インタビュー
[インタビュー]あの“ウメハラ”はなぜ135万円のベースを買ったのか。仕掛け人のミートたけしこと川村 竜さんと,そのあたりのいきさつや仕事論などを語り合ってもらった
自分の短所を努力して克服してきた梅原氏
最近の課題は「話題を振ること」
4Gamer:
梅原さんは,配信に関してはどんなスタンスで取り組まれているのでしょうか。
格ゲーに比べたら力の入れようは弱いですけど,配信もけっこう頭を使ってやってますね。何となくでやりたくなくて,本当は企画ありきのものだけをやりたいぐらいなんです。ただまあ,配信時間というのも重要なので,全部が全部企画というわけにはいかないんですけど。
川村さん:
面白そうなことだけをやろうとすると,面白いことが思い付かないと何も配信できなくなっちゃいますからね。
ウメハラ氏:
そういえばこの間,だんごと散歩したときに,“仕事”と“稼ぐ”は別なんだって話をされたんですよ。稼ぐためには、やりたくないけどやらなきゃいけないこと,プライドを捨てなきゃいけないこともある。でも仕事っていうのは社会に貢献したり,自分にしかできないことをやること。じゃあ,自分が今やっていることは,そのどちらに比重が置かれているのか? っていうのをけっこう考えているらしくて。その考え方は面白いなと思ったんです。
4Gamer:
興味深いですね。
ウメハラ氏:
俺にとって格ゲーは昔,“稼ぐ”ものではなかったし,じゃあ“仕事”か? って言われるとそうではなかったけど,“仕事”のような感覚でやってはいたんです。配信も多分,昔は“仕事”の感覚でやれていました。でも今は格ゲーも配信も,“仕事”と“稼ぐ”の両方の要素が入っていて,理想を言えば“仕事”の比率をもっと上げたいんですよね。企画に関しては,“仕事”の感覚が強いので。
川村さん:
それで言うと俺は今,音楽に関しては“稼ぐ”という感覚が大きいんですよ。一方で,みんなで集まって同じ時間を共有しながらゲームをやって,配信をやってっていうのが,“仕事”なのかなって。
ウメハラ氏:
今の分け方で言うとそうですよね。
でも稼いでばっかりいると,人間って病むと思うんですよ。だから,“稼ぐ”の中にも“仕事”を見つけたり,“仕事”を入れたりしていかないと,俺も病むんです。だからこそバランスを取りたいと常々思ってはいるんですけど,やっぱり凝り性なんで,“稼ぐ”をやり始めるとそっちばかりが加速していくっていうか。
川村さん:
確かに。“稼ぐ”っていうのは,それはそれでゲーム的なところもありますもんね。
ウメハラ氏:
どうすればより“稼ぐ”につながるかっていうゲームですよね。でも変化がないんですよ。所詮数字が変化するだけだから飽きるんですよ。
俺の周りにいる人達って年齢的なものもあって,みんなどこかの社長だったりするんです。でも別に,彼らが社長だからつるんでるってわけじゃなくて,ただ気が合う奴とつるんでるだけなんですけど,結局,俺が好きなのは規模は関係なく自分でいろいろやりたい人達なんだなって。そういう人達が自分にとって面白い話を提供してくれるんですよね。“稼ぐ”ことだけに特化した人と話しても,とくに面白くなくて。“稼ぐ”だけじゃなくて,“仕事”をしたい人達が面白いんですよね。
川村さん:
近年の俺の充足感も,まさにそういう人達に出会えたことなんですよ。やっぱり,楽しい人達がいて,楽しい場所ができるってことなんだなって。
4Gamer:
相性もあるでしょうけど,川村さんにとってちょうどいい場所に巡り合えたんですね。
ウメハラ氏:
まあでも,楽しいことってお互い様だと思うんですよね。一方だけが楽しくて,一方はつまんないっていうわけじゃないから。
川村さん:
そういうのを外から見た人から批判されることもありますけど(笑)。
ウメハラ氏:
それはしょうがないですよね。分からない人には分からない。
川村さん:
ただ,俺もウメさんもアンチを気にしないですから。
ウメさんは,自分がこれだけ好きなことをやらせてもらっているのに,アンチなんか気にしていたら罰当たりとまで言ってますし。
ウメハラ氏:
やっかみとか,嫉妬みたいな他人の感情はコントロールできないですからね。それを表に出す人がいるのもしょうがないし。
川村さん:
俺はアンチのことをめっちゃ気にしてあげることで,面白くできるんじゃないかという可能性を探していたんですけど,最近諦めました(笑)。ウメさんは,アンチに対して完全に無の感情ですよね。
ウメハラ氏:
マジで無なんですよね。罵詈雑言に対して完全に心を無にできるし,俺が楽しいと思えることに集中したいんです。それをずっとやってきただけなんで。
4Gamer:
結局,自分にとって何が楽しいのか考えて,ちょっとでも興味があったら取り組んでみるっていうのが,良いサイクルを生み出してきたんでしょうね。
川村さん:
本当にそう思いますよ。だからみんな,どんどん楽しいと思ったことやってみたらいいんですよ。おかげさまで,コラムの連載を書くのも楽しいですから。
ウメハラ氏:
ネタが続くうちは楽しいですよね。
川村さん:
カフェでノートPCを開いて,コーヒーを飲みながらコラムを書いてる自分がマジで格好良くて(笑)。
ウメハラ氏:
俺も昔,同じように喫茶店で連載を書いてましたね。しかもガラケーで5000字ぐらい。
川村さん:
ええっ。PCじゃなく?
