レビュー
“オンラインゲーム”としては未成熟だが,大きな可能性が感じられる秀作
Hellgate: London
» Flagship Studiosが開発したハック&スラッシュタイプのアクションRPG「Hellgate: London」を,同タイプのゲームを深く愛する川崎政一郎氏がレビューする。リリース当初は致命的な不具合が多く,しっかりとプレイできる環境が整っていなかった本作だが,何度かのアップデートを経て,ようやくクライアントの挙動が安定してきた。日課のようにHellgateをプレイし続けているという川崎氏は,今,本作をどのように見ているのだろうか。
しかし,精力的にリリースされているパッチにより,現在では致命的なバグはほとんどなくなった。また,初の大規模アップデート“Patch 1.0”のリリースも迫っており,これによりゲーム内世界は大きく変わることが予測される。よって「Hellgateは当面の手の内を見せた」と判断し,本稿では評価に重点を置いたレビューをお届けしよう。
今回は記事の性質上,ゲームの紹介要素は必要最小限に留めている。このたび新たにHellgateを触れるという読者は,過去に掲載したプレイレポート記事や,週刊連載記事をまず見てもらいたい。
※本稿は2007年12月31日時点でのゲーム仕様(Patch 0.7)に基づいて執筆しています
プレイレポート前編
プレイレポート後編
連載記事
RPGとFPSをミックスし,ハック&スラッシュで味付け
それがHellgate: Londonだ
Flagship Studiosの処女作となったHellgate。画面写真を見る限りはFPSっぽい印象を受けるが,ゲーム内容としてはRPG色が濃い |
RPGとアクションシューティングがミックスされた内容で,使用するクラスや武器によってプレイフィールが大きく変わる仕組みだ。よって「RPGは好きだけどFPSはちょっと……」という人や,その逆の人にもアピールしており,プレイヤーの間口はかなり広い。
またFPSとはいっても,射撃時のヒットボックスがかなり大きく,繊細なAiming(照準合わせ)が要求されることは少ない。シューティング時の雰囲気はどことなく「シリアスサム」に似ていて,バリバリと撃ちまくる爽快感を満喫できる。
ちなみに,遠隔武器の使用時は三人称視点(=TPS)も選べるので,本作のゲームジャンルについてなかなかスマートな表現が思い浮かびにくい。とりあえずは,アクション性の高いハック&スラッシュRPGと考えておくといいだろう。
近接攻撃タイプの武器で,カメラワークを最も寄せた状態。視点を引くと,TPSライクな画面構成になる |
遠隔攻撃を行うときは一人称視点が選べ,FPSプレイヤーでも違和感なく遊べる。遠隔攻撃タイプの武器も実に豊富に用意されている |
本作のストーリーは,ある日突然,人々が住まう世界に“ヘルゲート”が開くところから始まる。これを通じて,地獄から大量の悪魔がなだれ込んできてしまい,世界中が壊滅的な打撃を受けてしまうのだ。わずかに生き延びた者達も地上を追われ,地下鉄駅構内などで細々とした活動を余儀なくされている。そうしたなか,プレイヤーが扮する主人公は,ヘルゲートを閉じるべく悪魔と壮絶な戦いを繰り広げていくわけだ。
ちなみに,ロンドン以外の地域でもヘルゲートが開かれている可能性はあるが,これについてFlagship Studios側は,現時点では明確なコメントを出していない。
このようなストーリーであるため,ゲームに登場する100以上のエリアは,すべてが崩壊したロンドンや地獄にちなんでいる。そして,拠点エリア(地下鉄駅構内)でメンバー募集などの準備を整えたうえで,インスタンス生成の冒険エリアへ赴くという,「ギルド ウォーズ」以降メジャーになったシステムが,本作でも採用されている。
冒険エリアは,訪れるたびに地形が変わるランダムマップ制。地形は平面のみならず,斜面や段差といった高さの要素も取り入れられているが,実在する都市をモチーフとしているため,完全なランダム生成ではない。かの有名な“ピカデリーサーカス”のエリアに,もし円系の広場がなかったら,それはちょっと不自然だろう。ロンドン縛りのステージ構成と,ランダム生成の長所がうまく融合されたマップデザインである。
2038年のロンドンを舞台としているので,一般的なファンタジーRPGの世界観とは大きく異なる。装備などのグラフィックスはかなり独特だ |
ランダムマップ制が採用されているとはいえ,マップのバリエーション自体はさほど豊かではない。その点がやや残念だ |
「悪魔に蹂躙されたロンドン」という世界設定は秀逸。いつか,ロンドン以外の地域で冒険ができる日がくるのだろうか? |
クエストの内容や説明文はとてもシンプル。英語が苦手だという人は,「こちら」の連載記事を参考にすると,ゲームがスムースに進められるだろう |
