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意外なところにゲーム人 第7回:子ども向けの学習アプリを提供するファンタムスティック社長 ベルトン・シェイン氏
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印刷2020/02/18 12:00

連載

意外なところにゲーム人 第7回:子ども向けの学習アプリを提供するファンタムスティック社長 ベルトン・シェイン氏

画像集#002のサムネイル/意外なところにゲーム人 第7回:子ども向けの学習アプリを提供するファンタムスティック社長 ベルトン・シェイン氏

 かつてナムコやコーエー(いずれも当時)でゲーム開発に携わり,現在はゲーミフィケーションデザイナーとして活躍している岸本好弘氏とともに,ゲーム作りのノウハウをゲーム以外の分野で活用している人を取材していく連載「意外なところにゲーム人」。

 連載第7回に登場いただくのは,ファンタムスティックの代表取締役社長 ベルトン・シェイン(Shane Belton)氏である。ベルトン氏は長年コンシューマゲームやソーシャルゲームの開発に携わっていたが,現在はスマートフォンアプリを使った子ども向けゲーム式学習サービス「プレイ! スタディー! ゴー!」シリーズの制作に取り組んでいる。そんなベルトン氏にファンタムスティックの学習アプリの概要と狙い,同社の取り組みと今後の展望を聞いた。

ファンタムスティック代表取締役社長 ベルトン・シェイン
画像集#001のサムネイル/意外なところにゲーム人 第7回:子ども向けの学習アプリを提供するファンタムスティック社長 ベルトン・シェイン氏


CGデザイナーとしてキャリアをスタートし,ゲームのプログラミングを学ぶ


 ベルトン氏はイギリス出身だが,小学校6年生の頃から日本で暮らしている。ゲームは小さな頃から好きで,コモドール64を使って「スペースインベーダー」などを遊んでいたという。日本に移住してきた当時はまだ日本語が得意ではなく,「ドラゴンクエストIII」で武器と防具の装備方法が分からないまま,レベル20相当まで遊ぶという,かなりハードなプレイを経験したこともあったそうだ。
 そんなベルトン氏は上智大学で国際経済を専攻したが,絵やデザインに興味があったという。そしてある時「ゲームに関わるCGや映像を作りたい」と思い立ち,大学卒業後に専門学校で3DCGを学ぶこととなる。

ベルトン氏:
 大学は何となくで専攻を選んでしまったんです。最初からCGを学んでおくべきだったと今でも思いますね。また,専門学校の卒業後はすぐにゲーム業界に入ったわけではなく,日立の宇宙推進事業部に派遣社員として入社しました。そこでは衛星通信……今で言うブロードバンドの前身を使ってコンテンツを提供する事業に携わっていたんですが,3年くらい務めて「やっぱりゲームのCGをやりたい」と思い,フリーランスになったんです。

岸本氏:
 シェインさんとの出会いは教育イノベーターが集まる「Edvation x Summit 2019」でお互いに登壇者として出席したことがきっかけでした。講演を聞いて「なんと面白そうなことやっているんだろう」と思い,早速詳細を聞きに伺ったんです。

 フリーランスとなったベルトン氏は,「ウイニングイレブン」シリーズや「モンスターファーム」シリーズなどのCGを手がけていたという。最初はムービーの一部分だけを作る仕事だったが,「いつかはムービー1本を全部作れるようになりたい」と考えながら続けた。その結果,フルCGの企業CMを丸ごと1本制作するような依頼も来るようになったのだそうだ。
 また,ゲームの仕事に携わるうちに「自分でもゲームを作りたい」と思ったベルトン氏は,それからプログラミングを学ぶ。そして開発したFlashベースのゲームを企業に提供することを始めた。

画像集#004のサムネイル/意外なところにゲーム人 第7回:子ども向けの学習アプリを提供するファンタムスティック社長 ベルトン・シェイン氏

ベルトン氏:
 実は今手がけているゲーム式学習サービス事業の最初のアプリ3タイトルは,僕自身がプログラムを担当しました。振り返ってみると,大きな企業でゲーム開発を学んだと言うよりは,自分自身でゲームの作り方を1つ1つ培っていった感じですね。

