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[CEDEC 2018]世界のスマホゲームランキングを席巻するハイパーカジュアルゲーム。その事例と成功のコツとは
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印刷2018/08/24 00:00

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[CEDEC 2018]世界のスマホゲームランキングを席巻するハイパーカジュアルゲーム。その事例と成功のコツとは

 2018年8月22日から24日まで,ゲーム開発者向けのカンファレンス「CEDEC 2018」がパシフィコ横浜で開催中だ。本稿では,開催2日めに行われたセッション「世界で稼ぐ!『ハイパーカジュアル』ゲームの可能性と成功のコツ」の内容をレポートしよう。

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坂本達夫氏
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 本セッションでは,AppLovinにてスマートフォンゲームのパブリッシング事業を手がけるLion Studiosの坂本達夫氏が,2017年以降,世界のスマートフォンゲームランキングで上位を占めるハイパーカジュアルゲームの事例と,その成功のコツなどを紹介した。

 坂本氏は,まずここ10年における世界のスマホゲームのランキング上位を記録したジャンルの変遷に言及。それによると2009年頃はカジュアルゲームが主流で,かつ無料モデルが台頭しつつあった。2012年頃は「キャンディークラッシュ」に代表されるような,ソーシャル要素を持ちつつ,カジュアルなタイトルが一世を風靡。2014年頃には「Clash of Clans」などの,ミッドコアタイトルが話題を呼び,さらに2016年頃には「Mobile Strike」のような,完全にコア層に向けたゲームが登場した。

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 そして2017年頃から,北米のApp StoreやGoogle Playの無料ランキングで上位を席巻しているのがハイパーカジュアルゲームである。坂本氏によると,今の無料ランキングのトップ10には,たまにサバイバル系のタイトルやIPものが顔を出すことがあるものの,ほぼハイパーカジュアルゲームで埋め尽くされているという。

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 しかしハイパーカジュアルゲームは,必ずしもゲームの面白さだけでランキング上位に入っているわけではない。トップ10に入るようなタイトルは,日本円にして500万〜1000万円ものユーザー獲得費用を連日計上しているとのこと。もちろん,それでもビジネスが成立するからこそ,各社がこぞって費用を投じているわけである。

 それではハイパーカジュアルゲームとはどんなものを指すかというと,「シンプルで中毒性のあるゲームプレイ」「ユーザーの年齢や性別,国籍などを問わず,誰もが遊べるデザインと操作性」などが挙げられる。すなわち,日本語しか読めない小学校低学年の子どもでも英語表記のままで遊べるくらいシンプルな操作で,ついつい何度もプレイしたくなるゲームということなのだが,坂本氏は「実際に北米の無料ランキングトップ10に入っているタイトルをいくつかプレイしてみれば,具体的にどんなものかすぐに理解できるはず」と話していた。

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 坂本氏が掲げる,ハイパーカジュアルゲームがビジネスとして成功する条件は,「LTV>CPI」「Stickiness」「Virality」の3つだ。

 まず「LTV>CPI」は,LTV(Life Time Value,ユーザーがあるゲームをインストールしてから引退するまでの期間に,そのゲームにもたらした平均利益)が,CPI(Cost Per Install,1インストールあたりの広告コスト)より大きくならなければ,ビジネスとして成立しないことを意味する。坂本氏は,「ハイパーカジュアルゲームのビジネスとはLTV>CPIの状態を維持したまま,どれだけユーザーを増やせるかという規模の勝負」と表現した。

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 ランキングのトップに名を連ねるタイトルはCPIに何百万円もかけている。この場合のCPIは主に広告にかかるものだが,これは,ただ配信されているというだけでは,今や新作ゲームをインストールする人はほとんどいないという理由によるものである。またハイパーカジュアルゲームは,そのシンプルさからスクリーンショットやテキストによる説明だけでは面白さが伝わらないタイトルも多い。
 そのためハイパーカジュアルゲームは,広告を使ってその存在を知らしめ,ユーザーを獲得せざるを得ないのである。