だが,ロンドンという一都市を舞台とした本作で,エリア数を100以上にまで増やしたことによる弊害も生じている。地下鉄路線や下水道などといった,マップパターンのネタの多くを序盤で出し切っているため,中盤以降に飽きを感じてしまうのだ。マップのバリエーションそのものは決して少なくないのだが,Act3以降になると,「前にも見た地形だなあ」という印象が,どうしても生じてしまう。
これはモンスターの種類についても同様で,それらがプレイヤーに,あまりいい印象を与えていない点が残念だ。
その点を除けば,個性豊かなモンスターデザインや,個々のマップパターンの出来栄えなどは素晴らしい。とくに,漆黒の闇からモンスターが襲い掛かってくる“Death's 〜”のエリアや,聖堂や地獄をモチーフにしたステージの演出は抜群である。
(基本的に)一都市を舞台にしていることを踏まえれば,マップのバリエーションは頑張っているほうだろう。しかし,あまりにもエリア数が多すぎる |
ただ単に突進してくるだけという,単純なアルゴリズムのモンスターはほとんどいない。それぞれのモンスターに応じた戦術があるのだ |
初めて地獄のステージへ足を踏み入れた際の,胸の高鳴りは忘れられない。個人的には“2007に甦ったDiablo”という印象を受けた |
6種類あるクラスはどれも個性が際立っている。スキルツリーを軸とする育成方法は複数あり,繰り返しプレイしたくなる |
その一方で,クラスが変わればプレイフィールが大きく変化する点は秀逸だ。新たなクラスでキャラクターを作成すると,ゲームジャンルが変わったくらいの新鮮な気持ちでプレイでき,それでいて頑張れば何とかクリアできるという,絶妙なバランスが実現されている。しかも同じクラスでも,専攻スキルを変えると,また違った姿が見えてくるのが面白い。
この優れたゲームバランスこそ,本作の最大の魅力の一つだ。一朝一夕では得られない膨大なノウハウが,ここに凝縮されているのだろう。ハマる人は思いっきりハマってしまう中毒性の高さは健在である。もし本作を手に取ったのなら,せめて“Templar,Hunter,Cabalist”の3系統のキャラクターで,1度はプレイしてみることを強くおすすめしたい。
スキルの仕様がアップデートで変化するのに,一度振ったスキルポイントの再割り振りが行えないのはキツい。このあたりは,一般的なオンラインRPGに学んだほうがいいかも |
現在は改善されたが,IRCチャットやMSNメッセンジャーなど,ゲーム外でのコミュニティがないとパーティがほとんど組めない状態が長らく続いていた |
各クラスはソロプレイで戦うためのバランスがきっちりと取れている一方で,マルチプレイ時に生きてくる回復/補助スキルは,それほど多くは用意されていない(Guardianを除く)。もちろん,仲間と共に突き進む面白さは十分にあるが,パーティプレイ必須のバランシングではないのだ。
また,マルチプレイの環境もあまり整備されておらず,「一応不可能ではない」という程度である。例えばラダー(ランキング)やオークションハウス(競売)といった,他プレイヤーとのコミュニケーションを促進する機能がほとんどなく,それどころかパーティ編成の基本的な支援システムですら,Patch 0.7(2007年12月下旬)でようやく実装されたという段階なのだ。現時点におけるマルチプレイは率直に言って,ゲームバランスとプレイ環境の両面において,かなり淡白なものとなってしまっている。
ドロップアイテム目当てでパーティを編成し,あとは各メンバーが単独行動するという風潮は今も変わらない。パーティを組む必然性が欲しいところ |
モンスター複数に対する弱体化や挑発など,パーティプレイ向きのスキルも一応ある。画面に表示されるキャラクター数が増えると若干「重く」なるので,グラフィックスオプションを調整しよう |
ノーマルモードのクリア後に待ち受けているさまざまな展開
ノーマルモードのクリアに要する時間の目安としては,初プレイの場合,大体30〜40時間。キャラクターレベルにして30前後といったところだ。そしてこのゲームでは,ノーマルモードをクリアしたあとの展開がいくつも用意されている。それによって延々とキャラクターを育ててしまう,麻薬的な魅力を生み出しているのだ。それでは,本作のクリア後に挑戦できるゲームモードを順番に見ていこう。
■ナイトメアモード
ナイトメアモードは,たった一度の状態異常が死に直結しかねない。かなりシビアだが,上級者向にとって挑戦しがいのあるゲームバランスだ |
このナイトメアモードは,製品リリース直後のバージョンだとAct2あたりからモンスターが極端に強くなり,ほとんど進行不可能な状態になっていた。その結果,まるでMMORPGのような長大なレベリング作業を強いられ,これには当時,辟易していたプレイヤーが多かった。とはいえ,この問題はPatch 0.7ですでに解決されており,現在はレベルキャップの50までで,普通にプレイできるバランスとなっている。