岸本氏:
 シェインさんは,大学卒業後に3DCGを学び始めて,その後プログラミングも始めておられます。スタートは遅かったかもしれませんが,「今何がやりたいか? そのためにはどんなスキルが必要なのか?」を考えて行動を起こされているのが,良いですね。


ソーシャルゲーム開発からスタートし,学習アプリに転進したファンタムスティック


 その後2010年,ベルトン氏はファンタムスティックを設立する。当時はmixi,mobage,GREEが相次いでオープンプラットフォーム化しており,ファンタムスティックも最初はゲームデベロッパとして各SNSにソーシャルゲームを提供していた。
 しかしソーシャルゲーム市場の競争が激化し,アイデアよりも広告宣伝費の勝負になると,小規模のデベロッパでは太刀打ちできなくなってしまった。それはファンタムスティックも同様で,ベルトン氏はソーシャルゲームの開発を中止。スタッフも7名から2名になって会社を畳もうかと考えていたという。

ベルトン氏:
 これからどうしようかと考えていたとき,当時5歳の僕の子どもがiPadのアプリを使って足し算をしているのを見つけたんです。僕も妻も教えてないのにどうやって計算を覚えたんだろうと思ったら,そのアプリで子どもが自ら学んでいました。
 それを見たとき,「スマホやタブレットという端末自体が,これから新しい学びのデバイスになるのでは」と思ったんです。紙と鉛筆を与えたからといって,子どもは計算ができるようにはならない。そもそも字を書くことを覚えなければならない。しかしスマホやタブレットなら直感的に学べるんです。

 ただ,そのアプリはベルトン氏から見ると,かなりひどいデザインだったという。「これで面白いなら,ゲームっぽくしたらもっと面白くなるのでは」と考え,2013年からベルトン氏とデザインを担当した役員の2人は学習アプリの開発に取り組んだ。そして2014年に満を持してリリースされた学習アプリ「算数忍者〜九九の巻」は,かなりのヒットを記録した。

「算数忍者〜九九の巻」
画像集#005のサムネイル/意外なところにゲーム人 第7回:子ども向けの学習アプリを提供するファンタムスティック社長 ベルトン・シェイン氏 画像集#006のサムネイル/意外なところにゲーム人 第7回:子ども向けの学習アプリを提供するファンタムスティック社長 ベルトン・シェイン氏

ベルトン氏:
 当時はそこまでゲームっぽくすることを考えず,ゲームのノウハウを応用して面白い学習アプリを作ろうとしていました。それから現在までの間に,ゲーミフィケーションの価値をどんどん発見し実感できるようになって,今なお学んでいる状況です。

岸本氏:
 シェインさんは,ゲームの持つ「人を夢中にさせる」という要素がゲームの外でも使えることに気づいたわけです。子どもが算数を学ぶときにもゲームの楽しさが継続性を高める。まさに“ゲーミフィケーション”に気づいたということです。

 ベルトン氏は,物事には必ず飽きるポイントがあり,それは学習アプリも同じだと考えている。また,ゲームのテンポや流れが悪いと,いくら面白くても子ども達は続けてくれない。そこで,データから子ども達の離脱しやすい(飽きる)ポイントを探し,そこにゲームの持つ「人を夢中にさせる」という要素を入れていく。特にファンタムスティックの学習アプリでは,スマートフォンやタブレット上で目を惹くデザインやテンポの良い演出に力を入れているそうだ。
 結果として,これまでにリリースされたファンタムスティックの学習アプリ30数タイトルを累計すると17億問以上,世界で解答されている。これはドリルや問題集に換算すると150万冊相当で,子ども1人あたり500問を解答している計算になる。

ベルトン氏:
 私たちの学習アプリには,ゲーミフィケーションの3つの要素を入れています。まず「達成できる目標」,次に「反復」,そしてそれらに応じた「報酬」
 例えばRPGのプレイ中,売価200ゴールドの武器がほしいときに,自分の手持ちが30ゴールドしかないとします。そうなると,自分の実力に見合った敵を繰り返し倒して170ゴールドを稼ぎ,目標の武器を買いますよね。すると同時に経験値が入ってレベルが上がりますから,自然とプレイヤー自身も強くなっていきます。うちの学習アプリも,基本的には同じことをやっています。

