レビュー
ヒットマンシリーズの最高傑作が日本語に
ヒットマン:ブラッドマネー 日本語版
» 殺し屋となって危険な仕事に精を出すアクションゲーム,「ヒットマン:ブラッドマネー」。シリーズ最新作にして最高傑作の呼び名も高い一本が,11月30日,ついに日本語版となってズーから発売されるのだ。この期待作に,間違えて暗殺されることはあっても,およそ暗殺なんかできそうもない4Gamer編集部の松本があえて挑む!
シリーズ復活をかけた一作は……,うーむ,面白い!
2000年の「Hitman:Codename47」(邦題 ヒットマン コードネーム47 日本語版)で初登場したときこそちょっとキワモノっぽかったが,2002年の「Hitman2:Silent Assasin」(邦題 ヒットマン2 サイレントアサシン)で大ブレイクし,一躍,ルーマニア出身のスキンヘッドの大男(バーコード付き)は,貴族にして冒険家であるララ・クロフト嬢に並ぶEidos Entertainmentの看板スターに躍進したのである。
しかしながら,2004年に発売された「Hitman:Contract」(邦題 ヒットマン:コントラクト)は,新しいゲームエンジンを使ったという割にはグラフィックスが古く,また,AIの出来がいま一つだったことなどもあり,個人的にはあのムードはけっこう好きだったのだが,営業成績は芳しいものではなかった。
ほぼ同時期に発売されたトゥーム・レイダーの新作「Tomb Raider:The Angel of Darkness」(邦題 トゥームレイダー 美しき逃亡者)もまた,イメチェンを図ったララ・クロフトがファンにあまり受け入れられず,個人的にはあのムードはけっこう好きだったのだが,残念ながら営業成績は芳しいものではなかった。
こうして力を入れまくったはずの収益の2本柱がずっこけたイギリスのパブリッシャ,Eidosは2005年,同業のSCi Entertainment Groupに買収されてしまった……というのは何度も書いているが,以上のような理由で,全世界約1000万人(当社比)の禿頭暗殺者ファンは,期待と不安を持って新作Blood Moneyの登場を待っていたのだ。
英語版のリリースは2006年5月のこと。もちろん,私も勢いよく飛びついたクチだが,それから約19か月を経て,2007年11月30日,ズーから待望の日本語版のブラッドマネーがついに登場するのである。
いきなり結論から言わせていただくと,待った甲斐はあった! である。
最新作は,従来作の「アクションでもスニークでもどちらでもオーケー」というゲーム性はそのままに,今度こそすっかり作り直されたグラフィックスや,細部まで練り込まれたマップ,快適かつシンプルな操作性,そして,現代社会の暗部を鋭くえぐっているような気がしてならない設定など,大ヒットしたサイレントアサシンにも負けないような出来だったのだ。
蛇足ながら,Blood Moneyの約1か月前に発売された「Lara Croft Tomb Raider:Legend」(邦題 トゥーム レイダー:レジェンド 日本語版。ズーから発売中)もリリース直後からヒット。ダブルミリオンを超える販売実績(コンシューマー機用を含む)を記録し,翌年(2007年)には早くも「Lara Croft Tomb Raider Anniversary」がリリースされるなど,評判/売り上げともいたって上々であり,それを見た旧Eidosの担当者はさぞや複雑な気持ちでいることだろうと,他人事ながら小生推察。うーん,1年早けりゃなあ,というわけで,商売って難しいですね。
さて,そんなブラッドマネーだが,オープニングは葬儀のシーン。美しい「アヴェ・マリア」が静かに流れる中,花に囲まれて横たわるのはなんと47号ではないか。彼の身に何が起きたのだろうか? 冒頭で主人公が死んじゃってるのは,まあ,そんなに珍しくはないこととはいえ,やっぱり気になるなあ……。
と,意表を突いたオーブニングはさておき,ここでまず暗殺初心者の人に簡単に説明しておこう。彼はさる“機関”から仕事を請け負い,それを実行していくプロフェッショナルアサシンだ。機関の窓口になるのはダイアナと呼ばれる女性で,声はしょっちゅう聞けるが,ゲーム中,その顔を見せたことはシリーズ全作品中一度もない。
ゲームはその機関の仕事を請ける形で進んでいくが,いずれも,だいたい2005年から2006年はじめにかけての,つまり過去の仕事の回想となる。それに並行して,もう一つのムービーシーンが挿入されるのだが,それは「Present」(現在)。そこでは,いかにも権力がありそうな氏名不詳の人物が有名なジャーナリストを呼びつけ,47号のやってきた仕事や47号の過去,そして47号がいかに危険な存在かを訴えるのだ。殺しの達人である以上に47号が危険なのは,彼を捕らえてクローン人間を作り,それらによって軍隊を組織しようとする一派がアメリカ政府内にいるからである,とのこと。全員が47号の部隊とは,かなり,その,絵的にもすごそうであるが,必要以上に強力であろうことが予想されてたまらないというわけだ。
