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中小デベロッパが「Roblox」のコンテンツ開発にチャレンジ。調査・検討の開始から約1年が経過した現在の成果はいかに?[CEDEC 2024]
このセッションでは,サムライ・ソフトの代表取締役CEO 井上敬介氏が,メタバースプラットフォームとしての「Roblox」を取り巻く環境と,実際に「Roblox」向けコンテンツ開発に約1年間チャレンジした結果などを紹介した。
直近の既存市場(家庭用,PC,モバイル)の動向
セッションでは,まず2022年のグローバルなゲーム市場規模が紹介された。それによると,全体が26兆8000億円,そのうちモバイルゲームが16兆1500億円,PCゲームが5兆6500億円,コンシューマゲームが5兆円という規模になっている。井上氏は,国内ではモバイルゲームは市場的に厳しいと言われているが,世界的には全体の6割を占めており,依然トップであることを指摘した。
地域別に見ていくと,グローバルの市場規模26兆8000億円のうち,日本は2兆円強となっており,全体の7.5%でしかない。井上氏は,「グローバルを見据えて残りの92.5%を取りにいかないと,デベロッパとしては厳しい」と現状のゲーム業界に対してコメントした。
次に,2022年から2030年までの8年間で,グローバルのゲーム市場が20兆円規模で成長する見込みであることが示された。井上氏は,「普通に見たら魅力的な市場だが,おそらく日本の市場は2兆円台でとどまるはず。このままだとゲーム市場全体は伸びるのに,日本は苦しいという状況になるので,グローバルで通用するコンテンツの開発が求められる」と自身の予想を述べた。
続いて,近年のモバイル,コンシューマ,PCそれぞれのゲーム事情が示された。まず2022年のモバイルゲーム市場では,全体の売上16兆円のうちトップ20のタイトルがその25%の4兆円を稼いでいる。井上氏は「推測だが」と前置きしつつ,トップ100のタイトルが8兆〜10兆円ほどを占めているのではないかとコメント。加えて,海外の有名タイトルだと,初期開発費が100億円以上になるものがあることを指摘し,「モバイル市場はグローバル競争がすごく激しくて,広告・開発予算の差も大きく,海外での真っ向勝負は今後もやっぱり苦戦するのではないかというのが,今の日本の状況」とコメントした。
2022年のコンシューマゲーム市場は,日本だとトップ10タイトルに任天堂タイトルがズラリと並び,その一方でアメリカ,イギリスでは大企業の手がけるAAAタイトルがトップ10の大半を占めている。井上氏は,「コンシューマゲーム単体でのリリースは今後も減っていく傾向」とし,この市場で生き残ることは厳しくなっていくことを示唆した。
それでは2023年のPCゲーム市場はどうだったかというと,トップのSteamの売上が1兆3480億円。これは,上記の2022年のPCゲーム全体の売上である5兆6500億円の約24%にあたる。しかしSteamで配信中のタイトルは5万本以上あり,2023年第3四半期だけでも3500本以上,年間1万3000本以上の新作がリリースされている状態だ。
なお年間1万3000本の内訳は,AAAタイトルが約130本,インディーゲームが1万2500本。価格で見ると96%が26USドル未満,つまり3000円以下で販売されている。そうなるとSteamには数百万円の開発費で作ったPCゲームでエントリーできるという話になるが,実際には1万3000本もの競合タイトルが存在するので,そう簡単にはいかない。また,ほかのKPIを踏まえると,リクープするには上位1%以内に入ることが目標になると,井上氏は指摘した。
そうした近年のゲーム事情を踏まえた結果,井上氏は「サムライ・ソフトのようなデベロッパは既存市場と別の新しい市場への挑戦を選択して持つべき」とコメントしていた。
Web3領域(ブロックチェーンゲーム,メタバース)の可能性
2023年,井上氏は2022年から2030年までに7.3兆円の成長が見込まれ,今後の成長分野で期待されていたWeb3領域に注目した。Web3領域の代表的なコンテンツと言えばブロックチェーンゲーム(NFTゲーム)とメタバースである。両者を比較すると,ブロックチェーンゲームは「顧客単価は高いがユーザー数は少ない」,メタバースプラットフォームは「ユーザー数は多いが顧客単価が低い」と,課題がそれぞれ異なることが分かる。井上氏は,「今後融合してメタバースの中でブロックチェーンゲームのようなものができる,あるいはその逆が起きる可能性もあるが」としつつ,2024年の段階では両者を別物として扱うべきとの見解を示した。