岸本氏:
 子どもは学習アプリを遊んでいるつもりなのに,いつのまにか算数が得意になっている。そして,出来ないことが出来るようになることで自己肯定感が高まります。遊びと学びは反対のものではなく,同じものになるのが理想的です。学びは本来人間の本能ですから。

 ファンタムスティックの学習アプリでは,すごろく風のマップ上にボスや何かありそうなステージを配置し,ボスを倒したりイベントを発生させたりすることを「達成できる目標」としている。最初は3問正解するだけで目標を達成でき,報酬としてカードが提供される。また「報酬」にはレア度が設定されており,それらをコレクションすることも目標の1つとなっている。

 そして,特にこだわっているポイントであるデザインやテンポは,アニメーション処理をコンマ数秒に至るまで調整を重ね,子ども達がストレスなく「反復」できるような設計を目指しているという。さらに正解数が一定に達しても報酬カードを提供するようにし,それらを求めて繰り返し問題に挑戦しやすい仕組みを作っている。

画像集#008のサムネイル/意外なところにゲーム人 第7回:子ども向けの学習アプリを提供するファンタムスティック社長 ベルトン・シェイン氏

ベルトン氏:
 スマホの画面は小さいので,たくさんの情報を一度に見せられません。PCよりもできることが多くなっているのに,ユーザーが得る情報量という点ではスマホは退化していると思うんです。
 例えばアプリにいろいろなボタンを配置すると,PCであればユーザーはそれを使うために自ら調べたり試したりします。しかし,スマホではたくさんボタンがあると見づらく,ユーザーはアプリを使うことそのものを止めてしまうんです。なぜなら,ほかにもっと面白い,使いやすいアプリがたくさんあるからです。

 私たちの学習アプリは,他社の学習アプリではなく,ゲームも含めたさまざまなジャンルのアプリと競争しているんです。だから面白さやデザインを重視する。授業で使うプリントをそのままアプリ化しても,面白さがないから子ども達は結局やらないんです。そうなると誰かが「やりなさい」と強制しなければならなくなります。それでは今までの教育と変わらない。でもゲーミフィケーションを使えば,子ども達のほうからやりたいと言い出すようなものを作れると思うんです。

岸本氏:
 UIのデザインは本当に大事で,そこをきちんと作っているゲームやアプリは,何年経っても廃れずに親しまれています。「こうなっているから,操作が気持ちいい」という理由が必ずあるんですよね。

 実際,ファンタムスティックの学習アプリが多く起動される時間は8:00と18:00で,これは家庭で朝食と夕食の準備をしている時間帯にあたると,ベルトン氏は分析する。すなわち,家庭内で親が子どもの相手をできないので,スマートフォンに相手をさせているという時間なのである。しかし子ども達にゲームをプレイさせるのは親として罪悪感があるので,代わりに学習アプリを与えたのではないかというのが,ベルトン氏の見解だ。
 「結局,親が強制しているのではないか」と思うかもしれないが,子ども達は面白くなければ学習アプリを使うのを止めてしまう。それでは17億問も解答されるわけがない。つまり,きっかけこそ親だが,継続する意思を示しているのは子ども自身というわけである。

ベルトン氏:
 「算数忍者〜たし算ひき算の巻〜」だと,全50ステージに1000問を用意しているんですが,中にはそれを12周もした動画をYouTubeにアップしてくれた子もいるんです。楽しい,気持ちいいと同時に自己肯定感が強まるんでしょうね。


特別支援学級と共同研究を進め,ゲーミフィケーションの価値を世間に広める


 ファンタムスティックは千葉・市川市立新浜小学校の特別支援学級と共同で,発達障害や学習障害を持つ子どもに同社の学習アプリが与える効果の研究を進めている。その中で最も効果があったのは,問題を解くことで自己肯定感が高まり,それまで周囲から勉強ができないと思われていた子どもや,学校に行きたくないと言っていた子どもが自発的に学習アプリを使うようになった点だという。

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ベルトン氏:
 ある子どもは,先生や親が熱心に教えているにもかかわらず,まったく九九ができませんでした。しかし私達の学習アプリを導入したところ,誰よりも速く問題を解いていったのです。その子は頭の中では計算ができていたのに,それを書き表すことができなかったんです。そして先生も親も計算ができない子だと思い込んでいたため,その子自身も自信を持てずにいました。学習アプリで計算ができることが判明したため,「自分はできる」と思えるようになり,自己肯定感が高まったんです。

