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[CEDEC 2015]ビジネスモデルを変えなければコンシューマゲームに未来はない,モバイルはブラックホールに? テクノロジーからゲーム業界の未来を探る
このセッションは,これからゲーム業界でエコシステムを構築していくにあたって,今後の5年間でどのような技術が必要になるのか,市場はどうなるのかなどといった予測をまとめたもので,非常に多岐にわたる内容の講演となっていた。
実は,2013年のCEDECでもMerceron氏は同様のセッションを行っている。まずはそのときに予測した事項の振り返り,現状確認などもやっていたのだが,「だいたい合ってた」という結論だったので,今回は省略させていただく。
ゲーム業界のトレンドを知る
振り返りに続いて,最近の業界トレンドの分析が行われた。
資料として挙げられたのは,E3 2015で記事になった本数をタイトルごとにまとめたもので,多く取り上げられたタイトルの要素を見てみると,「オープンワールド」「ハイエンド」「オンライン」といったものを揃えている。そして,そのほとんどが最新世代ゲーム機のタイトルだ。新規IPはわずかに2件で,とくにハイエンドではIP主導型の市場が形成されているという。
●旧世代機の動向
旧世代機の動向はどうなのかという疑問に対しては,Xbox 360やPlayStation 3向けの開発が縮小されているという記事がたくさん取り上げられ,タイトルの発売状況についてのスライドが示された。
下のスライドの左側が新世代機が登場する前,右が登場後の発売状況だ。新世代機の登場後,市場が新世代機に移行していることがよく分かる。
氏は,旧世代機は今後,ファミリー/キッズ向けのプラットフォームと位置づけられるようになるだろうと予測していた。
●AR/VRの動向
さらに,VRやARもファミリーフレンドリーなジャンルであるとするものの,現在は市場が存在せず,ハイエンドのみがターゲットになっている点を指摘する。VRやARの大衆化にはまだまだ時間がかかり,今後5年間ではたいした収益は見込めないだろうと氏は予測。とはいえ,VR向けの開発を行うのは間違ったことではなく,FacebookやMicrosoft,ソニーが研究開発を進めているのは正しい選択だとしている。
●プラットフォームの動向
プラットフォームについては,まずGartnerの資料を基にした市場予測を挙げて,モバイルは急拡大,据え置き型コンシューマゲーム機は拡大,PCはやや拡大,携帯型コンシューマゲーム機は縮小といった傾向を示していた。
ただ,据え置き型コンシューマ機は伸び率が逓減しており,インストールベースを伸ばせないという予測で,携帯型に至っては新しい戦略がないと生き残れない状況になるとの見方がされていた。なお,PCの伸びは少なすぎるという印象だそうで,次に示されたNewzooの予測のほうがしっくりくるとのこと。
●各地域の動向
同じくNewzooの統計から,地域ごとのトレンドが示された。北米の伸び率は最小でゲーマー数も2億人と多くはないのだが,売上高は高く,世界的には最も中心的な市場となっている。欧州も同じような傾向で,ゲーマー数がほぼ同じ中南米と比べると6倍の売り上げだ。
市場規模と伸び率では,アジアが最も注目されており,とくに中国は前年比+23%という高い伸び率を記録している。今後数年はアジアへの投資が続くだろうとの見方が示されていた。
しかし,アジアでは欧米とプラットフォームがまったく異なり,アメリカで45%を占めるコンシューマゲーム機はわずか11%しかない。PCオンラインゲームが市場の68%を占めている状況だ。サービスプロバイダも多く,百度やLINEなどからどれを選べばいいのか,判断が難しい。変化も激しく,欧米のパブリッシャはそれに対応できるほどの俊敏さはないという。
●パブリッシャの動向
次に示されたのが,大手パブリッシャのモバイルに対するポジションだ。グラフの縦方向は売り上げ,横方向はモバイルへの傾注度を示している。すべてのパブリッシャではないものの,モバイルシフトを示す部分が増えていることは分かるだろう。
すでに,iOSでは500本の新作ゲームが毎日リリースされ,Androidでも250本以上という状況であり,モバイルゲームのレッドオーシャン化は進行しつつある。
●モバイルの動向
そのモバイルでは,レッドオーシャンからブラックホール化が進むとMerceron氏は警告している。市場の過密化→差別化が必須→製品価値の向上へ→開発費と顧客獲得単価の増大→収入減→事業失敗という「わたるが死んじゃう」展開が今後5年間で繰り広げられるとしていた。
それだけでなく,モバイル事業に傾注することで技術やアートのノウハウがモバイルに特化し,先端的な分野から置いていかれる危険性も指摘された。氏はこういった競争力の低下をブラックホール化と呼んでいる。
とくに問題となるのが,顧客獲得単価の上昇だ。よほど強力なIPでないかぎり,苦戦を強いられるのだが,最近のハードウェアは高スペック化が進んでおり,Tegra X1の性能は1TFLOPS以上とPlayStation 3やXbox 360を超えている。コンシューマゲームの資産をモバイルに投入することで,コンシューマゲーム企業はある程度優位に戦えるというのが氏の見方のようだ。
●e-Sportsの動向
ユーザー獲得のためのコスト向上に対して,その一策として挙げられたのがe-Sportsだった。日本人的な感覚では「?」マークが浮かぶ人も多いのではないかと思う。実際,講演後の質問でもあったのだが,曰く「今後,顧客獲得単価が高騰していくが,e-Sportsには一定の集客効果があり,しかもリテンション(継続率)が高い。選択の余地などない」とのこと。
確かにe-Sportsの需要は増えており,それによって成功しているタイトルもある。今後のビジネスでは,新たな収益源になる可能性もあるという。とくに観客モードの導入にチャンスを見出しているようである。
●次のブルーオーシャンはどこか?
