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[CEDEC 2011]ゲームには“ちから”がある。災害に立ち向かうゲームとは。「震災復興支援特別セッション」レポート
東京大学 大学院情報学環の馬場 章氏 |
最初に登壇したのは東京大学 大学院情報学環の馬場 章氏。馬場氏は,ゲーム研究とは複数の分野にまたがったものであり,ストーリーは人文科学,ビジネス的な側面は社会科学,テクノロジーは自然科学など,さまざまな研究者が協力することが必要だと説明した。
また,海外の研究で指摘されているとおり,精神的なダメージをケアするにはデジタルゲームが有効だというデータを提示。事実,被災地からもニンテンドーDSやPSPがほしいという声が届いたそうだ。
ゲームの社会的な影響は計り知れないものがあり,マイナスもあるがプラス面も大きい。私達はゲームの「ちから」を信じなければならない,と教授は訴えた。
また,「災害の情報をいかにして伝えるか」というテーマに関する取り組みも発表された。こちらは,東京大学大学院学際情報学府の中川 譲氏と,DS Wareなどを開発している河本産業の木村和之取締役が登壇し,ニンテンドーDSを使った「防災・地域情報提供システム」について説明した。
このシステムは佐賀県佐賀市で稼働しており,DSに届けられた情報が音声で読み上げられる。ソフトはDSカードで供給され,この開発と実装を河本産業が担当している。
東京大学大学院学際情報学府の中川 譲氏 |
河本産業 取締役 木村和之氏 |
中川氏はDSが小学生に高い割合で普及していることに注目し,システムの構築を企画した。というのも,総務省および内閣府の調査によると,小学生への携帯電話普及率が26.0%なのに対し,ニンテンドーDSは88.9%であるという。そのために,小学生やその家庭に情報を伝えるシステムとして,DSを選んだわけだ。
システムに使用されているのは,いずれも「枯れた技術」(中川氏)。情報を書き込むSNSと,これをまとめるRSSの組み合わせである。
佐賀市のSNSに投稿された情報はRSSにまとめられ,緊急性の高いものが優先的にDSへ配信される。配信された情報は,「しゃべる!DSお料理ナビ」などにも使用されている音声合成ソフトで読み上げられるという仕組みだ。
サーバーはLAMP環境(サーバー構築に使われるオープンソースソフト,Linux,Apache HTTP Server,MySQL,Perl・PHP・Pythonの頭文字の略)で,安価に構築されている。高級なVPS(仮想専用サーバー)ではないものの,5000アクセスを1分ほどでさばけるため,とくに不足はないそうだ。
現在このシステムは,地元の消防団が周囲の災害情報を受け取り,応援要請などに備えておくために活用されているという。特殊な技術を使っていないこともあり,情報をDS以外に配信することも簡単で,現在は街中に設置されたデジタルサイネージなどでも利用されている。
安価で平易な一方,いくつかの課題もあると中川氏は語る。情報配信が自動ではなく,ユーザーが自らDSを立ち上げなければ最新の情報が手に入らない。更新が5分間隔であり,地元のNPOが運営しているため,緊急地震速報など一刻を争う責任の重い情報を送ることには向かないという。
「自分達がゲームに携わるには地元密着がヒント」と中川氏。現在のゲーム端末は,同時にネット端末でもあり,一般的な携帯端末よりも普及率や価格,グラフィックスなどで有利だと指摘する。中川氏は「ゲーム端末×地方というところにゲーム業界の未来があるのではないか」と新たな未来像を提示し,講演を締めくくった。
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