岸本氏:
 字が書けて当たり前,むしろできなければいけないという固定観念があるんですよね。計算ができても字が書けないから,周囲からは計算ができないと思われてしまう。また「キレイな字を書かないといけない」ということばかりで頭がいっぱいになり,答えを書けない子もなかにはいたりします。
 しかし,既存の教育に学習アプリとゲーミフィケーションを採り入れることにより,そうした“できない”と見なされていた人達を救える可能性が生まれるんです。

ベルトン氏:
 もちろん,すべての人に当てはまるわけではないでしょうが,既存の教育が合わないという人が,ゲーミフィケーションによって救われるケースはあるだろうな,と思います。近年になってようやく,うちの会社みたいなところがそこにアプローチし始めたわけですね。

 以前の特別支援学級の授業で一番大変だったのは,子ども達を席に着かせることだったそうだ。しかし学習アプリを採用してからは,タブレットを机の上に置いておくだけで皆すぐに席に着くようになったのだという。

ベルトン氏:
 学習アプリのいいところは,子ども達それぞれのペースで学習を進められることです。できる子はどんどん1人で先に進めるし,できない子はゆっくりやればいい。そして先生が付きっきりにならなくてもいいというところも,既存の学校教育とは異なる点ですね。

 そうは言っても,「既存の教育が決して悪いわけではない」とベルトン氏は語る。既存の教育で効果を得られる子ども達もたくさんいるからだ。ファンタムスティックは,既存の教育では効果のない子ども達の選択肢の1つになるような存在を目指しているという。

ベルトン氏:
 大手の教育系企業だと,“ゲーム”という言葉を前面に打ち出すと親御さんから反感を買う恐れがあると思います。逆に私達のような小さな会社ならそれほど影響がないので,あえてゲームをアピールして差別化を図っています。それに僕らが目指すのは既存の教育を変えることではなく,新しい学びの方法を作り出すことですから。

 ファンタムスティックは新しい技術を積極的に採用しているため,学習アプリの中にはARを使っているものもある。しかし,そうした試みのすべてがうまくいくわけではない。開発スタッフが面白いと感じても,子ども達がそうだとは限らずポイントが異なることもあるからだ。そのため,開発中の学習アプリをベルトン氏の近所の子ども達に遊ばせて,面白いと思ってもらえるかを確認しているという。

「算数忍者AR」。AR空間に散らばったブロックを拾って,出題された数と同じ箱数にできればクリア。対戦プレイも可能
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ベルトン氏:
 3D図形の学習アプリは開発初期はスマホのジャイロセンサーを使っていて,端末を傾けると背景が動いて立体感が出る仕様だったんです。すごく時間をかけて開発したこともあり,大人には好評だったんですが,子ども達にとっては“端末を机の上に置いて遊ぶ”というのが一般的なスタイルで,ジャイロセンサーが意味をなしていなかったんです。しかも「手に持ってやってごらん」と言っても,背景の動きには関心を示さない。つまり子どもにとってはどうでもいい機能だったんですね。

 ベルトン氏は,子どもに開発中の学習アプリを渡すとき,面白く遊んでもらえるかどうかを確認するため,遊び方は敢えて教えないという。そして,子どもが熱中しているかを“遊んでいる時間”で判断する。たとえ「面白い」と口では言っていても,30秒で遊ぶのを止めたなら本音は大して面白くない,5分以上遊んでいれば本当に面白いと思ってもらっているとベルトン氏は語る。

ベルトン氏:
 毎週金曜日に開発中のものを持ち帰って,土日に子ども達に遊んでもらい,月曜日に社内で「ダメだった」と報告して何が悪かったのか分析し,アップデートする。そんなことの繰り返しです(笑)。

岸本氏:
 「面白いと思わない子ども達が悪い」ではなく「面白いものを作れない自分たちが悪い」。以前にサイトウ・アキヒロ先生もおっしゃっていましたが,ゲーム開発というのは究極のおもてなしですよね。


ゲーミフィケーションの価値を自分から積極的にアピールしていく


 現在,ファンタムスティックの学習アプリのビジネスモデルは,フリーミアム(基本無料)タイプとサブスクリプションタイプの2種類がある。前者は最初の10ステージまでは無料,残りのステージを有料で遊ぶことができる。

