メガネとゲーマー,その関係は深い。ゲームイベントやeスポーツシーンを眺めてみると,ゲーマーのメガネ率は結構高いことが分かるはずだ(4Gamer編集部のメガネ率も8割近い)。
eスポーツの盛り上がりに合わせて,国内でもゲーマー向けメガネが登場し始めているが,
“ゲーム用デバイス” としてはあまりに身近すぎるからか,これからのカテゴリである。ゲーマー側としても「どのようなメガネが適しているか」が不明瞭な点が多く,市場として手探りの段階と言えるだろう。
フォーナインズの「PLAIDe」(プレイド)
東京ゲームショウ2019において,とくに事前の告知をすることなく参考出展をしていたゲーミンググラスを覚えているだろうか。999.9(フォーナインズ)の
「PLAIDe」(プレイド) だ(
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そこで,今回はあらためてPLAIDeプロジェクトチームに取材を実施した次第である。
フォーナインズは1995年に誕生したアイウェアブランドだ。
「眼鏡は道具である。」 をコンセプトに掲げ,「掛けやすい」「壊れにくい」「調整しやすい」という3点に重点をおき,視力矯正に必要な道具としての機能を追求する“もの創り”に取り組んできたという。
注目のPLAIDeだが,
2020年1月16日 にオープンする
フォーナインズ・プレイド公式オンラインストア で販売展開が行われる。フロントデザインの異なる「P-1」「P-2」「P-3」という3種類のラインナップで,それぞれに3種類のカラーバリエーションを用意。価格は各2万9000円(税別)だ。
※2020年1月31日現在,公式オンラインストアのほか,ツクモの3店舗においてもPLAIDeを取り扱っている。
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2020/01/09 19:34
「さまざまなスポーツ選手をサポートをしてきた中で,eスポーツ選手に関わり,ゲーミンググラスの必要性を感じました。ゲーミンググラス PLAIDeを軸に,今までフォーナインズを知らなかった方にも知ってもらう取り組みをしたいと思います」
マーケティング部 部長を務める
綿引氏 によると,PLAIDeのプロジェクトはeスポーツ選手やゲーマー向け市場に商機を見出してスタートしたものではなく,これまでの活動と縁が発端だったという。フォーナインズにはさまざまな分野のアスリートをサポートする
「フォーナインズ スピリットサポート」 という活動があり,アイウェアブランドとして,選手のより良いパフォーマンスを引き出すための支援を続けてきた。
なお,アスリートのサポートには製品によるものだけではなく
「999.9 VISION LAB.」 と呼ばれる施設で,選手の視環境を細かく測定し,トレーニングを行っているそうだ。
そしてフォーナインズとゲームとの出会いは,とあるレーシングチームの紹介により,FPSタイトルのeスポーツ選手を999.9 VISION LAB.に招いたことだという。
PLAIDeプロジェクトチーム(左から,綿引氏,河合氏,谷合氏,田中氏)
「測定する前にヒアリングすると,アスリートと違いeスポーツ選手は全員,目の疲れを訴えているのに,何もケアできていない現状が見えてきました。そこで,『本格的にサポートをすべきではないか』と話し合いになったんです」
その選手にヒアリングをしたところ,1日に十数時間もディスプレイを見ているだけでなく,至近距離で焦点が合っている状態も見受けられた。スマートフォンゲームをプレイする際,極めて近い位置の画面を見ることが日常的になっている読者も多いと思うが,こうした過度な使用法は目に悪影響を及ぼす恐れがある。
ともあれ,従来のアスリートに対するサポートと比較しても,eスポーツ選手の測定結果はとても特異なことだった。
さらにヒアリングや大会でのデータサンプリングを進めると,「ヘッドセット着用時間が長い」「薄暗い環境で長時間,ディスプレイを凝視する」「輝度が高いディスプレイを使うことがある」といった環境が見えてきた。4Gamer読者には身近であるかもしれないが,フォーナインズとしては極めて「特殊」な環境だったようだ。
