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[TGS2022]JeSU主催のeスポーツセッション「Future of esports」聴講レポート。eスポーツへの投資や展望が語られた
ネモ氏:ウェルプレイド・ライゼスト プロeスポーツ選手 |
杉澤竜也氏:マウスコンピューター マーケティング本部 本部長 |
上田泰也氏:経済産業省 商務情報政策局 コンテンツ産業課 課長補佐 |
岡田和久:Aetas株式会社 代表取締役社長/4Gamer.net編集長 |
Z世代がeスポーツ市場最大の消費者に
セッションはeスポーツの認知度の話からスタートした。モデレータを務めるJeSUの戸部氏によると,2017年9月の時点の認知度は14.4%という低い数字だったが,その後2018年にJeSUを設立。さらにウメハラ氏やときど氏など,国際大会で活躍するプロゲーマーの登場もあり,2021年春の調査時点では8割を超えたという。
また,eスポーツ市場についても,認知度と同じく2018年から右肩上がりに推移しており,2023年以降も順調に伸びていく予測が出ているそうだ。戸部氏曰く,海外に比べるとやや低い水準の話だが,海外の水準に追いつきそうになるだけでも,順調に伸びていると言っていいそうだ。
eスポーツ市場について上田氏は,Z世代――1990年代後半から2010年生まれが世界最大の消費者グループになるというデータを紹介。これを受けてネモ氏は,「自分の配信に来て,ゲームでコミュニケーションを取る人はY世代の人が多い。さらに若いZ世代であれば母数はさらに大きくなる」と話した。
さらにネモ氏はZ世代に刺さるゲームタイトルについて,今はFPSタイトルが強いとし,プロ格闘ゲーマーの間でもFPSが流行しており,視聴数が伸びていると話す。また,Z世代は配信でゲームプレイを見るだけでなく,コメントでも積極的にコミュニケーションを取る人が多いとのことで,配信の盛り上がりにもつながっているようだ。
ニュースメディアの立場にある岡田は,eスポーツの記事の傾向としてZ世代よりも上の世代に読まれていると述べた。ただ,これはあくまでも平均の話で,タイトルによって大きく異なる。例えばApex Legendsのように若い世代に人気のタイトルは,そのまま若い世代に読まれるし,そのほかにも新しいeスポーツチームの設立といった夢のある話も若者が好んで読んでくれるそうだ。
それでは,Z世代をマーケティングのターゲットにするべきなのか。上田氏はZ世代の特徴として,コミュニティを形成して,そこに居場所を求めている傾向が強いため,一方的に情報を発信するよりも,会話型――ライブ配信やチャットなどのなかで商品の認知度を上げていくほうが適していると話す。さらに,Z世代はSNSを通じて購入した商品をレコメンド(推奨)する傾向があり,購買者からそのまま推奨者にもなりえる。そこまで含めてマーケティングに生かしていくのが理想の形であるとまとめた。
eスポーツへの投資と課題
次の議題はeスポーツの投資効果について。スポンサーとして投資をしているマウスコンピューターの杉澤氏は,ゲームPCの売り上げは年々伸びているという。ただ,今後さらに投資していくかはリソースの問題もあるため,より効率的にどう稼ぐかを考える必要があるとのこと。また,もとから安定した事業があり,そこから新規事業としてeスポーツに参入する企業は,長期的にスポンサードしやすいそうだ。
長期的なスポンサードの話を受けて,プレイヤーサイドのネモ氏は,個人的にも長期的に見て投資をしてほしいと思っていると語った。これからプロゲーマーになる子は若い世代が多い。大学を辞めて,就職をせず,プロゲーマーになる子もいるだろう。また,ファンを簡単するのは簡単なことではないため,ネモ氏は企業に対して,できるだけ長い目で選手を見守ってほしいと話した。
続いての議題は日本eスポーツ産業の課題について。戸部氏によると,JeSUはこれまでも国内における高額賞金付き大会や賭博に関わる法的整備など,一つ一つ課題をクリアしてきた。だが,eスポーツの裾野の拡大,地方創生,新市場・新産業の創出,人材育成や教育など,多くの課題が残っており,どこから手を付けていいのか困っている状況だという。
それを受けてネモ氏は,職業としてのプロゲーマーを続けられない選手が多くなっているとし,プロライセンスが発行されたけど仕事は来ない,そういった選手にも仕事を与えられる仕組みがあるとうれしいと指摘する。また,プロゲーマーもプロをしている間にいろいろな経験をするべきで,キャリアを終えたときに自分に合った仕事を選択できるのが望ましいと述べた。
スポンサーとして投資をしていくうえでの課題について杉澤氏は,年々イベントや活動の規模が大きくなっていくのはすばらしいことだが,それを支える企業側のコストも上がっているとコメント。企業としては費用対効果もしっかりと考えといけないため,会社視点としては市場規模が大きくなると,それだけシビアにならざるを得ないという。ただし,規模が大きくなれば,それだけ大きい企業に注目される可能性もあるため,全体としては歓迎すべき流れであると話した。
