テストレポート
2.8GHzに到達したゲーマー向けCPU「Athlon 64 FX-57」を検証!
TDPはFX-55と同じ104Wであり,動作クロックが上がったにも関わらず,新コアによって消費電力が抑えられているのも特徴といえるだろう。さらに省電力機能であるCool'n'Quietもサポートしており,CPUへの負荷が少ない状態だと,動作クロックは1.2GHz,コア電圧は1.1V(通常時1.35〜1.4V)に低下するようになっている。なお,CPUパッケージはFX-55などと同じくmPGA939で,AMDによれば,San DiegoコアやVeniceコアのAthlon 64が動作するマザーボードなら,問題なく利用できるとのことだ。現行Athlon 64シリーズとの違いは,表1を参照してほしい。
予想実売価格は12万円前後で,ちょうどデュアルコアのAthlon 64 X2 4800+/2.4GHz(以下X2 4800+)と重なる。このため,"どちらが最上位か"という議論が起こりそうだが,AMDはAthlon 64 FXを「究極の3Dゲーマー向けCPU」と位置づけており,FX-57とX2 4800+は明確に棲み分けられている。
以前「こちら」で明らかにしたように,現在のところ,ほとんどのゲームタイトルはマルチスレッドに対応していないため,Athlon 64 X2だと,CPUコアに内蔵する浮動小数点演算ユニット(Floating-point-number Processing Unit,以下FPU)はゲーム実行時に片方しか使われない。つまり,CPUのFPU性能がパフォーマンスを大きく左右する現行の3Dゲームにおいては,CPUコアの数を増やすよりも,動作クロックを向上させたほうがいいわけで,その意味でAthlon 64シリーズ史上最高クロックで動作するFX-57には,かなりの期待が持てる。
■3Dゲームでは今回も最高性能を発揮
では,FX-57は期待に応えられるCPUなのか,さっそく検証してみたい。今回は比較用として,Athlon 64 FX-55/2.6GHz(ClawHammerコア,以下FX-55),X2 4800+,Athlon 64 4000+/2.4GHz(San Diegoコア,以下4000+)を用意した。また,Athlon 64 FXの競合と想定される,Pentium 4 Extreme Edition/3.73GHz(以下Pentium 4 XE/3.73GHz)のテストも行っている。このほか,詳細なテスト環境は表2のとおりだ。機材調達の都合で,グラフィックスカードは2社の製品を利用している。いずれもForceWareからコア425MHz,メモリ1.1GHzで固定したので,パフォーマンス差はないはずだが,あらかじめ断っておきたいと思う。
さて,まずは「Unreal Tournament 2003 DEMO Ver.2206」(以下UT2003)を見てみよう。今回はCPUパフォーマンスの判断を行いやすい「Botmatch」のスコアを抽出しているが,FX-55や4000+に対して常に10fps近い差を付け,FX-57のフレームレートが完全に頭一つ抜け出している(グラフ1)。
「DOOM 3」(グラフ2)でもその傾向は同じだ。ただし,DOOM 3ではUT2003ほどの明確な差はない。これは,DOOM 3のスコアがUT2003のそれよりも,グラフィックスカード依存になっているためだろう。
「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」(以下FF,グラフ3)も同傾向。FX-57は低解像度で9000オーバーだ。ただ,ここではむしろFX-55のスコアが低い点に注目したい。UT2003やDOOM 3では,動作クロックなりの位置に付けていたFX-55のスコアが大きく落ち込み,クロックで200MHz低い4000+にすら大きな差を付けられているのである。
改めて表1を見返すと明白だが,FX-55と4000+ではCPUコアの世代が大きく異なり,拡張命令のサポートも異なる。特定のゲームアプリケーションにおいては,旧世代のコアだと力不足になる可能性があるのだ。その点でも,新コアを採用したFX-57は,Athlon 64の正当な上位モデルといえるだろう。
FFと同じことは「3DMark05 Build120」(グラフ4)でもいえる。これまで「出荷されるのは最上位1モデルのみ」という不文律に支配されていたAthlon 64 FXは,Athlon 64に2.6GHz動作の製品がないため,FX-57の登場以降もFX-55が併売されることになっているが,現時点でFX-55を選ぶ理由はない。FX-55に関しては,新コアの登場に期待したいところだ。