いままでとはまったく違う世界であったため,従来の製品やサングラスによるフォローアップは難しい。そこで,
新たにゲーマーの環境に最適な設計を提案すべきではないか と考えて,PLAIDeのプロジェクトが立ち上がった。
安定性が高く,ヘッドセットと干渉しにくいフレーム設計
PLAIDeを試着してみると,やんわりと包み込むような装着感とそれに反した安定感が実感できる。締め付けているわけでもないのに,顔を素早く動かしても位置ズレが起きる気配がない。
ヘッドセットとの相性も良好だ。顔にフレームが食い込む感覚はほとんどなく,ヘッドセットを装着した後にメガネの位置を直す必要もほぼない。
「痛くなることもなければ,目も疲れない。そしてゲーム以外でも掛けられる。それはフォーナインズが作るゲーミンググラスだからです」
PLAIDeの特徴として,商品企画部
田中氏 が挙げたのはテンプルの素材と構造だ。弾性に富むベータチタンを採用し,幅をもたせたテンプルを0.7mmと限りなく薄く設計することで柔軟性を生んでいる。また,テンプル中央部から後方部には,一段内側に入るようアールを変えて,テンプルの逆反り
※ を防止しているという。
これはフレームメーカーとして開発を続けてきたノウハウによるもので,このテンプル形状から締めつけるのではなく頭部に接地する面を広くとり,包み込むような安定感が得られる。
※逆反り……経年によって,テンプルが外側に反り,メガネがズレやすくなること。
テンプル部分の形状がポイント
さらに細かく見ていくと,モダンも薄く設計されており,ラバーを採用しているので,ヘッドセットなどを装着したときでも干渉を抑え,快適に掛けられる。
また,パッド(鼻あて)には独自の形状のシリコンパッドを採用しているため,ズレにくく安定感が高い。
パッドは掛けたときの安定感を重視している
デザインはウェリントン,スクエア,ボストンの3種類。従来のフォーナインズのフレームより一回り大きく,ゲームをする際の視野が広く確保できるフロントのサイジングが施されている。日常生活ではメガネを掛けないが,ゲームプレイ時にPLAIDeを装着する層への配慮だ。
そして何よりの特徴は,
普段使いできるデザイン であることだろう。
デザインは3種類,それぞれにカラーバリエーションが3種類ある。普段使いに適した色合いだ
「999.9 VISION LAB.で選手に話を聞いたときに,レンズとデザインに対する意見が挙がりました。レンズはブルーライトをカットするほど,ゲームの世界観との乖離が大きくなる。そしてデザインについては,休憩中に従来のゲーミンググラスではそのまま外に出られない,と」
PLAIDeのフロントデザインは,一見するとゲーミンググラスに見えない。普段使いしやすいデザインで提案することで,ゲーミンググラスを掛けるシーンが広がり,より多くの方に使ってもらえると考えたという。
1年近く開発を継続するなかで,eスポーツのプロシーンが注目されるようになった。選手からは「カッコ良くありたい」という意見も増えてきたこともあり,普段使いしやすいデザインは喜ばれているそうだ。
左側面に控えめな処理で「PLAIDe」の文字がある
見え方と性能を両立したレンズ
ゲーマーをサポートするためのメガネ。その観点から言えば,レンズも外せない要素だ。前述のとおり,ブルーライトをカットするほど,レンズは黄色が強くなり,ゲームの世界観との乖離が大きくなる。
また,eスポーツ大会では薄暗い会場に,強烈な照明とディスプレイが主な光源という環境も多く,レンズへの映り込みが気になってしまいがちだ。そうした環境下における長時間のゲームプレイが,目に与える負担や疲労を気にする選手もいたという。
大会の会場は薄暗く,ディスプレイを眩しく感じる環境が多い
「レンズへの映り込みを極力排除して,かつ目の負担も軽減する。それにより,高いパフォーマンスを発揮できる。こうした点に主眼を置いて開発しました。ディスプレイから出ている光の波長を調べたところ,どの製品でも400nm〜650nmが中心と分かりました。その波長への対応を重視しています」