■エリートモード
ノーマルモードをクリアすると,アカウント単位でアンロックされ,それ以降キャラクター作成時に選べるゲームモード。つまり,レベル1の新規キャラクターで「エリート/ノーマル」モードがプレイできるようになるわけだ。少々分かりにくいが,整理するとこのような流れとなる。
・ノーマルモード:「ノーマル/ノーマル」→「ノーマル/ナイトメア」
・エリートモード:「エリート/ノーマル」→「エリート/ナイトメア」
“ノーマル”という言葉に二通りの用途があるので注意してほしい。ちなみにノーマルとエリートのキャラクターは,拠点エリアを共有しているものの,パーティを編成したり,アイテムをトレードしたりはできない。
エリートモードでは,ゲームの基本システムが一部で異なっている。それによりナイトメアとは違ったアプローチで,ゲームの難度を上げているのだ。
具体的には,「死亡時は強制的に拠点エリアへ戻される」「倒したモンスターが短時間で再出現する」「拠点へ戻るとオートマッピング情報が消去される」「ボスモンスターの出現率が高い(=倒した際のマジックアイテムのドロップ数も多い)」など。そのほかにも,細かな変更が多数ある。
実際に「エリート/ノーマル」をプレイすると,「ノーマル/ナイトメア」以上の手ごたえを感じる。その次に待ち受けている「エリート/ナイトメア」に至っては,言わずもがなだ。しかしエリートモードで真に注目すべきは,これが実質的にマルチプレイを推奨しているということ。たとえば,万が一キャラクターが死亡しても,マルチプレイであれば仲間へのポータルを開いて,直ちに戦線復帰できる。この,仲間と協力して進められる環境こそ,エリートモードで遊ぶ大きな魅力だと個人的に考えている。
エリートモードの手ごたえは魅力的だが,ノーマルモードのキャラクターとはアイテム移動が行えない。どちらのモードに専念するかが悩みどころだ |
ノーマルモードと比べて,エリートモードでの死は本当に恐ろしい。元の場所へ戻る途中,モンスターが再出現している可能性があるのだ |
■ハードコアモード
ハードコアのプレイ感覚はかなり独特だが,Subscriberなら一度プレイしてみよう。でも,スタンを繰り出すモンスターに遭遇したら引き返したくなるかも? |
未経験者から見ると,ハードコアモードは自虐プレイそのものに思えるかもしれないが,実際に触れるとその印象は良い意味で裏切られる。何よりも「死なない」ために育成するわけで,スキルの習得ルートや武器のMod選択など,ありとあらゆる面から根本的に見直さねばならない。また,常に死(=キャラロスト)と隣り合わせという凄まじい緊張感や,死んでしまった際の絶望感(と妙な開放感)は,ちょっとほかでは味わえない,奇妙な魅力を生み出している。
ただ,本作のサーバー状況はかなり安定しているほうだが,設置場所が北米/ヨーロッパと距離が離れていることから,ごく稀にラグが生じる。万が一,高レベルのキャラクターがラグ死してしまったら,悔やんでも悔やみきれないだろう。ハードコアには,ほかにはない魅力があるのは確かなので,この点を踏まえたうえで,覚悟して挑んでみてほしい。
ハードコアの話が出たところで,Subscriberについても補足しよう。本作のビジネスモデルはかなり特殊で,まず,パッケージを購入すれば,それだけで基本的なプレイは一通り可能となっている。もちろんこの状態でも,マルチプレイは普通に遊べる。
そしてさらに,月額$9.99(ほかにもいくつかのプランがある)を支払うと,より質の高いサービスが受けられ,この対象者を“Subscriber”と呼んでいるのだ。
肝心のSubscriber向けのサービス内容だが,現時点ではそれほど多くない。ハードコアモード以外の主立った内容としては,定期的にゲーム内イベントが実施されること,ギルドの設立/管理が可能なこと,倉庫スロットが拡張されること,Subscriber専用のアイテムが入手可能なこと,アイテムを別のものに変化させる“Transmogrifier”が使用可能(Diablo2のHoradric Cubeのようなもの)なこと,といったところだ。
実は先述のエリートモードは,最初はSubscriber向けのサービスとして予定されていたのだが,プレイヤーから強い反発を受け,全プレイヤー向けのモードへ変更された経緯がある。確かに,追加料金を支払うことで上質のサービスを受けられるという仕組みは,過去に「EverQuest」の“Legendsサーバー”があったものの,ほかにはあまり聞いたことがない。それだけに,メーカー側も手探りの状態が続いているようだ。
今後はSubscriber向けに,かなり多くのサービス展開が予定されている。そのため,課金する価値がどれだけあるのかをまだ判断できる状態ではない。今はとりあえず,「課金しなくても普通に遊べる」という点を押さえておけば大丈夫だろう。