続いて,近年のブロックチェーンゲームおよびメタバースを取り巻く状況がそれぞれ示された。ブロックチェーンゲームを取り巻く状況の詳細に関しては,以下のスライドを参照してほしいのだが,まとめると井上氏は2021年のNFTバブルがピークだったと捉えているとのこと。実際,サムライ・ソフトでもブロックチェーンゲームの開発および運営を手がけているのだが,集客が厳しいと感じるそうだ。
メタバースプラットフォームに関しては,主に「Roblox」と「Fortnite」の状況が示された。それによると,「Roblox」はデイリーアクティブユーザー(DAU)が7000万人以上で,マンスリーアクティブユーザー(MAU)は3億人を超える。2022年の売上は,3288億円だ。一方「Fortnite」は,DAUが4400万人,MAUが7000万人だが,売上は「Roblox」よりも高い。
このように「Roblox」も「Fortnite」もユーザー数が非常に多く,また売上も高いため,井上氏はプラットフォーム内のユーザーの奪い合いに参加しても十分可能性があると考えたそうだ。
2023年秋時点におけるメタバースプラットフォームの選定
以上を踏まえて,井上氏は2023年秋に「Roblox」と「Fortnite」の調査と参画の検討を始めた。
その結果,「Roblox」は上記のとおりDAUとMAUは高いものの,ユニーク課金者1人あたりの平均課金額が1月あたり2850円と非常に低いことが判明する。これはユーザー全体の6割近くが16歳以下だということに起因している。またユーザーの男女比はほぼ半々で,プレイエリアは北米が33%,ヨーロッパが29%となっている。
一方「Fortnite」は,DAUとMAUがともに「Roblox」より低いものの,ユーザーの62.7%が18〜24歳となり,1月あたりの平均課金額もそのぶん高い。
井上氏は,いずれもメインユーザー層が10代〜20代前半であり購買力は低いとする一方で,「Roblox」は2020年から2023年にかけて年齢層が上昇傾向にあるという報告があり,今後の購買力を期待できることを指摘する。また「Fortnite」のユーザーは,ほぼゲーム本編のユーザーであり,メタバースプラットフォームとして機能しているかは疑問との見解を示した。
ただ,そうした分析とは別に,サムライ・ソフトはデベロッパである。そこで2023年10月,試しに「Roblox」と「Fortnite」それぞれに向けたコンテンツを開発してみることにした。開発期間は1〜2週間,人員はそれぞれプランナー1名,プログラマー2名程度だったという。
実際にコンテンツを開発してみた結果,「Roblox」の開発環境「Roblox Studio」はバージョン管理機能に問題が生じたが,サムライ・ソフト側で独自に解決できたので,大きな支障とはならなかった。対して「Fortnite」の開発環境「Unreal Editor for Fotnite」は,2023年当時だと実現できることが少なかったという。総じて,2023年末時点では「Roblox」のほうが開発環境に優れ,安定した開発環境が可能だったため,サムライ・ソフトが参画するならこちらではないかという話になったそうだ。
そうした判断を踏まえたうえであらためて「Roblox」の売上を見ると,PCやモバイルなどすべてを含めた全体の売上が,2022年当時で約3300億円。モバイルだけ見ると世界5位の1300億円を売り上げており,実は「Pokémon GO」や「モンスターストライク」よりも上であることが判明した。仮に「Roblox」内にコンテンツをリリースするとなれば,そんな中で戦うこととなる。
しかしその一方で,「Roblox」内でリリースされているコンテンツのクオリティは,あまり高いようには見えなかったと井上氏。「日本のデベロッパが作ったコンテンツでも十分太刀打ちできる」と判断し,2024年初頭から「Roblox」向けコンテンツの開発に取り組んでみることにしたという。
「Roblox」向けコンテンツ開発の実態