ウメハラ氏:
家に親父のPCはあったんですけど,使い方も分からなかったんで。でも携帯で文章を打って保存して,編集担当に送れば成立したんで(笑)。
川村さん:
それは楽しかったですか?
ウメハラ氏:
ネタがある間は楽しかったですね。読者からの質問に答えるような形で,ゲームに関するものだったらいいんですけど,だんだん「好きなラーメンを教えてください」とかになってくると,5000字も書けないし。答えやすい質問が来ていれば,続けられたと思うんですよね。
あと,これは俺の短所として克服したいことなんですけど,自分で話題を振るのが苦手なんですよ。
川村さん:
ああ……。
ウメハラ氏:
自分に不足していることは,努力してなんとか身に着けてきたつもりなんです。人から見えている欠点に関しては,俺にとってはどうでもいい欠点だから放置してるんですけど。
でもここ数年で一番自覚していて,何とかしたいと思っているのが,話題を振ることなんです。質問がないなら自分で話題を作るっていうのができないんですよ。話を振ってくれる人との会話は楽なんですけど。
川村さん:
ウメさんって,1回ラリーが始まれば,ポンポン話題が出てくるんですけどね。
ウメハラ氏:
そう。何も手がかりがないところで,ポンって話題を作るのが苦手で。要は,ゲーセンでも目立ってたから,基本,話しかけられる側だったんですよ。だから自分から話を聞く力が育ってないんですよね。
配信中も,コメントが来ないとマジでしゃべれないんですよ。直近で面白い出来事があったりすれば別ですけど,日常の中ではそうそうないじゃないですか。
川村さん:
俺,YouTubeで雑談をするために毎日トピックを探してるんですけど,一緒に探します? でもトピックって探そうとすると,悲しい話とかマイナスの話が多くて,それはそれでちょっと疲れちゃうんですよね。誰かの悪口が楽しい気持ちも分かるんですけど,こう見えて,できるだけ悲しむ人が出ないようなものにしたいんです。
ウメハラ氏:
今,そんな明るいニュースもないし。
例えばですけど,俺,スポーツにまったく興味がないんで,そういう話題もまったく喋れないし。
4Gamer:
きっと講演会などに呼ばれて,「さあなんでも好きなことを話してください」みたいなのが一番困りそうです。
ウメハラ氏:
そう! マジでそれが無理で。「梅原さんが今,発信したいことを」みたいな講演の依頼が来ても,最近は断るようにしています。発信したいことがとくにないんです。テーマを決めてもらえれば,まだしゃべれるんですけど。
川村さん:
俺は逆に講演会の依頼が増えていて,先日は「地域の若手実業家達に向けたコミュニティの活性化」というテーマでしゃべってきましたよ。なんで俺? って思いながらの90分。
ウメハラ氏:
俺,それはマジで無理だ……。
人生に,もっと“遊び”があったほうがいい
無駄と無意味は別だから
4Gamer:
ちょっと話を戻します。
梅原さんはベースに関して,指を動かせるようになる以外に目標などはありますか?
ウメハラ氏:
どうなんでしょう。あんまり目標を決めると,達成したときに辞めちゃいそうで怖いんですよね。ただ,これを弾けるようになりたいとか,みんなで演奏してみたいとか,そういう小さい目標はあります。
実際,指を動かせるようになりたいから楽器をやるって,たぶん無駄なことなんですよね。でもとにかく指だけを訓練するっていうのは面白くないなって思っちゃうんで。
川村さん:
やっぱり過程を楽しみたいんですよね。
ウメハラ氏:
人生に,もっと“遊び”があったほうがいいと思うんです。
昔,本を出したばっかりのときに銀行員の読書会みたいなのに呼ばれたことがありました。そこで,真剣にゲームをやっているけれど,その中に必ず“遊び”を入れる……適当にやるっていう意味ではなく余白を残すとか,もしかしたら勝ちづらくなるかもしれないプレイをあえてやってみるとか,そういうことが大事だと思っていると言ったんですね。
そうしたら,「親から遊びは無意味だと育てられたので,遊んだことがない」という方がいらっしゃって。遊びを完璧に排除して生きていると,ここまで元気がなくなるのか……って驚いたことがありました。
川村さん:
まあ実際,ゲームも音楽も,人が生き物として生きていくうえで,本来は必要のないものなんですよね。衣食住が足りたうえでの遊びの部分なので。俺もウメさんもそういうものを仕事にしているっていうのが,共通項なのかなとも思っていて。
俺らからしたら生命線なんだけど,世の中の多くの人からは遊びにしか見えないもので生きているんだっていうことは,絶対に忘れちゃいけないんですよ。
ウメハラ氏:
自分達のやってることを,大げさにしたくないっていう気持ちもあるし。
川村さん:
それにミュージシャンって,いくつになっても夢追い人みたいなイメージを持たれがちで,「好きなことで生きていけていいですね」なんて言われたときに,「それがどれだけ大変なことか分かりますか?」みたいに言い返しちゃう人もいるんですよね。
でも俺なんかは,「ありがとうございます。好きなことで生きていけて,マジでラッキー!」って言える人間でありたいし,そのためにも俺達は遊んでなきゃいけないっていう思いはあります。今,ウメさん達のおかげでそれが完璧にできているので,本当に感謝です。135万円のベースを買うことも,“遊び”という意味があるってことなんですよ。
ウメハラ氏:
まあ,無駄と無意味は別だってことですよね。
川村さん:
うまく締まった(笑)。
4Gamer:
ありがとうございました。
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