連載
さくらインターネットが正式サービス中の「ロード・オブ・ザ・リングス・オンライン アングマールの影」で,野望と智謀が火花を散らして激突する,エテン高地での終わりなき戦いを綴るモンスタープレイ連載も今週で第3幕。11月29日からの,クライアント無料化/レベルキャップ制無料期間の導入に伴い,モンスタープレイであればプレイ料金が無料となり,さっそくエテン高地に馳せ参じた新米モンスタープレイヤーも多いことだろう。
モンスタープレイでは,あらかじめ用意されたレベル50のモンスターを使って,すぐにでも本格的なPvPに参加できるのが大きな特徴だ。面倒なレベル上げの必要はなく,敵を倒したり,クエストをこなしたりして得た“宿命点”を使用し,新たなスキルを覚えていく仕組みなので,平日はゲームにあまり時間が取れないという人でも始めやすいはず。モンスタープレイの詳細については,本連載の第1幕「モンスタープレイ導入編」に詳しいので,まだ体験したことがないという人はそちらにも目を通しつつ,この機会にぜひ一度プレイしてみることをオススメしたい。
さて前回,ガクソール隊長に取り入り,トル・アスカルネン砦での初陣を飾ってから,その弓の腕前で頭角を現し始めたグワシ。弓だけでなく,頭も切れることから隊長の信任も篤い。軍隊に入って出世するという野心を隠し,ガクソール隊長に尽くしていたグワシだったが,ガクソールの腹心フィムの仕掛けた卑劣な罠に九死に一生を得,ついにその牙をむく。
星明りの中を,ウルクの若者が駆けていた。細く欠けた月がおぼろな明かりを投げかけ,そこかしこの潅木の茂みからは虫の鳴き声しかしない。昼間は各地で激戦が行われるエテンの大地も,今は静かに眠りについているようだ。
若者はグワシだった。ガクソール隊長に取り入って兵士となることができたグワシは,その弓の才能をいかんなく発揮して目覚しい働きを示し,数か月あまりのうちに,サウロン軍はおろか自由の民の軍勢にまでその名を知られるほどになっていた。
そのグワシが,グラムズフットのアクラハン将軍に呼ばれたのは数日前のことだ。グラムズフットは,サウロン軍の本営としてエテン高地に築かれた難攻不落の要塞であり,アクラハン将軍こそは,エテン高地の全サウロン軍を統括するオークだった。
本来ならグワシのような新米兵士が面会することなど到底かなわぬ雲上人で,そのアクラハンから召喚状が来たというのは前例のないことだった。
緊張と不安の入り混じる複雑な心持ちでグラムズフットに赴いたグワシは,エテン高地を流れるホアデール川に毒を流し,自由の民を大量虐殺するという作戦を聞かされた。
「アングマールのクモ使い達が大グモから抽出した毒を,6か月にわたり煮込んで作ったという猛毒を使う。それを川に流せば,飲んだものはおろか,その水に少し触れただけでも死んでしまうだろう」
そう言うとアクラハンは,人間の胴体ほどもある大ガメを慎重な手つきで机の上に置いた。
「この任務は隠密行動を要求される。したがって,お前一人で作戦を遂行しなければならない。失敗が許されないことは,お前も分かっているな」
ホアデール川とは,アングマールとエテン高地の間に横たわる,雪を頂く高山を源とする大河だ。雪解けの清澄な水は,トル・アスカルネン砦の足元を洗うように流れ,北東から南西に向かってエテンを斜めに縦断している。
毒を流す場所は,トル・アスカルネン砦の上流にある滝の付近と指定されていた。そのあたりは敵の勢力範囲の中だが,今日の夜明けと同時に別働隊が砦付近の敵の野営地を攻撃し,陽動する手はずになっている。
滝の上流に着いたときは,すでに夜が明け始めていた。手はずどおりならば,別働隊の攻撃によって敵の警戒は手薄になっているはずだ。あたりに注意しながら川のそばに近寄ったグワシは,背中の包みから毒の入った大ガメを取り出すと,蓋に施された厳重な封印をはがしにかかった。
そのとき,背後の茂みがかすかに揺れると音もなく巨大な犬が姿を現した。思わず弓を射ようとしたグワシは,その犬がストーカーと呼ばれるサウロン軍の魔犬であることに気づいた。
「なんだ,お前か。思わず射殺してしまうところだったぞ」
「グワシ様,自由の民の軍勢がこちらに向かってきています。トル・アスカルネンから,援護の陽動部隊は出撃していません。ここは危険です,すぐにお逃げください」
ストーカーは,その名の通り隠密行動を得意とする魔犬だ。誰の目にも触れないように姿を消すこともできれば,人間達が使う馬より速く走ることもできた。
グワシはガクソール隊に入隊してからしばらくあとに,彼らストーカーの何匹かと密約し,情報収集のために使っていたのだった。