また杉澤氏は,eスポーツの部活動化についても触れ,コストなどの問題があり,一企業の努力だけでは難しいが,国からの助成金のようなものがあれば実現しやすくなるし,eスポーツの裾野拡大にもつなげられるとコメント。さらにそこから部活動を教える側の話にもつなげ,先ほど話題に上がった新しい雇用の創出にもつながるのではないかと期待を寄せていた。
この話を受けて上田氏は,ハードの部分はまさにその通りで部活動などに対する支援はできていないのが現状とのこと。地方自治体によって財源の差はあり,その底上げは文科省と連携していく必要があるという。ただ,教える側の雇用については,経産省のデジタル部活動支援で議論が進んでおり,民間からプロのeスポーツ選手を派遣することになる可能性もあるそうだ。
メディア視点でのeスポーツ発展の課題について,岡田はシンプルにeスポーツのイメージ向上に取り組むことが大事であると指摘する。岡田は群馬県の田舎に住んでいるが,近所の子どもが「将来,プロゲーマーになる」と親に話したところ,勘当に近い対応を受けてしまったという。身近な例からeスポーツへの関心,理解の低さを紹介し,現状のマイナスイメージからの脱却を図ることが優先であるとコメントした。
権威付けの一環として,日本eスポーツアワード創設
eスポーツのイメージ向上につながる話として,戸部氏は権威付けの一環として日本eスポーツアワードをJeSUが創設することを発表した。ただし,具体的な内容は決まっていないようで,登壇者からそれぞれの目線でどのような部門が必要かが語られた。
選手目線からネモ氏は,ベストマッチ賞があるとうれしいとコメント。選手がすごいプレイをしても多くの人はそれに気付かない。すばらしい試合はいろいろな人に見てもらいたいという気持ちがあると話した。
アワードの設立に対し,杉澤氏はすばらしいことだとし,アワードされる対象は注目を浴びるし,それが新しいファン層の獲得にもつながる。選手にとってはとくにいい取り組みだと話した。
また,設立する賞については,スポンサーがすでについている選手(チーム)と,ついていない選手(チーム)に分けて受賞してもいいのではないかと持論を展開。新しい人材発掘のチャンスにもなり,選手はスポンサー獲得につながるかもしれないというわけだ。
一方,岡田は名前が先行している有名選手や有名タイトルだけが選出される賞ばかりにならないでもらいたいと釘を刺す。eスポーツの基盤を作っているのは選手だが,例えば大会スタッフなどの裏方にもスポットライトが当たってもいいとし,メジャーな部分だけでなく,いろいろなところが注目される賞になってほしいと述べた。
またゲームアワードを例に挙げ,音楽などが海外で賞を取ると日本のメディアはこぞって報道するのに,日本のゲームタイトルが海外で権威ある賞を獲得しても国内ではゲームメディアしか報道しない現状を指摘。eスポーツアワードというものが,そのような状況を変える第一歩になることに期待したいと語った。
日本eスポーツ産業の展望と期待
最後のトピックは「日本eスポーツ産業の展望」だ。2023年に中国で開かれるアジア競技大会ではeスポーツが正式な競技として採用されるほか,戸部氏によると2025年の大阪・関西万博においても,国際交流の一環としてeスポーツが注目されているという。また,2026年には名古屋でアジア競技大会の開催が予定されている。これらを踏まえて,最後にそれぞれの立場からeスポーツへの展望や期待が語られた。
ネモ氏は,日本・サウジアラビアeスポーツマッチに出場しているが,注目度が違ったと振り返る。普段は試合を見なくても,国際戦ならば見る人も多く,2026年のアジア競技大会への出場を目指すと決意を表明した。
杉澤氏は,岡田が話した大会における裏方の重要性をあらためて強調すると,さまざまな専門知識が必要であり,設営にも多くの人が関わることになるとコメント。大会の規模が大きくなれば,裏方の雇用も生まれ,いい循環につながる。ゲーム以外の部分にもいろいろな役割,雇用があることが理解されていくことに期待したいと話した。
また,上田氏はeスポーツのすばらしさは誰でも参加できる部分にあるとして,リアルなスポーツに対抗して,eスポーツが入っていく必要はないと説く。また,海外タイトルに人気が集まり,競技種目に採用されている現状を鑑み,日本独自の発展を見せて,それが世界に広がっていくのも重要だと結論付けた。
最後に岡田は,日本のeスポーツ選手へのサポート体制が弱いことに再度言及したうえで,選手や運営スタッフなどを含んだエコサイクルもできておらず,プロ選手を持ち上げるだけでしかないいまの空気が変わってほしいと語った。もちろん,そこは自らメディアにも責任があり,その部分を少しずつ改善していくことが必要だ。文化が形成される前に産業が乗っかってしまっている現状があるが,今後は前向きに解決されることに期待したいと展望をまとめた。
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