ベルトン氏:
 フリーミアムモデルについては,10ステージくらい遊ばせないと子ども達がハマってくれないと考えたんです。報酬カードがある程度集まれば,続きをやりたいと思ってもらえるかなと。また親も最初はゲームだと思っても,子どもがしばらく遊んでいるのを見れば「算数をやっているんだ」という認識になるだろうという見込みがありました。その見込みが当たり,今のところアプリをダウンロードしたユーザーの約15%に課金していただけています。

 学習アプリは,子どもにはただ,ゲームで遊んでいるように感じてもらい,親からは勉強しているように見えるのが理想的だが,このバランスをどのように取っているのだろうか。ベルトン氏は,まずタイトルに「算数忍者」「国語海賊」など学習課目の名前と,「足し算引き算」「1年生の漢字」といったように何を学べるのかを入れ,最初にアプリをダウンロードするであろう親にアピールすることを挙げる。
 そしてアプリの内容では,子どもがハマってしまうようなゲーム的な面白さを仕込んでいき,子どものほうから親を説得して課金してもらうような流れを想定しているのだという。

ベルトン氏:
 ユーザーからは「子どもが今まで興味のなかった科目に,自分から取り組んでいる」「ほかの学年向けのものも出してほしい」といった感想や問い合わせが寄せられています。これは僕の持論ですが,家庭で子どもに勉強をさせるのは親にとって負担です,だから塾に行かせている。そんな状況ですから,自宅にいるときも子どもが自発的に勉強してくれるうちのアプリがフィットしたんじゃないでしょうか。

 ファンタムスティックでは,子どもの教育コンテンツはもちろん,企業向けの研修コンテンツの受託開発も行っている。これはベルトン氏自身が,教育全般にゲーミフィケーションを応用できると考えているからだ。とくに今の若年世代は,スマートフォンで手軽に学べたり,内容そのものが面白かったりしないと見向きもしない傾向が強いため,今後大きく伸びる分野だと予想しているという。

画像集#012のサムネイル/意外なところにゲーム人 第7回:子ども向けの学習アプリを提供するファンタムスティック社長 ベルトン・シェイン氏

ベルトン氏:
 ファンタムスティックは学習アプリを作っているのに,スタッフに教育者が1人もいないんです。皆ゲームが好きで,朝の定例会議ではゲームの話ばかりしています。企画のヒントもゲームで,「このタイトルのここが良かったから入れてみよう」という風にやっています。
 一方,多くの教育コンテンツの会社はゲームを知らず,教育の概念が偏ったりしています。また新しいデザインに抵抗があったり,そもそもそうした発想がなかったりもします。うちは,ゲームやデザインの観点から教育コンテンツを作ることを考えていますから,差別化ができていると捉えています。

岸本氏:
 かつてゲームは子どものものでしたが,今では大人も遊んでいます。ツラいことを嫌々やるよりも,ゲームのように楽しくやれたらそれに越したことはありません。企業研修もスマホでできるのであれば,そうしてしまったほうがいいですよね。とくに新入社員研修は毎年同じことを繰り返すわけですから,一度コンテンツを作ってしまえば使い回しができるのではないでしょうか。

 そのほかファンタムスティックでは,学習アプリをインストールしたタブレットを学校に無償で貸し出すということもやっている。ベルトン氏によると,学習アプリに興味を持っている現場の教師は少なからず存在していて,実際に授業外の教材として活用している事例もあるそうだ。
 また教師からのリクエストを受けて,学習アプリのキャラクターを使ったカードゲームも2種類作成した。1つは片面に小学1年生で習う漢字,もう片面にその漢字の読みと例文をプリントしたもの。もう1つはカードの片面に各都道府県のキャラクター,片面に各都道府県の形がプリントされたものだ。

画像集#013のサムネイル/意外なところにゲーム人 第7回:子ども向けの学習アプリを提供するファンタムスティック社長 ベルトン・シェイン氏

ベルトン氏:
 現場レベルで関心があっても,正式な学校のカリキュラムとして採用するとなると校長,ひいては文部科学省の認可が必要になりハードルが高くなります。そこで先生達の間で学習アプリのムーブメントを起こす支援になればと,この取り組みを始めました。ゲーミフィケーションがいくら価値のあるものでも,待っているだけではダメですから自分から動き始めたというわけです。