 「Stickiness」は,LTVを高めるために必要な要素で,直訳すると“粘着性”といった意味だ。つまり1日後,3日後,1週間後……と高い継続率を誇りつつ,1日に何度もユーザーがプレイし,さらに1回起動したら5分10分と,ついつい遊び続けてしまうようなゲームを“Stickinessが高い”と表現する。
 坂本氏によると,ハイパーカジュアルゲームに課金するユーザーはほとんどいないとのことで,収益の大半はは広告収入によるものだという。したがって,ユーザーが長期に,かつ何度も遊ぶことで,広告に接触する頻度が増えれば,それだけLTVも高まるのである。
 なお,LTVはある程度に達すればいいというものではなく,継続的に高めていく必要があるとのこと。坂本氏はその理由を,「LTVが高ければ,CPIを高めることが可能で,その分ユーザー獲得の機会を増やせるから」と説明した。

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 「Virality」は“口コミ性”といった意味で,坂本氏によると「ゲームの内容が一目で分かる」「ユーザーを選ばないデザイン」「プレイ動画を見たら,なんか楽しそう」といった要素を指す。
 つまりViralityとは,よりたくさんの人が「面白そう」と思う要素である。逆にいうと,「ダークファンタジーを思わせる世界観」のような人を選ぶモチーフはViralityが低くなってしまうため,ハイパーカジュアルゲームには向かない。

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 通常,Viralityが同程度のタイトル同士であれば,基本的にCPIの高いほうが多くの広告を表示できる機会を得られるため,よりユーザーを獲得できる。しかし,Viralityが高いタイトルであれば自然にクリック率やインストール率が高くなるので,その分CPIを下げても十分な競争力を持つことができるのである。

 続いて坂本氏は,ハイパーカジュアルゲームが急成長した理由として「広告フォーマットの進化」「広告マネタイズ手法の確立」「スケールの拡大」を挙げた。
 まず「広告フォーマットの進化」は,かつてのバナーや静止画で表示されていたものが,ここ数年でプレイ動画を使った広告や,実際に試遊可能なプレイアブル広告に置き換わっていったことを指す。すなわち広告を介して,ゲームの面白さをよりダイレクトに伝えられるようになり,ひいてはさらなるユーザーを獲得できるようになっというわけだ。
 坂本氏はハイパーカジュアルゲームの面白さが静止画では伝わりにくいことを再び指摘し,「成功させるのであれば,動画やプレイアブルを使った広告は必須」と語った。

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 「広告マネタイズ手法の確立」の解説では,「動画広告を中心とした収益性の高い広告フォーマット」と,「広告マネタイズを前提としたゲーム設計」の台頭が指摘された。例えばユーザーが広告を見るとゲーム内ポイントを獲得できるようなタイプの広告では,1日10回の広告視聴が1週間続けばかなり高いLTVを期待できるとのこと。

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 「スケールの拡大」は,上記のとおりハイパーカジュアルゲームが国や地域を選ばずプレイされることを指す。日本のスマホゲーム市場は課金率や課金額こそ高いものの,坂本氏によると広告モデルを前提とした場合には世界全体で10%あるかないかとのこと。すなわち世界展開を前提としたハイパーカジュアルゲームは,日本だけに向けたそれよりも10倍以上の収益を見込めるのである。

 また仮にローカライズの必要があったとしても,もともとがシンプルなので,費用も手間もほかのジャンルより少なくて済む。さらにはGoogleやFacebook,あるいはAppLovinといった企業が,一部の国や地域を除いた世界中に同じ広告を配信できるプラットフォームを用意している。
 坂本氏は「ノウハウさえ習得してしまえば,日本限定でやるのも世界各国向けにやるのも,それほど手間は変わらない。最初から世界を狙わない手はない」と話していた。

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 それでは,どうやればハイパーカジュアルゲームで成功できるのだろうか。坂本氏はそのプロセスとして,「企画」「プロモーションテスト」「改善→テストの繰り返し」「アクセルを踏む」という4つを挙げた。