話を戻して,今度は「CINEBENCH 2003」でOpenGLにおける性能を見てみると(グラフ5),こちらはUT2003やDOOM 3と同じ傾向になっている,つまり,FX-57とFX-55と4000+がクロック順に並んでいるのが分かる。
最後に,ゲームから少し離れるが,ファイルの圧縮や画像処理,動画のエンコードなど,一般的な作業におけるパフォーマンスも一応見ておくことにしよう。総合アプリケーションベンチマーク「PCMark04 Build120」の結果はグラフ6にまとめたとおりだ。マルチスレッドに対応したテスト項目――ファイルの暗号化(File Encryption)やファイルの解凍(File Decompression),WMV/DivX動画ファイルエンコード(WMV/DivX Video Compression)――では,デュアルコアCPUであるX2 4800+が,ここまでのゲームベンチマークでことごとく最高スコアをマークしてきたFX-57を大きく引き離している。一般アプリケーションでは,FX-57は必ずしも最速ではないことは認識しておくべきだろう。
なお,ここまで話題にすら上がらなかったPentium 4 XE/3.73GHzだが,Hyper-Threadingテクノロジの恩恵で,グラフ6では持ち直している。また,純粋に動作クロック勝負となる暗号化済みファイルの復号(File Decryption)では,Athlon 64シリーズに大差を付けて溜飲を下げている。とはいえ,ゲーム向けとしても,一般アプリケーション向けとしても,現時点ではいささか中途半端な存在と言わざるを得ないわけだが。
■高性能なのに低消費電力なFX-57
動作クロック向上による電力消費量と発熱を知るため,消費電力とCPU温度の測定を行った。OSを起動して30分放置した状態を「アイドル時」,午後べんちを30分間実行し続けた状態を「高負荷時」として,それぞれの状態におけるシステム全体の消費電力をワットチェッカーで,CPU温度をマザーボード付属のユーティリティソフト「ASUS PC Probe」で計測している。
結果は順にグラフ7,8のとおり。仕様上はFX-55と同じTDPになっているFX-57だが,前述したようにCPUのコアの世代は異なる。実際には最新世代であるFX-57で旧世代に比べて大幅な消費電力の低減が図られているのは一目瞭然だ。FX-55と比較して高負荷時で30Wというのは,かなり大きな差である。
もちろんこの差はCPU温度にも表れており,FX-57とFX-55では高負荷時で9℃もの差が見られた。
ちなみに,FX-57と4000+は同じCPUコアを採用しているので,両者の消費電力およびCPU温度差はそのまま動作クロックによる差と判断していい。一言でまとめると,最高性能のCPUとして考えた場合,FX-57はかなり省電力かつ低発熱のCPUであるといえる。
■倍率変更で3GHz動作は狙えるか?
そこで,今回入手した固体に対して単純に動作倍率を15倍に設定し,動作クロックを3GHzとしてみた。今回入手したFX-57は単体(CPUのみ)だったので,冷却には4000+のリテールクーラーを利用している。すると,BIOSは立ち上がるものの,Windows XPは起動途中でフリーズ。この状況はコア電圧を1.55Vにまで高めても変わらなかった。
次に,FSB設定を上昇させたところ,204MHz×14.5の2.958GHzではWindows XPの起動を確認できた。だが,この状態ではCPUコア電圧を上げるとWindows XPが起動しなくなる,いくつかベンチマーク実行中にシステムが強制終了するといったトラブルに見舞われた。今回試した個体では,FSBを203MHzに上げた状態(動作クロック2.9435GHz)が安定動作できる限界のようである。ただ,わずか140MHz強のオーバークロック(以下OC)でも,UT2003やDOOM 3,FFでは確実にスコアが伸びており(グラフ10〜12),FX-57が"遊べる"CPUなのは確かだ。
なお,AMDによれば,FX-57では,マザーボード側のBIOSさえ対応していれば,メモリクロックを266MHz(DDR533)にOCできるという。
■「Framerate is Life」なら買う価値がある
AMDの位置づけどおり,FX-57は間違いなく3Dゲームに適したCPUであることが,ベンチマークで実証された。問題があるとすれば,約12万円という価格だろう。5万円台中盤〜後半で購入できる4000+のほうが,コストパフォーマンスでは上であり,悩ましいところである。
ただし,3Dゲームで最高性能を求めるなら,現時点でFX-57以外に選択肢はないのもまた事実。確実に3Dゲームのパフォーマンスが伸びる以上,ゲーマーにとってFX-57が魅力的なCPUなのは間違いない。(宮崎真一)
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