そんなわけで,その人物が何者であるかなどは言えないが,全部で12個用意されているミッションはそれぞれに独立しており,場所もターゲットも相互に関連はなく,またすべてのミッションを通じての“共通の敵”,もしくは“敵組織”などは存在しない。
47号のターゲットとなる人物には,麻薬王ありポルノ王あり,土地のギャングのボスありテロリストありで,それなりに十分な悪人ばかり。確かに殺し屋だって“かなり悪人”ではあるけれど,ゲームからさほどインモラルな感じがしないのは,そういう理由によるものだ。アレしちゃったほうが世の中のため,みたいなヤツラであり,誰かが大金を積んで47号に暗殺を頼むかも知れない,どうしよう? という心配のほとんどない小市民の私やあなたは,安心して彼の活躍を見ていられるわけだ。もっとも,前作に濃厚にあったヨーロッパ的なデカダンムードや,極端を通り越して異常人格そのものといったターゲットの設定など,営業的理由によるものか,やや抑え目で,ちょっぴりファミリー向けの殺し屋に変化したような気はする。
ただし,任務遂行中にはからずも現場を目撃されてしまったり,怪しまれてしまった場合,行きずりの他人を然るべく処理しなければならない場面は当然ある。爆弾を使って暗殺を実行したとき,そのへんの人を巻き添えにする可能性も高いし,間違って写真なんか撮られた日にゃ,生かしておくわけにはいかないかもね。やっぱり殺し屋は悪い人だなあ,と再認識するのだが,ゲーム的には,虐殺プレイばかりやってると,最高の暗殺者の称号「サイレント・アサシン」を獲得するのは無理になる(そのへんは後述)。といって,目撃者を生かしておくと新聞に顔写真が出て,次のミッションの遂行が困難になってしまうこともある。さて,どうしよう,というのが頭の使いどころになるのだ。
撃ってよし,変装してよし,悪いヤツラをどんどん片付けろ
おそらく開発者側の狙いはスニークにあり,それは,最高の暗殺者の称号が「サイレント・アサシン」(日本語版では「沈黙の暗殺者」)であることからも分かる。沈黙の暗殺者になるためには,誰にも見られず,なんの証拠も残さず,ただ標的のみを消す必要があるからだ。
そんな理屈なので,ブラッドマネーに採用されているAIは,どちらかといえばスニーク向きに出来ており,撃ち合いに持ち込むと47号はかなり有利だ。ミッションが進み,資金に余裕が出来て装備をアップグレードできれば,そのへんのヘナチョコターゲットなど,最高級狙撃ライフルで眉間一発。襲ってくる手下どもはアサルトライフルでなぎ倒し,目撃者は全員探し出して始末しちゃう,というスタイルで遊ぶのもそりゃ悪くない。一人称視点に切り替えることも可能なので,FPS感覚で当たるを幸い,鉛弾の餌食にしてやるのもいいだろう。物理エンジンで見事に吹き飛ぶ敵の姿は爽快だ。爽快ではあるが,うーん……。ごくごく個人的には,やっぱそのプレイスタイルは「なんだかな?」なのだ。
最初は,プロっぽくマップをよく見て回ろう。どのドアまで行けば警備員なり警官なりボディガードなりに制止されるのか? 彼らはどこをどう動き回っているのか? あのパイプを登ることができるのか? この階段はどこに通じているのか? などなど。
実を言うと私はこの下見の瞬間がとても楽しい。楽しすぎて,ずっと下見をしていたいくらいだ。言うまでもなく,ミッションの解法は一つではない。ルートはさまざまに考えられるし,ヒットのし方もいくらでも考えられる。高い場所にターゲットがいるなら,うふふ,突き落としちゃおうかな。しょっちゅう飲み物を飲んでいるのなら,毒入れちゃおうかな。ウェイターに化けてこっそり背後に忍び寄って,ナイロンワイヤで首をきゅ! っとしちゃおうかな。ああ,楽しい。
そんな47号の仕事を助けるのが「変装」のテクニックだ。彼は倒した相手の衣装を奪い取り,そいつに化けられる。殺す必要はない。非致死性の麻酔薬をブスリと射ち込めば相手は爆睡するので,服を脱がしてパンツ一丁にしてやろう……と聞いて,山荘の赤いビキニのギャル達を思い出したあなた。残念ながら,女性に変装はできない。残念である。「サイレントアサシン」で仲居さんに,そして「コントラクト」で性懲りもなくメイドさんに変装しようとして無益な殺生をしてしまった筆者が言うのだから間違いはない。
一つのユニフォームでは,一定のレベルにしか行けない場合が多い。例えば,警官では駐車場まで入れるが,その先,パーティー会場に行くには別の服が必要,という具合だ。そこで,誰に化けるか,どこで化けるかなどを考える必要が出てくる。
テレビ版の「スパイ大作戦」(古いですか?)のように,ターゲットをトリックにはめることもできる。なんだか,どう書いても以下ネタバレ注意なのだが,例えば銃で撃たれる芝居をしているターゲットに向けられる銃を本物に代えて……まあ,そういうこと。