2024年初頭,サムライ・ソフトは「Roblox」向けコンテンツを開発し,試しに公開してKPIを測定してみることにした。開発期間は1か月半程度で,人員規模はディレクター1名,プランナー1名,エンジニア3名の5人体制である。またせっかくなので,サムライをモチーフにしたゲームを作ることにしたそうだ。
そして,2月末に「サムライ・ダーク・キャッスル」を「Roblox」内にてリリース。このコンテンツは夜の城を舞台としたレースゲームだったが,結果は惨敗。しかし,それでも得られるものがあったと井上氏は語る。
まず判明したのは,まったく告知などを行わないオーガニックな状態でも,1日30〜40人,1週間で264人がプレイしたこと。井上氏はMAUが3億人にもなると,ただリリースしただけで1週間に250人ものユーザーが遊んでくれるのかとビックリしたという。
またプレイしたユーザーの居住地は,多い順にアメリカ,ブラジル,インドネシア。井上氏は「おそらくユーザーが多い順」との見解を示しつつ,本当に世界中からユーザーが来ることに感慨を覚えたと語った。半面,「このゲームの何がこの人達に刺さったのだろうか」とも思ったそうだ。
プレイしたユーザーのほとんどが,「Roblox」のサーチから流入していることも判明した。加えて,「Roblox」のユーザーは,「Roblox」内の1つのゲームをプレイ→飽きたら「Roblox」のトップ画面に戻って検索し,出てきたオススメのゲーム紹介を見る→何か刺さるものがあったらプレイする→飽きたら「Roblox」のトップ画面に戻って……といったように,ずっと「Roblox」内を回遊していることも分かってきた。
以上を踏まえて3月中旬,「Roblox」向けコンテンツの作り方を変えることに決めた。具体的には,毎週最低10タイトル分のゲームの名称と紹介部分だけを次々に作り,インプレッションを計測する。それで需要があるものだけ,実際にゲームを開発しリリースする。つまり,ゲームのコンセプトの是非をユーザーに直接問うという,ハイパーカジュアルゲームの開発過程に近いアプローチに切り替えたのである。
そのアプローチを続けているうちに,インプレション数やゲーム紹介への訪問率がいいタイトルが出てくるようになったという。そのうちの1本が相撲を題材にしたものだったので,5〜6月にかけて開発に取り組んだそうだ。そして完成したのが「相撲×バトロワ」をコンセプトにした「相撲サバイバルシミュレーター」だ。
このタイトルは名称にも工夫があった。まず「Roblox」内でグローバルにヒットするゲームの1ジャンルに「○○シミュレーター」というものがあり,名称に入れておくと検索に引っかかりやすいとのこと。また「相撲」は検索されやすいワードであるわりに競合が少なく,検索結果の上位になりやすいことも挙げられた。競合の多いワードを使ってしまうと,検索結果の下位になりスクロールしないと見えなくなってしまうこともあるので,人気があるからといって安易に使っていいわけではないそうだ。
結果として,「相撲サバイバルシミュレーター」をプレイした1日あたりのユーザー数は,「サムライ・ダーク・キャッスル」の6.7倍を記録した。井上氏は,この結果を見て自身の採ったアプローチはおそらくそれほど間違っていないと捉えているという。
ただ,まだまだ課題はある。たとえばDAUは240人となったが,単純計算で1時間に10人入室,1人入室するまでに6分かかることになる。その一方で平均プレイ時間は3分なので,これでは対戦ゲームとして成立しない。井上氏は最低でもDAUが1000人は必要であるとし,「粘ってゲームを改善するか,訪問数の多い別のゲームを開発するか悩ましい」と語る。また全体としてはノウハウが積み上がっており,今後も仮説を立てて検証していくアプローチを重ねる必要があり,おそらく楽には成功できないとも話していた。
セッションの最後,井上氏は4月にCEDEC 2024に応募した時点で「もっと高い数字を示せる」と考えていたことを明かし,今後リベンジの機会が与えられたらいい報告をしたいと意気込みを見せた。
また「Roblox」内のコンテンツリリースで成功するには,上記のように「検索に引っかかること」「インプレッションを多く得ること」が重要であるため,著名なIPを所有しているパブリッシャには大きなチャンスがあるとも語っていた。
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