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ゲームの数が増え,大企業が保守的になる中,開発者はいかにしてキャリアを築くべきか? 日本在住のフランス人開発者が語る[CEDEC 2024]
フランス人ゲーム開発者であり,Keywords StudiosのCountry Managerであるハンサリ・ギオーム氏が行ったCEDEC 2024の講演「Too many games. Now, what?/飽和状態のゲーム業界において,これから何をすべきか」をレポートしよう。
過去に学び,未来のキャリアを築いていく
ハンサリ・ギオーム氏はCEDEC 2021の講演「Is Worldwide Competitive Game Development possible in Japan?/日本で世界規模の競争力のあるゲーム開発は可能なのか?」で,日本ゲーム業界の問題点を指摘して話題となった人物だ。
[CEDEC 2021]フランス人開発者が,日本のゲーム業界の常識を斬る。「日本で世界規模の競争力のあるゲーム開発は可能なのか?」聴講レポート
日本で活躍するフランス人開発者が,日本ゲーム業界の問題点を指摘する講演「Is Worldwide Competitive Game Development possible in Japan?/日本で世界規模の競争力のあるゲーム開発は可能なのか?」が,CEDEC 2021で行われた。日本のゲーム業界が抱える問題とは,どのようなものなのだろうか。
日本に18年間住んでいるという氏は2008年に開発スタジオWizcorpを設立。2019年にはゲームの開発から翻訳,カスタマーサポートまでを提供するKeywords Studiosの傘下に入り,2022年にはCountry Managerとなった。つまり,ゲーム開発に関するさまざまな工程に関わった経験を持って,海外の視点から日本ゲーム界を見られる人物ということだ。
そんな氏は,現在は娯楽が多すぎ,ゲームにしても何をプレイするかの決断が負担になっていると指摘する。何かを決めるのは大変であり,“意志決定疲れ”(decision fatigue)がのしかかる。これは「Netflix Syndrome」とも呼ばれ,娯楽を選ぶ時間の方が,実際に楽しんでいる時間よりも長いこともあるという。今や誰にでも覚えがある現象だ。
こうした中でも,大規模シリーズを一気見している最中は決断をしなくていい。それもあって,Netflixは一気見できるものを作りたがるようになるわけだ。
新型コロナウイルスによる世界的なロックダウンで室内娯楽が求められるようになり,ゲーム業界は大きく成長。この成長を維持するために多くの投資がされ,開発スタッフの雇用やスタジオ,IPの買収が進んだ。
しかし,AAA/ハイエンドタイトルの開発費は高騰し続けており,その一方でゲームの販売価格は上がっていないので,利益を確保するにはより多くの本数を売らなければならない。そのためにはより幅広い層を意識せざるを得ず,内容はカジュアルになり,オリジナリティはリスクと見なされるようになった。
これは目新しい状況ではなく,ギオーム氏は前例として「Gaming crash of 1983(日本ではアタリショックと呼ばれる)」を挙げる。当時のゲーム業界は信じられないほどの成功を収め,雇用も増えた。好景気の中でゲームメーカーは需要を過度に予測し,サードパーティは手っ取り早く利益を上げるために旧作を模倣した質の低いゲームを作った。
しかし,市場はついに崩壊,1982〜1983年には収益が90%もダウンして,投資家はゲーム業界に近づかなくなったという。ファミコンによって業界が救われたものの,こうした状況を思い返すことは重要であるとギオーム氏は語った。
日本でも歴史は繰り返されている。1980〜1990年代の日本ゲーム業界は飛躍的な成長を遂げたが,それ以降は停滞の時代が続いたとギオーム氏。それぞれの時代の成長と停滞の理由について,ポイントを挙げてまとめた。
●1980〜1990年代の成長要因
1:Skill transfer(スキルの移行)