「なに,敵が来ていると? どういうことだ,それは間違いないのか!」
「はい。グワシ様こそが,オトリに利用されていたのです。今ごろ本隊は,手薄になったティリス砦を襲撃しているはずです」
グワシは手にしていた毒の大ガメを川の中に投げ込むと,川の上流に聳え立つ雪山の麓を目指し脱兎のごとく駆け出していた。背後から敵軍が来ている今,引き返すことはできない。通常ならば,対岸に渡ってエテン東部の森林地帯に逃げ込むことを考えるだろうが,その裏をかいて,さらに山深く分け入り,北方を大回りしてグラムズフットへ帰還するつもりだった。岩が転がる川原を全速力で駆け抜けながら,グワシは並走している魔犬に問いただした。
「くそ,一体どういうことだ! 俺は捨て駒にされたということか……?」
「どうやら,裏で糸を引いているのはフィムのようです。急速にガクソール隊長の信任を得始めた,あなたの台頭を恐れたのでしょう」
フィムは,ガクソール隊長の右腕として知られるオークだった。まるでゴブリンのように小さな体つきはオークには見えなかったが,グラムズフットで最も頭が切れるといわれ,その陰険な策略の数々によってワームのフィムとして恐れられていた。ガクソール隊長が今の地位を築いたのもフィムの手腕によるところが大きいというのが,もっぱらの噂だった。
グワシの考えは決まった。なんとしてもこの危機を潜り抜け,フィムを抹殺するのだ。この先,ガクソールを利用してサウロン軍で出世していくというグワシの野望に,今やフィムは完全な邪魔者として立ちはだかった。
「今に見てろよ,フィムのうじ虫野郎! ぶち殺して,貴様の脳みそを叩き潰してやる」
そう言うや,グワシは走りながら弓をつがえると渾身の力を込めて放った。一直線に飛んだ矢は,大木にその半ばほどまで突き刺さると,矢羽がグワシの怒りが乗り移ったかのようにいつまでも震えていた。
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川に毒を流して敵を抹殺しようというクエスト「ホアデール川を毒するもの」は,まさにモンスタープレイならではといえるだろう。クエストは,スタート地点のグラムズフット砦にいる,アーチ・ネメシスの暴君アクラハンというNPCから受けられる。
毒を流すポイントは,トル・アスカルネン砦の北側にある滝の上流だ。ポイントのそばまで行くと,「この滝であれば,毒を流すのに適しているだろう」と画面に表示されるので迷うことはないだろう。砦側は絶壁になっており,そちらからは滝の上流には近づけないので,手前から大きく回り込むようにして登っていこう。
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怒号と剣戟の音がそこら中から響いていた。剣と盾がぶつかり合う音,大きな斧が肉を斬り骨に食い込む音,断末魔の絶叫などが渾然となって響くなか,ガクソール隊長は決断を迫られていた。
「隊長,ここはもう持ちません。いったん後退したうえで,あらためて軍を立て直して反撃しましょう!」
「わたしも,グワシの意見に賛成ですねェ。自由の民の奴らがここまで押し寄せてくるのは,時間の問題でしょうなァ」
決断を迫っていたのはグワシとフィムだった。ホアデール川に毒を流す作戦でフィムの罠にはまったグワシだったが,奇跡的ともいえる生還を果たしていた。隊に復帰後は,フィムへの怒りの炎を押し殺し,ますますガクソール隊長のために働き,いまや副隊長として作戦に関して進言を行えるほどになっていた。
ガクソール隊が,エテン南部のグリムウッド材木所を襲撃したのは今朝のことだった。ここから切り出された材木は,砦の建設や補修,弓矢の材料などに欠かせないのだが,自由の民軍によって占拠されていた。
材木所の奪回を命じられたガクソール隊は,今朝ほど材木所を防衛する敵に奇襲攻撃を仕掛けた。だが攻撃をあらかじめ予想していた自由の民軍は,ガクソール隊の背後から別働隊を襲い掛からせた。材木所の守備部隊と,後方からの別働部隊によって挟み撃ちにされたガクソール隊は数時間にわたる激闘を耐えてきたが,その奮闘ももはや限界に思えた。
「クモの砦まで下がって,あそこに残ったクモどもを加えれば十分に反撃できます,隊長!」
「いいえ,ここは思い切ってトル・アスカルネンまで下がり,あらためて作戦を立て直すが良策と思いますがねェ」
ガクソール隊長は床机に腰を下ろしたままじっと動かないが,白くなるほど握り締められている拳が決断をしかねている様子をあらわしていた。