見切り発車感が強いものの
長期的に見れば傑作となる可能性も
不要なアイテムは分解し,武器にModをはめ込み,自分に合ったキャラクターを育て上げていく。このサイクルを理解すると俄然面白くなってくる |
そしてシステムがまるで違うにもかかわらず,実際にプレイしてみると,「なんとなくDiabloっぽいよね」という感想を持つ人が多いだろう。つまりアプローチは違えど,本作の要はハック&スラッシュそのものなのだ。Flagship Studiosという新会社が初めて世に出すタイトルが,安易なDiabloクローンではなく,ここまでチャレンジングな要素を詰め込んでくれたことは大いに評価したい。
だが,製品版のリリースを見切り発車してしまったのは,あまりにも大きな痛手だ。現在は解消されているので詳しくは触れないでおくが,発売直後のプログラムの完成度は,相当酷いものであった。
また現在も,例えば“勲章システム”“評判システム”などといった,開発途中のコンテンツが山積みとなっている。それどころか,同一アカウント内のキャラクター間のアイテム移動や,スキルポイントの再割り振りといった,他作品で広く見られる機能が未だにない。これらのなかには,今後導入される予定のものもあるが,本作が真の意味で“完成”するのは,いったいいつになるのだろうか。
元々RPGが好きだった人が,本作をきっかけにしてFPSに興味を持ったり,あるいはその逆といったケースもあるだろう |
Patch 0.7でプログラムはかなり安定した。極端なバグはなくなりつつあるので,これからプレイを始める人は安心してほしい |
メインクエストの合間に,時折RTSやシューティングなどのミニゲームが挿入される。残念ながらどれも少々中途半端な印象 |
そしてもう一つの問題は,ゲームの魅力をゲーマーに伝える努力を怠っていることだ。例えば英語版の公式サイトを見ても,クローズドβテストの頃から大きくリニューアルされておらず,ほかの国の公式サイトのほうが遥かに充実している。また,Shift/Ctrlキーの用途などユニークなシステムがあるにもかかわらず,ゲーム内チュートリアルでサポートされていない。エリートモードの仕様についても,実際に手探りでプレイしたり,公式フォーラムを隅々まで熟読したりして,ようやく理解できるレベルなのだ。
どんなに素晴らしいゲーム内容であろうと,その魅力がゲーマーに伝わらなければ台なしではないだろうか。率直に言って,新規プレイヤーからすると,本作のゲーム内容は非常に分かりにくいものとなっている。
原稿執筆時点での総合評価としては,ソロプレイで,尚且つノーマルモードを3〜6キャラクター分遊ぶだけなら,間違いなく傑作である。だがその一方で,オンラインゲームとして見た場合,あまりにも多くの部分で作り込み不足が目立つため,あまりおすすめはできない。
もっとも,現在も短いスパンでパッチが当てられており,作品の完成度が順調に高まっていくことは十分に期待できる。恐らくはかつてのDiablo2のように,長い年月をかけて,熱心なファンに愛されるタイトルへと育っていくのだろう。
ただ,近年はオープンβテストですら,どちらかというと半ば完成した後のプロモーション的な意味合いが強い。こういった環境に慣れきった今のプレイヤーは,Hellgateが“完成”するまで,根気強く待ってはくれないのかもしれない……。
このように,本作は非常にアクの強いタイトルで,Flagship StudiosのコアメンバーがBlizzard時代に作り上げた「WarCraft」「Diablo」「StarCraft」といったシリーズとは,まだ比べられる段階ではない。
しかし,戦闘システムそのものの面白さや,戦闘への意欲を盛り上げてくれる秀逸なキャラ育成システム,秀逸な世界観などは,明らかにトップクラスの完成度だ。「オンラインゲーム」としてのHellgateに必要な各種システムを補完しつつ,ゲーム内コンテンツを順調に拡充していけば,本作は間違いなく,上記と比較できるタイトルに成長するだろう。それが生み出すゲーム体験はどのようなものなのか,そのときはいつやってくるのか。Hellgateの一ファンとしては,長い目で見守っていきたいと思う。
プレイ中は,「こういう育て方はどうだろう?」といったアイデアが次から次へと湧いて出てくる。リプレイアビリティは極めて高い |
Blizzard時代は製品クオリティを一切妥協せずに作り込めたが,今回はそうはいかなかったようだ。最初から現在のバージョンでリリースしてくれていれば…… |
記事中で細かい不満をたくさん並べたが,それでもなんだかんだ言って遊んでしまう。個人的には本当に好きなタイトルである |
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