 まず「企画」では,そのシンプルさからハイパーカジュアルゲームが,「どこかで見たようなもの」になりがちであることが説明された。例えば2種類の操作を必要とするゲームは,一つの操作だけで遊べるゲームよりも格段に難度が上がり,継続率が下がってしまう。そのため,タップするだけ,画面をなぞるだけといった操作になりがちで,どうしても似通った内容になるのである。
 坂本氏は「語弊があるかもしれないが」と前置きしつつ,「ハイパーカジュアルゲームは,ジャンルなどの“カテゴリー”,“操作方法”,野球や戦争などの“モチーフ”,そして“デザイン(アート)”の組み合わせで決まる」とした。とくにアートに関しては,ドット絵などの凝ったものにしてしまうと敬遠する人もいるので,何がトレンドなのかランキングのトップ10から把握するといいという。

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 「プロモーションテスト」では,企画を経て作ったゲームのプロトタイプを配信して手応えを確認する。その目的は「貴重なリソースを望みの薄いプロジェクトに浪費しない」ことだ。

 実際に配信するとなると,クリエイター気質の高い人は「もっと完成度を高めてから」「もっとコンテンツを増やしてから」と考えるかもしれないが,坂本氏によるとハイパーカジュアルゲームの場合は,未完成でもまず打席に立つ必要があるという。
 その理由は,例え時間やコストをかけて十分に作り込んだとしても,ハイパーカジュアルゲームは多くのユーザーの目に止まりインストールしてもらえなければ,広告収入を得られないからだ。完成度やコンテンツの量はインストールしたあとの話であり,インストール数とは直接関係ない。

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 それではインストールしてもらうのに必要な要素はというと,それこそ「面白そう」というViralityだったりアートの魅力だったりと,本当に入り口の部分だ。それらに対する反応を,あまり予算をかけずに確認するのが,ここでいうプロモーションテストなのである。
 そして,このテストで良好な結果が出たタイトルだけ開発を継続する。それ以外のタイトルは操作性やアートなどを見直し,それでインストールが増えるようなら開発継続。残念ながら
何をやってもダメなら,「見込みなしということでスッパリあきらめるくらいのスピード感と覚悟が必要」「百発百中は無理なので,いかに体力を落とさずに,数多く打席に立って成長しそうなゲームを見つけることが重要」と坂本氏は語った。

 「改善→テストの繰り返し」では,LTVを可能なかぎり高め,CPIを可能なかぎり抑えて収益を増やすための改善と,そのテストを行う。ここでは,いわゆるPDCAサイクルに従い,目標を定めて改善を行い,検証するというプロセスを繰り返すこととなる。

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 そうやって,ユーザーが長い期間,1日に何度もプレイして十分な収益が見込める仕上がりになったら,初めて一気にユーザー獲得施策を展開する「アクセルを踏む」段階に入る。ただ,アクセルを踏んだからといって即ユーザーが増えるということはなく,十分な数になるには数日必要となるとのこと。
 アクセルを踏んでいる間は,CPIが適切であるか,継続率が低くなっていないか,収益性が落ちていないかといった数値の確認や,複数の媒体への広告展開,予算やキャッシュフローのチェックを行うこととなる。

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 上記のすべてを自前で行うとなるとかなりの人員が必要となり,一人もしくは数人でゲームを開発しているというデベロッパにはハードルが高い。そうしたデベロッパは,パブリッシャと提携することでハイパーカジュアルゲームの開発が可能となる。会場ではパブリッシャが関与することで得られるメリットがあることが示された

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 セッションのまとめでは,坂本氏がハイパーカジュアルゲームに取り組むことを検討している聴講者に向け,「やるなら速く動きましょう」と呼びかけ,「これから会社に持ち帰り,2週間後に企画を経営会議に出し,稟議が通って予算が出たら開発をスタートする,というようなスピード感では,このビジネスはおそらく無理」「どんどん新しいゲームを作り,場合によっては捨てるという,失敗を前提とした速い動きが必要」「もたもたしているうちに,競合他社が同じアイデアのゲームを出す可能性がある」と改めて指摘した。
 また,個人開発者やインディーすることズゲーム開発者に向けても,スピードを上げるために外注やパブリッシャの活用も検討してみるといいのではないかと提案して,セッションを締めくくった。

CEDEC 2018公式サイト

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2018年8月27日17:30,講演者である坂本達夫氏の名前を間違えて記載しておりました。お詫びして訂正いたします
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