「トル・アスカルネンまで下がるも,やむなしか……」
「隊長,クモの砦までなら後退と言えますが,トル・アスカルネンまで下がってはもはや退却です。アクラハン将軍に,なんといって申し開きをするのです!」
フィムの意見に傾いていたガクソール隊長の心は,グワシの言葉で引き戻された。退却を決して許さぬアクラハン将軍に,退却したと思われては処刑されかねないからだ。ガクソールは,しばしの逡巡の後,部隊をクモの砦へと後退させる命令を発した。
クモの砦は,グリムウッド材木所からほど近い西に位置する,その名の通りクモの一群によって守られている砦だ。クモといっても,その大きさはウルクなどよりよほど大きいという化け物で,古からの盟約によりサウロン軍と同盟を結び,エテン各地で自由の民を相手に戦っている。性質は獰猛で,凶暴なことこの上ない。機嫌の悪いときに近づいて,彼らのエサにされてしまったサウロン兵士も少なくないと聞く。
ガクソール隊は,敵の追撃を受けつつもクモの砦に入ることに成功した。生き残りの兵士達も,三々五々と集まってきている。砦の奥へと進んだガクソール,グワシ,フィムの一行は,クモ達の機嫌が悪くないことにほっとしていた。あとは兵士の集結を待ちつつ,クモの一団を部隊に加えて反撃を開始するのみだ。
ガクソール,フィムと共に奥へ進んだグワシは,周囲にサウロン兵士がいないことをそっと確認すると,懐から取り出した小ビンをフィムとガクソールの背中に叩きつけた。ビンの中に入っていたドロリとした赤黒い液体が,二人の防具にべっとりと付いた。
「グワシ,なんだこれは。きさま気でも違ったか!」
ガクソール隊長が,その液体の悪臭に顔をしかめながら叫んだ。
「ガクソール,フィム。あんたら二人にはここで死んでもらう。叫んでも無駄だよ,周りには誰もいない。フィム,おまえにはホアデール川でのお返しをしようとずっと思っていたんだ」
「グ,グワシ,これは,まさか!」
「さすがに切れ者のフィム殿だ,よく知ってらっしゃる。ひどい臭いがするけど,それを嗅いだクモはえらく興奮するらしいんだな。興奮して我を忘れたクモがどうするかは,あんたらもよく知ってるだろう」
ガクソール隊長は,腰の剣を引き抜きながらグワシに詰め寄ろうとした。
「きさまあ,引き立ててやった恩を忘れおって! 斬り裂いてくれるわ」
「おっと隊長,剣を向ける相手が違いますよ。ほら,うしろを見てみなさい」
うしろを振り向いたガクソールとフィムは,暗がりに何百という赤い光体が輝いているのを見て息を呑んだ。
「あれは,クモ達の目ですよ隊長。聞いたことがあるでしょう,クモの目が赤く光るときは何があっても近寄るなって。今がまさにそのときなんですよ」
「お,おい,グワシ。た,た,助けてくれ。何でもお前の好きなものをやるから,な,おい,グワシ」
「ふふ,隊長。まあ,あとのことは安心してください。ダール・ガザグの守備隊長は,この俺が務めることになるでしょうから。おいフィム,クモの糸に巻かれて生きながら血を吸われるか,卵を産み付けられて産卵の道具にされるか,お前さんはどっちだろうなあ」
数十体のクモが暗がりから姿を現し,ガクソールとフィムににじり寄っていた。すでに十分な距離をとっていたグワシは,二人がクモの大群に取り囲まれたのを見て,きびすを返した。
背後からくぐもった悲鳴が聞こえてきたが,それもすぐにやんだ。クモの麻痺毒によって体の自由を奪われ,もはや身動きどころか叫ぶことすらできなくなってしまったのだろう。
砦の広場に出ると,思ったより多くの兵士達がそこかしこで休息していた。かなりの手傷を負っている者もいるが,まだ一戦くらいはできそうだった。
「お前達,なんて疲れた顔をしてるんだ! まもなく自由の民どもがここにもやって来るぞ。クモ達と協力して,すぐに防衛対戦を整えろ! やつらに一泡吹かせてやろうじゃないか」
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グリムウッドの材木所は,エテン南部に広がる森林地帯の中にある。周りを深い森に囲まれ,アーチ・ネメシスの暴君ガンドゾールというトロルによって守られている。
クモの砦は,材木所から西に少し行ったあたりだ。付近を巨大なクモが徘徊しているから分かりやすい。砦の内部はクモの巣だらけで,奥にはネメシスのカラグダルというクモがいる。ここのクモ達はモンスタープレイヤーに対しては襲いかかってこないので,安心して中を見学しよう。
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