小売部
谷合氏 によると,映り込みへの対策として,
ディスプレイに最適化された超低反射コート を採用しているとのこと。平均反射(400nm〜650nm)を従来のレンズより抑えることで,映り込みを少なくしつつ,人間の目は555nmをピークに光に対しての感度が高いため,その波長を重点的に抑えた。これにより,映り込みを体感しにくくなっている。
レンズの特徴を示した図
レンズの色をよく見ると,わずかにグレーが入っている。ブルーライトカットを謳うレンズにはブラウンやイエローが強いものが多いが,どうしても色の見え方が変化してしまう。そこで,変化の少ないグレーに目を付けたという。
一般的なグレー染料ではブルーライトカット効果が弱いが,PLAIDeの染料は医療用の特殊なもので,グレーでもブルーライトを効率的にカットできるものになったという。なお,グレーの割合を変更したレンズを選手に試着してもらったところ,15%以上になると「色が気になりやすい」傾向があったため,最終的に「10%」に落ち着いたそうだ。
白背景でもグレーが入っていることは,ほとんど分からない
また,超低反射コートと特殊なグレー染料は相互に作用しており,当初の設計より高い性能を発揮しているとのこと。これは実際に掛けてみても,肉眼の状態とPLAIDeを掛けた状態での差はほとんど感じられなかった。
アスリートをサポートする「999.9 VISION LAB.」
冒頭で触れたとおり,999.9 VISION LAB.はフォーナインズがアスリートをサポートするために設立した施設だ。ここを訪れた選手や関係者のつながりによって,これまでに約40名のeスポーツ選手を測定しているという。
それでは,実際に何をどのように測っているのだろうか。マーケティング部 スピリットサポート担当の
河合氏 によると,一般的な視力測定に加えて,明るさによる見え方の違い,動体の距離把握,眼球運動,瞬間視,目と手の協調性などを測定しているそうだ。
また,目に限らず,聴覚や足の裏の情報も得て,トレーニングプランを提示したり,アドバイスを行ったりして,パフォーマンスの改善を狙っているとのことだ。
「アスリートとeスポーツ選手では,見え方の違いがあります。eスポーツ選手は得意な部分は極めて良いスコアを出していて,見えていないのに見えているかのような特殊な能力を持っている人が多い。視力は総じて低いですが,『ディスプレイが見えれば十分』という考えから,メガネを掛けていない人も多いです。PLAIDeを従来の製品とは別ものとして,開発したことは正解だったと言えます」
“見えていないのに見えているかのような特殊な能力”は,アクションゲームやシューターといったジャンルを遊ぶプレイヤーならば,実際に体験しているかもしれない。画面全体のぼんやり見ている感じでプレイしつつ,「画面の片隅で何かが動いた!」と認識できる感覚のことだ。
ライフゲージやマップを注視しながらも,画面端の動きも把握できる――プロシーンで戦うeスポーツ選手は,こうした能力を持っているということだろう。フォーナインズでは,特異な能力として捉えているようだ。
PLAIDe特設サイト ではサポート対象であるeスポーツプレイヤー(ダブル選手,破壊王選手,はつめ選手)のインタビューを公開している。プロゲーマーとしての活動や考え方,PLAIDeの感想などが語られている
そんな999.9 VISION LAB.について,さらに知りたくなった読者も多いはずだ。実は筆者も気になっている。そこであらためて取材の機会を用意してもらい,実際に足を運んでみたいと考えている次第だ。
今回,プロジェクトチームに話を聞いたことで,PLAIDeはフレームとレンズに加え,長年にわたってアスリートをサポートしてきた経験やデータも活用して誕生したことが伝わってきた。PLAIDeは安価な製品ではないが,それに見合う機能性と耐用性が備わっているとすると,大事な目をケアしてくれる“ゲーム用デバイス”の選択肢として考慮してもいいだろう。