていることだろう。
軽量な見た目とは裏腹に,VRグラスは,テザード(有線接続)との組み合わせが現状は現実的なようである。
また,現状は,ユーザーがVR世界にインタラクションするための,モーション入力,ジェスチャー入力,視線トラッキングといったメカニズムは実装されていない。なので,体験できたコンテンツで,被験者が行えたインタラクションは「視点の移動」のみ。インタラクション部分においても,このVRグラスの軽量性が活かせるような訴求ができれば,このシステムの魅力が高まることだろう。
ただ,実際に体験した身から言わせてもらうと,この装着感,軽量感,高解像感は心地よいので,「ホストPCの前につながれたまま使う」「広さ無限大のディスプレイ空間」というフィーチャーだけでも,一定の顧客は付きそうな気はする。
今回の試作版は,光学系に余裕のある設計をしているそうで,今後,さらなる広視野角化,高解像度化に挑戦していくらしい。
ところで,「人間が現実視界と区別できなくなる映像解像度の条件」は,NHKの研究者の正岡顕一郎氏が2013年にIEEE Broadcast Technology Societyで発表した論文によれば,映像の横解像度が1分(1分は1度の60分の1の角度)あたり2ピクセルくらいだという。左右視野角100°くらいのVRHMDにこの条件を当てはめると,
12000ピクセル÷(100°×60分)=2ピクセル
となり,片目解像度が12K解像度になるとVRHMDで見る情景は,現実視界と同等になるということになる。眼鏡型のVRグラスだと,大きくても片目あたり対角2インチくらいの映像パネルで,この解像度を実現しようとすると,ドットピッチにして8485ppiが要求されることになる。現在のパナソニックのVRグラスの映像パネルのドットピッチは2245ppiとのことなので,「その理想郷」への道のりは遠いが,実現できなくもなさそうな目標値にも思えるので,今後の開発の進展にさらに期待したいところである。
4GamerのCES 2020関連記事一覧
- この記事のURL: