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[GDC 2017]デベロッパとゲーム実況者の幸せな関係とは。コンサルタント会社が語るインフルエンサーマーケティングのすすめ
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ゲーム市場で台頭する“インフルエンサー”とは?
北米ではプッシュ広告を嫌悪するゲーマー達が,最近ではアドブロッカーを使ってウェブサイトの広告を遮断してしまう場合が多く,Webのみならず,もはや若者達はコマーシャルのあるテレビを敬遠して,どうしても見たいドラマはNetflixやHuluなどで済ましてしまうのが常態化しているとのこと。
もちろんInnervate自体が,こうしたインフルエンサーを使ってマーケティングを行う業務を行っているので,彼らの言う“統計”を真に受けるわけにはいかないが,最近ではゲーム会社が主催するゲームイベントに出かけると,こうしたインフルエンサー達が会場を賑やかしているのは,もはや珍しいことではない。
Taylor氏は,こうしたインフルエンサー達がゲームコミュニティに受け入れられる理由について,“有名人ではなく,友達のような感覚”で視聴できるのが大きいといい,それゆえに彼らの言動に親近感が沸きやすく,本音で語ってもらっているような気持ちになるのだと説明する。
確かに,既存のゲームメディアはさまざまなジャンルやプラットフォームを扱う“ジェネラリスト”であるのに対して,インフルエンサー達は特定のゲームジャンルに特化した“スペシャリスト”であることが多く,それゆえに同じ嗜好を持つゲーマー達が集いやすいというのはあるだろう。「Call of Duty」シリーズや「League of Legends」「Counter-Strike」,あるいは最近流行しているホラーゲームの類も,こうしたインフルエンサー達によって拡散され,飛躍的に人気を伸ばしたという側面がある。
インフルエンサーへのアプローチの仕方
今回のセッションは,独立系のデベロッパが,こうしたインフルエンサー達をどのように活用すべきかという,インフルエンサーマーケティング(Influencer Marketing)をレクチャーするものとなった。
プレスリリースや公式サイトを活用するのは当然としても,Taylor氏は「マーケティングのいろはを知らないゲーム開発者の中には,連絡手段がTwitterしかない場合が少なくなく,プロジェクトの進行状況すら判然としないことが多い」と,問題点を指摘した。インフルエンサーが連絡を取りやすい状態にしておくのが,まず第一歩というわけだ。
またインフルエンサー達の多くが利用するTwitchは,「GiantBomb」というゲームサイトとの提携し,ゲームタイトルの情報は,同サイトのデータベースを利用している。日本ではあまり馴染みがないGiantBombだが,いわゆるニュースサイトというよりも,開発者自らがWikiを開設し,自由に情報を掲載できるようになっているのが特徴だ。もちろん掲載基準はあるようだが,Taylor氏は「Steamやプレスリリースの情報をコピペするだけでなく,オリジナル情報をしっかりと書くと,掲載許可が出やすい」と話していた。
また,Taylor氏は「インフルエンサープログラム」を用意することも奨励していた。インフルエンサープログラムとは,例えば有力なインフルエンサーに対し,彼らが自由に配ることができる特別なアイテムを用意してあげるといったことを意味している。とくに中堅どころのインフルエンサーなら,喜んでゲームの紹介に協力してくれることが多いそうだ。
もちろん,1人のインフルエンサーが毎週2本の新作ゲームを紹介したとしても年間100本程度しか取り扱えないわけで,個々人のキャパシティはそれほど大きくない。人気のインフルエンサーであればなおさらなので,ゲーム開発者側も「どのインフルエンサーにアプローチするか」はしっかりと考慮しなければならないとのことだった。
インフルエンサーマーケティングの落とし穴
もっとも,インフルエンサーと付き合うにあたっての問題点も少なくない。例えば,インフルエンサーの中には,ゲームメーカーを騙す目的で“開業”する例も少なくなく,BOTなどを使って見せかけのフォロワー数を増やしているような場合も多々あるという。「YouTubeのサブスクライバーだけを見ると9万人もいるのに,アップロードされた動画は10数人しか見ていないというようなこともあるのです」と語るTaylor氏だが,実際にマーケティング部門がないようなデベロッパが,そのインフルエンサーが本物か偽物を調べるのは時間的に難しいだろう。
また,現状ではソーシャルネットワークサービスにおけるインフルエンサーマーケティングは,まだ新しい分野であるだけに,法的な問題も付きまとう。Taylor氏によると,メジャーなゲームメーカーは,インフルエンサーによるステルスマーケティングを疑う消費者や,連邦取引委員会(FTC)などから,大なり小なり訴訟を起こされているような状態だ。
Electronic Artsなどはお抱えのインフルエンサーに対し,「EA Sponsored」「EA Initiative」と書かれた専用ロゴを掲載するよう推奨している。あるいはYouTubeの動画を見ていても,最近はタイトルに「Sponsored」(スポンサーを受けています)と書かれたものも増えてきている。
「Steamレビューでも表示されているように,ゲームのレビュー用に開発会社から製品をもらうのは,“スポンサー行為”にあたるとされます。細かくいえば,ホテル代などを払ってレビュアーを社に招いたり,インゲームアイテムの配布したりすることだって広報活動なのですから」とTaylor氏は語り,規制の締め付けは,以前と比べて強くなってきていると強調した。
もちろん,こうした広報活動は既存のメディアでは普通のことではあるのだが,前述したように“友達気分”でフォロワーと接するインフルエンサーだけに,「何が違法で何が合法なのかは,法律家と相談するしかない」という。その語り口は,現状ではまだ確立していないインフルエンサーマーケティングの難しさを物語っているような歯切れの悪さだった。
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