今後,モバイルのレッドオーシャン化が進んでいくことはすでに述べられたとおり。現在のゲーム業界(とくに日本)は,モバイルに支えられている面もあるのだが,それが覚束無くなってくる可能性があるわけだ。モバイルゲーム市場自体は拡大するとしても,過密化が進めば収益は低下する。では,次のブルーオーシャンはどこだろう。
氏は,アジアではコンシューマゲームとPC,欧米ではPCゲーム市場だとしている。アジアのコンシューマゲーム市場は急成長しているが,その要因は中国で新世代機が解禁されたばかりということが大きい。つまり,PCが次のブルーオーシャンなのだろうか。
HTML5により,Webブラウザは巨大なプラットフォームになることが約束されている。制作スタイルも多様化が進んでおり,かなりの有望株ではあるらしい。
今後,Aクラス,AAクラスのタイトルはPCブラウザゲームに移行するだろうとMerceron氏は見ている。
その一方,コンシューマのAAAタイトルは減っていくものの,収益性は高いので,コンシューマゲーム市場はAAAのみのような形になっていくと語っていた。しかし,開発費はますます上がるので,さらに収益性を上げていく必要もあるという。
●コンシューマゲームはどうか?
収益性の高さは,AAAタイトルだけの特徴ではない。Free-to-Play(以下,F2P)のビジネスモデルで高い収益を上げることもできる。しかし,その前提として大きなコミュニティが必要で,インストールベースを大幅に改善しなくてはならない。コンシューマゲーム機は現在,1000万から1400万くらいのインストールベースでビジネスを行っているが,新機種が登場すればゼロから始めなくてはならない。これが問題だという。
ここで示されたのが,もし「World of Tanks」(以下,WoT)がコンシューマゲーム機に移植されたらどうなるかというシミュレーションだ。念のために書いておくと,WoTはXbox OneとXbox 360向けにリリースされているので,コンシューマ版がないわけではない。Xbox Live ゴールド メンバーシップがあれば,無料で楽しめる。
さて,はっきり言ってどういう計算なのかはよく分からないのだが,プレミアム課金モデルで計算すると,1か月40ドルのプレミアムアカウントで約6800万ドル(約82億円)の売り上げが見込まれるという。F2Pだけだと(ゴールドやアイテムの販売のみという意味だろうか)約2100万ドル(約25億円)の月間売り上げにしかならないとのこと。
利益率は高そうなので十分いけそうな気がしないではないのだが,これではWoTをコンシューマゲーム機で展開する意味はないというのが氏の考えだ。前述のように,Xbox版の場合はゴールド メンバーシップと結びついているので,そちらでの利益配分が別途あるのだろう。
コンシューマゲームのビジネスが進化するためには,インストールベースが「ゼロから始まる」という点を解決する必要がある。たとえば,PlayStation 5が発売されるのであれば,PS5.1,PS5.2といったように互換性を保ったまま進化していく必要があると氏は語っていた。また,そのような進化するプラットフォームでは,機種ごとの差分管理(Androidが大変なことになっているが)が重要になることに注意を促した。
今後5年間でゲーム業界はどう変わるのか
続いて,ゲーム開発者の課題としてデータ管理の方法,ツールやサーバーなどについて語られたのだが,ここでは省略して,テクノロジー戦略と今後の予測に関する話をまとめておこう。
以下が,2015年版としてアップデートされたテクノロジー戦略の表だ。2013年版からアップデートされた部分が黄色になっているが,UGCやe-Sportsに重点が置かれているのが目に付く。そのほか,セキュリティやソーシャル性についても,無視できない問題となりつつあることが分かる。
これらのトレンドを踏まえたうえで,テクノロジーの意思決定を行うわけだが,重要なのは「引き返し不可能な選択はしない」ことであると氏は強調していた。なんらかの問題が発生した際,致命的なことになるからだ。
また,プロジェクトのライフサイクルを短くすることも必要だという。たとえば,7年かけたプロジェクトがあったとしても,7年後には市場は一変している。これでは管理など意味がないのは,あえて説明するまでもないだろう。
そして,最後に今後5年間にわたるゲーム業界の予測が示された。
曰く,「コンシューマゲームはビジネスモデルを変えない限り生き残れないだろう」「モバイルはレッドオーシャンになってくる。多くの開発者が苦戦するだろう」「PCネイティブは拡大し,ブラウザゲームも拡大する」「UGCやe-Sportsが人気になる」「マルチプラットフォームとクラウドの時代になる」「すべてのプラットフォームの裏でクラウドが動く」「AR/VRは短期的にはビジネスにならない。しかし,やがてはモバイルの代わりにARグラスが使われる可能性がある。これが次のゲームのプラットフォームになる」「ハードウェアはどんどん進化し,バッテリーの自動充電などブレイクスルーがやってくる」
これらは業界内外のさまざまな動きを見据えて出された未来予測だが,どのように感じられただろうか。5年前の世界を思い出してみれば,これから5年後を予測するのは非常に困難であることは理解できるだろうが,ゲーム業界では時代を先読みして技術投資や体制作りを行う必要がある。その専門家が出した結論どおりになるのか,今後の業界の動きに注目したいところだ。
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