ハードの性能が限られていたため,漫画やアニメなど他業種からスキルを移行すること,優れたクリエイターを探すことが容易だった。
2:IP licensing(IPのライセンシング)
マルチプロダクトの連携が容易で,IPをしっかり管理できた。
3:Otaku(オタク)
収益の多くは,キャラクターやストーリーを支持するオタク層からもたらされ,ゲーム業界は彼らを満足させることにフォーカスしていった。
4:Experiment with arcade(アーケードでの実験)
ゲームセンターがデベロッパにとってのよい実験場となった。
5:Japanese management(日本的経営スタイル)
日本的経営スタイルもプラスに働いた。コンセンサスを重視する強い階層型の組織は当時の小規模プロダクションには有効だった。
6:Youth(若者)
会社は若者を積極的に採用し,得られた知見も長期雇用のおかげで会社内に留まった。
●1990年代後半以降の衰退要因
1.Increased complexity(複雑さの増大)
3Dグラフィックスの時代が到来したが,複雑性とコストが高まった。
2.Manga lost popularity(漫画が人気を失う)
漫画とアニメが人気を失った。こうした傾向は2000年代に人気が回復するまで続いた。
3.Otaku were too niche(オタクたちはニッチに)
ゲーム市場が大きくなり,コア層を満足させるだけではダメだということに。オタク層はニッチすぎると見なされた。
4.Lack of skill transfer(スキル移行の不足)
2Dから3Dへの移行が上手くいかなかった。3Dを扱えるクリエイターの能力は貴重になり,開発コストはさらに膨らむこととなった。
5.Forced consolidation(強制的な統合)
ゲーム会社の買収や統廃合が起こった。こうした流れに乗れなかった会社は,よりコストのかからないプラットフォームを選ばなければならなかった。
6.Niche were abandoned(ニッチが捨てられた)
ゲームの規模が大きくなることでリスクを取れなくなり,差別化が難しくなった。多くのニッチが捨てられ,同じようなゲームが作られることになった。
7.Lifetime employment(終身雇用)
終身雇用によって,若者が参入する余地がなくなった。会社の中にいる人は「生涯の雇用が保証されているのに,リスクを取る必要はない」とリスクを回避する傾向が強まった。
8.Hierarchical management(階層型経営)
階層型の経営体制は,大規模チームでは上手くいかない。新しい手法を採用するのではなく,今あるものを改良することに注目が集まるようになった。
成長期には強みとなった終身雇用がそのまま衰退の原因になるなど,時代の変化というのは一筋縄ではいかないものであることが分かる。ここから学べる教訓は以下の3つだ。
1.Success relies on ability to differentiate(成功は差別化する力にかかっている)
成功は差別化できるかどうかにかかっている。差別化できないと市場は飽和し,ユーザーの興味が失われる。そして独創的であることはリスクを取ることでもある。
2.Authenticity sustains attention(真正性こそが注目を維持する)
我々はアテンションエコノミーの時代に生きており,その注目は自分たちがつながりを感じるもの,共感を覚えるものに向かう。その中では本物であること,つまりは真正性を持つもののみが注目を集められる。
3.Technology create the tides(テクノロジーは潮流を生み出す)
テクノロジーは流れを生みだし,デベロッパはその大洋を航海しなければならない。
ギオーム氏は「自分は未来を占えるわけではない」と前置きしたうえで,これらの教訓を持って生き抜いていくためには「リスク」「真正性」「テクノロジー」がカギとなると指摘した。
●リスク
理想的過ぎるかもしれないが,デベロッパは利益だけではなくクリエイティビティで判断されるべきであるとギオーム氏。前述の通りクリエイティビティやオリジナリティはリスク要因とされるが,ゲームのエコシステムを投資家,パブリッシャ,デベロッパ,サービスプロバイダーといったさまざまアクターがいるリスク分散システムと捉えれば,デベロッパがクリエイティビティを発揮できる環境になるという。