 また,漢字の読みは小学1年生では習わないものも掲載しています。覚えたいなら,どんどん覚えたほうがいい。うちの学習アプリは,文部科学省のカリキュラム従う義務はないですからね。

岸本氏:
 ゲーミフィケーションはデジタルとアナログ,どちらがより効果的なのかと聞かれることがありますが,このゲーミフィケーションはアナログ,このゲーミフィケーションはデジタルといったように,効果のある側面が違うんです。究極は両者のハイブリッドですね。ハイブリッドだと面白さや楽しさが2倍3倍になる。そこをきちんとやっているシェインさんはすごいと思います。

 一方,学校教育にゲーミフィケーションを採り入れることにはまだまだ課題があるとベルトン氏は言う。例えば現状の学習アプリは何かを覚えさせることには向いているが,アウトプット面の学習,つまり何かを発想させたり,それをベースに議論させたりすることは難しいのだ。

画像集#007のサムネイル/意外なところにゲーム人 第7回:子ども向けの学習アプリを提供するファンタムスティック社長 ベルトン・シェイン氏

ベルトン氏:
 もし仮にうちの学習アプリを学校教育に導入するのであれば,アウトプットを意識した授業とセットにしないと成立しないでしょうね。今の日本の教育は覚えさせてそれを採点することに重きを置いているので,それがスマホやタブレットで完結するとなれば,「仕事がなくなる」と危惧する先生もいるでしょう。
 ただ,学習アプリで子どもにインプットして,そのあと今回間違った部分を書き出したり,前回よりどれだけうまくできたかを確認させたりするというアウトプットは,人の力がないとできません。共同研究をさせていただいている新浜小学校の先生は,そのアウトプットを意識した授業をしてくださっているのが素晴らしいです。

 ファンタムスティックは今後,フリーミアムモデルが主体の学習アプリを,徐々にサブスクリプションモデルに移行させていく予定だという。そうすることでアプリの内容をアップデートできるようになり,子ども達の学習に対するさらなる効果が見込めるからだ。
 また小学1年生から6年生までの学習すべてを網羅した,サブスクリプションモデルのアプリの開発にも取り組んでいる。

ベルトン氏:
 例え1年生でも,できる子なら6年生の勉強をしてもいいと思うんですよ。逆に6年生が,3年生で習ったことを理解できていなかったとしても,もう一度そこに戻って自分だけで勉強できる。そういった学習アプリがあるといいんじゃないかと考えたんです。
 将来的には,各科目の学習がほかの科目にどう影響を与えているのか,その関連性についてデータを取って研究してみたいですね。算数でつまずいていた子が,地図アプリを遊んだら何かの理解が増えてなぜか算数もできるようになっていたという事例が多かったとしましょう。そうなると新たに誰かが算数でつまづいたときに,「地図アプリをやってみて」とオススメすることができるようになるわけです。

 また,子ども達はいろんな科目を勉強するようになりますから,大きくなっていく過程で選択肢が増えます。僕は子ども達に多くの選択肢を与えるのが,親の役目だと思っていますから。興味があればまずやってみる。それで面白かったら続ければいいし,面白くなければ止めてもいい。それが定着することで,思いもよらなかった才能を発見できるかもしれません。

岸本氏:
 シェインさんの話は大変興味深いものでした。ゲーム作りの「楽しく夢中にさせる」ノウハウは,子どもの勉強へのモチベーションアップにも生かされているのですね。勉強にも必ず飽きるポイントがある。嫌々継続させるのではなく,そのポイントをゲーム要素で補い,楽しくいつも間にか乗り越えさせていく。ゲームの力は娯楽だけに留まらず,世の中の役に立つようにさまざまな分野で活用されていくべきものなのです。
 小学1年生から6年生までの学習すべてを網羅したアプリも非常に面白そうですね。デジタルの強みはログが取れることなので,学習成果を上げる新たなポイントが見つかりそうとも思いました。これからのさらなる学び分野での活躍に期待しています。

画像集#014のサムネイル/意外なところにゲーム人 第7回:子ども向けの学習アプリを提供するファンタムスティック社長 ベルトン・シェイン氏

ファンタムスティック公式サイト

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