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[G★2005#032]基調講演でKim Hakkyu氏が強調した「ゲームとBlue Ocean戦略」とは?
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印刷2005/11/13 01:38

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[G★2005#032]基調講演でKim Hakkyu氏が強調した「ゲームとBlue Ocean戦略」とは?

 元Blizzard Entertainment社の有名プロデューサーであるBill Roper氏と並んで,KOREA GAME CONFERENCE 2005の口火を切る役を務めた,Kim Hakkyu氏。氏の基調講演には,ざっと見ても300人余りの聴衆が殺到して,多くの人は“立ち見”で講演を聞くしかなかった。かく言う筆者も1時間の間ずっと立って講演を聞いたが,同氏の熱情的な講演と聴衆たちの熱意に講演会場の雰囲気は盛り上がり,脚の疲れなど気にならなかった。



Hakkyu氏の講演前の列。「立ち見でもいいから入れて」という交渉をしている列だ。最後は諦めてホイホイ入れていた係員であった
 同氏が基調演説のテーマに選んだのは,今年(2005年)ベストセラーになった書籍「Blue Ocean戦略」だ。氏はこの書籍を読んで深く共感し, この戦略を自分の開発経験と組み合わせて社内のセミナーで発表したという。せっかく組み立てたレクチャー内容だけに,それを広くゲーム業界人達の手助けとすべく,今回の講演のテーマに選んだと語った。
 クリエイターがこれを認識しておくことにより,プロジェクトの失敗を最小化できる秘法(?)なのだという。

 同氏はまず,「例えば,あるMMORPGのクエストが100個以上だと発表すれば,ほかの会社は200個以上だと言うとか, またマップが数Kmに達するゲームだと言えば,ほかの会社はそれ以上のサイズを企てるといったことは,結局全員にとって非生産的な出血競争に過ぎないのです」と述べ,「くだんの書籍で,作者はそんな無意味な競争をRed Oceanと表現しました。そしてそれと相反する状況,すなわち誰も考えつかなかった新しい分野で,競争相手なしに高い成果を得ることがBlue Oceanです」と,とても易しく説明する。
 また過去のヒットゲームの事例に触れ,「風の王国は最初に商用BBS(パソコン通信)の上でMUD(マルチユーザーダンジョン)ゲームとしてスタートし,MUGゲームへ進化しました。実際のところ,同作品はあまりゲーム性の高いタイトルとはいえないですが,誰も考えなかった新しいことに挑戦したBlue Oceanといえます。また,韓国で顕著な成功を収めたコミュニティサイトであるSayClubも,最初は誰も購入しないと思われた“アバターの販売”で新しいBlue Oceanを作ったのです」と述べた。
 彼は,同書籍を読んだ後に今後のIMC Gamesの戦略を「商品の差別化によって競争を避ける方向」に修正したとも語った。

複数キャラクターを扱う“MCCシステム”(マルチキャラクターコントロールシステム)が,よく分かる場面。足下に緑色の円があるのが,今操作しているキャラクターだ


これが会場の中。真っ暗でフラッシュも基本NGだったので,暗いままの写真で申し訳ない。立って聴いているどころか,長丁場なので床に座り込んでいる人も多数
 それに加えて彼は,「すべてをうまく行おうと思えば,必ず失敗する」と強調する。 オンラインRPGの場合に引きつけつつ,「ステータスポイントを配分するゲームの場合,全ステータスを少しずつアップさせるよりは,剣士キャラクターならパワーを集中的にアップさせるとか 魔術師キャラクターなら知能を集中的に高めたりしたほうが有利だ」という。
 さて,この論理をゲーム開発会社に適用してみるとどうなるか。例えば,ゲームの開発予算は限られているにもかかわらず,グラフィックス,サウンド,エンジンなどに少しずつ資金を分けて投入する。企画面で言えば,インスタンスダンジョンが流行だと聞けば, インスタントダンジョンを作り, エンチャントシステムで成功したゲームを見たらエンチャントシステムを真似て作る。そういう姿勢では 必ず(?)失敗するというのだ。