ギオーム氏は,今後はミドルウェアに関連したプロバイダーがリスク緩和のうえで重要になっていくと考えているという。あらゆる分野の専門家を自社で雇用するのはリスクであり,組織の俊敏性も損なわれるが,プロバイダーをうまく使ってミドルウェアを活用し,標準的な技術を使えば,さまざまなプラットフォームにまたがった開発ができてコスト回収も簡単になり,新しいアイデアを取り入れる余裕も出てくるという。
AAAよりはAAクラスのゲームのほうがオリジナリティを高めたチャレンジができるため,今後は100時間プレイするようなものよりも10時間ほど遊ぶものが多くなるのではないかとギオーム氏は語った。小さく始めてコミュニティとともに成長したらシーズン2を作るような形態も考えられるという。
●真正性
コンテンツの量とノイズが多い中,ユーザーといかにして深い関係を築いていくか。
多くのゲームがあるなかで突出して注目を集めるのは難しく,プレイヤーとゲーム,プレイヤーと開発者の深いつながりが求められている。デベロッパにも,コミュニティやSNSを管理し,より深いつながりを維持するスキルが求められる。
●テクノロジー
どういったテクノロジーがあり,どういったチャンスを生み出すのかを把握する。
テクノロジーは今後も加速し続け,ゲーム開発者には進化に追いつくためさらなる俊敏性が求められる。特にAIの活用においては,高騰する開発コストに対応するための自動化や自動生成が求められ,差別化に重要となるアイデアの実現,つまりはより速いプロトタイピングに重要な技術になるのではとギオーム氏は予測した。
ギオーム氏は,ゲーム業界の見通しは暗いとされているものの,安心してほしいと語った。ゲームの売上は伸び続けており,ソフトの質も上がることでプレイヤーは増えており,プレイヤーがいる限りゲーム業界が消えることはないと考えているという。
とはいえ,フルタイム雇用が持続できるかどうかは不透明な状況だけに,スタジオを渡り歩く人が増えていくと氏は予想。さらに,そこでは専門家とゼネラリストがともに求められ,ゲーム開発に直接関わらずともサポートできる財務や資金調達,ハードウェアやインフラ,コミュニティ管理といった職種でもキャリアが形成できるのではないかと語った。
ゲーム業界志望者に向けてギオーム氏は「一つのことだけが得意な人にはならないでほしい」と呼びかけた。
テクノロジーがどう変化するかは分からないため,複数の専門分野を持つことが大事で,そのうえでは,キャリアを企業任せにするのではなく,自分で計画を立てて学び続けなければならない。
そして最後に「会社は将来を保証しないし,情熱を利用されることもあるので,自分の能力を見つけて最大化することが大切です」とアドバイスを送り,講演を締めくくった。
デベロッパだけがリスクを負うのではなく,さまざまな企業や人々がリスク軽減に努めることで,オリジナリティある作品を作り出す。オリジナリティある作品は市場の飽和を防ぎ,結果としてゲーム業界全体に貢献することとなる。
そしてプレイヤーとのつながりを重視し,ロイヤリティ(忠誠度)を高めていくのが大事である……というのがギオーム氏の考え方だ。ゲーム開発のさまざまな部分に関わった氏だけあり,2024年におけるゲーム開発の目指すべきところを示していると感じた。
氏はCEDEC 2021の講演でも「キャリアやクリエイティブスタッフに関するアドバイス」として継続的な学習の大切さを説いているが,その姿勢は今回も同じだった。さまざまな方面で役立てるスキルがあれば,業界の変動にも対応することができ,それだけ生き残れる確率も高まるというわけだ。
その意味では,企業は学習できる機会を与えてくれる組織と捉えることもでき,同じゲームに10年携わって学習効率が下がるよりは,いろいろなことを経験できるのはとてもいいことである,とギオーム氏は語っていた。これはゲーム業界のみに留まらない普遍的なアドバイスともいえるだろう。
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