死体を隠す場所もないような広い場所で護衛の一人を眠らせたが,ドアが開いて別の護衛がやってくる。見つかったら警報を鳴らされる。さあ,どうする? それは,ドアの前に倒した敵の体をひきずってドアを開かないように……まあ,そういうこと。
一見,強行突破しかないように見えるミッションでも,必ずうまい抜け道が用意されている(物語の展開上,撃ち合いしかない場合もあるけど)。それを工夫して見つけ出すのが面白いのである。
シリーズ最高作と太鼓判を押させてほしいかも
それぞれ,長くて30分程度,必殺コースを発見したときには10分程度で終わるミッションもあるので,忙しい現代人でも安心だ。とはいえ,「よし次!」「さあ,次だ!」などとついつい遊んじゃう長さでもあるので,忙しい現代人には向いていないかもしれない。
ミッションの内容によって評価が下されるのもシリーズ共通のフィーチャーだ。沈黙の暗殺者以外に「ストーカー」「エキスパート」など,さまざまな評価があり,大量殺人を犯すと「サイコパス」などと呼ばれたりする。評価基準は多岐にわたり,「目撃者がいたか」とか「監視カメラに写ってしまったか」などのほか,「スーツを回収したか」なんてものもある。証拠物件を残してはいけないわけです。
前作までは,その評価によって「武器」がアンロックされたが,今回もらえるのはお金である。これがサブタイトルである“ブラッドマネー”の所以だ。率直に申し上げまして,サイレント・アサシンぐらいになると,ミッションには手ブラで臨む(例外あり)。殺しは素手,もしくはナイロンワイヤ,あるいは現地調達の武器を使うため,武器類がアンロックされてもあまり嬉しくなかったのも事実。
だが,お金はとても嬉しい。防弾チョッキや体力回復剤などもお金で買えるし,なにより“ワイロ”を贈れるようになったのが本作の注目点。どんなに気をつけていても,うっかり目撃者を残してしまうこともある。そんなときは,穏便に目撃者にワイロを贈るのだ。すると,翌日の新聞には「目撃者談」による,47号とは似ても似つかないモンタージュ写真が載り,一安心。もっと大きなドジを踏んだ場合,値段は高くなるが,警察にワイロを贈ってしまおう。すると,翌日の新聞には「警察談」の47号とは似ても似つかないモンタージュ写真が載り,一安心である。さらに大きな失敗をしでかしちゃったときには(費用はかかるが)新しい身元を獲得してキレイな体で再出発しよう。すると,翌日の……もういいか。ああ,お金ってすばらしい。お金最高。
もっとも,47号が誰かにワイロを渡している直接的なシーンは登場せず,すべて専用画面で処理するだけなのだが,想像するとちょっと楽しい。孤高の殺し屋が「一つ,これで見なかったことにしてくださいよ。うふふ」とか言っているのだろうか。言っていてほしい。
ただ,うまくやればやるほどお金は余る傾向にあるし,用意されたアイテムにそれほど魅力的なものがないことから,この報酬システム,あまりうまく機能していないという印象もないわけではない。まあ,オマケ程度の機能と考えてもよさそうだ。
こんな風に,いろいろなことができる47号だが,操作系はよく練り込まれており,少ないキーでストレスなく遊べる。また,百聞は一見にしかず,画面写真を見てもらえば分かるように,グラフィックスも非常に美しくなった。アメリカ東海岸の郊外住宅地,コロラドの山荘,ミシシッピ川を下る外輪船の中などロケーションも豊富で,一つのミッションが終わると,次はどんなところでお仕事だろうと期待せずにはいられない。マップはチュートリアルを含めて合計12種類用意されているが「ああ,終わった」と油断してはいけないのである。これ以上は言えないけど。
というわけで,このブラッドマネーは,シリーズのファンにはもちろん,これまでヒットマンシリーズを遊んだことのない人にもオススメできるタイトルだ。アクションとパズルを高い次元で両立させ,グラフィックスやサウンド(これがまた,CDまで別売されているくらいの,いい曲揃い),シナリオなども確実なプロの仕事。“殺し屋”で“スニーク主体”で“シングルプレイのみ”という内容からやや小粒な感じを持っていた人も多いと思うが,ぜひ遊んでいただきたい。その先入観が間違いだったことに気づくはずだ。テキスト量が割と多いゲームなので,今回の日本語版でさらに遊びやすくなったのも事実。
「こちら」にチュートリアルミッションが遊べるデモ版も掲載してあるので,まずそれをダウンロードして殺しのテクニックを学んでみるのもいいだろう。
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ヒットマン:ブラッドマネー 日本語版
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