 そして,ほかならぬKim Hakykyu氏自身,現在「グラナド・エスパダ」(原題 Granado Espada)の開発に当たって,相当な“優等生ゆえのプレッシャー”を感じていると告白した。
 ゲーム業界およびゲームファン達が「グラナド・エスパダはほかのゲームと違い,キャラクターを同時に3人も操れるし, クエストもWorld Of Warcraftよりもっと面白いだろう」と,期待していることを認識するにつけ,自分としてはあまりにもつらかったと,普段聞くことのできなかった彼の本心が披瀝され,聴衆達を驚かせたりした。

キャラクターのモーションや攻撃のエフェクトも,美しく処理される。キャラクターは単独行動したり,偏った装備で固めてみることも,ときに有効だ


というわけで,通路をふさいで座り込んでいる人々。学生が中心だろうか,熱心にメモを取ったりして,みな一生懸命だ
 そうした氏の悩みを,一気に解決してくれたのがまさにこの書籍だったという。
 彼は同書籍の理論どおり,無意味な競争から脱却し,以前に企てた高いグラフィックスクォリティのフィールド, 村, ダンジョンの数を大胆に減らした。実際に(テスト)プレイヤー達はダンジョンのグラフィックスのリアルさよりは,次のダンジョンを早く冒険することに関心を持っていた。ダンジョンの外見,リアリティはあまり重要ではないのだ。
 そして,この仕様の切り詰めを補ってくれるアイデアとして,Diablo2のようなNormal,Nightmare,Hellという3段階の難度を用意,同一のダンジョンを3段階に使うことでようやく悩みから脱け出し,楽しくなったという。

 前述の論点に従って言うと,例えば攻城戦で最高の楽しさを提供するMMORPGの開発を目標している会社がいまあったとして,それは必ずや失敗すると同氏は言う。なぜかといえば,少なくとも数年を費やして攻城戦を研究してきたリネージュを越えることは決してできないからだ。
 それならむしろ,攻城戦システムを研究する時間でほかのシステムを研究したほうがよいという。後発走者であるなら,常に既存の観念を破壊しなければならないと,毅然たる態度で強調する同氏ではあるが,「最近のオンラインゲームは,オープン時に数千万ウォンの高級車をプレゼントするなど競争が激しくなっているので,例えばグラナドエスパダの場合は逆に,オープニングイベントにまったくプレゼントを出さないことを考慮中だ」と,主題に絡むユーモアを披露し,聴衆の笑いを誘うお茶目な一面も見せた。



そんなHakkyu氏は,やはり歩いているだけで目立つ。会場のそこかしこで,誰かにつかまって話し込んでいる風景が見られた
 彼はこの日の講演の締めくくりとして「固定観念を破壊する瞬間,Blue Oceanは生まれる」と述べ,「その決断の瞬間は非常に危ないが,それに正面から向き合って挑戦する精神が重要だ」と語った。

 そして,同氏が最近有望な市場と想定しているのは,女性+年長,すなわち「おばさん」の世代だとも。 経済的に安定していて,時間的にも自由な彼女達には,ゲームが最も優れた娯楽になるというのだ。
 もちろん,韓国には花札ゲームにハマっているおばさん世代もかなり存在するが,Kim Hakkyu氏としては自分のお母さんをモデルとして,お母さんがゲームに対する反応速度, マウスを握った手の動きなどをちゃんと見守りながら研究中であるらしく,グラナド・エスパダに続く作品の,そのまた次で“おばさん向けのオンラインゲーム”を構想していると述べた。
 「なにを馬鹿なことを」と言う人がいるかも知れないが,彼の講演の意味するところをきちんと汲んだ人なら,まさにそれをBlue Oceanだと思ったであろうことは間違いない。(Kim Dong Wook)

Kim Hakkyu氏が目下開発中のMMORPG「グラナド・エスパダ」。最大で3人のキャラクターを扱えるのが大きな特徴で,RTS的な戦術要素を兼ね備えている
  • 関連タイトル:

    グラナド・エスパダ

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